関屋記念は末脚に特化したタイプが優位。騎手の奮起が期待できる伏兵の一発に要注意
ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」
夏競馬もはや後半戦。今週、新潟ではGIII関屋記念(8月14日/新潟・芝1600m)が行なわれます。
線状降水帯の影響によって、豪雨に見舞われている地域が全国各地にありますが、幸いなことに競馬開催地ではそれが週末に直撃することがなく、ここまで馬場コンディションは良好な状態を保ってきました。
関屋記念を占ううえでも、その点は大きなポイントになりそうです。もし今週も競馬開催日に雨が降ることなく、先週までの馬場状態でレースを行なうことができれば、レコード更新も十分にあり得るのではないでしょうか。
実際、今年はそんな期待を抱かせる好メンバーが顔をそろえました。
その一戦を分析する前に、まずは関屋記念のレコードが樹立された2012年のレースを振り返ってみたいと思います。
ドナウブルーが勝利した同レースの勝ちタイムは1分31秒5。前半4ハロンが47秒0、後半4ハロンは44秒5という極端な後傾ラップでした。古馬重賞のマイル戦で前半47秒0というのはかなりのスローペースです。
一般的にレコードが出る時は、レース序盤からハイペースになって、各馬が死力を尽くすことで全体時計が押し上げられて、という場合が多いです。しかしその時は、真逆の展開によってレコードが記録されました。
レースの上がりタイムは、なんと32秒8。極限に近い後半のスピード持久力勝負となって、全体的に速い時計が生まれたのです。このパターンでレコードが出るのは非常に稀ですが、日本一直線の長い新潟コースではそれが可能になるんですね。
そして今年の関屋記念で、そのレコード更新を予感されるきっかけとなったのは、2週前の新馬戦(7月30日)でした。
関屋記念と同じ新潟・芝1600mで行なわれ、レースの上がりが32秒0という究極の瞬発力勝負となりました。勝ったのは、2歳牝馬のリバティアイランド。31秒4という驚異的な上がりタイムをマークして、鮮やかな差し切り勝ちを決めました。
新潟・芝1000m、いわゆる千直以外のレースで上がり31秒台が出ることは滅多にありません。しかも、それを新馬戦で記録してしまうのですから、勝った馬はとんでもない才能の持ち主であることがわかります。この馬の名前は、絶対に覚えておく必要があるでしょうね。
と同時に、このレースから今の新潟・外回りコースは、上がりに特化したタイプがその能力を存分に発揮できる状況にあることがわかりました。序盤の展開や位置取りにかかわらず、後半勝負に徹しても十分に届く馬場、ということです。
そこで、今年の関屋記念。出走メンバーを見渡してみると、逃げ・先行馬が手薄なため、スローな展開が予想されます。だからといって、単純に"前有利(=後ろ不利)"とは言えません。1分31秒台の高速決着に対応できれば、末脚勝負の追い込み馬でも勝ち負けを演じる可能性は大いにありそうです。
こうした状況からして、前走のGI安田記念(6月5日/東京・芝1600m)では1番人気を裏切って8着に敗れたイルーシヴパンサー(牡4歳)の巻き返しが、かなりの確率であるのではないかと踏んでいます。
マイルの頂上決戦ともなると、ちょっとした騎乗ミスが命取りになりますが、安田記念のイルーシヴパンサーは、ポジショニングがやや悪かったことと、上がっていくタイミングが少し遅かっただけ。直線の伸びは目立っていましたし、乗り方ひとつで勝ち負けに加わってもおかしくありませんでした。
そうして今回は、田辺裕信騎手から岩田望来騎手へと乗り替わり。この采配には陣営のさまざまな考えがあってのものと思いますが、若くて勢いのあるジョッキーを起用するからには、「もう少し前で乗って、存分に末脚を引き出してほしい」といったことを期待しているのだと思います。
この馬が有力馬の1頭であることは間違いなく、このコンビでどこまでパフォーマンスをアップできるのか、楽しみにしています。
関屋記念での一発が期待されるエアファンディタ
持ち時計にも目を向けてみると、エアファンディタ(牡5歳)が穴馬候補になり得ます。
昨秋にオープン入りを果たして以降は、オープン特別を一度勝っただけですが、その時の勝ちタイムが1分31秒9。高速決着にも対応し、残り200m過ぎから大外に出して鋭く伸び、上がり33秒3という豪脚を繰り出して見事に差し切りました。
負かした相手には、その後の重賞戦線で好走を続けているダーリントンホールやファルコニアがいましたから、メンバー構成も決して恵まれていたわけではありません。
キャリア16戦のうち、メンバー最速の上がりをマークしたのが13度。末脚に特化したタイプで、今回の舞台設定は間違いなくこの馬に向くと思われます。
父ハットトリックはマイルGIを2勝した名馬ですが、21戦8勝、2着0回、3着0回、着外13回の成績が示すとおり、勝った8戦以外はすべて掲示板外という極端な馬。エアファンディタもその不器用な面を受け継いでいるのか、成績には波がありますが、ハマッた時の強さには凄まじいものがあります。
さらに注目したいのは、この馬にイルーシヴパンサーの主戦から降板させられた田辺騎手が騎乗すること。彼にも有力馬から降ろされた意地もあるでしょうし、最大のライバルのことは手の内に入れていますから、どう乗ったら出し抜けられるのか、いろいろと策を練ってくるはずです。
イルーシヴパンサーが人気を背負って早めに動くようなら、最後の最後まで脚を温存して大外一気を狙う戦法も面白いのではないか、と思っています。
ということで、鞍上の奮起にも期待してエアファンディタを今回の「ヒモ穴馬」に指名したいと思います。