風間八宏のサッカー深堀りSTYLE

第10回:南野拓実(モナコ/日本)

独自の技術論で、サッカー界に大きな影響を与えている風間八宏氏が、国内外のトップクラスの選手のテクニック、戦術を深く解説。第10回は、新天地モナコでのプレーがスタートした南野拓実のプレーを深掘りする。さまざまなプレーができる南野のいちばんのストロングポイントはどこだろうか?

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ゴールにかかわり続けられる選手

 現在日本代表で10番を背負う南野拓実が、セレッソ大阪からオーストリアのザルツブルクに移籍したのは、いまから7年前の2015年冬のことだった。

 そして6シーズン目を迎えた時、キャリアの転機がおとずれる。チャンピオンズリーグ(CL)の舞台で、リバプールを相手に敵地アンフィールドで1ゴール1アシストの大活躍。試合には敗れたが、大きなインパクトを残してリバプール首脳陣の目に留まり、その冬にリバプール移籍が実現した。

 日本人選手がCLのディフェンディングチャンピオンに加わったこと自体が歴史的な出来事だが、それは南野が特別な選手である証明とも言える。


今季からフランスのモナコでプレーする南野拓実

 そんな世界のトップクラブでプレーした南野について、独自の視点を持つ風間八宏氏はどのように見ているのか。なぜ彼が高く評価されているのか、聞いてみた。

「わかりやすく言えば、ゴールを決められるからです。結局、攻撃の部分で目立つ選手というのは、ゲームをコントロールする選手か、ゴールにかかわり続けられる選手のどちらかになる。南野の場合は後者で、チャンスに顔が出せて、何回もそれをやり続けることができます。

 でもリバプールでは、なかなか試合に出場できなかったじゃないか、と言う人がいるかもしれませんが、それは単純にモハメド・サラーやサディオ・マネといった、速くてうまい世界トップクラスの選手がひしめいていたから。彼らのなかに入ったら、南野よりも先に彼らが決定的な仕事をする場所に入っていってしまうので、さすがにそこに割って入って、自分でゴールを奪うことは簡単ではありません。

 実際、主力を温存したチームで戦う試合では、南野はしっかりとゴールを決めています。つまり、サラーやマネといった選手たちとのポジション争いで負けていただけの話で、南野のクオリティに疑いの余地はなく、少なくとも、日本人選手のなかでは特別な才能を持っている選手であるのは間違いありません」

ペナルティーエリアの中では特別

 風間氏がそのように評価する南野は、確かにこれまでエリート街道を歩んできた。

 2016年リオ五輪も含め、各年代別代表の一員として数多くの国際舞台を経験。A代表には20歳でデビューし、2018年9月から始動した森保ジャパンでは、攻撃の中軸を担う重要戦力へと成長を遂げた。

 現時点における代表キャップは42で、17ゴールをマーク。森保ジャパンの主力メンバーのなかでは、大迫に次ぐゴール数を誇る。

 では、南野のプレーの特長はどこにあるのか。なぜ南野は多くのゴールを決められるのか、風間氏が解説してくれた。

「いろいろな能力を持った選手ですが、いちばんの武器は、ゴール前によく出てくるという部分と、そこで見せるプレーのクオリティです。相手のペナルティーエリアの中で必要なものをすべて持っていて、たとえば相手を外す技術、タイミングとコースを含めたシュート技術、ゴール前での落ち着き、それから動きの速さもある。

 つまり、ペナルティーエリアの中では特別な選手になれるのが南野の最大の武器で、とくにシュートする場所を空けておいて、そこに素早く直線的に入ることができるのは、天性のものだと思います。それほど身長が高くないにもかかわらず、南野がよくヘディングでゴールを決められるのは、その動きができるからです。

 いまの日本人選手を見渡しても、こういった武器を持っていて、しかもこれだけのクオリティを持った選手は見当たりません。おそらく、そういった能力を見抜いたからこそ、ユルゲン・クロップ監督のお眼鏡にかなったわけで、そうでなかったら、リバプールのような世界中の一流選手が集まるクラブに移籍できないと思います」

 心配になるのは、最近は南野のゴール数が減少気味な点だ。おそらくその背景には、風間氏が解説してくれたペナルティーエリア内で仕事をする回数が減っているからだろう。実際、リバプールでも日本代表でも、サイドのポジションを任せられることが多くなっているのが現状で、彼の特長を発揮しきれていない印象だ。

ゴールに近い場所で使うべき

「考え方ですよね。確かに南野は、ハードワークができて、守備でも貢献できるし、周りを生かすプレーもできるので、オールラウンダーな選手と見られがちです。実際、リバプールでも前線の複数ポジションを器用にこなしていた印象もありました。

 ただ、先ほども話したとおり、南野の最大の特長はペナルティーエリアの中でのプレーです。そこで多くのチャンスに顔を出して、ゴールも奪える。だから考え方として、南野に何をさせるかではなく、南野にゴールを決めさせるというところから逆算してチーム全体を考えたほうが、チームとしてもっと大きな利益を得られるかもしれない。

 もし彼をサイドで使うなら、どういうふうにペナルティーエリアの中でのプレー回数を増やしてあげられるかを、チームとして整理しておく必要があるでしょうし、敢えて試合の途中から起用するのも考え方のひとつかもしれません。

 ただし、相手からすれば、南野がゴールから遠い場所でプレーしていればそれほど怖くないので、やはりゴールに近い場所で使うべきでしょう。南野の怖さは、ゴール前で発揮されるわけですから。

 もしかしたら、彼が持っている特別な才能を発揮できるチームにまだ巡り合えていないのかもしれません。そういう意味で、今回移籍したモナコで、南野がどのポジションでプレーするのかがとても楽しみですね。もしモナコで爆発してくれれば、もっと面白い選手になれると思いますし、また新しい扉が開かれるのではないでしょうか」

 新天地モナコで、日本屈指のゴールハンターはどんな活躍を見せてくれるのか。彼自身が好む中央のポジションを奪えるかも含め、見どころは多い。そして、モナコでのパフォーマンスが、そのままカタールW杯につながるはずだ。

南野拓実
みなみの・たくみ/1995年1月16日生まれ。大阪府泉佐野市出身。中学生1年生時からセレッソ大阪の育成組織に所属し、2012年にトップチームデビュー。2015年からオーストリアのザルツブルク、2020年からイングランドのリバプールでプレー、途中ローン移籍した同リーグのサウサンプトンでのプレー(2021年)も経て、今季からフランスのモナコでプレーしている。日本代表は2015年10月にデビュー。2016年はリオ五輪を戦ったオリンピック代表でプレー。2018年からは森保ジャパンのレギュラーとして活躍している。

風間八宏
かざま・やひろ/1961年10月16日生まれ。静岡県出身。清水市立商業(当時)、筑波大学と進み、ドイツで5シーズンプレーしたのち、帰国後はマツダSC(サンフレッチェ広島の前身)に入り、Jリーグでは1994年サントリーシリーズの優勝に中心選手として貢献した。引退後は桐蔭横浜大学、筑波大学、川崎フロンターレ、名古屋グランパスの監督を歴任。各チームで技術力にあふれたサッカーを展開する。現在はセレッソ大阪アカデミーの技術委員長を務めつつ、全国でサッカー選手指導、サッカーコーチの指導に携わっている。