左CKをニアサイドの伊藤洋輝がヘディングで流し、ファーに詰めていた遠藤航が頭で押し込む----。

 ふたりの日本人がロスタイム弾を生み出し、シュツットガルトを残留へ導いた劇的なあの試合から、2カ月半以上が経過した。舞台は同じ、メルセデス・ベンツ・アレーナ。満員御礼のスタジアムで8月7日、ライプツィヒを迎えて新たなシーズンがスタートした。


今季も1対1で強さを発揮している遠藤航

 ライプツィヒと言えば、2016−17の1部初昇格から常に上位を守り、以降6シーズンのうち5シーズンで欧州チャンピオンズリーグ出場権を獲得するなど、近年のドイツサッカー界を牽引するクラブのひとつ。シュツットガルトも昨季はアウェーで0--4、ホームで0--2と、叩きのめされている厄介な相手だ。

 やはり、立ち上がりは苦しんだ。伊藤を含む3バックと遠藤が務めるアンカーに対して、ライプツィヒはマンマーク気味に高い位置からプレッシャーをかける。

「ライプツィヒは(試合の)入りのところで前に人数をかけてきたりするんで、ああいう押し込まれ方をするのはある程度、想定内ではあった」と遠藤は振り返ったが、早くも前半8分に先制点を許した。

 ただし「失点しても早い時間帯だったんで、個人的には焦りはなかった。メンタル的にチームが落ちないように、というところを意識していた」ことが功を奏したのか、チーム内に大きな混乱は見られず、また前半24分に設けられた給水タイムで修正も図った。

「(ライプツィヒのトップ下)ダニ・オルモがどっちかというと自分たちの右のほうに来ていた。でも、逆の左はあんまり人数をかけていなかったんで、(シュツットガルトの左ウイング)シラス(カトンパ・ムブンパ)をもっと前に出して(伊藤)洋輝をそのままスライドさせるっていう修正で。

 左のシラスが前に出るとプレッシングがハマる感覚があって。で、ナウイ(アハマダ)をもうちょっとアンカーの選手につかせるっていうので、僕がトップ下......右側に常に立つ感じでやるという守備確認をしていました」

今季の遠藤航はアンカー起用

 ライプツィヒに押され気味のなか、忍耐強く戦うシュツットガルトにチャンスは訪れ、前半31分にアハマダが同点弾を決めた。負傷もあり、昨季はリーグ戦3試合の出場に終わった弱冠20歳の若手だ。中盤の軸のひとりだったオレル・マンガラがノッティンガム・フォレストに移籍し、アタカン・カラソルも合流が遅れたが、MFの層について心配は無用だと遠藤は断言する。

「ナウイ(アハマダ)が今、調子いいんで。もちろん戦力的に(移籍で選手が)いなくなるのは痛いですけど、でもチームも若くなって...まぁ、もともとですけど(笑)さらに若くなって、若い選手たちが一生懸命チームにフィットしようとして、ブンデスで経験を積んで少しずつよくなっていこうという状態。いなくなったからといって戦力が落ちるとは思っていません」

 そして、遠藤の肩書きといえば「デュエルマスター」。剛健なプレーヤーが集うブンデスリーガ1部において、1対1勝利数が2シーズン連続で最多という稀有な存在だ。

 1シーズンだけならまだしも2シーズン連続となれば、対戦相手からより一層、警戒を強められることは想像に難くない。そのあたりはどう考えているのだろうか。

「相手チームのやり方的に、自分のところはどうしても抑えてくるようになってきているのかな、とは思う。1シーズン目はかなりうまくいって自分のプレーもよかったですけど、2シーズン目は自分のところをどう抑えるかっていうところで、相手もけっこうやってきた。今日も僕のところには、常にマンツーマンでつくような形でやってきていたし。

 昨シーズンは8番(インサイドハーフ)でいろいろ試しながらやっていましたけど、今年は6番(アンカー)なので、マンツー気味につかれた時に8番との関係性で崩すとか、相手がプレッシャーをかけてきたタイミングで動きなおして崩すとか、チームとしてオプションをどれだけ持てるか、共通意識を持ってやれるかが大事。そこはよくなると思う」

ブンデスで最も若いチーム

 2021−22シーズンに起用された選手の平均年齢を見ると、シュツットガルトは1部18チームで最も若い23.5歳だった。だが、今季はさらに拍車がかかり、開幕時点で平均年齢22.7歳。引き続き、1部トップの若さでメンバーが構成されている。

 そんな若人を束ねる立場にあるのが、2シーズン連続で主将を務める29歳の遠藤だ。ただし「キャプテンとしての心境」という点で大きな変化はなく、これまでと同じ姿勢を貫く構えだと言う。

「特に変わらないですね。またゼロからのスタートというか。昨シーズン、とにかく(1部に)残れたということがチームにとってはすごく大きくて。やっぱりブンデス(1部)でやり続けるってことは、そんなに簡単ではないので。自分たちは若いチームだし、毎回、毎回しっかり残っていかなきゃならない。

 若い選手が1シーズン(1部を)経験して(2部に)落ちてしまうのと、もう1回ブンデス1部でやれるというのは、大きな違いがある。若い選手たちをどんどん、どんどん成長させていくところが、ウチのチームの在り方だと思う。そのサポートを、自分がキャプテンとしてやっていく。プレー面でも引っ張っていきたいです」

 もうひとりの日本人、伊藤もまだ23歳。昨年夏、当初はセカンドチームに加入する予定でありながら、瞬く間に1軍の主力に定着した。

 立場が変わって迎えた今シーズン。心持ちに変化はあるのか尋ねると、「いやぁ、やっぱりポジション争いが厳しいんで、油断はできない」と苦笑を浮かべた。

 しかし、「ある程度、監督の信頼があるなかでのスタートで、ケガをしないこと、コンディションよくスタートを迎えることはできたかなと思っています。去年みたいに自分たちが苦しまないように、ポイントをひとつひとつ取っていきたいなと思います」と、その発言からはレギュラーの自覚も感じられた。

 この日の試合でも堅実な守備に加え、後半4分には相手の隙を見逃さず、逆サイドへ鋭い弾道のダイアゴナルパスを通し、観客を大いに沸かせている。

「自分がいる意味というか、そこはひとつストロングとして。監督があれ(逆サイドへの大きな展開)を(戦術として)チームに植えつけてくれている部分だとは思うんで。起用に応えられるようなパフォーマンスができるように、やっていきたいなと思います」

伊藤洋輝について監督は...

 伊藤がそう話したあと、偶然にも試合後の会見に向かうペッレグリーノ・マタラッツォ監督が我々の横を通った。長身の指揮官は伊藤を指差しながら筆者に向かって「(伊藤は)Very good player. I love Hiro」。その気遣いに、自然と伊藤の顔もほころぶ。

「ああやって監督も気にかけてくれるんで(笑)。やっぱりボールを持っている時にどれだけいいボールを出せるか、ボールを回せるかも含めて(伸ばしていきたい)。あとは守備の選手なので、球際や1対1で負けないとか、そういうひとつひとつのプレーでやっぱりファンの心も掴めるだろうし。そういった『目の前の敵に負けない』ところを第一にやっていきたいと思います」

 守護神フロリアン・ミュラーのビッグセーブ連発がなければ、負けてもおかしくはないゲームだった。しかし、その逆境下でも引き分け(1−1)に持ち込めたことは自信になるし、若い選手が多いチームにおいて、その自信がとてつもないカンフル剤となり得る。

 今季もシュツットガルトは、あくまで1部残留が最低限の目標。次節の昇格組ブレーメン戦で、さらにその足がかりを築きたい。