学生が詠んだ就活川柳短歌ではオンライン面接にまつわるエピソードが目立った(写真:Ushico/PIXTA)

コロナ禍での採用活動も3年目を迎えた。採用担当者側は「WEB面接」による選考にも慣れてきた一方、学生側にとってはオンライン授業の経験はあっても、「面接」となると話は別。家の中で「WEB面接」を受ける場所探しに右往左往する学生から、回線不調を理由に時間を稼ぐ学生までさまざまだ。

採用担当者にとっても、昨年以上の学生売り手市場がささやかれる中、学生からの内定辞退に悩まされるなど、学生が思うほど決して楽な採用活動はできていないようである。

今年もHR総研では、就活会議株式会社が運営する就活生向けクチコミサイト「就活会議」と共催で、7月に就活生、採用担当者のそれぞれの目線からの印象深いエピソードを川柳短歌に込めて詠んでもらう「2023年卒 就活川柳短歌」と「2023年卒 採用川柳短歌」を募集した。

学生・採用担当者ともに、昨年に引き続き「WEB面接」ネタが多く見られたものの、内定辞退や不合格メール、さらにはAIをモチーフにしたものなど、昨年以上に幅広いテーマの作品が寄せられた。

採用担当者より厳しい?

今回は、「2023年卒 就活川柳短歌」の入選作品を見ながら、学生たちのここまでの就活を振り返ってみたい。ぜひ学生たちの心の叫びを感じ取ってほしい。

まずは最優秀賞から紹介する。

面接の フィードバックは 家族から(大阪府 スーススーさん)

自宅でのオンライン面接が当たり前になった今、実家暮らしの場合に注意すべきは、家族の存在だ。自分の個室がない場合には、どこで面接を受けるかが第一の問題だが、個室があるからと言って安心はできない。部屋の外には、聞き耳を立てている家族がいる可能性がある。


『就職四季報』特設サイトはこちら

だが、家族は強い味方だ。率直なアドバイスがもらえたり、普段の自分と面接でアピールする自分のギャップを指摘してくれたりもする。普段の自分を最もよく知っているだけに、人事担当者よりもある意味厳しい、しかし的確なフィードバックとなることだろう。

自宅でのオンライン面接ならではの「家族からのフィードバック」に苦笑する、作者の心情を見事に表した作品である。円満な家族の様子が目に浮かぶ。これからは、自宅でのオンライン面接において「壁に耳あり、障子に目あり」という言葉の重みが増していくのかもしれない。

続いて、優秀賞2作品を紹介しよう。

恐ろしや 仏頂面の 面接官 よくよく見れば 画面フリーズ(東京都 ひよこぶたさん)

面接で多くの人が不安を感じる沈黙と、オンライン特有の回線問題が組み合わさった、現代ならではの就活での不安を凝縮した作品である。仏頂面のままの面接官はさぞ怖かったことだろう。圧迫面接と勘違いしたかもしれない。

企業側にはしっかりした回線環境で面接に臨んでほしいところであるが、採用担当者もリモート勤務で自宅からアクセスしていることも少なくない。これからは、画面フリーズをすぐに見分けられる目が必要かも。

内定後 カップルみたいな 会話する 別れたいのに 別れてくれない(兵庫県 さんちゃんさん)

学生と採用担当者、双方の困った感情、表情を男女関係に例えて表現した、ストレートでありながら非常に共感性の高い秀逸な作品である。

採用担当者の思いとしては、「相思相愛だと思っていたのに、誤解があるなら解きたい。第一志望だと言っていたじゃないか。内定承諾して戻ってきてほしい」と引き止めに必死なのだろうが、得てして別れを決めた人(内定辞退を決めた学生)の心はすでに前(別の会社)向いており、再び振り向くことはまずない、という学生の立場も理解してあげたい。

「玉手箱」で歳を取る

ここからは、佳作に入選した作品をいくつか抜粋して紹介しよう。

地方から 夜行バス乗り 6時間 面接時間は わずか10分(宮城県 お暇頂戴いたしますさん)

オンライン面接が主流となった今でも、たった10分の面接のために遠方からわざわざ学生を呼んで「対面」面接にこだわる企業があることに驚く。

宮城県から東京にある企業の面接のために上京したのだろうか。交通費を抑えるために、新幹線ではなく夜行バスを利用しての移動時間の6時間と、わずか10分という面接時間の明確な対比によって、理不尽さや虚しさをうまく表現できた作品である。人を思いやる力や想像する力を問われているのは、学生ではなく、むしろ採用担当者のほうだろう。

玉手箱 解いた疲労で 歳をとる (埼玉県 霧崎鋭さん)

「SPI2」と並ぶ新卒採用向けWEBテストの1つである「玉手箱」を、おとぎ話「浦島太郎」のストーリーに重ね合わせ、WEBテストに向き合う作者の苦労や疲労を軽やかに表した作品である。

「玉手箱」は、短時間で大量の問題を解くことを求められ、終了後には「疲れた」と漏らす学生が多い。もしかしてWEBテストの命名者は本当におとぎ話から名前を取ったのではないかと思わずにはいられないが、もしそうだとすればかなりのブラックジョークである。

ご健闘 祈られ続け 不健康 (広島県 かぶるくんさん)

「益々のご健闘をお祈りします」という、不合格を告げるお祈りメールが来れば来るほど「不健康」になるという対比が面白い。はやる内定獲得への想いと、思うようにいかない現実のギャップに苦しむ、就活生共通ともいえる悩みを凝縮した作品である。就職なんて縁だと思って、不合格にもくよくよすることなく、あまり気に病まず前を向いてほしい。

佳作をあと4作品紹介しよう。

面接中 「ご飯どうする?」 「面接中!」 (埼玉県 山田太郎さん)

オンライン面接により、就職活動が日常生活に食い込んだ現代を、印象的で共感性の高い家庭での一コマを表現した作品である。「ご飯どうする?」という問いかけの前に、ドアのノックなど何かしらのサインがあれば、一旦マイクをオフにすることもできるが、多くの家庭ではそのような配慮を日常的にしていないだろう。リビングから大声で呼びかける家族の姿と、面接中に焦る学生の姿が鮮明に目に浮かぶ。

「面接中!」と叫んだ時には、マイクをオフにしたのだろうか? 面接を受ける際には、指向性の高いマイクの付いたヘッドセットの着用をお薦めする。

オンラインならではの対処法

難しい 質問来たら 回線が 悪いと言って 時間を稼ぐ(愛知県 へいへいぼーいさん)

オンライン時代の処世術を自身の体験と重ね合わせて表現したユーモラスな作品である。回線問題が日常になってもう久しいが、時間の経過とともに対処法が発達したり、状況を逆手に取ったアイデアが生まれたりと、時代の変化をよく捉えている。以前、「固まったふりをする」という投稿もあったが、それと比べればまだ良心的な対応といえるかもしれない。

羨ましい 進路決まってる 台風さん(新潟県 wasabiさん)

まだ内定が出ず、先行きが見通せない就活期ならではの漠然とした不安を、台風の気象予報と重ね合わせて、今後進むであろう道が見えている台風を「さん」付けでうらやむ気持ちを、率直かつユーモラスに表現した作品である。

予報上は進路の方向がある程度決まっている台風の進路も、ときとして大きくそれることがあるように、作者にも思わぬ進路が開けることがあるかもしれない。まずは前を向いて、活動を続けてみることだ。

圧迫面接 するならこちらは メルカリで 御社の商品 ぜんぶ売ります(東京都 あいこさん)

圧迫面接という非常に精神的に負荷のかかる面接で受けたストレスを、いま家にあるその企業の商品をフリマアプリで売り払って、自分の目の前から全部消してしまおうという、斬新かつ今どきの発散法を詠んだ作品である。

無形商材しかない応募先企業の場合はどう対処するのか、作者の考えをぜひ聞いてみたい。その斬新な発想や機転を生かし、これからもさまざまなストレスに立ち向かっていただきたいものである。


どんな気持ちで詠んだのか

昨年は、入選作14作品中、神奈川県(4人)と北海道(3人)の作者だけで半数を占め、最も学生数が多い東京都の作者は1人だけだったが、今年は2人が入選した。


上のロゴをクリックするとHR総研のサイトへジャンプします

今年、入選者が最も多かったのは埼玉県の3人で、東京都を除くその他の府県は1人ずつと、宮城県から広島県まで幅広い地区から入選者が生まれる結果となった。来年も全国からの応募を期待したい。

さて、HR総研のオフィシャルページでは、「2023年卒 就活川柳短歌」の全入選作品について、作者の思いを踏まえての寸評・解説も掲載している。それぞれの作者がどんな気持ちでこの川柳短歌を詠んだのか、ぜひご覧いただきたい。次回は、採用担当者による「2023年卒 採用川柳短歌」を紹介する。

(松岡 仁 : ProFuture HR総研 主席研究員)