ANAが保有する総2階建ての超巨大旅客機エアバスA380「フライングホヌ」。その規格外の大きさゆえ、機体の洗浄作業も他機とは結構違います。どのような差があるのか、担当者に聞きました。

初号機と2号機でホノルル線へ

 ANA(全日空)が2022年7月1日から、約2年4か月ぶりに定期便へ定常的に投入する総2階建て客室をもつ旅客機、エアバスA380「フライングホヌ」。A380は「世界最大の旅客機」としても知られています。そのため、飛行機の外装を洗浄する作業も、他機種とは大きく異なるそうです。どのような差があるのでしょうか。担当者に聞きました。


定期便投入を控え、機体の洗浄が実施されたANAのエアバスA380(2022年6月25日、乗りものニュース編集部撮影)。

 ANAのA380は、2019年に成田〜ホノルル線の専用機として導入されました。現在は3機体制で、それぞれ異なったデザインとトレードカラーをもつ「ウミガメ(ホヌ)」の特別塗装が施されています。ただ、新型コロナウイルス感染拡大による需要減退の影響によって、同型機は2020年3月に定期便運用から外れており、その間は成田空港で羽を休めながらも、不定期で地上イベントや遊覧チャーターなどに活用されてきました。

 A380の洗浄作業は15人体制で6時間を要します。なお、ANAの旅客機のなかでは小さめのボーイング737では9人で2時間、ボーイング787は10人で3時間、ボーイング777では9人で4時間が標準的とのことです。水の使用量は737を基準とすると、777は2倍、そしてA380は3.5倍の量が必要なのだそうです。

 洗浄作業自体は型式による違いはなく、水で濡らしてから薬剤をかけ、頑固な汚れはモップやブラシがけをし、水で流すというプロセス。ただ、その作業方法はA380ならではの特徴も見られます。

「機体が大きく、突起物も多いので、作業員間で器材の配置や危険箇所の情報共有をしながら進めています。高所作業も多いので注意しなければならないことも多いです」と話したのは、2021年12月にA380を洗浄した担当者。同氏によると、機首部分のアンテナなどは、特殊な作業車両を使いマスキングをしているそうです。

今回の洗浄作業、どんな感じだった?

 2022年7月から、2年4か月ぶりにA380を定期便へ再投入するANA。それを直前に控えた6月にA380の機体洗浄を実施した担当者は、同型機における作業の特徴を次のように話します。

「通常の双発機であれば主翼がせり上がっているのですが、4発のエンジンを持つA380は、その分(エンジンの重さで)主翼が垂れ下がっているので、高さに気をつけて作業する必要があります。またA380は、主翼後部にある赤いマーキングが施されているパーツ『フラップトラックフェアリング』の大きさが他機種より全然大きいんです。キレイに洗おうと思って近づきすぎると、そういったパーツに車両が当たってしまう恐れもあるため、そこも注意が必要です」


ANA「フライングホヌ」洗浄作業の様子(2021年12月27日、乗りものニュース編集部撮影)。

 そして、A380の洗浄作業を見るなかで最も刺激的な場面が、格納庫の天井ギリギリ、24.1mの高さを持つ垂直尾翼の洗浄。担当者も「他の機種とは全く大きさが違います。大きすぎて格納庫の上部に改修を施したほどです」と話します。

「あまりに大きいので、軽く見ても作業時間は他機種の2倍、下手すると3倍かかる場合もあります。主翼と同じように機体に近づきすぎないよう、作業中はスタッフでコミュニケーションを取りながら進めています」(担当者)

 こういった高所での洗浄作業は資格をもつスタッフによって実施されているそう。「高いところは慣れました!ただ、尾翼などはパーツが複雑に入り組んでおり、上も下も広い視野で作業をしなければならないので、高所作業を担当する資格を得るには、それなりの経験が必要です」と担当者は話します。

 7月からANAのA380「フライングホヌ」は、成田〜ホノルル線を週2往復する予定です。ANAブルーがテーマの初号機「JA381A」と、エメラルドグリーンがテーマの2号機「JA382A」の2機が路線に投入されることになり、2機ともに再就航初日までに洗浄が実施されます。担当者は「ハワイ楽しんでこいよ!と送り出してあげるつもりで、洗浄を実施しています」と話します。