エンゼルスのジョー・マドン監督【写真:Getty Images】

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叱咤は“自己満足”に?「選手たちの気持ちを必ずしもよくするとはならない」

 エンゼルスの連敗がついに10へと伸びた。4日(日本時間5日)、敵地シチズンズ・バンク・パークでのフィリーズ戦に2-7で敗れ、2016年8月4〜15日(同5〜16日)にかけて喫した11連敗以来となる黒星が重なった。大谷翔平投手は俊足を飛ばし内野安打を稼いだが、バットで見せ場を作ることはできなかった。

 エンゼルスはついに10連敗。チームの状態が一向に上がらない中で、ジョー・マドン監督が「選手を信じている」と言ったのは1-9の大敗で6連敗となった5月31日(同6月1日)のヤンキース戦終了後だった。最優秀監督賞を3度獲得し2016年にはカブスの指揮官としてチームの108年ぶりの世界一を牽引した名将は、この日の試合前の会見でこう話した。

「選手を集めてのミーティングはやらない。ミーティングのほとんどはそれ自体が発する方のためにあって、受け取る方のためではないと僕自身は思っているから。やるのであれば、もっとも適切なのは敵地で勝ったときだね」

 そして、こう続けた。

「僕だって時には自分の胸の内で思っていることを吐き出すことがある。それで気持ちは収まるけど、聞いている選手たちの気持ちを必ずしもよくするとは限らないからね。負けた後はそれだけで選手は重い気持ちになるもの。聞かせることなど何もない。ベースボールは週に1度じゃない。ほぼ毎日、年間162試合を戦うんだ。だからネガティブな感情を抱かせれば、悪いことの方が反動で帰ってくる。それが持論だ」

 野球に限らずスポーツ界には叱咤することで選手を鼓舞しチームを引き締める指揮官はいるが、名将と呼ばれるマドン監督にもそのイメージを抱く人もいるであろう。しかし、本人の言葉にあるように、彼はそれを嫌う。いっときの感情からくる否定的な態度や荒々しい言葉を一切排除し、人の真情に寄り添う知性的な言葉の探究を続けてきた。その性向を知ったのはレイズ時代の2008年だった。

選手に贈るメッセージの数々「生きていく上で示唆に富む言葉だと思う」

 米メディアからメジャー最弱球団の評を下されたレイズがワールドシリーズにまで駒を進めたその年、本拠地のトロピカーナ・フィールドのクラブハウスの柱には、「不条理の哲学」で名高いフランス人のノーベル文学賞受賞者カミュや米連邦準備制度理事会(FRB)議長として知られる経済学者グリーンスパンらの名言が書かれた紙が貼られていた。控えめな文字でプリントされた言葉を選んだのがジョー・マドンであった。

 その理由を尋ねると、相好を崩したマドン監督はこう返している。

「なにも選手全員に見てもらおうということで貼ったわけじゃないんだ。生きていく上で示唆に富む言葉だと思うんだ。それから何かを感じてもらえるだけで僕はいいと思っている。ただそれだけのことさ」

 クラブハウスの入り口にあるホワイトボードには先発メンバー表と試合開始までの準備を記した時間割表が並ぶが、その上部には小さな文字の引用句が日替わりで載せられている。今季の開幕戦から日々更新される言葉を選んでいるのがマドン監督の代弁者、レイ・モンゴメリーベンチコーチだ。この日、同コーチが選んだのは、10連敗を阻止できなかったエンゼルスの選手たちには染み透るものになった。

NEVER CEASE TRYING TO BE THE BEST YOU CAN BE!
(最善を尽くそうとすることをやめてはいけない)

 戦略と戦術は練り上げても、勝負に対する態度は監督が導くものではない――。マイナーの選手時代とエンゼルスの下部組織でのコーチ業を合わせ30年もの下積みを経験した“知将”、ジョー・マドンは誰よりもそれを知っている。(木崎英夫 / Hideo Kizaki)