朝ドラ、1970年代の新聞社なのに「タバコなし」 ネットで指摘...演出の背景は?識者に見解を聞く
NHK連続テレビ小説「ちむどんどん」の2022年6月3日放送で、主人公・比嘉暢子(黒島結菜さん=25)が出向先の新聞社での勤務を終え、レストランに復帰したが、新聞社での勤務シーンについて時代設定がおかしいのではないかとする声が視聴者から上がっている。
5月30日から6月3日にかけての放送で、暢子は勤務先のレストランオーナーからの命令で、新聞社での「ボーヤさん」(雑用係)として勤務。配属先は「東洋新聞社」の「学芸部」という部署で、他部署との間で書類のファイルを頻繁にやり取りするなどの激務が描かれたが、視聴者からは「新聞社、まだあの時代だったら、オフィス内はタバコの煙りでモクモクしてたんだろうな」といったツイートが上がってしまったのだ。
「『貴重なご意見』な電話が沢山かかってきちゃうのかもな」
今でこそ徹底された感のある禁煙と分煙。日本では2003年に、禁煙や分煙の概念を盛り込んだ「健康増進法」が施行されたほか、2018年には改正健康増進法(受動喫煙防止法)が国会で成立するなど、時代が下るごとにタバコが吸える場所の縮小が進んでいる。
その一方で、昭和までの職場といえば、「机の上に灰皿がある」といった、今では考えられない光景が珍しくなかったのも事実。しかし、5月30日から6月3日にかけての放送では、タバコやその煙が登場することはなかった。時代を知る視聴者からはツイッターで「あの時代の新聞社なんてタバコの煙で前が見えないくらい」といった声が上がったほか、別のツイートでは、
「当時の新聞社って灰皿には吸い殻が山盛り、デスクはいつもくわえタバコのイメージだけどそんな描写を地上波(それも朝)に忠実にやったら『貴重なご意見』な電話が沢山かかってきちゃうのかもな」
と、あえて演出を抑制したのではないかとする指摘もある。
作中での設定は1973年だ。J-CASTニュース編集部はドラマ、演劇、映画に詳しいライターの木俣冬氏に、今回の新聞社の演出にタバコが登場しない理由の分析を依頼した。
「無理して描くこともないということなのではないでしょうか」
まず編集部は、近年の朝ドラにおける喫煙の演出について木俣氏に聞いた。
「2010年放送の『ゲゲゲの女房』でも出版社でタバコを吸う人がいないと注目されました。2016年放送『とと姉ちゃん』の花森安治がモチーフになっている編集者・花山伊佐次(唐沢寿明さん)、2020年放送『エール』の古関裕而がモデルになっている主人公・古山裕一(窪田正孝さん)なども、モデルの人物は喫煙者でしたがまったく吸っていません。2000年代の朝ドラでは2014年放送『花子とアン』の宇田川満代(山田真歩さん)という作家が吸っていて、シーンとしてそれはとても貴重なものでした」
「ちむどんどん」は作中1973年の設定でも、新聞社でタバコを吸っている人がいないのは非現実的に感じるが、2022年に放送するにあたって受動喫煙防止法などの動きを受けているのだろうか。
「再放送の朝ドラだと80年〜90年代では自立した女性がタバコを吸うシーンがありますが2018年以降、受動喫煙防止の取り組みがルール化される以前から喫煙シーンは自主規制されているように感じます。喫煙を好意的に感じない人への配慮でしょう。ただし街のセットでタバコ店はよく出てきます。どうやら完全にタバコのない世界線にはしていないようです」
2019年にはNHK大河ドラマ「いだてん」に受動喫煙シーンが頻繁に登場するとして、公益社団法人受動喫煙撲滅機構がNHKに抗議。その後同機構はNHKから「ドラマでは(編集部注:主人公の)田畑(同:政治)のキャラクターを表現する上で欠かせない要素として描いておりますが、演出上必要な範囲にとどめております」などと回答があったと公表していた。
こうした指摘が来る可能性が「ちむどんどん」の演出に影響を与えたのか。
「喫煙場面のあるドラマに厳しい目を向ける方々もいますから、無理して描くこともないということなのではないでしょうか。タバコを小道具に採り入れると手間もかかるでしょうし。『ちむどんどん』はあくまで主人公が料理人をめざす話で新聞社が主舞台ではないので、そこだけリアリティーを出すこともないという判断ではないかと想像します」
「余談ですが、タバコを吸う身振りによって演技の『間』を作ることができるので、タバコは演者の助けになる小道具とも言われていましたから、それが使えなくなることによって、俳優にとっては新たに『間』を保たせる技を発見する機会なのです。『いだてん』ではきゅうりをタバコのように指にはさんで持つというアイデアで笑わせてくれました」
(J-CASTニュース編集部 坂下朋永)