賛否あった第1回「女芸人No.1決定戦 THE W」それでも吹いた笑いの風 - 松田健次
※この記事は2017年12月15日にBLOGOSで公開されたものです
12月11日(月)に生放送された「女芸人No.1決定戦 THE W」(日本テレビ)の視聴率は13.1%だったという。これは現在のテレビ事情に照らすと十分な高視聴率だ。「M-1グランプリ2017」が15.4%だったので、そこに比しても2.3%しか差がない。結果、数字が良かった「THE W」だが、その内容への事後評は賛否色濃かった。
だが、初開催に賛否は付きものであり、大会が続けばいずれ「場」は成熟していく。M-1だってマイナーチェンジを繰り返してきた。
「元カノでも埋まってんの!」のセンスに脱帽
ここでは、「THE W」の全10組、計15本のネタから勝手ながらも爆笑した一瞬を個人的に思い返してみる。3位以下多数のため割愛。まず2位は、中村涼子の「幽霊と恋に落ちた女」にあった。
30歳独身のハルコがある日、イケメン幽霊と出逢って始まる幸せな同棲生活。やがて禁断の恋を許さない現実が忍び寄る。出逢いと別れともう一つの出逢いが、台詞とナレーションによる軽快なテンポのドラマダイジェストで描かれる。
<2017年12月11日放送「女芸人No.1決定戦 THE W」(日本テレビ)より 中村涼子>
NA「でも楽しいことばかりじゃなくて」
ハルコ「ユウくん・・・あ、ごめん お母さんから電話だ。もしもしお母さん、うん元気。え、彼氏?できた、三ヶ月前から付きあってる。え、会いたい?あぁ、今度ね・・・(電話切って)。ユウくん、別にユウくんが幽霊だから会わせられない、じゃなくて、実家帰ったときに靴そろえられないっていうか、こいつそもそも足ないやって・・・ユウくんどこ行くの!」
NA「ケンカが絶えなくなり」
ハルコ「(怒り口調)ねえユウくん、最近墓地に帰る回数多くない?なに、元カノでも埋まってんの!」
ここだ。「最近墓地に帰る回数多くない?なに、元カノでも埋まってんの!」・・・好きだからこそ抱く不安。言いたくなかった疑念がつい口をつく。衝突。少女コミックが原作のような恋愛ファンタジーをまといながら、よく聞くと、この「元カノでも埋まってんの!」はかなりとんでもないフレーズだ。
こんなにも、哀しくて切なくて暗くて冷たくてバカバカしい言葉はそうそう無い。同じ台詞を名女優が言ったら落涙滂沱だろう。だけど中村涼子なので泣くに泣けずの泣き爆笑だ。これが中村涼子のオリジナルフレーズであるとすれば、すごい。名台詞だ。
紺野ぶるまがこの日の「瞬間最大風速」
そして、「THE W」で爆笑した一瞬、その針を振り切ったのは紺野ぶるまだった。
<2017年12月11日放送「女芸人No.1決定戦 THE W」(日本テレビ)より 紺野ぶるま>
紺野「コウちゃん、今わたしの携帯見てなかった?じゃあもう隠してもしょうがないよね。ごめんなさい、私、コウちゃん以外の人と、浮気した。コウちゃん、泣いてるの?
M(明日への手紙/手嶌葵)CI~BG
そうだよね、これでもう何回目だよっていう話だもんね(徐々に泣き芝居へ)、あたしもうわかんないの、なんでコウちゃんがいるのに何回もこんなこと、できちゃうのか。
なんでだろう、たぶんそれは、私が、人より、コミュニケーション能力に長けているからだと思うのぉぉ!私が、人より、コミュ力に長けているからだと思うんだわぁ!
ずっと不思議だったの。なんでみんな、あの人もカッコイイとか、あの人もステキって言うのに、もっと行かないんだろうって。
あれでしょ、引かれたらどうしようとか、フラれたらどうしようって思うと行けないんでしょ。もう私、欲しいって思ったらガンガンって行くから!欲しい、ガンガン、って行けちゃうから!それって誰にでも出来ることじゃ、ないと思うんだわ、・・・私ね、このノリで会社起こそうと思ってるんだわー」
ここだ。「私ね、このノリで会社起こそうと思ってるんだわー」・・・なんだこの予測しようもない跳躍は。なんなんだ。浮気を申し訳なさそうに彼氏に謝罪しつつも、本質的には自己肯定おびただしく、相手の痛みはさておき「このノリで」起業という発想に転換してしまうパラダイムシフトは。あまりにもたくましい生き様が、この時代にはびこる何かを切り取っていて、切り取っているように思えてしまい、強烈に撃ち抜かれてしまった。
これまでに、身勝手&ポジティブというキャラクターはドラマや映画にあまた登場しているが、浮気→コミュニケーション能力自覚→起業という日経ウーマンには出逢ったことがない。
<同上より>
紺野「(泣き芝居継続中)それで実際今回力試しに六本木でケバブ売ってるとゴンゴン、ゴンゴンって行けちゃったんだもん!行けちゃったんだもーん!」
紺野ぶるまのこのネタは、2016年の月9ドラマ「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」の主題歌をBGMに、「月9ヒロインによるクライマックスシーンでの芝居」を模している。やたら台詞に句読点を入れ、ブレスを挟み、言葉に感情を乗せ、感情を押し出す場面で台詞のリフレインを繰り返す。のだけど、月9ヒロインの芝居ってこんなシステムだったか?
それにしても、「私ね、このノリで会社起こそうと思ってるんだわー」は、すごい、名台詞だ。この人格欠損はなはだしいエゴイスティックな台詞が「THE W」の瞬間最大風速だった。
(という、木を見て森を見ずのパーツ評価を記したのは、出逢ったことのないものに出逢うとつい目を凝らして記憶にとどめたくなる個人的趣向ゆえ。総体評価がなされた実際の順位「優勝:ゆりやんレトリィバア 2位:牧野ステテコ 3位:アジアン」に何かを呈する話ではないです。)