1年を振り返る国民的音楽番組ではなくなった「紅白」 - 渡邉裕二

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※この記事は2017年11月16日にBLOGOSで公開されたものです


大晦日恒例「第68回NHK紅白歌合戦」の司会者に下馬評通り女優の有村架純と嵐の二宮和也(昨年は相葉雅紀だった)が決まった。

下馬評通りというのは、嵐のメンバーによる司会は2020年の東京五輪の年まで「順番に続く」と言われていただけに他の選択肢は考えられなかったからだ。もっとも、二宮の場合は来年、元SMAPの木村拓哉と映画で共演が決まっていることから、今回は「紅白」でのアピールを狙ったのだろう。有村については既に「内定」の情報が出ていただけに既定路線だった。

ちょっと意外だったのは総合司会にウッチャンナンチャンの内村光吉を抜擢したことぐらいだが、だからと言って大きな驚きではない。結局、司会者には意外性も何も全く感じない。おそらくファン以外はまるでワクワク感のない顔ぶれだったに違いない。

と、その瞬間、なぜか今年の「紅白」の全容が分かってしまったような感じがするから不思議である。「紅白歌合戦」は、てっきり国民的な音楽番組だと思っていたが、もはや年末のバラエティー色の濃い、それこそ、かつて民放がやっていた「年忘れ歌合戦」かなんかの〝拡大版〟だと言ってもいいかもしれない。

そういった意味でも、今回の司会者は全体を見る〝導入口〟になった。

NHKにとっては受信料徴収の口実にも

正直言って今さら「紅白」に期待するものなんてない。ただ、ギョウカイの中に身を置くものとして、とりあえず「1年の総決算」としての〝忖度〟のようなものかもしれない。この時期になると不思議と「紅白」について語り出してしまう。なぜか?

おそらく、いくら視聴率が下がったと言っても40%という数字をとっているのも事実だ。今時、40%の視聴率なんて数字は驚異的である。この部分ではやっぱり〝国民的オバケ番組〟であることは間違いない。〝腐っても鯛〟と言ってもいいだろう。

それに、これだけ数字を取れば、NHKにとっても〝受信料徴収〟の口実になる。それだけに視聴者としては多少なりとも〝ゆく年〟に相応しい歌謡番組になってもらわないと困るのだが…。

さて、その司会者に続いて16日には出場歌手も発表された。しかも早朝10時である。出場歌手については、例年だったら11月下旬、年によっては12月にズレ込んでの発表だったが、今年は実に進行が早い。

「準備に余裕を持たせたかった」「盛り上げる時間を長く持たせたかった」

などなど、業界内では色々と言われているが、おそらく局内で深刻化している〝働き方改革〟が微妙に関係しているのかもしれない。

〝目玉歌手〟よりバラエティー色のある賑やかな「紅白」に

しかも、タイミングもよく?今年は例年以上にヒット曲に恵まれない1年だった。振り返ってみて思い出す曲もない。NHKは選考基準として毎年「今年の活躍」とか「視聴者アンケート」とか言ってはいるが、今や世代間での好みも思考も違う。本気で人選を考えたら不眠不休になりかねない。そこで人選は、各プロダクションの〝ご意向〟で…と言うことになるのかもしれない。

体面上、一応は〝目玉歌手〟とか言って交渉のアリバイは作るが、制作現場にカリスマ的な交渉能力があるわけでもない。しかも、聞くところによると、その人選は「アーティスト難」で白組より紅組の方が毎年難航するというだけに、その部分での調整は必要だろうが、最終的には出場歌手よりも、NHK的にはいかにバラエティー色のある賑かな「年忘れ紅白」を演出するかが腕の見せどころだと考えているに違いない。

論より証拠、出場者の発表前にスポーツ紙は〝内定記事〟のオンパレードだった。

女性ボーカルグループのリトルグリーンモンスター、女性3人組のSHISHAMO(シシャモ)韓国のガールズグループ、TWICE(トゥワイス)、演歌歌手の丘みどり、男性3人組のWANIMA(ワニマ)、竹原ピストル、三浦大地、エレファントカシマシ、さらにHey!Say!JUMP…。トータス松本を除いたら、ほぼ全員の初出場は事前に出まくっていた。Hey!Say!JUMPに至っては、デビュー10周年記念のイベントで〝内定〟を明かしていたほどだ。ここまできたら、もはやNHKというよりプロダクション主導で総てが動いているというしか言いようがない。

初出場歌手にとっては〝親孝行〟程度の魅力

と言うわけで「紅白歌合戦」とは何か?

(ベテラン歌手や常連歌手も含めて)芸能プロダクションにとっては「意地」や「プライド」であり、初出場の歌手にとっては、もはや「紅白」は〝親孝行〟程度の魅力にしか過ぎないかもしれない。もちろん〝親孝行〟も重要なことではあるが…。とにかく、時代と共に「価値」や「重み」のようなものは失われてしまっている。

ちなみにだが、今年も〝特別枠〟というのがあって、そこでは今年、亡くなって10年目を迎えた作詞家の阿久悠さんや、今年亡くなった作曲家の平尾昌晃さんの追悼コーナーがあったりするのだろう。あるいは主題歌を歌う桑田佳祐が横浜アリーナから中継で出演して、司会の有村と朝ドラ「ひよっこ」を再現するに違いない。大阪府立登美丘高校ダンス部のバブリーダンスで、人気がアップしている荻野目洋子も、この枠での出演になりそうだという。

いずれにしても、前述した通り、確かに視聴率も高いし、ある意味では「1年の総決算」として〝忖度〟している部分もあるが、現実的には1年を振り返る国民的音楽番組と言い切るには無理もある。それは、今回の出場歌手を見ても分かる。

〝歌は世につれ世は歌につれ〟は過去の話

いつ頃だったか。「歌は世につれ世は歌につれ」と言われたのは。だが、気づけば、それも〝過去〟の話。「昭和」が過ぎて、来年には「平成」も終わる。もはや、この〝ことわざ〟も化石になってしまうのだろうか。

しかし、歌はいつの時代も、時代時代の生活や世相、あり様などに影響を受けてくるものだと私は思っている。テレビドラマやCMとのタイアップ曲がヒットに結びついてきたのも、そういった部分があったのかもしれない。そして「紅白」は、その年を反映したものとして視聴者に浸透してきた。


そういった意味からすると、2017年を振り返ると「森友・加計問題」に「北朝鮮問題」。あとは政治家による暴言と不倫などなど。敢えて芸能界的な話題で挙げるなら安室奈美恵の引退宣言ぐらいか…。

かつて中森明菜に「紅白」に復帰した時の感想を聞いた事があった。すると明菜はポツリと振り返った。

「『紅白』の舞台裏って、みんなが集まってきて可愛いとか、カッコいいとか、綺麗だとか…。とにかく衣装やテレビの映り方とか、みんなで褒め合ったり、感想を言ったりしていた。それが楽しかったし、自分にとっての刺激にもなっていたんだけど、もう、違うのね。そんな雰囲気は全くなくって、みんな自分のことだけしか見ていないのかな…。やっぱり、衣裳のこととかでも、みんなに何か言ってもらいたいじゃないですか。そんな時、あぁ、ここは、もう私のいる所じゃないって…」。

取材する記者、制作スタッフ、出場する歌手…立場によって考え方は違うのは当然だろう。しかし、「紅白歌合戦」の基本コンセプトは時代とともに大きく変貌してしまったことは確かだ。