※この記事は2017年11月15日にBLOGOSで公開されたものです

----日本で一番歩かない都道府県はどの県かご存知ですか?

…答えは山陰地方の鳥取県です。

鳥取といえば鳥取砂丘、二十世紀梨が有名ですが、日本海側に位置するため海と山に囲まれた自然豊かな県でもあります。それだけ豊かな自然が溢れる鳥取県なら自然と歩きそうなものですが…。データを見てみましょう。

厚生労働省が行った平成18年~22年の5年分の調査によれば、20歳以上の男女どちらも1日で最も歩いていた都道府県は兵庫県でした。男性が7,964歩、女性が7,063歩です。

これに対して鳥取県は、男性がワースト1位の1日5,634歩。女性もワースト1位ではないものの下から3番目の45位で1日5,285歩となっています。1位の兵庫県と比べると、2000歩近く歩いていないことになります。1000歩=10分のウォーキングに相当するので、20分も開きがあります。これが日々積み重なっていくと1ヶ月で9.2時間もの差になります。(詳しくはコチラをご覧ください。)

なぜ鳥取県民は歩かないのか。鳥取県福祉保健部健康医療局健康政策課の丸山真治課長補佐にお話を伺いました。

「一番は車。東京や大阪で暮らしていると信じられないかもしれませんが、100m先のコンビニにも車で行っちゃいますから。店から駐車場まで同じぐらいの距離があったとしても車ですからね。」

そこで鳥取県は、ウォーキング立県を目指してウォーキングイベントを各地で開催しています。今年は9/9(土)に「ウォーキングフェスタin湖山池」と題して、鳥取市にあるコカ・コーラウエストスポーツパーク親水広場や湖山池周辺を会場に開かれました。

今回は家族で楽しく参加できる5キロコースと、普段からウォーキングをしている上級者向けの17キロの2コースを用意。この時期、東京は夏から秋の気配が漂い始め、朝晩は長袖がないと肌寒いほどですが、イベント当日の鳥取県の最高気温は30.3℃の真夏日。5キロどころか少し歩いただけでも汗がにじみ出るほどです。

それにもかかわらず当日の会場にはウォーキングフェスタに参加する人で溢れかえり、本当に鳥取県民は歩かない人達なのかと疑問に思うほど。今回の大会を主催するNPO法人未来の岸田寛昭理事長にイベントを開催の理由について伺いました。

「鳥取県は何もない街と言われるんじゃなくて、街に誇りを持ってもらうのに地元を歩いてもらったりイベントを一緒にやったりする。そうすることで誇りを持てるよねってことでウォーキング大会を17年前に立ち上げました。鳥取県は自然も豊かで人柄も穏やかでのんびりしていて。歩きやすい場所なんです。」

17回目の開催とあって多くの人が足を運んでいましたが、その多くの人が足を止めたのが会場入り口にある「ごきげんマルシェ」。

岸田会長も「今回行った新しい取り組みです。」と話していたもので、県内の特産物を使った飲食店、雑貨店などの露店が並んでいました。

普通の地産地消のお店とは違い、ごきげんマルシェには県内の障がい者就労支援事業所のお店が参加しているというのが特徴です。障がい者の方が手作業で作った雑貨を販売したり、実際に製造しているグルメなどが並び、多くの人が買い物を楽しんでいました。

そのごきげんマルシェの1つ、鳥取県南安長にあるNPO法人フェリースのスイーツショップ「チャオ!ジェラート」。

こちらに勤める岡村さんに、障がい者の方がどのように参加されているのか伺いました。

「うちはイタリアンジェラートをメインにしたジェラートショップとスイーツの専門店です。ジェラートは機械で製造するんですが、計量したりとか果物の皮を剥いたりしてもらっています。あと乳製品は衛生管理に厳しいので機械をキチンと洗浄したり。今は6~7名ぐらいが働いています。」

障がい者雇用と言葉にするのは簡単ですが、実際に雇用されてみた感想については「例えばうちはシフォンケーキを作っていて、型抜きをして最後洗浄したりするんですけど。すごく細かい作業だったりするので根気がいるんです。やっぱり長い時間でもそれをずっと作業を続けられたり、自分の出来るところで前向きにやっていこうという方がたくさんいらっしゃいます。」ということでした。

せっかくなので鳥取県若桜町の氷ノ山で取れた夏苺のジェラートいただきました。

スプーンを入れるとジェラートのシャリっとした感覚が心地よく、一口食べると苺の甘酸っぱさが口の中いっぱいに広がります。甘すぎず舌の上で溶けるようで、もう一口もう一口とすぐに完食してしまいました。こちらは日本財団の支援により4月にオープンした実店舗もありますので鳥取県に足を運んだ際はぜひ味わってみてください。

美味しいジェラートを味わっていたらステージでは開会式がスタート。ゲストにはNHK朝の連続テレビ小説「ひよっこ」のナレーションでもおなじみだったスポーツジャーナリスト・大阪芸術大学教授の増田明美さんを迎え、開会式では朝ドラを見ている人ならおなじみの「おはようございまーす」から始まりました。

開会式で増田明美さんは「今日は一緒に歩けることを楽しみにやってきました。ウォーキングイベントだからご年配の方の参加が多いかと思ったら僕たち、お嬢ちゃんたち。こんな若い人が参加してくれて嬉しいです。歩くって本当に大事ですよね。健康になれば医療費はかかりません。

私も整形外科の先生方と一緒にスポーツイベントに参加することが多いんですけど、先生方が口癖のように「2本の足は2人の主治医」っていうんですね。2本の足が丈夫で自分で歩いたりして行動力がある人っていうのは主治医を2人抱えているのと同じぐらい素晴らしいことなんですって。」

増田明美さんらが出演した開会式を見ていて気になったことがありました。それはステージの端で出演者の話を手話で伝えている女性がいるのです。まるでNHKの手話ニュースのように会話の全てを手話で伝えています。

この点について鳥取県福祉保健部健康医療局健康政策課の丸山真治課長補佐さんに伺いました。

「鳥取県は県議会の時にも必ず手話の方が付いているんです。元々、障がい者の施策について平井知事が力を入れているんですよ。だから手話言語条例も導入しました。手話自体は国も一種の言語だと認めているんですが、なかなか浸透していなくて。だから都道府県で初めてそういった取り組みをしました。鳥取県に手話が必要な方が多いというわけではないと思いますけど、県のやるようなイベントでは極力手話の通訳をつける取り組みはしていますね」。

手話言語条例について調べてみたところ、手話を言語として普及させるための条例で、2013年に初めて鳥取県で制定されました。その後、全国の都道府県や市町村で制定され、全日本ろうあ連盟によると2017年8月1日の時点で13県79市9町合計101の自治体で成立しています。

具体的な内容については自治体によって異なりますが、日常的に手話が当たり前に使われる社会にしていくため、手話を学ぶ機会を増やしたり、手話通訳者を派遣したり、職場にも手話の環境を整備するというものです。

これだけではなく鳥取県は2014年から全国の高校・特別支援学校を対象にした「手話パフォーマンス甲子園」を毎年開催しています。

手話によるダンスや演劇の表現力を競う大会で去年は61チームが参加

参加チームの過半数が聴覚障害者以外のチームで、練習をきっかけにろう学校との交流が始まった高校もあるといいます。手話に力を入れている自治体だからこそウォーキングフェスタの開会式にも手話通訳者の方がいたわけです。

そのような開会式を終えてウォーキングフェスタが始まりました。

5キロコースに参加させていただきましたが、箕上山を遠くに望み、歩いていくと見えてくる真っ青な湖山池。NPO法人・未来の岸田理事長自ら何度も歩いたというこのコース。山の緑と湖の青の美しいコントラストを楽しめます。ウォーキングコースの途中にこういう看板が出ているのも楽しいですね。

鳥取の豊かな自然を楽しみながら歩いた先にあるのが湖山池のほとりに設けられたグランピング会場。ウォーキングフェスタに参加していない方でも無料で観られるということで会場には一般の家族連れの方も多く訪れていました。

グランピング会場の隣で行われていた「鳥取インクルーシブ マリンフェスタin湖山池」も大人気。湖山池でバナナボート、カヌー、アクアボールといった水遊びや巨大シャボン玉にも行列が出来、大盛況でした。

こちらの受付にも手話通訳者がおり、鳥取県が手話に力を入れていることがよくわかります。ウォーキングフェスタに参加されていた女性にお話を伺ったところ「孫に遊びに行きたいとせがまれてきました。バナナボートやカヌーで遊んで全然こっちに来ませんよ(笑)」と話してくれました。

健康づくりに興味のある方だけでなく、ご家族で参加されている方も大変多かったウォーキングフェスタin湖山池。最後に鳥取県福祉保健部健康医療局健康政策課の丸山真治課長補佐に今後の課題を伺いました。

「今回若者を呼ぶためにと思ったんですが、歩くために参加するって言われても『別にいいや』って思っちゃうじゃないですか。みなさんも普段から歩いてるわけで、わざわざ大会に参加して歩かなくてもといったところで。ただ食べ物で釣るじゃないですけど『ごきげんマルシェ』みたいなものがあってもいいでしょうし。興味を持っていない方に来てもらうといったところで『グランピング』も1つの取組みだったのかなと思います。やっぱりそこはインセンティブっていうか。プラスアルファでしてもらえるようなことにしないといけない」と話していました。

今回参加するまで、鳥取県といえば砂丘しか思い浮かばなかったのですが自分の足で歩いたことで、鳥取県には山や湖といった美しい豊かな自然が多くあることを知りました。 地元に住んでいると忘れがちな故郷の自然を再発見するためにもより多くの参加者が集まるイベントに成長してほしいなと感じました。

※日本財団は、「ウォーキングフェスタin湖山池」、「手話パフォーマンス甲子園」、「チャオ!ジェラート」などの支援を通して、鳥取県の地域医療・健康づくり、障がい者の社会参画に取り組んでいます。

鳥取県×日本財団共同プロジェクト「みんなでつくる“暮らし日本一”の鳥取県」

深刻な少子高齢化が進むなか、日本財団は高齢者や障害者の方の生活を民間レベルで支えていく「地方創生のモデル」づくりに取り組んでいます。

2015年11月、日本財団と鳥取県は、地域住民が元気に暮らし、誇りを持てる社会づくりのための共同プロジェクトを実施することで合意。5年にわたり30億円規模の共同プロジェクトを実施する予定です

公式WEBサイト:鳥取県×日本財団共同プロジェクト「みんなでつくる“暮らし日本一”の鳥取県」

11月17日より行われる「にっぽんの将来をつくる 日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム」では「鳥取:人口最小県からの挑戦」というテーマのプログラムを開催。チケットなどの詳細はこちらから。