「カニはいるけどカネはない」 ダジャレ知事に聞く 鳥取県の”勝手に広まる”PR戦略 - BLOGOS編集部PR企画

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※この記事は2017年11月07日にBLOGOSで公開されたものです

「スタバはないけどスナバはある」「カニはいるけどカネはない」「蟹取県」など、ダジャレを利用したPRで話題となる鳥取県。知事自らがダジャレPRを行うきっかけとなったエピソードや、日本財団と進めている地域おこし事業について、鳥取県の平井伸治知事に話を聞いた。

アキバ生まれの鳥取県知事 きっかけは18年前の鳥取赴任

-- すでに10年目と、鳥取ではすっかりお馴染みの平井知事ですが、出身は鳥取県ではないとお聞きしました

平井伸治知事(以下、平井):私自身は東京の秋葉原という電気街、今で言うと外神田という地名のあたりが出身なんです。子どもの頃は2年に1度の神田祭に出て神輿を担いでいましたね。下町ですから、今で言うところの悪ガキだったのかなと思います。

-- 生まれ育った東京を出て、鳥取県知事になったきっかけは

平井:平成11年に鳥取県に赴任することになったんです。今でも覚えているんですが、夕方、飛行機が鳥取空港に降りていくと、日本海から水蒸気がもうもうと上がっていて、どこまでが海でどこまでが空なのか分からないような感じだった。そういう幽玄な景色の中で「これからどうなるんだろう」なんて思いながら、空港に降り立ったのを覚えています。

住み始めてみると、あちこちに温泉があったり、海があったり、4-50分も運転すればスキー場にも行ける。食べ物をスーパーで買おうと思うと、新鮮な食材が東京では考えられないくらい安く買える。住みやすいところだなと感じていました。ただ、残念ながら全国にその良さが知られていない。私が最初に来た頃は、高速道路もあまり繋がっておらず、周囲の県からも「不便なところ」と見られていたんじゃないかと思います。

そのあと1度東京に戻って、ニューヨークに赴任していたんですが、以前鳥取で仕事をしていたときに一緒にまちづくりをやっていた方や、地元の議員さんに声をかけていただいて、また鳥取県に戻ってきました。それをきっかけに県知事の仕事を預からせていただいているところです。

-- 赴任当初、鳥取の人の印象はどうでしたか

平井:やっぱり山陰の人は優しいですよね。ただ自己主張があまり上手でない。よく言われるのは、鳥取の人に県内の見どころを聞いても「さあ、何もないとこですから」と答えられてしまうと(笑)。自分の身のまわりにある宝石をあまり主張されない、そういうタイプの県民性かなと思います。

「スタバはないけど日本一のスナバはある」偶然が生んだダジャレPR

-- 鳥取県はユニークなPRで知られていますが、中でも知事のダジャレはたびたび話題になっています

平井:知事として県の課題に真面目に取り組んではいたのですが、どうしてもうまくいかなかったのが情報発信でした。外に向けて発信しようとしても予算がなく、代理店を使った大きなキャンペーンなどは打てなかった。鳥取は、「カニはいるけどカネはない」県ですので(笑)。知恵しかないんですよね。

-- 早速ありがとうございます(笑)。きっかけはやはり、「スタバはないけどスナバはある」でしょうか

平井:あれは本当に偶然だったんです。ある時、お隣の島根県にスターバックスさんが店舗を出店されました。たぶんこういうのは東京の人の心をくすぐるんでしょうね、テレビ局の方たちも喜んで行列を取材されてまして(笑)。

その際、鳥取県にあるテレビ局さんから取材依頼がありました。私は取材は全てお受けする方針だったのですが、県の職員が「これはさすがにちょっとどうかと思います」と言うんですよね。それで企画書を見ると「島根県にスターバックスができて、唯一スタバのない県となった鳥取県知事の見解を問う」と。

こっちも悔しいですから、受けるにしても反論してやろうと考えたんです。「鳥取には有名なバリスタがいて代官山にも出店している」とか。ところが放送時間の関係もありますから、取材意図に合わないところはどんどんカットされてしまった。それで最後に残ったのが「スタバはないかもしれませんけども、日本一のスナバ(砂場)はあります。鳥取大砂丘です」というフレーズでした。

このダジャレがネットで拡がったようで、マスコミの間で「スタバだスナバだ」と話題になっている。でもなんのことかわからない。それもそのはずで、その放送局は鳥取県にはネットされていなかったんですね(笑)。県民の全く知らないところでニュースが流れていた。

-- その後、ダジャレPRがお馴染みになったんですね

平井:自虐風のペーソス(もの悲しさ)が効いた言葉遊びを地方の知事がやると、いかにも「田舎が強がってあんなことを言っている」という構図になって取り上げてもらえて、全国にも飛び火していく。それがわかって、我々も広報戦略を変えたんです。

以来、色々とこういうネタを使わせていただいます。「セブンイレブンはなくてもいい気分になれます」とか「ドン・キホーテがなくてものんきにやってます」とか。ところがこういうことを言っていると取り上げたお店が順番に出来ていくんですね(笑)。でもいまだに出来ていないのが牛丼の松屋さん。なので今は「松屋はなくても松葉ガニがいる」と(笑)。

そうこうするうちに「ダジャレ知事」と呼ばれるようになりました。言葉ひとつではあるんですが、こういう売り込み方もあるんだなと思っています。

-- ネットには拡散力がある一方で、失敗すると炎上してしまうケースもあると思います。気をつけていることはありますか

平井:炎上も多少はいいんじゃないかと思っています。私どもも2度ありまして、あるキャンペーンでピンクの機関車とピンクの駅を作った際に「けしからん」と炎上気味になりました。でもその時にもたくさんお客さんが来てくれた。

炎上には話題が勝手に広まる作用もありますから、道徳的に悪いことをしていなければ、あまり恐れない方が良いと思います。ネットでは特にそうですが、少し騒ぎを起こしたくらいのほうが、話題として取り扱っていただけるのかなと思います。

人口最小県が全国屈指の移住県に

-- 鳥取県の人口は約56.5万人と全国でも最小です。人口減についてはどのような取り組みを行っているのでしょうか

平井:10年前に鳥取県の人口が60万人を割り込んでしまったんですが、これを機に移住対策を始めました。施策は年々バージョンアップしていったんですが、その効果もあって、昨年は2,022人の方が鳥取県に移住されました。これは全国でも屈指の数字です。

-- 移住してくるのはどんな方ですか

平井:移住といえば定年した方が来るんだろうと思われますが、鳥取には若い方が多い。鳥取県も以前は定年して仕事を辞めた人ばかりが来て、医療費や介護費がかさむだろうということで移住政策に取り組んでいなかったんです。でもこれは間違いで、現在の移住者の内訳を見ると、20~30代で半分なんですよね。

考えてみれば当然なんですが、歳を取ってから知らない土地に住めと言われても困りますよね(笑)。中には新天地を求められる方もいますが、これから余生を過ごそうという時には住み慣れた土地がいいという人が圧倒的に多い。そう考えると、やはり若い方が流動性は高い。

特に東日本大震災のあと、日本人の考え方は着実に変わってきています。ゆとりがあって子どもを育てやすい、家族にとってフレンドリーな地域に住んで暮らしてみたいという方が増えてきている。そのトレンドにいま我々は乗っかっているんだと思うんです。昨年の鳥取県中部地震があった際も、移住者の方たちが東日本大震災のときの経験を生かしてお年寄りを避難させた地域がありました。こんな風に、移住してきた人たちが「地域に役立つことをしよう」と、だんだんと主役になり始めているんですよね。

-- 鳥取では現在、日本財団と手を組んで数々の事業を展開しています。そのひとつでもある車椅子が乗れるタクシーを街中で数多く見かけました

平井:あれはユニバーサルデザインのタクシー、UDタクシーといいます。鳥取県は小さなコミュニティであるがゆえに、地方創生の成功例を作ることができるのではないかということで、現在、日本財団さまにバックアップをしていただいています。その一環として、UDタクシーというものを鳥取でやってみないかと。

今年度は日本財団さまに200台のUDタクシーを用意していただき、鳥取県で導入しました。200台UDタクシーを入れると、県内の小型タクシーの半分になるんですよね。中型タクシーを入れても全タクシー(707台)の約3分の1。街中を走っているタクシーの3分の1がUDタクシーになると、ものすごいインパクトになる。

とはいえ最初は地域にもとまどいがありまして、UDタクシーに乗るのをためらう運転手さんもいらっしゃったんです。理由を聞くと、「車椅子用のタクシーだと思われると、普通のお客さんが"乗ってはいけないもの"だと敬遠してしまうのではないか」と。それでかえってお客さんが減ってしまうと言うんです。ところがUDタクシーが街に馴染んでくると、車内も広いし、車高が高いぶん目線も高くて乗り心地がいいということで、UDタクシーから予約が入るようになってきた。いずれは東京も大阪もそうなっていくんだと思いますが、まさに鳥取から社会が変わり始めている。これは小さいからこそできるという部分ですよね。

鳥取は「小さいからこそ強くなれる」

-- 知事が考える鳥取の良さはどんなところですか

平井:ひとつは雄大な自然があること。それから時の流れが人間のテンポに合っているのではと思います。心臓の鼓動と合うようなペースで生きられる。たぶん都会はもっと早いペースで歩かなきゃいけないし、仕事をしなければいけない。鳥取には自分らしさを大切にできるような時の流れ方があります。

それと地域の絆。今でもしっかりと隣近所やコミュニティの力というのがあります。全国にも誇れる部分として、社会教育施設、いわゆる公民館が多い。鳥取ではいまでも公民館長という方が地域をまとめて色んな行事をやったりしている。そういう地域の活動拠点がまだまだ機能している。そういう意味では、コミュニティの小ささゆえにまとまって力を発揮できるところが鳥取の強みだと思います。

-- 住民が地域を盛り上げていくという意識の源泉はどこにあると思いますか

平井:やっぱりどこかで、「もう後がないだろうな」と感じているんだと思います。限界集落という言葉がありますが、地域によっては若い人がどんどんいなくなって高齢化が進んでいく。そうすると住民も「あそこのおばあちゃんが何歳、あそこのおじいちゃんが何歳。あと10年経つとどうかな」と数え始める。何年後かには自分たちが住んでいる地域もなくなってしまうんじゃないかと。そういうことを現実のものとしてみんな感じている。その切実さはあると思います。

-- 知事のお話を聞いていると、規模が小さいことは全くハンデではないんだなと感じます

平井:かつて経済学者のシューマッハーが「Small is Beautiful」といって、本当の価値というのは大きな物でなくても、小さな物にも宿るんだと説きました。

これに加えて私は「Small is Powerful」だと思うんです。例えばシンガポールという国は非常に小さく、歴史もそう長い国ではありません。しかし、一人当たりの国民所得は日本を超えて世界でもトップレベルです。それは小さくても力を合わせて、国の発展を作ってきたからこそできた。鳥取県にも、そういうチャンスはあり得るんじゃないかなと思っています。

いま、大きな企業でも製品の不良が明らかになって問題になったり、難しい状況に追い込まれているところがあります。これは組織が大きくなりすぎ、コミュニケーションが取りにくくなって、「本来はこっちでしょ」というようなことが言い出せなくなっているからではないかと思います。私たちのような小さなところだと、スピード感をもって自己変革ができますし、ひとつの実験場として考えていただければ、最先端のことを小さなフィールドの中で試すこともできるわけですよね。そういう意味で、小さいからこそ強くなれるということを信じて、これからも挑戦していきたいと思っています。


平井知事は11月17日より行われる「にっぽんの将来をつくる 日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム」にも登壇する予定だ。知事は「鳥取:人口最小県からの挑戦」というテーマで、住民を巻き込んだ課題解決について他の登壇者と語り合う。チケットなどの詳細はこちらから。

プロフィール

平井伸治(ひらい・しんじ)
鳥取県知事。1961年生まれ。東京都出身。東京大学法学部卒業後、自治省(現在の総務省)に入省。平成11年に鳥取県に赴任後、平成13年には全国最年少で鳥取県副知事となる。その後、米国勤務を経て、平成19年に鳥取県知事選挙に出馬し当選。現在3期目。

鳥取県×日本財団共同プロジェクト「みんなでつくる“暮らし日本一”の鳥取県」

深刻な少子高齢化が進むなか、日本財団は高齢者や障害者の方の生活を民間レベルで支えていく「地方創生のモデル」づくりに取り組んでいます。

2015年11月、日本財団と鳥取県は、地域住民が元気に暮らし、誇りを持てる社会づくりのための共同プロジェクトを実施することで合意。5年にわたり30億円規模の共同プロジェクトを実施する予定です

公式WEBサイト:鳥取県×日本財団共同プロジェクト「みんなでつくる“暮らし日本一”の鳥取県」