【特別寄稿】今さらながら、希望の内部留保に一言 - 海老原嗣生 - BLOGOS編集部

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※この記事は2017年10月22日にBLOGOSで公開されたものです

野党各党が消費税の増税は不要、という中で、希望は「企業の内部留保課税」でその代替財源を作るという。加えて「ベーシックインカム」も掲げた。いやあ、本当にマスコミやネットで騒がれる人気の出そうな話をパッケージにした、迎合にもほどがある的な政策ではある。

問題はその中身の正当性だ。

この「内部留保課税」は共産党や森永卓郎さんなどがもう7~8年前から論じていたものであり、そのたびごとに、実現性には疑問符が付くと各所(たとえば、2011年には早々に城繁幸さんが森卓さんを論駁している)から疑問が呈されていた。

昨今でも下記の記事などがその無理筋を指摘している。
http://agora-web.jp/archives/2028778.html

要は、内部留保って現金ではなくて、資産として持っているものの簿価の総額なので、工場やそこにある機械なども減価償却前は、内部留保となってしまうのだ。とすると2つの問題がある。一つは、お金ではないから、課税されると、「機械や工場を売って」税金を支払わねばならないこと。

もう一つは、「企業は給与アップや投資に回さず内部留保している」というそもそもの話が根底から崩れること。給与アップはともかく、投資にはいくら回しても、減価償却前はすべて「内部留保」になってしまうという、基礎的な誤解を孕んでいる。

さて、こんな言われ続けた話とは別の、新たな視点も加えておきたい。

なぜ内部留保が高まるのか。その理由として、労働分配率が下がっていることを指摘する人が多い。この話に2つの誤解がある、という話だ。

一つは、労働分配率は、「不景気の時に高まり、好景気の時に下がる」性質がある。労働分配率とは人的経費を付加価値で割ったものとなる。人的経費は硬直的で好不況での上下動が少ない。一方、付加価値の方は弾力性に富み、好不況で大きく上下する。そのため、不景気には付加価値(分母)が小さくなり、分配率は上がる。好景気はその逆で下がる。

なので、この「労働分配率が下がっている」論は、リーマンショック前の好景気時期や昨今言われるのであって、ギリシャショック時や東日本大震災時は語られなかった。これが一つ目の話。

2つ目の問題は、労働分配率は、子会社や販売会社では高くなり、本社では低くなる性質があること。理由は、子会社や販売会社の純利益をロイヤリティなどの形で本社は吸収するため、会計上の付加価値が増す。簡単にいうと、人件費負担は子会社や販売会社がしっかりやってくれて、利益だけ本社に集約されるから、本社は労働分配率が下がる。そう考えればわかりやすいだろう。

現在、日本企業は多国籍化して、海外生産→海外販売比率を増やしている。そこで上げた利益が国内本社に集約される。そのため、大手企業の国内本社は利益のみかさ上げされて、労働分配率が低くなる傾向にある。この部分を問題視して、「企業が金をため込んでいる」と民衆の味方を気取るのであれば、その利益は「海外現地」に還元すべきだろう。

愛国的主張も醸し出す希望の党が、果たしてそこまで世界民衆のことを考えているのか。いや、単純に受け狙いで、聞こえの良い政策を寄せ集めただけと思うのだが。

海老原嗣生(えびはら つぐお)
雇用ジャーナリスト・株式会社ニッチモ代表取締役。株式会社リクルートキャリアフェロー(特別研究員)、株式会社リクルートワークス研究所特別編集委員。「Works 」(リクルートワークス研究所)編集長、「HRmics 」(リクルートエージェント)編集長を歴任。
・株式会社ニッチモ