政局から離れて、改めてどんな政治を期待するのを考えてみる - 赤木智弘
※この記事は2017年10月08日にBLOGOSで公開されたものです
さて、希望の党だ、立憲民主党だと政局真っ盛りの今の御時世、みなさまどうお過ごしだろうか?
あまりに政局ばかりが報じられ、長期的な視座を持ってどのような社会であるべきかという観点が欠けているので、僕はいささかうんざりしている。
Twitterに「今のマスゴミは希望の党ばかり取り上げている。政局ばかりで偏っている!」と主張している人がいたので、その人のTwitterを見たら、見事に希望の党の悪口ばかりをRTしていて、お前も政局ばかりじゃないか思うこともしばしば。
まぁ政局というのはわかりやすい。「あの党はこんなにひどい党だ!」「あいつはあんな嘘をついている!」「あいつは売国奴だ!」「国難から日本を守れ!」なんていう底の浅い言葉が乱れ飛んでいる。それでなんか社会を論じたり、日本を案じたりしていると自分で思い込めてしまう。
しかし、そのような短絡的な政局志向は結果として何が日本にとって一番大事であるかを、見失ってしまう。なので、僕はここで改めて自分にとっていちばん大切なことを見直したいと思う。
さて、僕にとって一番大事なことは「就職氷河期の悲劇を繰り返さない」ということだ。
右肩上がりが当たり前の時代、景気が下がり右肩上がりが前提とならなくなったときに、日本社会はフリーズしてしまい、そのときに学生から社会に出る年代だった団塊ジュニア世代に対する手当も無いままに、ただイタズラに時間を費やしてしまった。それが「失われた20年」とも言われる時間である。
本来、このときに何をするべきであったか。それは右肩上がりの経済成長を前提とした社会観を破棄し、好況であろうと不況であろうと、人の生活のベースが変わらない社会を作らなければならなかった。僕はそう考えている。
そもそも、好況と不況とは、好むと好まざるにかかわらずやってくる、単なる変化にすぎない。経済そのものは人工的なものではあるが、経済を我々は自在に操ることなどできない。バブルの崩壊もリーマンショックによる世界的大不況も誰が望んだわけでもなく、結果としてそうなったに過ぎない。不況の発生そのものは、決して誰の責任でもない。
だが、こうした問題が起きたときに、個人が路上に投げ出されたり、人生が大きく損なわれてしまうのであれば、それは政府の問題である。 政府の役割は不況が発生したときに傘の役割を果たすことである。国民の生活を保証することによって、人々の経済活動を止めず、いつでも先へ進めるように背中を支えることは、国だけが負うことのできる役割である。
しかし、バブル崩壊以降に日本の政治を司った全ての政党は、まったくそれをなし得なかった。というか、そもそもしようともしなかった。不況の雨が就職氷河期の人生を滅茶苦茶にするに任せて、首相たちは野菜のカブをもって「カブあが~れ!」などと、天に景気の回復を祈るだけだった。
結果、就職氷河期にたまたま新卒学生であった人たちの人生は、すでに大きく損なわれてしまった。日本では震災が起きれば国や企業やボランティアが力を出し合って助けてくれるが、こと不況に関しては、全く無責任であったという他はない。誰も就職ができなかった人の人生など案じず、未だに何の保障もない。それが現実である。
最近Twitterなどをみていると「日本は景気が良くなって、これからの人たちは就職氷河期がした苦労をしなくて済む」などと、経済成長を評価する人は多い。しかしそれは確実に間違った認識である。
景気が良くなって今の学生たちの就職状況が良くなったということは、イコール「景気が悪くなればまた就職状況が悪くなる社会」であるということにすぎない。結局、バブル崩壊に対して、その当時の新卒学生たちに何もできなかった、あのころの日本から何も変わっていないのだ。
その間に政権を担当した政治家たちは、結局何もしなかったし、なし得なかったのだ。逆に言えば、何もしなかったから、また右肩上がりの経済成長を祈るだけ、「経済成長すればいいんだから、何の社会保障も整備しなくていいじゃん。カブあが~れ!」と無責任に蕪を両手に掲げて祝詞を唱えるだけの国になったのである。
もし、経済成長をしなくなったら、一体どうするというのだろうか?
リフレ派は「消費税増税をすれば、また経済成長を押しとどめるから、消費税増税をするな」と主張する。しかし、次の選挙で自民党が勝てば、消費税増税は行われる。(*1)
消費税増税をすることが良いか悪いかという話ではなく、もしリフレ派の主張通りなら、今年就職活動をしている人たちは良いが、10%への消費税増税が予定されている2019年10月以降に大学を卒業する人たちの就職活動は、景気が悪い中で行われることが確定しているのであり、実にお先真っ暗ではないか。今年の学生の就職率さえ良ければ、これからの学生の就職率など、どうでもいいとでも言うのだろうか?
いまのままでは、彼らもまた就職氷河期と同じ苦労をするだけである。そして辛酸を舐めさせられる新卒学生は、不況の度に確実に増えていくのである。
僕が期待する政治とは景気が良かろうと悪かろうと、そうした波で人生が極度に歪められることのない、十分な社会保障という強度を持った社会を目指すことを目的とする政治である。だから目先の景気を「成果」と呼ぶような政治家や一時の景気を褒めそやす勢力には一切の期待をしない。そうではなく、景気の波に翻弄される人を減らす政策を口にする政治にこそ期待する。
これは自分の意見だが、みなさんは政治に何を期待するだろうか?
一度、マスコミやネットが垂れ流す政局報道から離れて、自分の考える一番重要だと考える点を洗い出してみてはいかがだろうか。
*1:【衆院選】自民公約で経済の重点項目は? 消費税増税分を教育財源に、労働力不足も補う(産経ニュース)http://www.sankei.com/politics/news/171002/plt1710020109-n1.html