ワイドショーに振り回される総選挙 - 渡邉裕二
※この記事は2017年10月05日にBLOGOSで公開されたものです
安倍晋三の仕掛けた衆議院の解散ですっかり選挙戦モードに突入した。
ところが新党「希望の党」で、民進党の事実上解党、さらに新たな政党「立憲民主党」の発足。その一方では、小池百合子都知事の動向…。目まぐるしく動く状況変化で、いつの間にか北朝鮮の脅威とかラスベガスでの乱射事件もサイドに追いやられてしまった感じさえある。
一部からは「北朝鮮は10月10日の朝鮮労働党創建記念日を前に新たな弾道ミサイルの発射準備に入った」なんて物騒な情報もある中で「大丈夫なの?」なんて声もあるのだが…。いずれにしても国民の6割以上が「反対」しようとも、一度決まった流れは止めることが出来ないと言うことだろう。
国会や官邸はバラエティー番組の収録スタジオになった
それにしても、今や日本の政治家というは芸能人を語るのと同じ目線レベルである。もちろん、どっちが高いとか低いという問題ではないが、だけど、こんなことで果たして日本の将来は大丈夫なのだろうかと不安になる。
端的に言って何が悪いのか?
やはり最大の問題はテレビだろう。と言うよりテレビの責任は重大だ。
これは「政治のワイドショー化」あるいは「テレビのよる政治の劇場化」と言ってもいい。極端な言い方かもしれないが、国会や官邸が、いつの間にかテレビのバラエティー番組の収録スタジオになってしまった感じさえする。
ま、確かに今や小粒タレントばかり、中身のない芸能ネタなんかを扱うよりも、不倫疑惑や暴言で話題を巻き起こす政治家を追いかけた方がリアリティーもあって面白いのかもしれない。しかも、森友問題では籠池夫妻のようなワイドショー好みの人物まで登場し、それこそ芸能人も顔負けなキャラを発揮するのである。もはや異常事態としか言いようがない。
しかも、菅義偉官房長官は会見で先ごろ引退を表明した安室奈美恵に関してのコメントをするし、「希望の党」から〝排除〟された枝野幸男衆院議員に至っては心境を聞かれると「欅坂46の『不協和音』を歌いたい気分」なんて平然と言う。オイオイ、いくらカラオケ好きだからと言って、ちょっと軽過ぎはしないか?しかも、この発言にワイドショーは、ここぞとばかりに歌詞をボードで出して説明する。枝野さんが欅坂のファンだったのかどうかは知らないが、これには笑ってしまった。
小池百合子都知事にしても新党「希望の党」の代表になって「都知事を続けるか」「国政に移るか」の論議になった。どっちにしても5日まで都議会中のため思惑はどうであれ「(都知事は)続投する」としか言えないが、それでもテレビはワイドショーを中心に「どっちだどっちだ」と煽りまくる。しかも自民党の小泉進次郎衆院議員も、さすが政治をワイドショー化させた〝立役者〟でもある小泉純一郎元総理のご子息だけあってリップサービスも親譲り。メディアを前に「小池さん、出て来ましょうよ」なんてアピールする。ま、彼は人気も高いし、有権者に対しても発信力もあるから当然だが面白おかしく扱われる。
その小池都知事。一部からは〝SMAPの育ての親〟といわれる元同マネジャーのI女史と並んで「いま日本に旋風を巻き起こしている女性」とも言われ、ますます注目度をアップさせているのだが、実にアホらしかったのは日曜日昼のTBS「アッコにおまかせ!」である。
「もし小池さんが都知事を辞めたら次は誰がいいか?」などと言う街頭アンケートを紹介していたのだ。で、その結果である。
5位から有吉弘行、4位=ビートたけし、3位=小泉進次郎、2位=マツコ・デラックスと来て、1位は橋下徹。
確かに、一部の下馬評でも橋下氏の他に松沢成文氏、細田護煕氏、それに東国原英夫あたりが上がっていたが、それにしても、何で「都知事」が、ここまで芸能チックに軽く扱われるのか?有権者も本気でそう思っているのか、茶化して適当に答えているのかサッパリわからない。が、ただ、そんなことよりもこれが街頭アンケートの上位5人かと思ったら、いくら番組が番組だからと言っても笑えない。もはやブラックジョークとしか言いようがない。
だけど、そういったいい加減さも実はテレビに大きな問題がある。
舛添氏や猪瀬氏の「ご意見番」扱いは無責任
そもそも前都知事の舛添要一氏や猪瀬直樹氏にしても、あれだけ連日にわたって疑惑を追求し、最後には「辞めろ!辞めろ!コール」しておきながら、1年経ったら、もはや「過去のネタ」。今では「ご意見番」扱いである。とりあえず当時のことを茶化しておくのはご愛嬌として「小池都知事はどうですか?」「どうしたらいいですか?」。これじゃ単なるマッチポンプ。「所詮はワイドショー」とは言っても、あまりにも無責任過ぎはしないか。
こんなことだから、政治家もいい加減になる。
「説明責任果たす」「真摯に国民と向かい合う」なんて言いながら、実は口だけ。〝お友達〟が擁護するのも分かるが、本当の〝お友達〟だったら…。何かオイシイことがあるのだろうかと思ってしまう。そんなわけで、何食わぬ顔で解散するし、都合の悪いことからは逃げまくる。
とにかく、ここでも政界も芸能界と似たり寄ったり。政治記者だからと偉そうなことを言っていられない。所詮は芸能記者と一緒なのである。どっちにしても結論は人の噂も何とやらで、時間が過ぎたら「忘れてしまう」と言う論法だ。
しかも、ここまで政治がワイドショー化してしまうと、政治家もタレントと一緒で扱われないと不安になる。安倍晋三総理が解散を表明したのは9月25日だったが、その後のメディアの話題は小池都知事や枝野衆院議員の新党立ち上げばかり。さすがに安倍総理にしてみたら自ら仕掛けたはずだった「解散総選挙」が計算違い「まさか」の事態だろう。
日本ばかりではない。米大統領だって同じで政治家にとってテレビの影響力は大きいことは言うまでもない。しかし、悲しいかな日本の現実は与野党ともワイドショーに振り回されている政治家揃いである。もっとも、テレビの〝地上波〟も、こんなことばかりやっていたら視聴者から見限られるだろうが…、それにしてもやはり日本の将来は危ういと思うばかりである。