松本人志がキングオブコントで最高得点をつけた新星「にゃんこスター」は一夜の奇跡か - 松田健次

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※この記事は2017年10月03日にBLOGOSで公開されたものです

涙を流して笑ってしまった。10月1日放送「キングオブコント2017」(TBS)に降り注いだ新星、にゃんこスターだ。アンゴラ村長のあのバカバカしい動きと顔が頭から離れない。コントの台詞を借りれば「ありがとう!この動き最高だよ!」だった。

「めちゃイケ」のオファー企画に通じるにゃんこスターのお笑い

にゃんこスターは男女コンビで、ツッコミがスーパー3助(34)、ボケが女性のアンゴラ村長(23)。今回披露したネタは2本。「リズムなわとびの発表会」と「リズムフラフープの発表会」で、どちらも大塚愛の楽曲に乗せて、アンゴラ村長が華麗なパフォーマンスを披露。盛りあがるサビでパフォーマンスを放棄し、動きでボケる。それをスーパー3助が解説しながらツッコみ、最後はなぜかコンビ名を名乗って終わる…2本とも同じフォーマットのコントだった。これがひたすらバカバカしかった。

このナンセンスを「新しい」と表することに異論はない。なにしろ新しい人が衝撃的にバカバカしかったのだから。だが、番組内VTRでアンゴラ村長が「(笑いの)原点に近い」と発言していたように、彼らの笑いは新しいようで古い。あえて呼称するなら「ネオベタ」か。

その系譜を辿るなら、たとえば「めちゃイケ」で岡村隆史がダンスの素養を活かし、モー娘、AKB、EXILEらと共演するオファー企画に通じる。岡村がアーティストのダンスパフォーマンスを習得し、ライブで披露したあと、その動きを崩してボケる。その一連の流れをモニタリングする矢部の解説とツッコミ。にゃんこスターのフォーマットそのものだ。

さらに時をさかのぼれば、言葉を発することなく黙々と動き続けるアンゴラ村長と、その横で解説とツッコミを加えるスーパー3助という、サイレントパフォーマンスと実況の組み合わせは、俯瞰すると無声映画と活弁士の関係にも辿り着く。にゃんこスターを見て、1920年代のバスター・キートン作品を連想することは決して突飛ではなく、ワクワクするような話だ。

この、にゃんこスターの笑いを支えたのは、アンゴラ村長の体技だった。彼女のなわとびの技術は見事で、番組内で本人もコメントしていたが「9年間習って」「研究生で(人に)教えられる」ほどのレベルだという。

芸は身を助くとは然り、このなわとびの技術があってこそ、ボケたときの動きに落差を生みだす。ゆえに村長本人も「苦手なんですよ」と言っていたフラフープのバージョンは、なわとびに比べて笑いの威力がやや劣った。これは仕方ない。言うなれば、フラフープの技術が上がればコントの威力も増す余地がまだあるという話だ。

キングオブコント決勝でどよめいた「オチ」の違和感

彼らがコンビを結成して、わずか5ヶ月でキングオブコント決勝進出という浅い経歴も驚きを呼んだ。キングオブコント決勝という頂点のダンジョンで、無垢なビギナーズラックなど起きない。二人ともコンビ結成までに別々の芸歴があり、スーパー3助は15年目、アンゴラ村長は3年目である。だが、それを踏まえても結成5ヶ月のコンビが刻んだ爪痕は、猫の爪にしては強烈だった。

二人はどういうプロセスを経てこのネタを作ったのだろうか。アンゴラ村長が身につけていた特技に活路を見い出し、大塚愛の楽曲(「さくらんぼ」「SMILY」)を選び出し、スーパー3助が弾幕の如くフリオチのフレーズを的確に添え、NHKEテレ教育番組風な少年キャラでナンセンスを誇張し、子どもウケも大いに照準…、あれこれ考え練って、至ったネタだと推察される。

このネタに、もしビギナーズラックがあったとしたら、「名前だけでも覚えてください」という若手漫才の定番挨拶をコントに移植した自己紹介のオチだろう。これが新宿バティオスでの若手芸人ライブなら、おそらく違和感のない自己アピールのアイデアだが、舞台のレベルが上がれば上がるだけ「なぜオチでそれを!?」という違和感が増大していく。エントリー2477組の頂点を決めるキングオブコント決勝のスタジオがこのオチでどよめいたのは、この違和感に他ならない。

見終えて、ひたすら楽しい気分にさせてくれたにゃんこスターに拍手を送りつつ、ネット上にネタ動画もあれこれ上がるのを承知で、彼らのアクティブなネタをあえて文字に残してみる…。

<2017年10月1日放送「キングオブコント2017」(TBS)より にゃんこスター「リズムなわとびの発表会」>

3助「わーい、おいらはなわとび大好き少年だよ~! なわとびって最高だよね~。あれ、こんなところでリズムなわとびの発表会をやってるよ。ぼーくが見なきゃ誰が見るっていうんだい!ちょっと見てみようっと~」

M~『さくらんぼ/大塚愛』IN~BG

村長(なわとびを持って登場)

3助「かわいらしい子が出てきましたねぇ。なるほど、リズムにあわせてなわとびを飛ぶのがリズムなわとびなんだね」

村長(テンポに合わせてランニングなわとび)

3助「上手だね、いいね」

村長(なわとびしながらラインダンスのように足を跳ね上げる)

3助「いい足してるよお姉ちゃん! いい足して~」

村長(縄のクロスが複雑にスピードアップ)

3助「速くなった! もっとスピード上がるの? すごいすごいすごい。サビが来るよ、これサビどうなっちゃうの?」

M~『さくらんぼ』 (サビ/♪笑顔咲ク~君と つ~ながってたい~)

村長(縄を捨て、唇を尖らせたすまし顔、親指を立てて両腕を回しながら、左右にバカステップ)

3助「飛ばな~い! サビでなわとび、飛ばないの~!」

村長(なわとびを拾い上げる)

3助「持って持って持って」

村長(なわ捨てて、バカステップ)

3助「飛ばなーい! サビでなわとび、飛ばないんですか!」

村長(なわを拾い上げる)

3助「そうして持って、飛んで飛んで、お願い」

村長(なわを足にかけてポーズ)

3助「飛ぶ気まったくない、なんで飛ばないのよ」

村長(なわを手に持ってポーズ)

3助「それは何よ、それは何よ、ねえ、(音楽が)1番終わっちゃうよ、終わっちゃったよー」

村長(ランニングなわとび)

3助「なんで飛ばないのよ、サビでそれやったらいいじゃない。なんでサビでそれやらないの」

村長(一瞬なわとびをやめ、親指立て&バカステップを匂わせるポーズ)

3助「あれ?(親指立てて両腕を回す)この動き求めてる俺がいる。この動きが頭から離れない。サビが来る! まさか!」

村長(なわを捨て、親指立てて両腕を回しながらバカステップ)

3助「待ってました~! この動き待ってました~!」

 

村長(動きが別バージョンに)

3助「それなに? それもいいよ!」

村長(なわを拾う)

3助「持っちゃうの? 持っちゃうの? 持たないで!」

村長(なわ捨てて、親指立てて両腕回し)

3助「ありがとう! この動き最高だよ! この動き!」

村長(なわを持つ)

3助「持たないで持たないで」

村長(なわ捨ててポーズをとり、ハケる)

3助「(土下座して)ありがとうございます! ありがとうございます!」

村長 (小道具持ってIN。青い十字架になわとびが刺さっている)

3助「あ! 伝説のなわとびだ! 選ばれるわけないよ。選ばれないと抜けないけど、選ばれるわけない」

村長(十字架からなわの持ち手を・・・・引っこ抜く。でもすぐ捨てる)

3助「抜けた! 捨てた! 飛ばない!」

村長・3助(親指立ててバカステップ)

3助「これがいい、こっちのほうがいいよね。こっちのほうがいいよ。伝説のなわとびなんか捨てちゃえよ。こっちで行こうこっちで。最高だよこの動き」

村長(真顔で不気味にステップしながら迫ってくる)

3助「それなに? それ知らない、来ないでこっちに、これなにこれなに、知らない違う違う、顔が笑ってない、これなにやだやだ(親指の)これを見せて!」 

村長(親指回しステップ見せて、ハケる)

3助「これこれこれ、これが一番いいよね」

村長(にゃんこスターのイラストボードを持ってIN)

3助「僕たちのコンビ名は!」

2人「にゃんこスターでした~」

村長「ありがとう~(手を振る)」

審査員席の松本人志はにゃんこスターを評して「笑いってどっかで憎たらしさみたいなものも必要かなと思ってて、いい感じで憎たらしかったもんね」とコメントした。そんな松本の審査点だけ抽出してみると――

1位 にゃんこスター  (リズムなわとび)     97点
2位 かまいたち    (試着ウェットスーツ)   96点
3位 さらば青春の光  (頼んでない料理の居酒屋) 95点
4位 にゃんこスター  (リズムフラフープ)    94点
5位 かまいたち    (告白される練習を目撃)  93点
5位 ジャングルポケット(情報を話せ)       93点

第10代王者に輝いたかまいたち「告白される練習を目撃」「試着したウェットスーツが脱げなくなる」、さらば青春の光「頼んでないメニューが運ばれてきて、つい注文したくなる居酒屋」も、最近よく使われる「コント師」という言葉にふさわしい、絶妙な設定と密な台詞の応酬で大笑いだった。

そんな彼らを抑え、にゃんこスターが(松本人志個人の採点で)トップだった。お笑い界に閃光を放ったこの新星は一夜の奇跡なのか。それともさらなる輝きを放つのか。

リズムネタの可能性を視野に「リズムなわとびの発表会」は、PPAP的英語版動画をハリウッドセレブに届けてほしいし、大塚愛が中国語で「プラネタリウム」を歌っていたりもするので、ぜひ中華圏へも猫の手を伸ばしてほしい。