※この記事は2017年10月01日にBLOGOSで公開されたものです

28日にフジテレビで放送された「とんねるずのみなさんのおかげでしたSP」内で、石橋貴明が扮するキャラ「保毛田保毛男」が登場。このキャラクターが同性愛者を侮蔑したとして、批判が上がり、フジテレビの宮内社長が「不快に思われる方がいるとしたら、テレビ局としては大変遺憾なことで謝罪しなくてはいけない」と述べたという。(*1)

保毛田保毛男とは、とんねるずの石橋貴明が演じるキャラで、なでつけたような七三分けに濃い青髭。扇子を持って女性のような(というか、公家のようなというか)話し方で喋る強烈なキャラクターである。 背景としては、喋り方は女性だけの家庭で育ったために、女性的な喋り方ということだったはずだ。また同性愛者だというのは「あくまでも噂」として否定している(というところまでがネタ)。

僕も昔は保毛田保毛男でゲラゲラ笑っていたが、今ではなかなか笑いづらいキャラである。 確かに、こうしたキャラが同性愛のステレオタイプ化を推し進めてしまうことにはやはり留意する必要はあり、こういうキャラを使うことに対して慎重になって欲しいとは思う。 しかしその一方で、じゃあ性的少数者でなければいいのか、一般人のちょっとした仕草を笑いにするようなことはダメなのかということも気にはなる。

とんねるずの石橋といえば、声優の水樹奈々のファンの顔マネをし、それがあまりにもひどかったのだが、実際に石橋が参考にしたであろうファンがインタビューを受けている写真を見たら「確かに似ている」と評価がひっくり返ったようなこともある。

こうした人いじりやキャラいじりは、とんねるずの芸風であり、性的少数者であるという1点を持って、こうした差別的だったり不健全とも言える笑いを全面的に否定できるかといえば、決して単純には否定できないのではないかと思う。

それこそ、保毛田保毛男と、同じく石橋が演じていた、ハゲヅラで変なダミ声の石田プロデューサーのモノマネや、パンストを被ったやたらと目の細い、木梨憲武が演じる五木ひろしのモノマネの一体何が違うのだろうかと問われれば、僕は返答に詰まるだろう。

それはともあれ、ただ、かつては当たり前のように受け入れられていた保毛田保毛男というキャラも、社会が成熟するに連れ、性的少数者の人権という当たり前の意識が浸透し、受け入れられなくなった。というのであれば、それはそれでいいことだとは思う。 しかし、今回の批判は本当にそういうことだろうか? 今回の批判は、日本社会が性的少数者を受け入れ、それを笑いにするような態度を受け入れられなくなったからこそ起きたものだろうか?

僕は全くそうだとは思わない。今回の件は単に「(ネットで嫌われている)フジテレビだから」「時代遅れのとんねるずだから」ということで、叩きやすい対象として叩かれているに過ぎないと僕は考えている。

というのも、ネット界隈では今でも同性愛者、特に男性の同性愛者は格好の「ネタ」であるからだ。 それこそ「ニコニコ動画」では「ホモと見るシリーズ」など、同性愛と全く関係ない話題に同性愛者向けAVの出演者や、その発言などを切り貼りした動画が再生数を稼げるとして定番になっている。

動画の名前に「ホモと見る」などと書いてあればまだましな方で、何気なく見た動画が、そうした動画でがっかりすることも少なくない。僕はゲームが好きなので、たまにTAS(アシストツールを用いてゲームクリアまでの時間を競うタイムアタック)やRTA(アシストツールを用いずゲームクリアまでの時間を競うタイムアタック)動画などを見るが、こうした動画にも同性愛者向けAVのネタが多用されてしまっていて、たまに見るとゲンナリする。

こうした動画では、同性愛者向けAVに出演した人達が、勝手にキャラ化されている。そこには性的少数者に対する配慮もなければ、他者に対する敬意もない。単に動画の再生数を増やしたいという欲望で他者を利用する功名心があるだけだ。少し前に、西田敏行氏に対する虚偽の記事をブログに掲載してアクセス稼ぎをしていた人達が書類送検された(*2)が、彼らのやっていることはこれと大きな違いはない。 片方のブラウザでフジテレビを「同性愛者軽視」と叩くコメントをしながら、もう片方のブラウザで、ニコニコ動画の同性愛者で笑いを取る動画を見てゲラゲラ笑っている人が居ても、何の不思議もないのである。

後もう一つ、同性愛者を笑い者にしないということと、同性愛者の人権を守るということは、同じようでいてちょっとだけ違う。誰かのモノマネで笑いを取る芸人がいても、その芸人がモノマネをしている相手を見下していたり、貶めているということではないのと同じことだ。 また、笑いものにしないということが、決して同性愛者の人権を守るというわけでもない。同性愛を扱うと抗議されるからとアンタッチャブルな存在になってしまえば、それもまた同性愛者を別枠で慎重に扱うしか無く、異性愛者との溝を産むだけの結果となってしまうだろう。

僕はとんねるずの2人が、同性愛者と話して、しかもそれをバラエティにしてみる試みはどうかと思っている。もちろん、これまでのテレビで同性愛者を扱うときのお約束のような「オネェキャラいじり」しかできないのでは、全く面白くない。そうではない、別の文脈で同性愛者も異性愛者もひっくるめた笑いはできないものかと、そう思う。

*1:フジ社長「保毛尾田保毛男」謝罪「同性愛者を侮蔑」批判の声受け(スポーツ報知)https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170929-00000315-sph-ent
*2:西田敏行「中傷」ブロガー書類送検 「薬物疑惑」デマ記事とは...(J-CASTニュース)https://www.j-cast.com/2017/07/07302738.html?p=all