※この記事は2017年09月22日にBLOGOSで公開されたものです

「わたくし安室奈美恵は、2018年９月16日をもって引退することを決意致しました」。

歌手・安室奈美恵の〝電撃引退〟宣言が芸能界を超えた話題になっている。

「寂しい！」「ショック！」「やめないでほしい！」、そして「何で？」…。

昨年は、ベッキーの不倫とSMAPの解散騒動。そのSMAP騒動もようやく一段落したと思ったら、今度は安室である。今年から来年にかけては安室の引退が話題を独占してくことは間違ない。

もっとも、今回の安室の決断は薄々、感じるものがあった。

もしかしたら引退するんじゃないかという噂


先週16、17日。安室は「デビュー25周年公演」と称して故郷の沖縄で初のコンサートを行った。宜野湾市にある宜野湾海浜公園に野外ステージを特設し2日間で5万2000人を動員した。沖縄での野外公演は1996年にも開催しているが、単独では今回が初めて。

しかし、実際にはデビュー20周年の時も同会場でコンサートを予定していたが、台風直撃で中止となった苦い思い出がある。そういった意味で今回は〝リベンジ〟とも言うべき公演となったわけだが、改めて思うのは、安室は20周年では叶わなかった沖縄公演を25周年のスタートにしたいと考えたのだろう。言うなれば「原点回帰」と言ったところか。

事実、安室は今回の沖縄公演で「25周年という記念すべきアニバーサリーイヤーを、生まれ育った沖縄からスタートできればと思っていた」と思いを語っていた。

一方で今回の沖縄公演が発表された時に「もしかしたら引退するんじゃないか」と言った噂が出たことがあった。もちろん「未確認情報」である。明確に動いてその情報の真偽を確認したわけでもなかった。が、実際、公演は何事もなく終わった。それだけに今回、40歳の誕生日（９月20日）に合わせて「引退」を発表するとは正直言って考えてもいなかった。

ただ、誕生日に合わせて発表したということは、安室は「40歳」と言う年齢を〝節目〟〝区切り〟に、きっと大きな目標として掲げていたのだろう。

それにしても…。

92年に14歳でデビューした安室は、97年、TRFのダンサーだったSAMと電撃結婚。翌98年には長男が生まれた。若干20歳。人気絶頂での結婚・妊娠・出産は大きな話題になったものだ。

この時も、安室の決断に「早すぎる」「ショック」という声から、「歌だけじゃなく、アムロの生き方に憧れていた」「結婚したからどうだっていうことはない。それ以上に、よくあの若さで結婚を決意したなって思う」「アムロちゃんらしい」という評価する声まで出て、ファンの間では〝大論争〟が繰り広げられた。

しかも、この入籍も関係者の間では寝耳に水のものだったという。ある大手広告代理店の関係者は「一体、どういうことなのか詳しい事情を説明してもらいたい」と、所属事務所に対して不信を抱く発言があったそうだ。それから20年。今度は〝引退〟で一騒動…。突拍子もないと言ってしまえばそれまでだが、これも芸能界的に言ったら「大物ぶりを発揮」と言ったことになるのかもしれない。

今回、安室は自らのブログの中で「先日9月16日に無事、デビュー25周年を迎えることができました。皆さんの応援、支えがあって25周年目をスタートできた事に心から感謝しております。ありがとうございます。今日は、私が長年心に思い、この25周年という節目の年に決意した事を書きたいと思います」とした上で、25周年が終わる来年（2018年）９月16日で「引退」することを記した。

ここで安室は25周年を〝節目〟とはしているが、〝節目〟と言ったら25周年なんかより30周年の方が区切りとしてはいい。そう考えると、彼女の気持ちの中では「25周年」と言うのは、あくまでも結果だったのかもしれない。

デビュー以来、発売してきたシングルは47枚、アルバム17枚、DVD20枚。そのうちミリオンヒットは、シングル、アルバムとも5作づつある。シングルは、今年5月に発売した「Just　You　and　I」でオリコン23年連続トップテン入りを達成。シングルの売上枚数は邦楽女性アーティスト歴代１位と言う記録を堅持している。因みに、シングル、アルバムの総売上枚数は3700万枚にも達していると言う。まさに輝かしい歴史である。

それにしても、安室の人気の高さは何だったのか？

ファンを惹きつけたストイックなステージ

ハッキリ言えることは「同性からの支持」だろう。かつては安室のファッションで「アムラー」と言うスタイルが社会現象になったことがあった。独自のスタイルを貫き通してきた安室のファンには根強いファンが多い。ある意味で松田聖子や中森明菜に違いものがある。〝憧れ〟もあるだろうが、とにかく「安室ちゃんじゃないとダメ」と言う女性ファンが多い。

基本的に彼女のステージでは、曲間にトークがない。ステージからはファンに対して「みんな元気？」「じゃあ、またねー」程度の声かけしかしない。とにかく休まず2時間半以上にわたってノンストップで歌い踊り続ける。突っ走る。あるコンサート関係者の中には「トークなどファンとのコミュニケーションのないステージングは飽きられる」と指摘する人もいたが、逆に言ったら「面倒なことはしない」「無駄がない」とも言える。

とにかく、安室はアイドル発でありながら、そのステージはストイックなまでのアーティスト路線で独自のコンサートスタイルを確立してきた。安室もファンも息を抜く暇がない。そこに一体感のようなものが生まれてくる。これもファンからすると「安室ちゃんだからできるステージ」となる。要するに安室のステージは、まさにライブ・エンターテインメントで、文字通り〝オンリーワン〟の存在となっていた。

安室は、そう言ったコンサートを単独で693公演行ってきた。動員数は415万人を数えるという。しかも、2年前にデビュー当時から所属してきた事務所から独立すると、なぜかさらに精力的になった。

特に、昨夏の8月から今年にかけ、約8ヶ月間に亘って全国34都市で88本の全国ホール・ツアーも繰り広げてきた。それも途中、昨秋10月21日に鳥取大地震で鳥取公演を中止したものの、最終的には追加公演も含め100公演を敢行し26万人を動員した。女性アーティストとしては異例の公演数であることは言うまでもない。

安室は、CM出演やテレビドラマの主題歌、さらに昨年は「リオ五輪」でNHKのテーマ曲にも抜擢されてきたが、テレビの〝地上波〟には出演しなかった。聞くところによると7年も遠ざかっているそうで、それは現在も継続中だ。つまり活動の基盤は「アルバム制作とコンサート」に据えてきたことになる。

で、改めて思うのは、安室というのは〝歌手〟というより〝アスリート〟だったということだ。

もちろんスキャンダラスな報道もされたが、それはそれとして常に自分に厳しい生活をしなければ、彼女のような活動を続けることは不可能に近かったはずである。

例えば、体操界で女子は「17歳限界説」というのがあるらしい。

女性ホルモンの分泌が盛んになって、男子に比べて10％以上も貯蓄脂肪がつくという。脂肪が貯まって体重が1kg増えると膝や股関節に3kg以上の負担がかかるらしい。確かに、競技によって差はあるだろう。ただ、現役を引退したフィイギュア・スポーツの浅田真央選手にしても、まだ25歳である。

もちろん、ダンサーなどパフォーマーなどは30代でも十分に活躍できるだろうが、それでも20代と30代では大差があるはずだ。ただ、安室のように2時間以上も歌って踊り続けるパワーというのは並大抵ではない。

よく安室のパフォーマンスについて、ビヨンセやクリスティーナ・アギレラと比較される。「歌って踊れる」ということだだろうが、ただ彼女たちは36歳である。安室より4歳若い。この差は大きい。

とにかく、常に現状を継続、維持していくためには生活面でのチェックは重要だろうし、何より怪我や病気が出来ない。自己管理は簡単なものじゃない。しかも、安室の場合は、今でこそ手がかからなくなっただろうけど、子育てをしながらの活動は言い表わせられないものがあったはずだ。

そう考えると、今回の「引退」の最大の要因は「体力の限界」とも言えなくもない。

ある意味で「歌手」というより「アスリートの引退」に近いものを感じる。

「引退までのこの1年。アルバムやコンサート、最後にできる限りの事を精一杯し、有意義な1年にしていきたいと思ってます」

11月８日には25年の〝実績〟を詰め込んだベスト・アルバムの発売も予定している。

コンサートなどの詳細は明らかになっていないが、台湾を含め、日本の主要都市でのファイナル・ライブで〝有終の美〟を飾る。 「引退を惜しむ声がある」「残念、もっと長くやって欲しかった」という声がメディアから溢れている。しかし、私には、今は「お疲れ様でした」という言葉しか出てこない。