森の中で学ぶ 中学生キノコ博士が新たな教育の場で見つけたもの - BLOGOS編集部PR企画
※この記事は2017年09月12日にBLOGOSで公開されたものです
キノコに並々ならぬ関心を持ち、採取・研究を続けている少年がいる。
横浜に住む山下光くんは学校になじめず、小学5年生で不登校になった。以降、学校には通わず、元々興味を持っていたキノコの生態の研究を行ってきた。中学2年生となった現在はその豊富な知識から「キノコ博士」と呼ばれることもあるという。
年間100個の標本を作る 中学生キノコ博士
光くんはほとんど毎日、近所の公園や森に入り、キノコの採取をしている。8月の長雨が終わり、久しぶりの快晴となったある日、光くんのキノコ探しに同行させてもらった。
キノコ採取のための持ち物は、一眼レフを入れたリュックサックに三脚、採取したキノコを持ち帰るためのクーラーボックスとなかなかの大荷物。光くんはこのすべてを一人で運ぶ。
公園までの道すがら、今年のキノコ採取について話を聞いた。「今年の夏も色々なキノコが採れた」「雨のあとはたくさんのキノコが発生するんです」普段は「あまりしゃべる方ではない」と母・仁美さんは言うが、キノコについて語るときの光くんは饒舌だ。
公園に入ると、光くんは次々にキノコを見つけていく。それに加えて、「あれはテングタケの一種」「これはヤマドリタケモドキ」と、一目見ただけでキノコの名前まですらすらと言い当ててしまう。素人目にはほとんど同じ形に見える物でも、少しずつ違いがあるようだ。
あるキノコを見つけ、光くんが立ち止まった。キノコの前まで行くと、三脚をセットし、黙々と撮影の準備を始める。このキノコは「ベニタケ属」の一種。光くんが特に力を入れて探しているキノコだ。ベニタケを研究する理由は生物学上の種類を特定する「同定」が難しく、調べがいがあるからだという。
たくさんの蚊にまとわりつかれながら、リュックサックからカメラを取り出し、お手製のレフ板をセッティングする。キノコ撮影を行う真剣な眼差しは大人顔負けだ。光くんはカメラの使い方も独学で学び、キノコの写真を撮ってはTwitterで発表している。
写真を撮り終えると、次はキノコの採取に移る。持ち帰ったキノコは自作の写真ブースで追加の撮影をしたり光学顕微鏡で調べるなど、より詳細に調べていく。綺麗に撮れた写真はキノコの研究会で披露したこともあるそうだ。
最終的に、採取したキノコは乾燥させて標本にしている。光くんは今年すでに60個ほどの標本を作った。1年で約100個の乾燥標本を作るという。
新しい学びの場「ROCKET」に参加
キノコの研究以外にも、プログラミングや作曲、CG制作など、光くんは様々な活動を行っている。プログラミングの成果はキノコの情報を検索出来る「キノコ検索」に、作曲した作品はインターネット上で公開するなど、そのどれもが通常の学校教育ではフォローできないものばかりだ。
現在、光くんは突出した能力を持つものの、既存の学校教育に馴染めずにいる子ども達に新しい学びの場を提供するプログラム「異才発掘プロジェクト ROCKET」の第2期生として学んでいる。
ROCKETの特徴は「ユニークな子どもを潰さない」「変わっていることを治さない」「教えるのではなく挑発する」など、突き抜けた子ども達をさらに伸ばすための教育方針にある。
光くんがROCKETに参加したのは2年前。きっかけは2014年の春に新聞で見かけた募集だった。母・仁美さんは当時のことを振り返ってこう語る。
「募集を見て『これだ』と思った。当時の担任の先生が『光くんにはこれが合っているんじゃないか』と新聞の切り抜きを送って後押ししてくださったこともあり、応募することにしました」
親の立場から見て、学校から離れることに不安はなかったのだろうか。
「もちろん不安はありました。最初から割り切れていたわけではありません。でも今ははっきりと、やりたいことを我慢してまで学校に通う必要はないと思っています」
ROCKETでは学校のような座学ではなく、子ども達にミッションを与えるプロジェクトベースの学習を行っている。光くんにROCKETで印象に残ったことを聞くと、あるプロジェクトでの思い出を教えてくれた。
「集合まで何も知らされず、通信機器も持たずに東京から本州最南端にある潮岬に鈍行列車だけで行けというミッションが面白かった。結局3日かかってしまったけど、ROCKETに参加することで一人で行動する幅が広がったと思う。」
光くんはそういうと、プロジェクトの目的地である潮岬で採取した「シロクモノコタケ」というキノコの標本を見せてくれた。
将来のことについて聞くと、光くんは「今はキノコを調べることや、作曲をしていることが楽しい。将来のことはまだわからない」という。やりたいことをとことん突き詰められる環境で、異才たちはどのように進化していくのか。光くんをはじめ、ROCKET参加者の将来が今から楽しみだ。