「安倍総理は憲法改正を事実上断念したと思う」政治評論家・森田実さんが指摘 - 亀松太郎
※この記事は2017年08月07日にBLOGOSで公開されたものです
森友学園や加計学園の問題を受けて支持率が急落し、窮地に立たされている安倍晋三首相は、劣勢回復を狙って内閣改造を実行した。その翌日の8月3日、東京・有楽町の外国特派員協会で、政治評論家の森田実さんが「安倍新内閣の行方」をテーマに講演した。7月中旬に安倍首相と会食したという森田さんは、そのときの様子を紹介しながら、「安倍総理は憲法改正を事実上断念したと思う」と語った。
◇「安倍総理は加計問題で非常に傷ついている」
東京都議会選挙の直前の6月末、森田さんのもとに、安倍首相の秘書官から電話が入った。「安倍総理が森田さんに会いたいと言っている。どうぞ自由に意見を言ってください」と依頼されたのだという。スケジュールを調整し、G20(7月7、8日にドイツで開催)の後に会うことになった。
森田さんは7月13日の昼、安倍首相と二階俊博幹事長との3人で食事をした。
「3人が席に着くと同時に、安倍総理は加計学園問題について『自分は関与したことがない』とかなり詳しい事情を説明した。私は『安倍総理にとって、加計問題は心理的圧迫をかけているのだな』と思いながら聞いていた」。
安倍首相が加計問題で非常に傷ついていると感じた森田さんは、安倍首相に対して「加計孝太郎が安倍総理の親友ならば、困っているときに助けるのが友の役割ではないか」と言いながら、加計学園が獣医学部新設に関して自ら撤退するようにしたらどうかと提案したのだという。
「この私の発言に対して、安倍総理は沈黙していて、何も言わなかった。二階幹事長も黙っていた」。
森田さんは加計学園の問題が安倍内閣に重くのしかかっていて、今回の内閣改造だけでは、失った信用を回復できないとみている。過去の政権のケースを念頭に置きながら、安倍首相が取りうる策を示した。
安倍首相との会食のときに、森田さんが例に挙げたのは、いずれも7年を超える長期政権だった吉田茂内閣と佐藤栄作内閣だ。
「日本では、どの政権も3、4年たつと、国民から飽きられる。吉田茂内閣や佐藤栄作内閣も4年前後で国民の強い反発を受けた。吉田茂はその危機を衆議院の解散で切り抜けようとした。絶えず衆議院の解散を模索し、ときに断行した」。
吉田茂首相の手法を示しながら、森田さんは安倍首相に「早期の衆議院解散・総選挙で国民の信を問うべきだ」と提言したという。
「安倍首相はそれに対して沈黙していた」とのことだが、森田さんは「早期の解散総選挙はありうる」とみている。
◇「憲法改正はもう不可能。国民が賛成しない」
一方、佐藤栄作首相は人事政策を駆使して、苦難を突破しようとした。「佐藤栄作はトカゲの尻尾切りばかりやっていると言われるほど、閣僚の首切りをした。甘い人事は行わなかった」(森田さん)。
森田さんは安倍首相に対して、佐藤栄作のように「人事の面でもっと厳しく対応しなければいけない」と指摘した。森田さんによれば、安倍首相自身も「お友達内閣」という批判を気にしているという。
今回の内閣改造では、岸田文雄前会長がその希望に従う形で、自民党の政調会長に就任し、次期総裁への駒を進めた。さらに、岸田派から4人が入閣し、「宏池会が高く評価された」と岸田氏を満足させた。
「安倍総理とは一番遠い関係にあった宏池会と手を結び、安倍・岸田同盟に似た関係を作ったのは、『お友達内閣』というイメージからの脱却をはかったのだと思う」(森田さん)。
さらに、森田さんは安倍首相との会食に招かれた意味について、次のように語った。
「私は安倍内閣を日常的に厳しく批判している者の一人だが、安倍総理はこの期間、同じような立場にある他の人とも会合を重ねたようだ。安倍総理自身が、自分を厳しく批判している人と会うことで、イメージチェンジをはかろうとしたのだと思う」。
安倍首相のイメージチェンジ戦略。その最たるものが今回の内閣改造だと、森田さんは指摘する。はたして、その狙いは奏功するだろうか。
スピーチの最後に森田さんは、安倍首相の悲願である「憲法改正」が暗礁に乗り上げているという現状認識を語った。
「私は、憲法改正はもう不可能だと思っている。安倍総理自身も事実上断念したと思う」。
その根拠として、安倍首相が唱える憲法改正案に対して、公明党議員の一部の反発が予想される点を挙げた。「自民党がどんな案を作っても、憲法改正の発議に必要な国会議員の3分の2以上の賛成を得るのは難しい。公明党議員が全員、安倍首相の憲法改正案に乗ることはほとんど考えられない」。
仮に国会議員の発議がなされたとしても、国民投票の壁に阻まれるだろうと、森田さんはみている。「安倍首相が主導権をもって行う憲法改正に、国民の投票者の過半数が賛成することは、現状ではほとんど起こりえない」。