芸能界まで波及の「働き方改革」夏休みの過ごし方から変えてみては? - 渡邉裕二
※この記事は2017年08月05日にBLOGOSで公開されたものです
サラリーマンの夏休みは、一般に8日間とか9日間とか言われている。
8月半ばのお盆のシーズンには、故郷に帰ってのんびり休養する人たちもいれば、海外へ出かけ、思いっきり楽しんで来ようとしている人たちもいる。父親の夏休みの日が決まったら、どこへ連れて行ってもらえるか、期待をしている家族もいれば、カップルで楽しい思い出を作ろうと計画を練っている若い人たちも少なくないと思われる。
以前、長い間親しくしてきた人の中に中西尚道さんがいた。学生時代にNHK放送文化研究所で主任研究員を務めていた頃に知り合ったから、30年以上の付き合いだった。
文研時代の中西さんは「生活時間調査」を開発し「生活時間の国際比較研究」などの分野で我が国の第一人者だった。その後、(財)日本世論調査協会会長として世論調査の地位向上と発展のために活躍し、文教大学では名誉教授から学長も務めたが5年前に亡くなった。
中西さんは神奈川県の相模原にお住まいになっていたが、東京に出てくるたびにお会いし、色々と学ばせてもらった。その時に「夏休み」について語り合ったことがあった。
1週間や10日程度の休暇を「バカンス」とは呼ばない
海外の事情に詳しい人はよく知っているようだが、ヨーロッパ諸国の人たちは「一般に1ヶ月程度の夏休みを取っている」と言うのである。「1年間家族のため、社会のために働いたのだから、いちばん暑い時期に1ヶ月ぐらいの休みを取って、身体と心を休めるのは当然であるという考え方が定着しているんだよ」と中西さん。なるほど「バカンス」という言葉には、このような意味が込められているわけだ。「日本でも夏休みを〝バカンス〟と言う人もいるが、1週間や10日程度の休暇では〝バカンス〟とはとても呼ぶことはできない」と中西さんは苦笑いしていた。
しかし、日本の社会で、もし1ヶ月の夏休みを取ることになったらどうだろうか。まず考えられるのは、1ヶ月も休んだら、お金がかかってしかたがないという声が上がると思われる。家族で旅行に出かけるにしても、行楽地に子どもを連れて行くにしても、先立つものがなければ何もできないと思う人が圧倒的に多いに違いない。
夏休みの過ごし方に関しては、長い歴史を経験しているヨーロッパの人たちは、お金をそれ程使わずに、心身をリフレッシュする方法をよく知っている。ボールが1個あれば、5、6人の友だちで、ボールの蹴り合いをして、時間を忘れて楽しむこともできる。都会を離れたところで、気に入った風景を何枚もスケッチしてみるのも素晴らしい過ごし方である。
お金を使わずに自由時間を楽しむためには、自分の好きな趣味やスポーツを持っていることが大切である。かなりの時間をそのことに熱中することができるものを持っていることは、お金には換えられない宝物かもしれない。下手だとか、苦手だからとか、あまり気にせずに、やってみたいと思うことを手がけてみることが大事である。
日本には、古くから、普段の生活は切り詰めても、お盆やお正月には大判振る舞いをする習慣があるようだ。年中忙しく働いている人の中には、出来上がった娯楽を手近に求めようとする人が多かった。しかし、アベノミクスで株価がどうだとか言われて来たが、現実的に一般生活の中で景気が一向に上がらなかったりすると、財布の紐を引き締めなければならない部分が出てくるのは当然の成り行きだろう。
働き方改革は芸能界にも波及
1年前に閣議決定した安倍政権の経済対策に「働き方改革」がある。働き方の抜本的改革を行おうと言うものだが、大手広告代理店「電通」の過労自死事件があってからは「過労死、過労自死」が一気にクローズアップ。また、ここに来て労働問題にはおおよそ関心が及ばなかった芸能界でもタレントの契約問題にまで発展し始めてきている。結局、 「時間に縛られない多様な働き方を即す」とは言いつつ、突然に理想を掲げられると現実的には労使共にあらゆる問題がはらんでくる。理想は理想として物事は一気には変わらない。変われない。今後、こう言った問題は、さらに社会問題になっていくに違いない。
戦後からの経済発展、そしてバブルからの転落…。さらに「失われた10年」とも言われた経済不況の時代を経験してきている日本人にとって、まずは周囲に頼らず自らの責任で「時間を過ごす方法」を身につけることから始めるしかないと思うのだが…。