※この記事は2017年08月02日にBLOGOSで公開されたものです

「ナスD」というワードは、おそらく今年の流行語大賞にもエントリーされるだろう。4月からスタートしたテレビ朝日の新番組「陸海空 こんな時間に地球征服するなんて」で、話題を集めているテレビ朝日・友寄隆英ディレクターの愛称だ。

5月2日放送回に、南米奥地にある少数部族の村で、刺青や髪染めの染料に使われる果実「ウィト」を肌の美容にいいと思い込み、全身に塗った結果、顔と手と足が青黒く変色。そのまま色が落ちなくなってしまい、まるでナスのようなビジュアルと化してしまう。この、前代未聞の変色キャラは番組にとって驚きと爆笑の大供給点となった。

番組は急きょ彼を「破天荒ナスD」と呼称。視聴者のざわつきは一気に拡大し、その存在が数々のメディアから注目を集めるようになる。

「ナスD」は黒くなる前から特異性を発揮していた

23時台の深夜帯で放送中だったが、7月2日にはゴールデン帯で2時間半の特番を放送。視聴率「9.6%」と今後に大きな期待が持てる数字を出した。それを受けて、今秋の改編ではプライムタイム(19~23時)への昇格が発表され、グッドニュースが多いとは言えないテレビ界で気炎を吐いている。

ナスDこと友寄ディレクターの異色ぶりは、見た目が黒くなる以前から際立っていた。

その存在にいち早く言及したメディアのひとつが読売新聞だった。今年1月に特番で放送された「陸海空」を取り上げ、友寄ディレクターについて触れている。

<2017年2月20日 読売新聞夕刊 月刊バラエティー1月編 より>

海外を旅する番組は多々ある。その醍醐味のひとつは見知らぬ地を訪れ、異文化と接する際の緊張感だ。この緊張感をむき出しで感じさせてくれたのが1月29日放送の「陸海空 地球一周するなんて(笑) アマゾン突入SP」(テレビ朝日系)だった。

漫才コンビのU字工事と昆虫マニアの大学生である篠原祐太が、専門家も行きたい場所というアマゾン奥地のコス村を目指した。

(中略)

その中で特筆だったのが同行する友寄隆英ディレクターだった。現地でも生では食べないという巨大カタツムリの「クンクン」に進んでかじりついた。さらにけがの治療や美容に良いという粘液を嬉々としながら顔じゅうに塗りたくった。この姿勢に旅の全てを体感しようという冒険心があふれ、目が離せなかった。

クンクンの味を尋ねられた友寄は「すごい苦い。食感はナマコで味は胃薬」と答えた。なのにそれを延々とかみ続けていた彼の抑えきれない好奇心が、この旅を引っ張る原動力に感じられた。

 (後略)

このコラムは要すれば、出演者の中で最も印象的だったのが、番組ディレクター友寄隆英だったと表している。友寄Dの「抑えきれない好奇心」が番組を引っ張っていると。

しれっと引用したが、このコラムは自分が書いたものだ。別にグッチ裕三のメンチカツ的ステマではない。友寄Dが黒くなる前からその特異性を発していたというひとつの資料だ。このとき自分は、友寄Dに対し「このディレクター、撮れ高(放送で使える映像)のために何でもするつもりだ・・・。タレントよりもアグレッシブだけど、この先どうなるんだろう?」と、漠然とした興味を感じていた。しかし、まさか、ナスになるとは想像だにしなかった。

「濁り水がぶ飲み」で撮れ高を生む奇行も

そもそも、この友寄Dを野に放ったのは、番組のロケ班編成に拠る。

アマゾンでのロケ9日目、2016年12月26日。陸路でジャングルに入り、先住民の村を目指す道中、この番組の方向を左右する分岐点が訪れる。

<2017年1月29日放送 陸海空 地球一周するなんて(笑)アマゾン突入SP テレビ朝日>
NA ここから先は先住民や動物と出逢う可能性が高くなるという。そこで確率を上げるため、出演者とスタッフの2チームに分かれて部族の村を目指す。

こうして、U字工事&篠原祐太のAチームと、友寄D&通訳ホルヘ氏のBチームが、それぞれの現地ガイドと共に別々のルートを進む。この二班編成によって、説明通り「撮れ高」の確率は倍加した。だが画面的には、スタッフ&通訳という地味な画面が増えたということでもある。

本来、番組予算があれば、ロケ隊が二手に分かれることも想定して、画面に引きのある(視聴率につながりそうな)タレントが二手の両方に配されるのが普通だ。だがこの番組は、スタッフ&通訳にその一翼を任せる。日曜夜のプライムタイム特番でありながら。

そこに、当初から友寄Dに任せることへの確たる意図があったのかどうかは知り得ない。

1 予算の都合でこれ以上タレントは押さえられない。友寄であれば「いきなり!黄金伝説。」他、過酷ロケへの耐性では信頼できる。Bチームの撮れ高を友寄に託そう。

2 予算はあるがタレントを投入するよりも、「いきなり!黄金伝説。」他、過酷ロケへの耐性がある友寄のほうが撮れ高を期待できる。タレントよりも友寄に託したほうが面白い。画が地味な分はスタジオ受けのバイきんぐ小峠と伊集院光がツッコんでつなぐから、友寄に任せよう。

1か2のどちらか、もしくはまったく別の理由か・・・。このあたりのプロセスは、いずれ明かされるときがあるだろう。

結果として、このロケ隊分割編成が吉と出る。見た目は地味なBチームの友寄Dは、ここからタレントに気兼ねすることなく自由に振る舞い始める。それが巨大カタツムリの場面など、インパクトある「撮れ高」になっていく。

4月にレギュラー化されてからも、このアマゾンロケ「部族アース」は、基本的にU字工事班と友寄班の二隊で動く方式が続いている。そして、友寄DはBチームからの「撮れ高」で、ぐいぐいとAチームを追い抜いていく。友寄班による映像は「撮れ高」の供給というよりも、生産というほうが言い得ているだろう。

友寄Dが「撮れ高のために何でもする」人物であり、自ら危うきに身を投じて撮れ高を生む、撮れ高の請負人だという確証を強めたのは、レギュラー初回となった4月11日放送で、川の濁り水をがぶ飲みするシーンだった。

アワフン族が飲み水としている浅瀬の川へ行った友寄D。全裸で水浴びをしたあと、川の薄く赤茶けて濁った水を手ですくって飲み始める。1杯でも罰ゲームのような濁り水。これを友寄Dは次々と飲み干しては、そのたびに目を丸くし「美味い」と感想をつぶやく。このベストテイクを押さえて「撮れ高」を確保するために、友寄は嬉々として8杯9杯とこの濁り水を飲みまくった。もはや奇行。この過剰な行動にスタジオMCのバイきんぐ小峠は「ディレクターさんが水飲む画、もういいよ!」と根負けの爆笑に陥った。

という、この「濁り水がぶ飲み」は撮れ高請負人である友寄Dの特徴的なシーンだが、ここでもうひとつどうしても目に残ったのが、水をすくって口に運んだ際に映った友寄Dの手の甲だった。その両手の甲には無数の虫刺され痕があり、ざっくり数えても両手の甲で50か所以上あった。さらに腕にも痕は広がり、どれほどえげつない虫群に襲われたのかというぐらい皮膚が凸凹だったのだ。

そこにある痛みと痒みはちょっと想像しようもない。そんな手に変わり果てる環境の中で、撮影ADとじゃれあうように「濁り水がぶ飲み」の撮れ高を確保しているのか・・・と唸り、この人は「撮れ高の怪人」なのだと思い直した。

もし、タレントだったら(タレントという商品を)あんな手の甲にはさせられないだろう。とはいえスタッフだからと言って皮膚が凸凹になるほどのワイルドな環境に置いてもいいという話でもない。ジャングルで現地の人々も口にしないものも口に放り込む内臓、目をそむけたくなるほど虫に刺されていても気丈でいられる外皮。内も外も本当にタフな怪人だとつくづく思った。

ちなみにこの「濁り水がぶ飲み」場面で友寄Dは全裸だったので、股間にボカシ処理がされていた。だがそのボカシは、手の甲にしたほうが良かったぐらいだ。

第二形態「ナスD」への進化をプラスに

そしてこの「撮れ高の怪人」は、5月2日放送回で全身が黒くなるという奇跡を招き、「ナスD」という第二形態に進化する。このナス化した場面でも撮れ高への執念があちこちにほとばしっていた。

<2017年5月2日放送 「陸海空 こんな時間に地球制服するなんて」>
友寄「目もすごい痛いです」

通訳「ちょっと洗いにいこう」

友寄「めちゃくちゃ洗おう。血出るまで、血出るまで洗おう、洗剤で洗おう」

顔が黒くなり、目も痛い、この状況で「血出るまで洗おう、洗剤で洗おう」と他人事のように発する。次の撮れ高しか頭にないかのようなハチャメチャなことを言っている。川で洗顔するシーンのあと、案の定、黄土色の泥水で顔を洗うシーンを流していた。

そして、その夜――、

<2017年5月2日放送 「陸海空 こんな時間に地球制服するなんて」>
友寄「(黒くなる果実ウィトを)塗ったことを後悔はしていません」

AD「してないんですか?」

友寄「してないです全然。だけど、どうやって生きていこう今後?」

AD「ラッツ(&スター)ですね」

友寄「♪い~なせだね 夏を連れて来たひと めっ!」

ADを相手にノリボケしている。気丈すぎる。さらに――、

<2017年5月9日放送 「陸海空 こんな時間に地球制服するなんて」>
友寄「これで一生生きていくとしても、僕はこれをしょっていこうと思ってます、実際。これプラスに持っていけるかな?」

AD「黒すぎるもんな。(闇夜の)背景と一緒ですもん。目だけ白い」

友寄「目も(黒く)いったろかな」

  (中略)

友寄「(就寝前にひと言)第二の人生スタートです(手を振る)」

「プラスに持っていけるかな」「第二の人生スタートです」と、かなりあっさり前向きだ。こうなると「目もいったろかな」がボケとマジ、半々に聞こえてくる。

こうして、第二形態に進化するという奇跡の展開に視聴者はざわつく。番組はそのざわつきを逃すことなく「ナスD」という愛称を即座に提唱した。この変色が決して悲惨なものではなく、可笑しなドジなのだと旗を振り、番組アイコンに押し上げてプラスに持っていったのだ。

友寄DからナスDへ、番組は迷わず彼を「大黒柱」にした。

タレントと番組スタッフの棲み分けが崩壊

5月2日放送回以降、「ナスD」の話題はみるみる拡散し、次々とトピックが連打された。ナスDは間違いなく2017年のホットワードであり、ブレイク進行中というのが現在の状況だ。それらで語られるナスD紹介の内容を集約すると以下になる。

――自ら率先して、なんでも食べる、やってみる、体を張ったレポートがすごい。それは彼が番組ディレクターという立場にあり、タレントにはできない(させられない)ことにも果敢にチャレンジできるからである。今後の破天荒ぶりにますます期待だ――

ナスDのバカバカしい黒さに目を奪われていると、その内に潜む気がかりな違和感が覆い隠されてしまう気がする。彼の出現はテレビバラエティにとって「今後の破天荒ぶりにますます期待」だけではない功罪の芽を含んでいるようで、ざわつくのだ。

そのざわつきを確かめながら追ってみる。

そもそも、番組(テレビ局)とタレント(芸能事務所)には言うまでもない棲み分けがある。出演者は出演者、制作者は制作者であり、それが互いの職分で、安易に一線を踏み越えないのが暗黙のルールだ。例えば制作者が出演側に回る番組もあるが、それはあくまでタレントを引き立てるためである。

たとえばーー、

◎「進め!電波少年」(日本テレビ)で企画を言い渡すTプロデューサー(土屋敏男)

◎「水曜どうでしょう」(北海道テレビ放送)大泉洋とロケ同行する藤村忠寿ディレクター・嬉野雅道ディレクター

などだ。現在なら「マツコ会議」(日本テレビ)「出川哲朗の充電させてもらえませんか?」(テレビ東京)なども、スタッフが番組で顔出し出演をしている。

これら画面に登場するスタッフは、番組進行上で必要な存在ではあるが、あくまで主役はタレントだ。タレントの引き立て役となり、その存在がタレントを追い越し、タレントをつぶすような出方は決してしない。言わずもがなの棲み分けがあるからだ。

ちなみに「陸海空」という番組は、この友寄DとU字工事による「部族アース」だけでなく、サンシャイン池崎の「釣りまアース」、バッドナイス常田の「ドローンアース」、REINAの「豪華客船アース」ほか、いくつかのロケ企画が並行している。それらがバランスを取りながら番組は放送されていた。だが、ナスDがブレイクしたところで、他の企画がワンランク下の扱いとなり、7月半ばから視聴者ツイッターのカウント数で企画の打ち切りを決める演出が導入された。

これは、「陸海空」が旧来の棲み分けを廃し、これからはタレントとスタッフ関わりなく「一番強いのは誰か」というサバイバルモードの開始であり、「面白ければ、タレントもスタッフも区別はない」という棲み分けの壁を崩した瞬間でもあった。

とはいえ・・・、彼らが同じ条件でスタートラインに立っているわけではない。友寄Dとタレントは保有するスペックが別物なのだ。友寄Dは「陸海空」という番組全体のゼネラルプロデューサーという統括の立場でありつつ現場Dを務めている。現場ディレクターの一人ではない。番組の統括プロデューサーなのだ。つまり、自分で方針を決め、自分で責任を取り、自分で動くことが出来る。

自身の判断で、巨大カタツムリを食おうが、濁り水をがぶ飲みしようが、サザエの腐ったにおいがするイタチの足にかぶりつこうが、全身が黒くなってそのまま色が沈着してしまおうが、自己責任で成立する。強烈な度数の酒杯を飲み干し続け、過労でぶっ倒れても、もし不都合な場面になれば「カットすればいい」と笑い飛ばすこともできる。

しかし、タレントはそうはいかない。番組側が「安全を確認した範囲」でなければ勝手に動くことはないし、出来ない。何かアクシデントが生じればテレビ局と芸能事務所との間の責任問題になるからだ。その手に持っているのはアクセスに制約がある限定パスだ。

比べて友寄Dはその制限から(ほぼ)フリーであり、自己裁量で動くことができる。一人だけアクセスフリーの全権パスを持っているのだ。その結果、全身が黒くなってもOKという、これまでのタレントによるロケではありえないゾーンに踏み込むことができたのだ。(もし、タレントが黒くなっていたら、どういう問題になっていただろうか・・・)

友寄Dは全権パスを持ち、そして、少々信じ難いような強靭な肉体も備えている。繰り返すが彼が装備している総合スペックはタレント達とは別物なのだ。その上で「いちばん強いのは誰か」という規制緩和が導入されたとき、先々、何が起こっていくのか? タレント側にも自己責任という全権パスが許され、なおかつ友寄D並みにタフな人物が現れるようになるのか? 新たな別スペックを持つユニークなディレクターが名乗りをあげるのか? 何だか色々と気になる。

後にテレビ史を振り返ったとき、2017年の「陸海空」が実際に何をもたらしたのかわかるだろう。それまで、ざわつきながら見続けるほかない。

<追記>

先日、たまたま友寄Dを知る方と立ち話をする機会に恵まれた。川で濁り水を何杯も飲む友寄Dの手の甲に、おびただしい虫刺され痕があって目に焼き付いた話をすると、こんな返答を得た。

「友寄さん、虫除けを塗らないんですよね。そういう主義みたいで」

それを聞いて、なんだかモーレツに高揚した。