※この記事は2017年07月31日にBLOGOSで公開されたものです

関東地方では長かった梅雨も明け、夏本番を迎えた今日この頃。みなさんいかがお過ごしでしょうか?

私はというと、世間は夏休みということもあり、週末は毎週イベントの仕事が続いております。『イベントの仕事』というのは、ラジオで言えば公開録音であったり、はたまた何かの発売記念イベントであったり…お客さんの前で行う催し物を、我々の業界では総じて『イベント』と呼んでいます。

このコラムを読んでいる皆さんの中にも、学生の頃学園祭などで、イベントを企画・運営されていた方も多いのではないでしょうか?

そして、イベントの現場にはラジオとはまた違うルールがあったりします。というわけで、今回は『イベントの仕事』について、経験も踏まえて書いてみようかと思います。

イベントの台本は番組より難しい

放送作家は、ラジオやテレビの台本を書くのが主な仕事ですが、イベントの台本を書くことも仕事の一つです。ただ、イベントの台本はラジオやテレビの台本よりも、書く難易度が格段に上がります。その理由は以下の通りです。

まず、基本イベントはお客さんの前で行うので、失敗は許されません。イベントの進行が滞っても、やり直しをすることは出来ないのです。

また、イベントは主にホールを借りて行うことが多いのですが、ホールなどの会場には、借りられる時間の制限があります。イベントは与えられた時間を守って、準備・本番を進行しないといけので(時間を守らないスタッフや司会者もいますが)、時間に正確な台本が求められます。 そして、イベントはラジオとは違い、関わっている人数が桁違いです。ラジオはそれこそディレクターが一人いれば収録できますが、イベントは舞台監督・音響・照明・会場運営…など、役割分担も細分化されており、それぞれの役割を何人ものスタッフが担当します。

少なく見積もってもラジオの5~10倍のスタッフが一つの台本で動くのです。それほどの人数を動かす台本は、簡単に書けるものではありません。出演者のセリフ、音、出演者の動き、照明、大道具・小道具の出し入れ…様々なことに気を配らないといけません。

そんなわけで、ラジオの台本は書けても、イベント台本をきちんと書ける放送作家は、実はあまり多くないのですが、台本を書くこと以外にも、放送作家がイベントを担当するときには、様々なことに気を配らないといけません。その中で一番大事なのが、『他のスタッフとできるだけコミュニケーションを図る』という事です。

例えば、イベントスタッフは職人肌の人が多いのですが、職人肌の人とうまく付き合っていかないと、イベントは成功しません。ラジオのスタッフにも職人肌の人は多いですが、イベントスタッフの比ではありません。

頑固な舞台スタッフと円滑に仕事をするコツ

音響や照明を担当するスタッフは、舞台関係のスタッフを兼ねていることが多く、舞台関係のスタッフは総じて職人肌だったりします。職人肌の人は、良く言えばプロ意識の塊。悪く言えば頑固者です。うまく付き合えばこちらの意図を超える、素晴らしい演出を見せてくれますが、逆に付き合いをおろそかにすると、ヘソを曲げてしまい全く動いてくれなかったりします。

ではどうやってコミュニケーションを図るのか…様々な方法があるのですが、その中のいくつかを今日はご紹介します。

まず、イベントの前に、放送作家は『イベント台本』と呼ばれる、セリフや動き、照明、音のタイミングなどが書かれた台本を作成します。空間をイメージして、セリフや動きを台本に書いていくのですが、その時、『具体的な演出プラン』はあえて書かないようにします。

ここで言う『具体的な演出プラン』と言うのは、照明の明るさや、舞台を盛り上げる音の種類などですが、実は書こうと思えば、プロの放送作家であれば、とことん具体的に書くことができます。

でも、そこはあえて書かずに、職人である各セクションの皆さんにお任せします。ここで大事なのは、『書かなくてもわかるでしょ?』という雰囲気を醸し出すのではなく、『具体的な演出プランはプロである皆さんにお任せします』という姿勢で、『自分はその道のプロではありませんが、イベントを成功させたいと思っています。皆さんの力を貸してください』と言うメッセージを台本に込めるのです。そうすると、自然と職人肌のスタッフは自分の力をイベントに注いでくれるようになるのです。

また、イベントに関わるスタッフは、その日限りの付き合いであることも多いのですが、『たった1日ですが、よろしくお願いします!』という姿勢を見せるというのも大事です。

具体的には、イベント会場に入ったら、まずスタッフ全員に挨拶をして回ったり、具体的な行動でそれを示します。実は放送作家は、イベントの台本を書いた後は、当日現場ではあまり放送作家としての仕事がありません。

でも、舞台進行中になにか演出面で不具合が生じたり、とっさの判断が必要な時には、放送作家として意見を出さないといけないので、できるだけその現場にいなくてはいけません。そして、何かあったときにうまく対応できるかどうかは、各セクションのスタッフと、事前にいかにコミュニケーションが取れているかがキーになるのです。

他にも、イベントを成功させるためには、様々なテクニックがあるのですが、その全てに共通しているのは、『みんなの力を合わせられるように振る舞う』という事です。これからの季節、学生の皆さんは学園祭など、自分がイベントを企画・運営する立場になる人もいるかもしれません。自分たちのイベントを成功させたいと思った時は、是非このコラムを思い出して、参考にしていただけたら幸いです。