※この記事は2014年07月26日にBLOGOSで公開されたものです

タレントの杉本彩さんは、女優や小説家といった肩書きのほかに、「動物愛護活動家」としての顔をもっている。今年2月には動物たちの環境や福祉の向上を目的にした財団法人(動物環境・福祉協会Eva)を設立し、全国各地で動物愛護に関する講演をおこなっている。7月18日には、東京・有楽町の外国特派員協会で記者会見を開き、日本のペットの置かれている現状について、海外メディアの記者たちに訴えた。杉本さんは「しつけのやり方が分からないがゆえの安易な飼育放棄が後を絶たない」と述べ、「無責任な飼い主を生み出す、ペット産業のあり方に問題がある」と問題点を指摘した。(取材・構成:亀松太郎、高橋洸佑)

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毎年17万頭の犬や猫が「殺処分」されている

杉本:「日本の動物たちが置かれている現状、動物を取り巻く問題点について、簡単にお話させていただきます。

日本の犬や猫たちは毎年20万頭以上が保健所に収容されて、そのうちの17万頭が無残にも殺処分されています。その殺処分の方法は、安楽死ではありません。二酸化炭素ガスの注入による窒息死です。殺されるペットたちは数分間、もがき苦しんで、本当に苦しんで亡くなっていきます。

収容されるのは、人の無責任な飼育放棄による犬たちだったり、増えてしまった野良猫の子どもたちだったりしますが、保健所に収容されて殺処分されています。どうしてこのような無責任な飼育放棄が起こるのか、その原因はさまざまです。

まず、一番の問題点としてあるのは、無責任な飼い主を生み出す、ペット産業のあり方だと思います。日本では生体を展示して販売するという形で、小さな子犬や子猫がお店のショーケースの中で売られていて、誰でもお金を出して簡単にペットを購入することができます。

悪質なペットショップでは、犬についての十分な説明もなく、消費者はその犬の特徴も知らず、どれぐら大きくなるか知らない人もいます。しつけのやり方が分からないがゆえに手に負えない、という安易な飼育放棄も後を絶ちません。しかし、そういった飼い主は特別な人ではなく、本当に普通の、健全に生活をしている市民であったりします」

薄利多売で子犬や子猫が無計画に生産されている

杉本:「そういった子犬や子猫がどこから来るのかというと、その生産と流通の過程においても大変な問題があります。

子犬生産工場、パピーミルと呼ばれているところで、子犬や子猫はどんどん生産されています。無計画に生産された子犬や子猫は、今度はオークションに出されます。オークションに出品された子犬や子猫を、ペットショップの小売業者が競り落とします。

オークションに出る子犬や子猫は、ほとんどが生後8週間以下の、本来ならば親や兄弟から離すべきではない、とても小さな時期にオークションの流通に乗ります。そのような悪環境の流通過程において、行政が把握していない数の子犬や子猫が命を落としています。

オークションでつけられる値段は本当に安く、生産業者はとにかく、たくさんたくさん生産して、薄利多売の商売をしないと利益が生まれません。そのような子犬や子猫を生み出す悪質な繁殖場は、日本全国のいたるところにあり、ペットショップに並ぶ子犬や子猫のほとんどはそのような流通過程で仕入れがされています。

日本のいたるところで、そのような繁殖業者が繁殖犬を抱えきれずに、繁殖場が経営破たんするということが多発しています。破たんした繁殖場の繁殖犬たちはそのまま放置され、飢餓で亡くなったり、病気で亡くなったり、共食いが始まったり、悲惨な状況を生んでいます。

一番問題なのは、知識や経験がなくても誰でもブリーダーになれるということです。ブリーダーには免許制度がありません。日本の各動物愛護団体は、破たんした繁殖場から多くの犬や猫をレスキューし、新しい飼い主を見つけるという保護活動に励んでいます。しかし、どれだけ救っても、救っても、根本的なシステムが変わらないので、ずっといたちごっこの戦いが終わることはありません」

動物愛護法が機能していない

杉本:「日本の法律では、動物はモノとして扱われていますが、それと同時に、動物愛護法というものも存在しています。この二つの矛盾した法律の中で、動物たちは苦しんでいます。動物を殺傷したり、虐待したり、遺棄したりすることは、すべて動物愛護法によって犯罪とされています。

しかし、この動物愛護法が機能することがほとんどありません。明らかな虐待の事案があったとしても、動物愛護法に基づいて警察は動いてくれません。まず、警察が動物愛護法を理解していないということが原因の一つにあります。また、海外の先進国のように、動物の虐待事案を専門的に取り扱う公的機関がありません。

動物の殺傷事件や虐待事件は、人への犯罪にもエスカレートするということは、周知の事実だと思います。日本でこのような動物虐待事件や動物殺傷事件が多発していますけれども、そのような段階で早く取り締まっていれば、人に危害が及ぶことはなかったと思われる事件も多々ありました。

先日も長野県で、ニコニコ動画による動物殺傷事件の生中継がされましたが、それも未だに正式に告発状は受理されていません(7月9日時点)。この事件に心を痛めた多くの人が、犯人を厳罰に処してほしいと求め、署名活動が始まりました。結果的にこの犯人にどのような罰が下されるのか、しっかりと見届けていきたいと思います」(※編集部注:この記者会見のあと、猫の虐待をネット中継した男性が書類送検されたことが報じられた)

モラルある社会とは

杉本:「先進国として、このような人間の身勝手により動物たちが殺されていくという現状は、絶対に許されるべきことではないと思います。少なくとも行政の殺処分においては、最低限、麻酔注射や麻酔薬による安楽死を用いることが、モラルある社会のあり方だと思っています。

東京でオリンピックが決定しましたけれども、せめてオリンピックまでには、この殺処分の状況がほぼゼロに近くなるという改善が見られない限り、外国からお客様をお迎えするときに、本当に恥ずかしいと思います。『おもてなしの国、日本』というアプローチがありましたが、本来、おもてなしというのは、相手の心を思いやり、想像し、労わる心をもって初めて成立するものだと思います。

この人間社会の中で、言葉を持たない動物たちは一番の弱者だと思います。その一番の弱者の命を守ることができない、思いやることができない社会は『モラルある社会』と言えないと思います。

ガンジーの言葉に、『国家の力や偉大さは、その国で動物たちがどう扱われているかによって判断することができる』という言葉があります。私は、その通りだと思います。他の先進国に比べて、日本の動物たちがどのような状況に置かれているかということを、世界のみなさまにぜひ、知っていただきたいと思っています。

いま私がお話した問題は、日本の動物たちを取り巻く山積した問題のごく一部です。これから、人と動物が幸せに共生していける、本当に成熟した健全な社会を目指して、私たち日本人は変わっていかなければいけないと思っています。世界のよきところを見習って、世界水準に合わせていくときが来ていると思います。この問題を改善するべく、どうぞ世界のみなさまのお力添えをよろしくお願いいたします」

記者との質疑応答

―動物愛護の問題に取り組むようになったきっかけは?

杉本:「私がこの動物愛護活動に取り組むようになったきっかけは、20年以上前にさかのぼりますが、1匹の、病気の死にかけている子猫と出逢ったことがきっかけでした。その後、小さな地域で、個人的に活動を続け、『地域猫活動』というものに取り組むようになりました。地域猫活動というのは、野良猫に不妊去勢手術を施して、これ以上増えないようにして、元の場所に戻し、地域で面倒をみるというものです。

その後、8年くらい前に起こりました、ひろしまドックぱーく事件。これは、犬の動物園の経営破たんによる大虐待事件でした。このひろしまドックぱーくの問題をテレビのニュース番組で見て、とにかくいてもたってもいられず、広島に飛びました。その現状を自分の目で見て、どうしてこんなことが起こるんだろうという疑問から、日本の動物たちを取り巻く問題がこんなにたくさんあるのだということを知るきっかけになりました。そこから全国的な活動を広げました。そして、個人での活動というものに限界を感じ、今年2月に財団法人を設立したという経緯です」

―動物福祉の点で日本が先進国になるためには、何をする必要があるか?

杉本:「日本の動物愛護を改善させていくために何が重要かというご質問ですが、まず本当に一番大切なのは、国民の動物愛護に対する意識の向上、啓発活動というものがとても大切になってくると思います。

さきほどもお話しましたが、特別な悪人が動物を飼育放棄しているわけではなく、本当に普通の人が、大した罪悪感を持たずに飼育放棄をするという現状があります。動物に対する知識が希薄だということによって起こっている動物の飼育放棄というものもありますから、やはり飼い主は知識をもって飼養するということを義務化する。その知識を持つ場は絶対に逃れることができない、という義務化ということも、とても大切になります。

また子どものうちから、動物を通じて命のモラルや命に対する道徳をしっかりと学ぶということも、とても大切なことだと思います。そして、行政の問題で一番大きなものは、日本は動物を管理する部署が非常に小さいということです。十分な予算もありません。そして、動物愛護と管理という、本来ならば二つの相反するものが、同じ部署で同時に行われているということにも無理があると思います。行政の問題と国民の意識の向上と、両方の側面から問題を見つめていく必要があると思います」



―現在の動物愛護管理法に問題があると思うか?

杉本:「管理法はやはり、人を守るために存在しているものだったりしていますから、管理法そのものに問題があるということは感じていません。ただ管理法が優先され、愛護法が置き去りにされている、機能していないというところに問題があると思います」

―放棄する人たちの意見として、「動物はもともと自然界に生きているから、放棄してもちゃんと生きていけるだろう」という声もあるが、どう思うか?

杉本:「日本でも田舎のほうに行くと、犬や猫は自然に帰す、山に帰す、山の神に帰すという都合のいい理由をつけて、動物を遺棄するという現状があります。しかし、人に飼われているペットは自然界に戻れるわけでもありません。やはり犬と人間、猫と人間という形で、人と一緒に歩んできたという長い歴史から、そのような自然界に帰すという考えは、とても人間に都合のいい考え方であると思います。一度人が関わった命に対しては、野生とか自然に戻るということは非常に難しいのではないかと思っています」

―極論として、ペットとして動物を飼うこと自体を違法にするのはどうか?

杉本:「先日もある県の知事に陳情にうかがったところ、『飼うこと自体を禁じてしまえばいい』というすごい極論をおっしゃった知事がいらっしゃったんですけれども、これだけ人と動物がともに生きてきて、今さらながらそれを禁止するのは非常に非現実的な話でありますし、動物から人が学ぶことは、本当にたくさんあります。とても深いことを学ぶ機会を与えてくれますし、たくさんの気づきを与えてくれます。

動物の力によって今まで支えられてきた自分の人生を振り返りますと、やはり人と動物がともに幸せに暮らしていけるということは可能ではないかと思います」

―動物虐待の現状をFacabookなどで広めようとしても、悲惨な現状を広めることはなかなか難しい面がある。どう広げていけばいいと思うか?

杉本:「私も全国各地いろんなところに講演に行きますが、やはりどこまでリアルな写真や映像を見ていただくかということは、とても難しい問題だなと思っています。

多くの人は『かわいそうなことはあまり見たくない。心が痛むから、悲しくなるから、辛いから見たくない』とおっしゃるんですね。しかし、ときどき状況を見ながら許可を得て、『これが現実なのだから、現実から目を背けないでほしい。私たちの生きている社会はこういうことをやっているんだということを知ってほしい』という強いメッセージを発信するときもあります。

しかしそれだけでは、多くの人に動物愛護が浸透するわけではないので、同時に『動物愛護はとても素敵なことだ。動物愛護をやることによって、その意識を持つことによって、自分たちの人生が幸せになるんだ』とか、『これは社会の一つの素晴らしい貢献である』とか、また若い人たちに向けては、『毛皮を着ないことがカッコいいんだ』とか、そういった違う側面からのアプローチというものも同時にやっていかなければ、多くの人の意識の中には浸透していかないなということも、日々の活動から感じています。

『これがカッコいいんだ』というある種の大きな流れを作っていくこと、若い人たちの心に響くようなカッコいいアプローチがすごく必要だと思います。それにはやはり、企業の協力なしにはなかなか難しいかなということも考えています。小さな命にも思いやることのできる、そういう人間が一番カッコいいんだということを、若い人たちの心に刻んでいく作業が必要だなと思いますね」

―麻酔による安楽死を提唱されたが、安楽死に関してお金と獣医師などの手間がかかるのでなかなか進まないという現実もあるが、どのように考えているか?

杉本:「安楽死に関して、本当に思うのは、ガス室で殺処分するにもお金はかかっているということです。私たちの税金が、そのようなむごい殺処分の方法に使われているということは受け入れることができないということを、私たち国民が声を上げるべきだと思います。

陳情すると、十分な予算がないという返答が必ず返ってきますが、国民の声が大きくなれば、動物行政において、そのような予算が国から降りてくるということが検討されるようになるのではないかと思っています。とにかく、国民の声なしには何も変わらないんだということを、長年の動物愛護の活動や運動の中で痛感しています」