※この記事は2014年07月22日にBLOGOSで公開されたものです

ヤフー株式会社は、定期的に「熟論 日本の課題」と題した政策に関する討論会を行っている。この「熟論」は、社会問題への興味喚起と理解促進のための情報提供を目的とし、政治家や学識者などを招いて実施されている。

7月5日に行われた第5回は、「新成長戦略の評価と今後」をテーマに、慶応義塾大学教授の竹中平蔵氏、東京大学教授の伊藤元重氏、日本経済新聞社論説委員兼編集委員の関口和一氏が議論を行った。

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竹中氏「今回の成長戦略は海外メディアから高く評価されている」

司会を務めたヤフー株式会社執行役員社長室長・別所氏は、まず出席者に対して、今回の成長戦略についての評価を尋ねた。

竹中氏は、今回の成長戦略に対する評価の一つの特徴として「海外のメディアから非常に高い評価を受けていること」を挙げた。そして、その理由の一つは今年1月に安倍総理がダボス会議で行った基調講演にあると指摘した。

このスピーチの中で総理は「特区を使って規制改革を進める」「法人税の減税」「外国人労働力の活用」「政府の年金基金であるGPIFを抜本的に改革する」という4つの公約を挙げている。これらが「100点満点とは言わないものの良い方向に進んでいることが、海外メディアからの好評価につながったのではないか」と竹中氏は主張した。

伊藤氏は、まず「マクロの経済の実態と成長戦略というのは非常に深い関係にあると痛感した」と述べた。今までの政権においても、何らかの形で成長戦略が実施されていたが、どのようなマクロ経済環境下で行うのかが重要であると指摘。その上で、アベノミクス第一、第二の矢でデフレ脱却に大きな道筋を付け、その環境の下で成長戦略が打ち出されたことが重要だと話した。

関口氏は、いままで手が付けられなかった医療、農業といった分野に切り込んだことを評価する一方で、「岩盤規制にドリルをあてるといっても、どういう角度、強さであてるのかという話もある」と今後を注視する必要性を指摘した。また、自身がIT担当であることから、電子政府や遠隔医療、教育といった分野に触れていないことに対しては「物足りなさを感じている」とした。

運動会方式の“参加することに意味がある”的な雇用形態では立ち行かない

今回の成長戦略では、雇用制度について労働時間ではなく、成果を重視する働き方が提言されている。この問題については、出席者から現状の制度が時代にそぐわなくなってきているとの指摘がなされた。

竹中氏は、「日本の典型的な働き方、終身雇用・年功序列というのは、その時の日本にふさわしい働き方だったから定着したわけです。これは別に政府が決めたわけではない。それが今でも適した企業はたくさんある」としながらも、「おらくそういう中で働いている人たちは全体で見ると2割ぐらいしか居ないのではないか」とし、今回の成長戦略が多様な働き方実現に向けた大きな一歩であると評価した。

関口氏は、今まで日本がものづくりで成功を収めてきたことから、工場で働く労働者の時間管理を行うような「ものづくり型の雇用形態」が続いてきたと指摘。しかし、現在の大企業の社員の8割はホワイトカラーであり、国際競争の時代においては短い時間で付加価値の高いものをつくる必要があると話した。よって、運動会方式の“参加することに意味がある”的な雇用形態を引きずっていると、国際競争の中では戦っていけないのではないか、と主張した。

また、竹中氏は雇用をめぐる議論のあり方について、「偏ったキャッチフレーズが踊ってちゃんとした議論が妨げられている」と指摘。「解雇のルールが不明確なので、明確化しましょうというとメディアが『解雇の自由化を主張している』と報じる。『時間じゃなくて成果で評価するシステムにしましょう』というと『残業代ゼロ』だと言われる。私は、こういう議論は一種の機械の打ちこわしと一緒だと思っています」と話し、メディアの報じ方に苦言を呈した。

伊藤氏「ボールは政府ではなくて、民間側のコートにある」

2時間にわたる議論の最後に総括を求められると、それぞれが今後の日本経済に対する危機感を口にした。

竹中氏は、小泉進次郎政務官の「2020年まではオリンピックもあり、日本経済なんとかいけるだろう。しかし、2020年を過ぎると、見たくない現実がすべて見えてくるのではないだろうか」という発言を紹介し、それまでに緊張感を持って様々なことを実現しなければならないと総括した。また、関口氏も「今日本が変わらなければいけないし、変われる最後のタイミングではないかと思う」と話した。

伊藤氏は、「ボールは政府ではなくて、民間側のコートにある」と指摘。政府が環境を整えることも大事だが、その環境を生かすために民間企業も努力すべきだと主張した。そして、大きな借金をして米国の携帯会社スプリントネクステルを買収した孫正義氏が、「伊藤さん、ここで勝負しなきゃ男の子じゃない。金はジャブジャブにある。日本にないのはリスクをとって勝負をすること」と発言したことを紹介し、デフレから脱却しつつある現状の中で、如何に民間企業が投資していくことが重要だと総括した。

今回の討論会では、上記の話題以外にも、法人税減税や医療制度改革、コーポレートガバナンスなどの問題についても議論が行われた。

この討論会の様子は、ヤフー株式会社のページで公開されている。後日、全文書き起こし記事も公開予定とのことだ。

討論会の様子(※一部)


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