※この記事は2014年07月17日にBLOGOSで公開されたものです

17日、谷垣禎一法務大臣が、海外メディア向けに法制度の側面からの安倍政権の取り組みを報告した。質疑応答では、財務大臣経験者としての評価や、ヘイトスピーチ問題、死刑制度廃止論についての質問も飛び出した。【編集部:大谷広太】

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これまで、こちらでは様々な立場でお話させていただきましたが、本日は法務大臣として法務行政についてお話させていただきます。
法務省が扱っている仕事は多岐にわたります。例えば登記・戸籍、刑事政策、つまり刑務所にいた者をどのようにして社会にもう一回送り届けるか、また人権擁護、このように様々な分野に及んでおります。

今日はその中で3つ申し上げたいと思います。1つ目は、出入国管理を巡る課題。2つ目は、先般通常国会で成立した改正会社法、3つ目は、東日本大震災の復興に向けた取り組み。こういう順序でお話をしたいと思います。

出入国管理を巡る課題

一つ目のトピックス、出入国管理をめぐる課題、観光立国に向けた課題です。わが国では、かねてからVisit Japan Campaignということで、観光立国の実現に向けて取り組んできましたが、昨年1年間の外国人の入国者数は1,125万人でございました。初めて年間1,000万人超えた、というところでございます。
政府では観光立国をさらに推進したいと考えておりまして、昨年、全部の閣僚を構成員とする観光立国推進会議を立ちあげ、アクションプログラムを決定しまして、先月これを改定したところです。

法務省は出入国管理を担当しておりますので、外国人旅行者が円滑に日本に入っていただけるよう、審査手続きの待ち時間短縮を目標に、また入国審査官が初めて対面する日本人、ということがしばしばあるので、好印象を持っていただけるよう、おもてなしの気持ちを持って、ホスピタリティの向上にも努めて行きたいと思っております。

ビザ発給要件に緩和につきましては、タイ、マレーシアへのビザ免除措置が取られまして、インドネシア、フィリピン、ベトナム、こういった対象国からの入国者の一層の増加が期待されますので、緩和の問題が生じないように関係省庁と連携しながらやっていこうと考えております。

先月、入管法の改正をしたところですが出入国審査に自動化ゲートを取り入れて利用拡大を図る、また最近クルーズ船が日本にも来て頂いていますので、それらの上陸審査の円滑化・迅速化の措置も講じたところでございます。

2020年にはオリンピック・パラリンピック東京大会が行われるわけですので、多くの外国人旅行者に来ていただけるよう、効率化を図りながら、人的リソースも含めて、正確な審査を滞り無く実施できるように取り組んでいきたいと考えております。

次に、高度人材の受け入れ促進について申し上げたいと思います。 多様な知識や経験をお持ちの外国人が、専門的な知識技術を活かして日本社会で活躍していただくことは、わが国の経済の活性化にも寄与することであると考えております。

そこでわが国では、高度人材と言われる方に海外からできるだけ来ていただく、そして定着していただくことを目的して、ポイント制にして入国上の優遇措置を実施しています。
具体的には永住許可を受けるための要件とされている在留歴の10年を5年に、家事使用人や親の同行を認めるといった、魅力を高めるための見直しをおこない、広報に努めてきました。認定者数は着実に増えてきております。

それからこの通常国会で改正された入管法によりまして、新たに高度人材のための資格が設けられました。3年以上在留するなど、一定の資格を満たした人に、無期限の在留資格も可能にしました。こうした新たな制度は、来年の4月から開始される予定です。

私はこれまでに科学技術庁長官と言った仕事もさせていただきまして、筑波学園都市にも視察に行きましたが、いかに海外の研究者に気持よく研究に取り組んでいただけるか、海外からの優秀な方に定着していただき、活躍していただくためには在留資格だけでなく生活環境や就労環境の整備も必要でございます。これは法務省だけでできることはありませんので政府、地方自治体とも検討してかなければならないことだと思っております。

こういう取り組みを世界に発信していただけたらと思っております。

次に、技能実習制度の見直しについて申し上げたいと思います。技能実習制度が本来、国際間の技能移転であるという、その趣旨目的と実態に乖離があるのではないか。低賃金の労働力を確保するために使われているのではないか、また賃金の不払い等、人権侵害が生じているのではないかというご批判、ご指摘があるのでございます。

この制度につきましては、私の私的諮問機関であります「出入国管理制度懇談会」で見直しの方向性を検討いただきまして、先月報告書をいただいたところです。制度本来の主旨、目的に反して利用することが困難となるよう、人権侵害が発生しないよう十分な対策を取るとの指摘がなされております。そのために、技能等の習得・移転を確実に達成できる受け入れ機関だけを認めること、技能実習生の保護するための監視体制の構築等々、不適切な団体を排除するための提言をいただきました。 以上のような制度の適正化を行い、優良な機関には期間延長、再技能実習、受け入れ人数枠の拡大、職種の拡大も検討すべきという提言もなされております。

今度改定されました日本再興戦略では、この抜本的見直し、必要な法案を提出することとしておりますので、こうした法案を踏まえまして関係省庁と早急に見直していきたいと考えております。

以上、出入国管理を巡る管理の課題の一端についてお話させていただきました。
安心・安全の日本の魅力を保ちながら、多くの外国人旅行者に訪れていただく、活躍をしていただく場を広げ、わが国の成長につながるよう色々と取り組んでいきたいと考えております。

会社法改正

今年の6月20日、かねてから国会に提出しておりました会社法の一部が成立しました。その経緯・目的、概要についてお話したいと存じます。

会社におけるコーポレート・ガバナンスに関する規律につきましては経営者からの影響をうけない社外取締役を活用など、業務執行に監査・監督のあり方を見直すべきという指摘が従来なされておりました。

この指摘の背景には、日本企業ではコーポレート・ガバナンスが十分ではないために外国企業に比べて収益力が低い、株価低迷の原因となっている、こういう内外、とくに海外の投資家からの不信感があったと存じます。
またわが国の会社法制におきましては、以前から親子会社に関する規律等の整備がまだ十分ではないというご指摘もありました。

今度の会社法改正ではこういう状況のもとでコーポレート・ガバナンスを強化することにより、コンプライアンス強化、企業経営の効率化、親子会社に関する規律等の整備を図る、こういったことを目的としております。
この改正によりまして、日本企業に対する内外の投資からの信頼が高まり、投資が促進され、引いては日本経済の成長につながるのではと考えています。

今回の会社法改正の内容は多岐にわたりますが、社外取締役の選任に関しては、その機能を活用するために、ヨーロッパ諸国でも採用されている、"Comply or Explain"ルールを設けております、すなわち改正法では、社外取締役を置いていない上場会社等の定時株主総会においては、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明することが義務付けられています。

なお東京証券取引所では、今年2月から、上場会社は取締役である独立役員を少なくとも1名以上確保するよう努めなければならない、という上場規則を設けております。こうした規律があいまって、社外取締役の導入に向けた各社の取り組みが一段と強化されまして、日本企業のコーポレート・ガバナンスが強化することになると期待しているところでございます。

それから親子会社に関する規律等の整備を図るために、改正法ではいわゆる多重代表訴訟制度を創設するといったような措置を講じております。多重代表訴訟の制度とは、企業グループの頂点に位置する株式会社の株主がその子会社や孫会社の取締役等の責任について代表訴訟を提起することができることを言います。

この改正は日本企業に対する信頼を高めようとするものでございますので、みなさまにもこのような改正法の主旨に関しても、是非ご理解をいただきたいと考えているところでございます。

東日本大震災からの復興への取り組み

平成23年3月11日に起きました東日本大震災は、被災範囲が極めて広範で、多数の犠牲者を出す、それから地震、津波、原発事故による複合的な災害でございまして、国民生活に多大な影響を及ぼしました。この際、多くの国々から温かい支援を賜りましたこと、あらためて御礼を申し上げたいと存じます。

被災者の生活支援、被災地の復興・復旧にあたりましては、いろんな方面のご尽力があるところでございますが、法務省が所管する法人に日本司法支援センター(法テラス)がありますが、これが法的側面から復興に向けた取り組みを行って参りました。

法テラスと申しますのは、民事・刑事問わず、あまねく全国におきまして、誰でもが法的サービスを受けられるよう、法制度や相談機関に対する情報提供、資力に乏しい方に対する弁護士に立て替え援助などの、いわゆるリーガル・エイド実施団体でございます。

東日本大震災では多くの方が家族を亡くされ、自宅を無くされ、避難生活を余儀なくされた。借家問題、相続問題など、様々な法律問題を同時に抱えることになりました。しかし極限的な状況の中では、生活していくことが精一杯で、法律問題は埋もれていってしまう傾向にございます。こうした問題は早期に汲み上げ、深刻化する前に解決に導くこと、それがその地域の復興復旧に資すると思います。

これに対応するために、被災各地、過疎地もありますが、法テラスの支部を作りまして、無料法律相談や弁護士費用の立て替えなど行いました。活発な利用がありました。それから弁護士費用の立て替え等は、原子力災害に対する損害賠償請求に係る集団訴訟にも利用されております。

私自身もいくつかの法テラス支部を見てきましたが、いくつか大きな特徴がございま。それは、出張所の職員は自らもまた被災者であり、また地元自治体の職員であった。そういう方を採用し、被災者の方の気持ちに寄り添っていける体制を作っております。
それから地方自治体の要望に応じまして、法テラスでは常勤の弁護士をいくつかの自治体に派遣しております。復興・復旧施策にともない、法律問題に習熟している任期付職員として採用したいという要望が強く、派遣された弁護士は自治体職員として街づくりの業務等に従事しております。

被災地の復興は道半ばでありますが、こうした法的側面からの支援も法務省としては力を入れてまいりたいと考えております。

"法の支配を念頭に置いて"

最後になりますが、私は一昨年の12月に法務大臣に就任て以来、法の支配を確立しいくということを念頭において仕事をしてまいりました。
日本の法務行政に対して、それぞれ不満やご批判があることは承知しておりますが、これからも充実した法務行政を推進して、法の支配の確立のために努力していきたいと考えております。

質疑応答

ー法改正が行われているということだが、日本のシステムが変わるためには5年くらいかかっていると思う。財務大臣としての経験もおありだと思うが、今の経済政策は十分だと思うか。活性化のために、より刺激的な財政的措置も必要だと思うか。

アベノミクスの主な項目、論点は大体出てきつつあるのではないかと思っております。その効果がでていくためにはまだ時間がかかるだろうと思います。 しかし今のところ、むしろ順調すぎるくらいに順調に来ていまして、アメリカでイエレンさんがどういうふうにやっていくのかといった問題もございますが、今のところ非常に順調にきております。

私は法務大臣ですので経済財政の細かなところはわかりませんが、しかし思い切った手法をを安倍さんがおとりになっただけに、いろんな所に相当目配りをしなければならない、そういう目で見ております。

ー高度な技能を持つ外国人の受け入れを行うということだが、安倍総理はスキルを持つ人だけでなく、介護、建設など、高いスキルを要しない、新しい職種の人にも日本に来てもらいたいとも考えていると思う。法務省でも議論は進んでいると思うが、近い将来、どのような職種で外国人が受け入れられるようになると思われるか。

移民政策という言葉が適当かどうかということですが、今の政策の基本は、いわゆる高度人材と言うような方々にできるだけ来ていただけるようにしたい、そして日本に定着し活躍をしていただきたいというのがひとつでございます。

いわゆる単純労働と言われるものに関しては、先程申し上げたような技能実習制度の濫用や、人権侵害あるといった誹りを受けないように、きちっと本来の目的に照らして、国際的な技術移転にきちっと絞ってやっていくのが基本だろうと思います。

ただ、今、日本は若年人口が減っておりますし、もちろんその若年人口の活用も十分に考えなければなりませんが、震災復興に必要な労働力、五輪に向けても必要な労働力が足らないという声があるのも事実でございます。
従いまして、そういうところの対応はどうしていくか、現在、考えていて実行に移そうにとしていることは、技能実習を経たものの中から、きちっと職種を定めまして、きちっとした所にはもうすこし活用の余地を開いていこうとしています。それを超えてどうしていくかは議論が十分煮詰まっておりません。

安倍政権の中では、いわゆる特区制度のなかで、例えば女性の社会進出に伴う家事労働をどうするのか。あるいは介護等、随分日本では必要になっておりますが、そういうところを特区の中で、どういう問題点があるのか試してみよう、そういういうところに来ております。ただ、日本全体の雇用政策、労働力政策としてどうしていくか、議論が煮詰まっていない、というのが実情でございます。

-- この他、記者からはヘイトスピーチ問題、死刑制度廃止論についての質問も飛び出した。その質疑応答についてはこちらから。