※この記事は2014年07月11日にBLOGOSで公開されたものです

11日、菅義偉・内閣官房長官が外国特派員協会で講演を行い、海外メディアに対し、安倍政権発足後の成果についてアピールした。記者からは、集団的自衛権の行使容認に関する憲法解釈の変更の結果、内閣支持率が低下したこと、また北朝鮮による拉致問題への取り組み、東アジア情勢についての質問が出た。

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冒頭発言

どうもみなさんこんにちは。内閣官房長官を務めております菅義偉であります。今日こうして、みなさんの前で、このような機会をお与え頂きまたしたことを大変嬉しく思います。安倍政権の目指す政治を中心にお話をさせていただき、そしてみなさんとの質疑に応じたいと思います。 

安倍政権は、おかげさまで発足して1年と6ヶ月以上が経ちました。ひとつの政権で閣僚が誰一人変わらず、今日まで続いて、500日を超えたというのは戦後最長であります。政権は長いことに意味があるのではなくて、仕事の中身だという風に思いますので(笑)、今日は安倍政権の仕事の内容についてお話をさせていただきたいと思います。

私たちは政権発足と同時に三つの目標を掲げました。一つは日本経済再生、一つは東日本大震災 からの復興、そして一つは わがくにを取り巻く安全保障環境が極めて厳しい中にあって、危機管理の徹底。この三つの目標を掲げて、ひたむきに、全力で走り続けてきました。

その中で、最重要課題は何と言っても日本経済再生です。経済はまさに国力の源でありますし、経済が強くなければ社会保障を充実させることもできませんし、経済が強くなければ確かな安全保障・外交交渉を進めることもできませんし、経済が強くなければ財政再建をするともできないからであります。
私たちは"アベノミクス"と言われる三本の矢を矢継ぎ早に放ち、日本の経済を大きく変えることができたと自身を持っています。

わが国のGDP、前政権では2四半期マイナスでありましたけれども、安倍政権になってから6四半期プラスであります。有効求人倍率は0.8から1.09までに回復しました。なんと22年ぶりの高水準です。企業収益は北海道から九州・沖縄に至るまで7年ぶりに日本全国7地域で増益になりました。中小企業において製造業は6年ぶり、そして非製造業に至っては21年10ヶ月ぶりに景況感がプラスになりました。
これは私が申し上げているのではなくて、日銀の短観です。
公的年金の運用益においては、政権交代後、23兆円でありまして、年金の財政は5年前よりも回復しています。
そして政労使、政府と労働組合とそして経営者側の会合によって、今年の賃上げは2%を超えました。これは15年ぶりであります。これも連合の発表であります。

一本目の矢・金融緩和、そして二本目の矢・財政政策。三本の矢・成長戦略。この矢がなかなか見えない、失敗だといろいろなご意見がありますので、これについてお話をしたいと思います。

三本目の矢は、中長期の矢であります。その矢の中で、やはりTPPが一番大きな矢だという風に思っております。私たちはオバマ大統領の訪日によって、日米間である程度TPPの合意に至る方向が示されたと思っています。また日豪EPAが先般署名されました。日EUのEPAについても、加速化がされているところであります。

そして、60年以上手付かずでありました農業改革、電力改革にも、今、方向性を出すことができました。 農業については生産調整、四十数年ぶりに見直しが決定いたしました。効率的な農業にするための農地の大規模化の法律もすでに既に成立をさせていただきました。
電力改革、発送電分離、小売の自由化、こうしたことについても既に国会で法律の成立をさせることができています。

こうした法律は、60年以上、全く放置されておりました。これは非常に政治に影響力がある団体でありましたので、どの政権も手を付けることができなかったのでありますけれども、私たち安倍政権はこうしたことに国会で切り込むことができました。 総理が今年ダボスで発言をした、まさにこうした改革を実行するという、総理の方針に基づいて、私たちは国会で法律の成立をさせてきているところであります。

また、法律とは関係なく、政治の力で知恵を絞りながらの第三番目の矢も放ち続けています。

たとえばNISA。これは個人投資を促進するものでありますけれども、1006兆円の個人金融資産の有効活用として、この制度をつくりました。現在1年間で利用口座は650万で、1兆円を突破しております。来年には倍増しようと思っています。

また、観光立国戦略というのを私たちは打ち立てまして、ビザの大幅緩和や、免税制度の緩和を行いました。結果として来てくれた日本に来てくれた外国人は、昨年までは最高840万人でありましたけれども、1000万人を超えました。今年は1月から5月まで、昨年の3割増しで訪日観光客が増えています。

さらに、総理が昨年、積極的に外国を訪問いたしました。総理のこのトップ外交、このセールスによって、インフラ技術の輸出は私たちが政権に就く前は3兆円でありましたけれども、去年は3倍の9兆円にすることに成功しました。2020年には30兆円にしようと思っています。

また、オリンピック・パラリンピックの東京招致にも成功しました。これも56年ぶりです。

そしてこれから今私たちが煮詰めているものでありますけれども、それは法人税改革。まさに国際競争力、海外投資促進、そういう思いの中で来年から、海外と競争できるような形になるまでに、まず数年の間で20%台を目指して取り組むことをすでに決定しています。
GPIFの改革も進めます。運用委員会のメンバーについて、昨年、有識者のみなさんから報告いただいた改革を参考にメンバーの刷新をいたしました。

女性が輝く社会を実現する、というのが私たち安倍政権の大きな成長戦略の大きな目玉でありますけれども、待機児童を2年で20万人、5年間で50万人、この待機児童対策も着実に進めます。

また、訪日観光客2,000万人を実現するために、成田、羽田を中心に規制緩和等によって発着枠を大幅に増加したいと思っています。羽田への発着は常に千葉方面からでありましたけれども、神奈川県や東京の上空を通過することによって4万回発着を増やし、成田も滑走路を増やすことなく様々な工夫によって4万回増やしたいと思います。

こうして私たちが三本目の矢について着実に進めていることを是非皆さんにご理解をいただいて、世界に向けて発信をいただければ、今日私が出席させていただいた価値があるものと思います。

私が申し上げたかったのは、安倍政権はものごとを政治主導で決めていく政権であり、そしてまた改革意欲の強い政権であるということであります。

さきほど申し上げましたけども、農業、電力は六十数年ぶり、そしてビザ緩和とか免税制度緩和については何年前にやったかわからないくらいの年数が経ったことの改革を行っています。

日台漁業交渉は17年ぶりに解決をしました。またいわゆる沖縄の普天間から辺野古移設、これは18年ぶりに解決しました。 そしてエネルギー政策についても私たちはそれぞれの電力会社でエネルギーを購入するのではなく、政治で、財務大臣、経済産業大臣、さらに環境大臣、私と、政治主導でこうしたエネルギー政策について、石炭火力もわが国のエネルギー政策に含むことも決定をいたしております。
また内閣人事局、これもまさに政治主導で、今、日本の官僚の人たちは国益よりも省益と言われて忙しいのでありますけれども、まさに国のために誇りをもって頑張ってもらえる体制もつくることができています。

これからも政権としては、国民の皆さんの前で約束したことをひとつひとつ着実に、スピード感も持ちながら実行していきたいと思います。

集団的自衛権、拉致問題、また危機管理の徹底、こうしたことをこれからもしっかりと行っていくと同時に、これからの政権は、なんといっても衰退、過疎化しています地方を再生する、そして女性の輝く社会を作る、なんといっても経済を最優先に、政治を前に進めていきたいと思います。
以上をもちまして、皆さんに安倍政権の考え方というものをお示しさせて頂きました。これから質疑応答に移りたいと思います。
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質疑応答

ー世論調査を見ますと、憲法解釈の変更について、あまり多くの国民は支持しなかった、またこの議論が続くことにより、多くの人達が反対するようになったと感じています。もし、安倍首相に信念があるということでしたら、世論調査がどうであっても、それを乗り越えて、どうして憲法改正そのものに踏み切らなかったのでしょうか。

菅官房長官:私たち政府の仕事というのは、国民の生命と平和な暮らしと国の守るのが大きな仕事、責務だと考えております。
実は安倍総理は第一次安倍政権の時から、現在の法制度で何か不備はないのか、もし不備があったら、どのように改善することが可能かと、安全保障の専門家の皆さんにお願いをして、政府に対しての報告を求めておりました。

今、海外で生活する国民は150万人、年間1,800万人が海外旅行に出かけています。これだけ国際化が進行しています。わが国の防衛政策の基本は1972年のものであります。当時と比較すると、5倍ほど海外で生活している、そんな時代になりました。そしてまた、わが国をとりまく安全保障環境が非常に厳しいという中で、安全保障に対しての政府の基本的な考え方、これについて与党間で合意をすることができたので、閣議決定をしたわけであります。

政府の基本的な考え方は、"国の存立を全うし、国民の命と平和な暮らしを守るために必要最小限の自衛の措置を取ることができる"、という従来からの政府の憲法解釈の基本的な考え方の枠内にあるものであり、憲法改正をする必要にないという考え方に至って、判断をいたしました。

世論調査について、安倍政権は約束したことを必ずやる政権です。冒頭、三本柱を申し上げましたが、その中の危機管理の徹底、そういう中で、憲法解釈でなくて、今の憲法の基本的な考え方の枠内で国民の皆さん生命と暮らしの安心、まさにこの危機管理ができると考えて行ったことですので、支持率が高くなろうが低くなろうが、皆さんの生命と平和な暮らし、国の安全に責任を持つのが政府だからであります。

ー北朝鮮問題について。拉致問題は安倍総理にとって重要な課題であると聞いておりますし、これが解決するまで努力を続けると聞いています。もしかしたら拉致されたかもしれないという人は860名に上ると聞いているのですが、最終的に解決するまでに、どのような形で解決をするのでしょうか。話しが進む途中で、総理が北朝鮮に行くことはあるのか、また行くとしたらどの時点で行くとお考えでしょうか。

菅官房長官:拉致問題の解決は安倍政権の最重要課題です。政権発足以来、ありとあらゆる対応を取るようにという総理の強い指示のもとに、内閣一丸となって対北朝鮮、拉致問題、まさに長い間、固く閉ざした扉をはじめて、ようやく開けることができたと思っております。

私と安倍総理の出会いも実はこの拉致問題でありまして、私は安倍総理の力を借りながら、一部解除をする部分、また万景峰号の出入港の禁止だとか、制裁を議員立法で作ったのです。その中で先般、北朝鮮の特別調査委員会はありとあらゆる組織の調査ができるという判断しまして制裁を一部解除したのでありますけれども、拉致被害者、また特定失踪者を含めて、私たちはすべての日本人を取り戻すために全力で行くということであります。

860人という数字ですけれども、特定失踪者、民間の団体が北朝鮮に拉致をされただろうと方たちが含まれている数字でありまして、政府が正式に発表している数字ではありません。政府としても拉致をされた可能性のあるひとたちについては、警察を中心に今日までの間に精査をしてきているところです。

大事なのは、北朝鮮側が全てを知っているわけでありますから、包み隠さずにこれは調査委員会等で報告をしていただくことであります。

前回と今回が違うのは、お互いの国が文書を交わしたということであります。日本の調査団が北朝鮮に滞在することも認められていますし、発見された方と面談することも認められていますし、そしてまた関係する場所に日本の調査団が行くことも認められておりますし、日朝共同主導のもとにそうした対話をする、調査をする、こうしたことも文書で正式に公表されています。

この問題解決について、何が一番効果的であるかを知っているのは、安倍総理であり、私であると思っていますので、私たちは慎重に、そして効果的な対応をこれからしっかりとしていきたいと思います。

ー「政治主導」という言葉を使いましたが、2009年12月16日、自民党が野党だったとき、「政治主導のあり方に関する緊急提言」というのを出されています。そこでは「憲法は、主権者である国民が政府・国会の権限を制限するための法であるという性格を持ち、その解釈が、政治的恣意によって安易に変更されることは、国民主権の基本原則の観点から許されない」と書いていらっしゃる。この考え方に今も、相違はないのでしょうか。
また、憲法の解釈変更によって集団的自衛権を容認するのそれに反しないでしょうか。


菅官房長官:それは全く当たらないと思います。

先ほど申し上げましたけれども、わが国を取り巻いている安全保障環境が一層厳しさを増す中にあって、国の存立を全うし、国民の命と平和を守るために必要最小限度の自衛の措置を取ることができるという従来の政府の基本的な考えの枠内であるのですから、憲法改正をする必要があない、まさにそういう判断で私たちは決めたところでございます。

ー中国と日本の関係についてお尋ねしたいと思います。現在、極めて悪い関係にあると思います。日本政府は中国との間にどのような問題を解決しなければならないのか。APECでの話合いに期待する、というお話をされていましたが、島の問題も含めて、中国と話し合う用意があるのかどうか、どのような話をしたいのでしょうか。

菅官房長官:島の問題というのは尖閣諸島のことだと思いますが、これは歴史的にも国際法上も間違いなくわが国の領土でありますから、この問題に関しては、わが国の立場をしっかりと主張していく、そのことには全く変わりません。

日本と中国は世界第二位、三位の経済大国であります。アジア太平洋地域、国際社会の中でも、平和と繁栄に責任を持つ両国であらねばならないと思いますので、私たちは、常に対話のドアはオープンであると申し上げております。問題があるからこそ、会談をするというのが当然のことじゃないでしょうか。

そしてAPEC。ここには世界の首脳が集まるわけでありますから、自然なかたちで会談をするのは国際社会の流れの中では当たり前のことじゃないかと私は思います。

ー尖閣諸島は、中国では釣魚台と呼ばれておりまして、この名前は数百年前から存在していると言われております。日本では、英国の方が島を発見してピナクル、つまり尖っている山と名付けたものを尖閣諸島と名づけたと言われています。1972年、日本と中国は、外務副大臣も参加する場で、この問題を"棚上げ"しようと決めたわけですが、その後日本側が国有化しました。

"日本を取り巻く安全保障が厳しくなった"という表現を使われていますが、それは日本政府が尖閣諸島を国有化したことに対する反応ではないかと思う。


菅官房長官:日本はまさに国際法、法の支配のもとで政治を行っていきたいと思っておりますから、そういう意味で、歴史的にも国際法上もわが国の固有の領土であることに変わりはないのであります。

ー私はイタリアの記者です。さきほど戦後最も閣僚が変わらず続いたというお話がありましたが、わが国ではベルルスコーニ首相が戦後最も長期政権を実現したと言った数日後に政権が崩壊してしまったということがあります。政治の世界には永遠ということはもちろんないと思います(笑)。

さて、日本と韓国と中国についてお伺いしたいと思います。来年、中国と韓国は二国間で終戦70周年を祝いたいとしている。これに対して、日本政府は混乱しているような感じだと思います。今年、ドイツ・イタリアはヨーロッパ各国や米国と一緒に終戦を祝いました。いつか、日本と中国と韓国、この三カ国で、終戦を記念する、祝うということは可能になりますでしょうか。そういうことを実現できましたら、安倍政権は歴史に残る政権になると思います。


菅官房長官:ASEAN諸国はじめ、世界の国々から、わが国の国際協調主義に基づく積極的平和主義には、多くの国々から評価を頂いていると思っています。わが国としては、世界の平和と繁栄に今まで以上に貢献していきたいと考えています。

そして戦後70年のわが国の自由、民主主義、平和、この歩みというのが世界の国々から高い評価を得ていることは、誰も否定をすることはできないと思います。私たちは、この歩みを変えるつもりは全くありません。
そういう中で、中国も韓国も、わが国同様、地域や国際社会の平和と繁栄に責任を持っている国々であると思いますので、現在、この南シナ海、東シナ海において力による現状変更の動きが見られる中で、関係国は緊張を高めるような一方的な行動は謹んで、国際法を遵守し、対話による世界の平和解決を図ることが極めて重要であるということを申し上げて終わりたいと思います。

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