それってエリート目線で意識高過ぎじゃない? - 赤木智弘
※この記事は2014年06月16日にBLOGOSで公開されたものです
今回はニュースではなく、BLOGOSで気になる記事を見つけたので、これに触れてみます。『「良いお母さん」のレベルが高すぎる日本。働く女性は意識と行動をどうやって変えたらいいの?』(*1)という記事なんですけどね。正直、あまりに意識が高すぎて、めまいばかりしてしまいます。
そして、意識の高さの一方で、ごく一握りの「正社員女性」しか対象にしていないその視野の狭さも気になります。
仕事も子育ても大変だから楽にしようという話なはずなのに、なにか新しい行動を起こして、スキルを身につけて、他者とのネットワークを作るとか、なぜキツさの屋上屋を架そうとするのでしょうか?
で、また他者とのネットワークを作っても、人間関係がうまく行かなければ、なにか対策を取るって? それに際限はあるんですか?
そもそも「良いお母さんのレベルが高過ぎる」っていうけど、仕事も第一線でバリバリこなしながら、同時に育児も専業主婦以上にこなそうとすれば、レベルが高くてあたりまえでしょう。
そもそも社会は本当にそんなスーパーウーマンを求めているんですか?
それを求めているのは、いいお母さんのレベルが高いと嘆く、あなた自身ではないのですか?
日本社会の女性に対する圧力とは関係なく、常識はずれに意識が高すぎて、全てを完璧にこなそうとこだわりすぎるがあまりに、自意識をこじらせているだけのことです。昔に流行った言葉で言えば「ほとんどビョーキ」とでも称すべき状況ではないでしょうか。
そもそも、これまでだってそんな仕事も子育てもこなすようなお母さんなんて、ほとんどいなかったはずです。一昔前ならば女性は専業主婦として良き母ではあっても、仕事には関わっていませんでした。更に昔になると、女性は働き手として農業などの家の労働を行っていましたが、その分子育ては長男長女に下の子の子守をさせるなど、無頓着でした。
今の社会でだって、大半の「仕事もしているお母さん」は、生活のためにそれほどしたくもない仕事を生活のためにこなしながら、非協力的な旦那に辟易としながら、それでも子育てをこなしているというのが現状でしょう。そうした多くの女性にとって、第一線の仕事をしながら、その稼ぎを自分で調整するなど、夢物語にしか見えないはずです。
そもそも大半の「子供を持ちながら働く女性」は仕事と育児を両立させるために、近所のスーパーなどでパートタイム労働に勤しんでいるのであり、この記事に「会社」や「社内」という言葉が盛んに出てくることに違和感を感じます。
もちろん、時代が進むにつれて、仕事も子育ても両立できるようになるのはいいことなのですが、しかし現状では、男性はもちろん、多くの女性をも無視したエリート女性の傲慢さが含まれている気がしてなりません。
「働きたい人が働きやすい社会をつくる」という言葉には共感はすれども、その働きたい人が、現状で自分でどのように働くかを決められる女性でしかない以上は、その一部の女性の豊かな労働環境を作るために、多くのその他の労働者、特に多くの子供を持つ女性が従事する非正規労働者が使い潰されているという状況から目を逸らすわけにも行きません。
また、この記事には一切、夫のことが出てきません。
別にシングルマザーに限定した問題を語っているわけではないのに、夫が子育て要員になる可能性を無視していることにも違和感を感じます。「旦那は正社員で子育てをしない」ということを話の前提にする限り、妻が苦しいのは当たり前ではないでしょうか? 結局そこには「旦那は正社員で安定した収入を持ってくる存在であって欲しい」という、男に対するジェンダーの押し付けがあります。これも女性の子育てを苦しめる原因の一つです。
結局、自らの意識があまりに高いがために、自ら設定した高いハードルに苦しめられる。それをさも「社会のせい」であるかのように主張するのが、この記事の目的であるような気がしてなりません。
しかし、それはワガママだと僕は思います。多くの人が良き母や良き父であろうとしながら、実際はいろんなことを妥協して、そこそこの母やそこそこの父として頑張っています。いいお母さんのレベルが高いと嘆く女性たちに必要なのは「妥協する努力」ではないでしょうか?
仕事もそこそこ、育児もそこそこ、そして自らの余暇もそこそこにうまく暮らすことが、多くの人たちの生活の満足感を高めることにつながることです。
そして、みんなが真っ当に妥協できるようなシステムを構築することこそが、エリート女性のみならず、老若男女正規非正規問わない、すべての生活者に対する真っ当なロールモデルになるのではないでしょうか?
*1:「良いお母さん」のレベルが高すぎる日本。働く女性は意識と行動をどうやって変えたらいいの? - 小紫恵美子 (シェアーズカフェ・オンライン)