「日本は1000万人の移民を50年かけて受け入れるべきだ」 坂中英徳・移民政策研究所長が訴える″移民開国論″ - BLOGOS編集部
※この記事は2014年05月26日にBLOGOSで公開されたものです
少子高齢化が進む日本。今後、人口は50年間で3分の2になってしまうという推計もあるが、急速な人口減少にどう対応すればいいのか。一つの対策案として議論されているのが「移民」の受け入れだ。そんななか、移民政策研究所の坂中英徳所長が5月16日、東京・有楽町の外国特派員協会で記者会見をおこなった。坂中所長は「東京オリンピックが開催される2020年までに、日本は移民国家としての基本的な制度を確立すべきだ」と述べ、「50年間で1000万人の移民を受け入れるべき」という持論を訴えた。(取材・構成:亀松太郎、高橋洸佑)安倍首相が「移民」をめぐる国民的議論を呼びかけた
坂中:「最近の移民政策をめぐる動きがどうなっているか、簡単にご説明することから始めたいと思います。何と言いましても、この2月13日に、安倍首相が衆議院の予算委員会で古川元久議員の質問に対して、移民の受け入れ問題に関して国民的議論を経たうえで、多角的な観点から受け入れについて検討する必要があると、発言しました。これは国民に『移民の受け入れについて議論してください』と呼びかけたということで、大きな意味があったと私は考えています。今から10年ぐらい前から人口がどんどん減っていく、ないしは人口ピラミッドが崩壊していくという時代を迎え、私は移民の受け入れに関する国民的な議論を呼びかけてきました。しかし、メディアも知識人もその呼びかけに答えない状態が、この10年ずっと続いてきました。
日本は1000年以上、移民鎖国をずっと続けてきた国ですから、移民鎖国は当然で、隣近所に永住目的の外国人が一緒に住む社会なんて想像できないということがあったのでしょう。ですから、移民の受け入れなんて、タブー中のタブーということで、ずっときた。ところが、それが破られ、国民的議論が始まったということです。
私は、国民的議論が始まれば、結論は、落ち着くところに落ち着くだろうと思っています。落ち着くところといっても、国民が移民を歓迎するという形では落ち着かないかもしれません。けれども、おそらく、人口崩壊の日本を救う道は移民を受け入れるしかないということが世論の大勢になり、移民を受け入れるのを許容するというか、『NOではない』というような国民的コンセンサスが、そう遠くない時期に成立するだろうと思っています」
移民政策抜きではアベノミクスは失敗する
坂中:「2007年に朝日新聞で述べたのですが、これからの50年間で1000万人の移民を秩序正しく受け入れることを提言しました。『日本型移民政策』と言っていますが、外国人に対する教育を重視して、徹底的に教育したうえで、国として秩序正しく受け入れる、と。1000万人という数は、だいたい10人に1人を移民で、ということです。イギリスやフランスやドイツは、だいたい10%が移民人口です。日本は50年かけて、いまのヨーロッパの移民先進国並みの国になろうということであります。日本の産業力や国民の教養レベルなどから判断すると、それは十分に達成可能だろうということで、私はそういう提案をしました。
1000年以上続いた移民鎖国体制を守って、人口の自然減に従って経済を衰退させるという道と、人口の極端な自然減に対抗してある程度の移民を受け入れて、経済を安定させるという道。そのどちらを選ぶのか。いまの日本は、そういう歴史的な分岐点にきていると認識しています。
結論から言うと、移民政策抜きではアベノミクスは失敗する、ということです。生産人口と消費人口がとてつもない勢いで減少していくのに、どうして成長戦略が立てられるのか。これは経済学の常識です。逆に、安倍首相が『移民立国で日本経済を立て直す』という決断さえすれば、局面は一転するでしょう。
若い働き手を入れる、多様な国からいろんな能力のある多彩な人材を入れると、移民関係の市場はかなり大きな規模になるだろうと思います。移民というのは、家がない。そのほかも、何もないわけですから。移民への教育や住宅、そしてレストランのようなもの。衣食住に関するすべてです。このような移民関係の新しい市場が成立することも大きいでしょう。
私は、世界のいろんな投資家の人たちと会う機会がありますが、彼らはみな『生産人口と消費人口が減っていく国に投資はできない』と言っています。日本はまさにそういう国です。個々の企業は業績が良くても、国として威力がないということです。
その中に移民が入ってくれば、生産労働人口としての役割も大きいですが、消費人口、つまり内需を膨らませるという意味で、かなり大きな経済的な動きになるだろうと、私は思っています。
財政の問題を簡単に申し上げますと、財政危機、これは年金・社会障制度への負担があまりにも大きくなっていることに原因があります。しかし、1000万人の移民を計画的に、毎年たとえば20万人ずつ、50年入れるとすれば、若い人たちを中心に年金・社会保障制度支えてくれますし、そういう仕事もしてくれます。そういうことで社会保障制度を支えるしかないと、私は考えています」
外国人を教育し、優秀な人材に育て上げるべき
坂中:「私は、正しい外国人の受け入れの仕方である『日本型移民政策』で、移民を入れるべきだと考えています。日本型というのは要するに、外国人を日本の学校や職業訓練学校、農業高校、工業高校、それから大学に入れて、しっかり、日本語も含めて勉強してもらい、専門知識や専門技術も身につけてもらう。そういう人たちにそれぞれの分野で活躍してもらう。そして、すみやかに安定した生活ができるようになれば、永住を許可し、希望すれば国籍を与えるということです。
永住は早ければ3年、遅くとも5年で許可する。そうなると、ちゃんとした移民国家ですよ。そのうえで、希望すれば国籍もーー欧米では市民権というんですかね――7年くらいで与えていく。要するに、外国人を教育し、有能な人材、優秀な人材に育て上げるということを言っています。
私は、平和政策や平和外交の一環として、移民政策を考えています。日本の移民政策は、アジアの一部の国に集中するのではなく、世界中から幅広い人材を入れるという政策をとるべきだと考えています。
そうすれば、日本社会の一層の多民族化になります。先祖代々、日本生まれという人だけでなく、いろんな国で生まれた人に日本国民になってもらう。これこそまさに、多民族共生社会になるだろうという見方です。
ですから、多くの国からバランスよく入れようというのが、私が目指している移民政策の大きな柱の一つです」
衰退する製造業を「移民」で支えるしかない
坂中:「具体的に、緊急に移民を入れないと持たない産業分野をお伝えしたいと思います。まず、介護・福祉の世界。少子高齢化になり、ご高齢の老人が大勢いる。認知症になり、公的施設に面倒を見てもらわないと生きていけない人だっている。これはもうはっきりしているのですが、介護の分野に加わる人が、若い人を中心に多くない。そこで、この分野は、外国から人材を受け入れないと持たないと考えています。
それから、農業・林業・漁業などの第一次産業分野。後継者難から、農業人口・水産人口・林業人口は激減しています。ここに移民を入れるというのは、緊急の課題で す。
もう一つは、建設技術者です。東日本大震災からの復興が思うようにいっていない最大の原因の一つといっていいのが、建設技術者の不足です。いくら金をつぎ込んでも、技術者がいないから、インフラの整備や住宅建設などが進まないということです。
それから、東京オリンピックを控えて、オリンピックの準備に向けた建設技術者が要るんですが、ここに対しても移民を入れるべきだと考えています。
ここまで申し上げた以上に、一番重要な課題は、製造業の分野に対する移民が必要だということです。大企業を支えている中小零細企業が後継者難でつぶれていっている。製造業、モノづくりの能力がなくなったら、日本というのは本当に滅亡です。ここをどう支えるか、移民政策で支えるしかないと、私は思っています。
東京オリンピックが開催される2020年というのが、移民政策にとって大事な年だと思っています。私は、東京オリンピックより前に、日本は移民国家としての基本的な制度を確立すべきだと言っています。
もともとオリンピックというのは、人種や民族や国籍の壁を乗り越えて若人が集う、平和を目的とした祭典です。そのときに、人口崩壊の危機にあり、かつ、成熟した経済国になった日本が、移民鎖国を続けているとしたら、こんなに恥ずかしい話はありません。オリンピックまでに日本は移民開国をするんだ、という政治の決断を強く求めるということです」
記者との主な質疑応答
―東京都の舛添知事が移民に否定的な見方をしているが、どう考えるか。坂中:「舛添さんの考えは、すべて間違っていますね。まず、日本独特の価値観が損なわれるといったって、もともとそういうのは、全部外から来たものです。日本人はそれをより洗練されたものにしたのは事実ですが、いろんな物の考え方も含めて、日本は雑種文化です。
民族的にもそうです。南のほうから海を渡ってきた人が3分の1、中国大陸の南のほうから来た人が3分の1、あと、北方のほうから来た人が3分の1。言語も、日本語の起源はまだ分からない。寄せ集まったうえで、日本語が形成された。だから、日本が純粋な文化というのは、基本的に間違っているということを申し上げます。
それから、治安とか、犯罪ということを言われますが、私が言っているのは、そういうことが起こらない社会です。外国人で犯罪を起こすのは、だいたい社会に適応しない人で、低学歴で、失業している人たちです。私が言っている「人材育成型移民政策」では、教育を重視し、日本語もしっかりやってもらう。そして、社会に適応してもらう。そのうえ、きちっと世話するということですから、そういう治安の問題は起きないと思っています。
あと、舛添さんの手腕ですけど、『世界都市東京』といっても、移民の数が人口の10%とか15%くらいなければ、ニューヨークとかパリとかロンドンに匹敵するような世界都市にはなれない。移民鎖国のままで東京が世界都市になるなんて、とんでもない間違いだということを申し上げておきます」
―安倍政権の掲げる「技能実習生制度」は、移民政策の第一歩ではないのか。
坂中:「私は第一歩ではないと思います。技能実習制度自体が、アメリカや中国からは現代版奴隷制度と言われていて、まさに搾取の塊、役人の天下りのためのとんでもない制度です。悪い制度を拡充するというのは、恥ずべきことだと考えています。第一歩どころか、汚点を残すのではないかと思います。
地域社会があと20年くらいしたらどんどん消えていくと言われている中で、『5年たったら帰ってください』という現代版奴隷制度みたいなものを導入しても、それはだめだということを申し上げておきます。
建設技術者と介護の問題でいえば、法務省の入管法の中に『建設技術』を資格として作ればいいんですよ。それから『介護』という資格も入れて、永住者で入れればいいんです。移民として。それならば、移民政策の一里塚というか、そこへ向かう一歩前進ということで評価できますが・・・。変な制度を拡充したら、より一層、問題が出てくるということです」
―日本人には、ぬぐいがたいゼノフォビア(外国人嫌悪)があるが、その壁をどうやって乗り越えられるのか。
坂中:「外国人が隣近所にいるようなことはないという状態が、1000年以上続いてきたので、いろんな違う人が来ても、そういう人たちと一緒にやっていくメンタリティーが欠けているというのは事実です。しかし、最近の若い人などを見ていると、かなり違ってきているのではないかと思っています。
どちらにしても、これは、日本人が克服しなければいけない問題です。それを、受け入れる心構えがないからということで、ずっと先送りというわけにはいかない。日本にはもともと寛容な心があるわけですから、寛容な心で受け入れて、自分たちも変わっていくということを、数十年かけてやっていくということだと思います。
日本人はいろんな宗教を受け入れていて、いろんな神様が共存している。また、異なる民族にもそれほどネガティブではなく、国際結婚の比率もかなり高い。そういうことから、うまく受け入れられる可能性の高い民族だろうと思っています」