英語をマスターするというのは“大きな図書館の鍵”を受け取ること-会議通訳者・高松珠子氏インタビュー(後編) - BLOGOS編集部
※この記事は2014年05月05日にBLOGOSで公開されたものです
会議通訳として活躍する高松珠子氏インタビュー。前編に続いて後編では、日本の英語教育や英語力を上達させるコツについて語ってもらった。(取材・執筆:永田 正行【BLOGOS編集部】)通訳という仕事は早く日本から消えるべき
-「グローバル化」が叫ばれて久しいですし、日本でも「英語教育に力を入れよう」といった議論が現在でもされています。高松:私自身、現在、通訳学校で「通訳になりたい」という方々に授業やアドバイスをしているのですが、本当は通訳という仕事は早く日本から消えるべきだと思っています。
多くの人が英語を使いこなせるようにならないと、日本はどんどん衰退していくんじゃないかと、非常に不安に感じています。日本がここまで成長できたのは、優秀な先輩通訳たちが、努力して努力して努力してきたからだと思いますが、その反面、日本の多くの方たちが英語なしでやってこれてしまった面があると思います。今海外に行きますと、韓国や中国の方たちの方が英語はペラペラです。
国際会議や様々な商談では、通訳がどんなに頑張っても0.数秒の遅れが発生してしまいます。それは話が常に遅れているということなんですね。日本の方が内容を消化してから話そうと思っても話が変わってしまっていることもあります。だから、やっぱり英語で直接コミュニケーションできるような人が増えてもらいたい。切実にそう思います。
英語のテレビドラマをテロップ付きで見るべし
-英語を学ぶ上でのアドバイスや日本の英語教育に対する意見はありますか?高松:英語というのは日本では特殊なものとして扱われているように感じるのですが、あくまでツール、手段に過ぎないわけです。成績と深く関連しているからなのか、上手い・下手というのが必要以上に重要視され、みんな「自分が英語うまくない」と思っているように感じます。
例えば、外国人ばかりの部屋に日本人が一人いる状態であれば、どんどん英語でしゃべっているのに、その部屋に日本人がもう一人入った途端、恥ずかしくなってしゃべれなくなってしまう。お互いに評価を気にし過ぎなんです。
教育については、いろんな試みがあって賛否両論ありますが、様々な専門家が議論すればよいでしょう。ただ、私が伝えたいのは英語のように広く使われている言語をマスターできれば、世界が広がるということです。自分の人生がこんなにも広がるということを理解してもらいたいと思うんですね。
私のお勧めの勉強法は、英語のテレビ番組を見ることです。映画よりもテレビドラマのシリーズがお勧めです。私は責任ある立場の方に会うたびにお願いしているのですが、法律を変えてでも、英語の番組を放送する際には英語のテロップを流すことを義務付けてもらいたいと考えています。今、私の家はケーブルテレビに入っているのですが、バイリンガルの放送はやっていてもテロップは日本語だけなんですね。英語を聞きながら、日本語を読んでも何の意味もありません。言葉と音が一致することによって勉強になるんです。
欧米では、元々難聴者のためのテロップが存在するのですが、調査したところ、実際にこのテロップを見ているのは難聴者の方よりも移民が多かったそうです。移民の方々が語学取得のために使っているということです。日本人は中学から英語を勉強していて、たくさんボキャブラリーを持っていますから、ちょっと耳の慣れが必要なだけで、読みながら音を確認していけば、どんどん上達するはずです。
字幕があっても、どうしてもスピードが速くて聞き取れないとか、きちんと読みたいと思ったら、番組の名前とscript、脚本といれて検索すれば、脚本がアップされていたりしますから、そういうものをダウンロードしてみればよいでしょう。
なぜ私が、テレビのシリーズものを勧めるかというと、映画の場合、背景知識や時代設定、各登場人物の情報を知るために時間を使いすぎてしまうからです。テレビシリーズであれば1回で終わって、後はストーリーが進んでいくだけですから、楽だと思います。最初の2~3回は、脚本をダウンロードして、登場人物がどういう人で、どういう社会的地位にいるのかといった設定を飲み込んでしまえば、後はだんだん脚本に頼らず、見ることができるようになると思います。
また、テレビシリーズにはたくさんの番組があるので、好きなものが選べます。弁護士モノやホワイトハウスが舞台のドラマであれば、ハーバードを出た人たちが機関銃のようなスピードで難しい言葉を話しますし、「ゴシップ・ガール」とか、高校生や若い女性向けの話であれば、もう少しやわらかい英語を聞くことができます。やはり、先生が押し付けで「これを見なさい」というのではなくて、自分の好きなものを選ぶのが一番です。最終的には自分の好奇心、「これ何と言っているのか知りたい」というところから、学びが始まると思うので。
面白いものが見つかるためには、いろんな番組をたくさん公開して、全部英語の字幕をつけて、好きなものを見られるようにするのがいいと思います。逆に日本語のテロップ、日本語の音を提供しないぐらいの方がいいと思います。でも、これはそれこそ法律で義務付けるぐらいじゃないと、放送局もやらないでしょう。テロップ流すのに追加コストがかかるかもしれませんし。
また、日本語や日本文化を大切にすべき、との議論も別にあると思います。ただ、ここで申し上げたいのは、英語習得の方法として、英語を「勉強する」というより、「内容をとてもとても知りたいのでその手段として英語を理解しよう」という気持ちにさせるアプローチを提案しているのです。
仮に、こういうことが実現しますと誰が一番得するかというと、中学校などの英語の教師だと思います。政策として、教師の方々に研修を受けさせるといった話がありますけど、彼らはすごく忙しいし、ご家族と過ごすような時間もない中で少し研修を受けたところで、劇的に上達するとは思えません。生の英語に触れる機会が少なかったそういう先生たちが、自分が夢中になれる番組を選んで徹底的に見れば、耳も口もかなり早く上達すると思います。教える側が更にうまくなれば、生徒の英語力も上がるでしょうし、それが全体的な語学力を向上させる方法として、一番手っ取り早いと私は思います。
また、言葉そのものだけでなく、どういう状況でどのようなフレーズを使うのか、或いは話すタイミングや使うべき表情や音域など、非言語的コミュニケーションも自然に学べると思います。
-最後に今後自分の英語力をあげたいと考えている読者にメッセージをお願いします
高松:英語は勉強と思わない方がいいと思います。エリートや帰国子女といった一部のアドバンテージがある人が、特別な言語を使って得をするという社会は出来れば早くなくなってほしいです。インターネットを一部の人たちにしか使わせないというのと同じだと思います。英語ができるようになるというのは、“大きな図書館の鍵”を渡されるようなものです。一人ひとりの人生にいろんな可能性を与えてくれます。
また言語を学ぶことで、情報だけではなく元気ももらえると思うんです。英語がわかれば、日本の社会だけではなく、海外の起業家がどんな風に活躍しているのか、といった話題も知ることが出来ます。そういう事例をたくさん知るようになれば、中には自分でもできそうなものが見つかるかもしれません。英語がしゃべれるっていうのは、そういうことだと思います。どうも偉そうにすいません(笑)。
プロフィール
高松珠子(たかまつ たまこ):オーバリン大学卒業後、クラシック音楽関係の米系企業の日本駐在などを経て、フリーランス通訳者。日本外国特派員協会の記者会見通訳を数多く手がけている。FCCJ名誉会員。■関連記事
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