※この記事は2014年04月14日にBLOGOSで公開されたものです

赤木智弘の眼光紙背:第318回

 2001年に発売されて以来、多くのユーザーに長きにわたって利用されてきたパソコン用OS、WindowsXPのサポートが4月9日いっぱいをもって終了した。(*1)

 サポートが終了することにより、今後はセキュリティーに問題が発生しても、根本原因を回収するアップデートは提供されず、ハッキングに対して時間が過ぎれば過ぎるほど脆弱となっていく。

 たとえウィルス対策ソフトを利用していたとしても、ネットでみた秀逸な喩えを引用させてもらうと「ドアや窓が開けっ放しの家に、セコムを導入するようなもの」であり、とても安心であるとは言えない。

 決してパソコンが動かなるわけではなく、表面的にはこれまでと同じように動作はする。しかし、そこにデータがあれば、個人情報を狙う者からすれば格好のターゲットになる。

 使用者本人のデータが盗まれ、悪用されるだけなら自業自得で話は済むが、他人のデータが盗まれ悪用されれば、多くの他人に迷惑をかけてしまう。これが業務上のことであれば信頼を失い、仕事に差し支える可能性すらありうる。

 あまりネットを使わないからなどと、たかをくくっている人たちは、早急に新しいOSへの移行をするべきだ。もはや「検討」などと悠長な事を言っている段階ではない。

 それにしても、1つのOSが、さまざまなアップデートを経ているとはいえ、10年以上使い続けられるとは、すごい時代になったものだ。

 かつてのパソコンは「ムーアの法則」などと言われ、日進月歩で高性能化が進み、過去の製品はどんどん型遅れになっていき、数年で買い替えというのが当たり前のサイクルだった。これまでどおりのサイクルで買い替えが進めば、今回のXPのように「ユーザーがOSを買い替えてくれない」という問題は、業務用であればともかく、個人ユーザーではあまり大きな問題にならなかったに違いない。

 ここしばらくは、あまり身の回りでも買い替えという話を聞かなくなってきた。僕自身も未だに2007年のPCを使い続けている。それでも機能そのものに不満はあまりない。

 もちろん、それこそ部品1つ1つの製品の品質が上がったというのもあるのだろう。しかしそれ以上に僕は、パソコンで動画を見られるようになって以降、それほどパソコンの使い道が広がっていないということが、買い替えサイクルが鈍化した原因だと考えている。

 パソコンで高画質の動画をフル画面で見られるというのは1つの到達点である。
 かつてはアルファベットしか使えなかったパソコンが、多くの漢字を使えるようになった。画像も使えるようになり、OSもグラフィカルなものに変化した。そしてCD-ROMなどの大容量の外部記憶装置の普及により、小さいながらも動画が再生できるようになった。

 さらに、インターネットが普及し始めると、ネットを経由して音声データをリアルタイムで届ける電話の真似事ができるようになった。そして、パソコンの高性能化と、ネット回線の高速化によって、自宅に居ながらにして、映画なども見られるようになった。そうして、既存のメディアでできることのほとんどは、パソコンで出来るようになった。

 これから先は4K解像度などへの対応になっていくのだろうが、動画が自由に扱えるようになったことで、次に「既存のメディアでできることが、パソコンでもできたら便利だな」と思えることが無くなってしまった。

 こうなると、消費者にとっては新しいパソコンを買うことのメリットが見えなくなってくる。今でも高性能化を求めているのは、パソコンで高画質なゲームなどをプレイする、一部のユーザーだけだろう。

 そして、ニーズの少ない高性能化よりも、ユーザーの利便性を向上させるための小型軽量化が進んだ。結果、パソコンの刷新ではなく、スマートフォンやタブレット端末への移行が進んでいる。

 WindowsXPから新OSへの移行の遅れは、「メールとネットが見れて、たまに動画再生できればいいや」という多くのライトユースが、パソコンを買い換える必要性を感じなくなったから起きた現象である。

 そして、この問題に対する解決は、ライトユースに新しいOSを入れてもらうことよりは、タブレット端末等の新しいハードを導入してもらうことであろう。

 せっかくXP終了ということがあったのだから、個人ユーザーに向けたSurfaceの割引販売などがあればよかったのにと、個人的には思う。

 WindowsXPの終焉は、パソコン時代の終焉である。
 しかし、パソコンはタブレットやスマートフォンに変化し、これからも僕たちにとって必要な製品で在り続けるだろう。

 そしてまた、タブレットやスマートフォンの時代が終わるときに同じような問題が起こるのかもしれない。僕はその問題の発生を心配するのではなく、更なる変化を楽しみにしたい。

*1:Windows XP、Office 2003 サポート終了の重要なお知らせ(Microsoft)