都知事選、“中の人”から見てどうだった?~新田哲史×宇佐美典也×原田謙介鼎談~ - BLOGOS編集部
※この記事は2014年03月25日にBLOGOSで公開されたものです
舛添氏が211万票余りを獲得するという結果で幕を閉じた東京都知事選。今回の都知事選には、BLOGOSに参加するブロガーもさまざまな形で携わった。そこで、家入陣営のスタッフとして奔走した新田哲史氏、途中まで田母神陣営に参画した宇佐美典也氏。「ASK TOKYO 2014」などネットを使った取り組みで投票率向上に取り組んだ原田謙介の3人に今回の都知事線を振り返えると同時に、解禁から2回目となったネット選挙運動の今後などについて語ってもらった。【構成:永田 正行(BLOGOS編集部)】マスコミの政策アンケートは候補者を値踏みするための“踏み絵”
原田謙介(以下、原田):新田さんは、「広報担当」ということで家入陣営に参画されていましたが、具体的には、どんなことをされていたんですか?
新田哲史氏(以下、新田):本来であれば、メディア戦略全般を担当したかったんです。僕は去年、鈴木寛(元民主党・参議院議員)さんの選挙にかかわりましたが、その時はスピーチの部分も含めて、どういう方向で打ち出すか、といった部分にも関与しました。ですが、今回はっきり言って、物理的にそこまでの余裕はありませんでしたね。
都知事選はメディアの影響が大きいので、最低でも告示日の前日までに記者会見をやらなければならないのですが、このイベント一つやるだけでも、記者クラブ側と調整など非常に手間がかかるんです。
家入さんの場合、一般的な知名度はそれほどないので、やはり堀江貴文さんも同席させた方がインパクトがあるだろうと。堀江さんは協力的だったのですが、会見予定日の中で堀江さんの空いている時間がすごく限られていて調整に苦労しました。幹事社の日経新聞さんに、「どうして、その時間がいいのか」と聞かれて、「いや、ちょっと候補者本人が恥ずかしがり屋で友だちがいないと会見できないと言っていて…」と答えたら「友だちじゃなくて本人が会見するんでしょ!」とメッチャ怒られて。まったく正論なんですけど(笑)。
既成政党の場合、一般的には、候補者本人がいて、選対本部で一番偉いのは選対本部長。事務方をしきるナンバー2として、選対事務局長がいるという形が多いですね。今回、松田馨さんが、家入陣営の本部長を務めていました。だから、僕は事務局長兼広報担当という感じでした。
原田:家入さんは初出馬・無所属ですから体制作りは大変だったと思うんですけど、鈴木寛さんのときと比べるとスタッフの規模というのはどれぐらい違うんですか。
新田:鈴木さんは、最近まで与党だった政党にいた方ですから、体制は全然違います。家入さん、選挙が始まった段階では4~5人。1月23日時点では、本当にコアで動いているのは、10人ぐらいのメンバーでした。都知事選のような規模で通常、こんな少人数で動くことはありえないですよ。
鈴木さんの事例でいうと、落選中の元衆議院議員や都議会、区議会議員なども応援にきているので、常に数十人単位で動いています。会議をやれば、参加者が20人をきるということはまずありえなかった。加えて、運動員やボランティアの方がいらっしゃるので、全然規模が違いますね。
原田:田母神陣営はどれぐらいの人数がいたんですか?
宇佐美典也(以下、宇佐美):選対のスタッフといわれる人はだいたい30人ぐらい。別働で三橋貴明さんみたいな政策検討する人が10~20人ぐらい。あわせて50~60人ぐらいですかね。
でも、結構リソースが偏ってましたね。街頭で活動するためのスケジュールを決めたり、協力してくれる演者とか弁士を確保したりっていう人たちばかりで、ネットとかに対応する人がいなくて。最初は僕がそこを引き受けていたんですけど。
新田:参院選や知事選といった都道府県単位の選挙であれば、コアメンバーは30~40人ぐらいの規模が普通だと思います。ただ、最近ネット選挙が解禁されたことで、プラスでネット対応のスタッフが必要になります。鈴木さんの場合は、教え子などがどんどんボランティアで入ってきたので、それも含めたら、70~80人ぐらいになるんじゃないですかね。
おそらく今までは、地上戦で街頭演説とかゴリゴリ決まったことをやっていればOKという部分もあったと思うんですけど、参院選や特に都知事選のようなメディアの注目が高い選挙では、政策的な部分が問われることになります。なので、政策という“コンテンツ”を打ち出していくことが重要で、そうした政策ブレーンの数というのは、通常の衆院選、少なくとも参院選よりも多いのではないかなと思います。
原田:有権者から見ると、選挙のスタッフというと演説の手伝いやビラ配りをしたり、というイメージがあるので、バックエンドの人たちがどういう作業をしているかわからないんですよね。政策を作る人が必要だというのはわかるんですが。
宇佐美:僕が当初やっていたのは、マスコミから来るアンケートに、どういう回答をするか、というのをひたすら考えてました。都知事選の場合は、候補者のプロフィールや政策アンケートなど、膨大な数の資料が各メディアから送られてくるんですよ。マスメディアに加えて、最近はネットメディアや、それなりに名前のある市民団体などからも「あなたこの件についてどう思ってるの?」という資料が、ガンガン送られてくるので、その対応窓口をやっていました。
コアな政策は決まっているのですが、細部は決まっていないので、それは選挙しながら考えていくわけです。「こういうお題が来てるんですけど、この政策についてどうします?」というのを、他の政策スタッフと話して「こう回答しましょう」と。たまに田母神さん本人にも確認して…というデスクワークですね。
新田:政策アンケートも、候補者の得意分野ばかり聞いてくるわけじゃありませんからね。むしろあまり知らない分野のほうが分量としては多い。田母神さんは防災や危機管理、家入さんは「コミュニティづくり」、そういった話は得意だけれども、まったく得意じゃない分野もぼんぼんくるわけです。
このアンケートについて一言いわせてもらうと、若干マスコミ批判になってしまうんだけど、都政とまったく関係ないとんちんかんな質問が多い。「特定秘密保護法について、どう思いますか?」みたいな「それ本当に都政と関係あるの?」みたいなものですね。原発はまだエネルギー大消費地として関係がありますが、特定秘密保護法が都政になんの関係があるのかと。そういう間抜けな質問を某新聞が送ってくるわけですよ。特に左派系のメディアに多いです。
宇佐美:憲法9条、特定秘密保護法、原発、集団的自衛権、靖国参拝…。このあたりは聞いてきますね。NHKはさすがに良心があるのか聞いてこないですけど。
新田:毎日、朝日新聞は踏み絵を踏ませてきますよね。
原田:有権者に知ってもらうためにと言うよりも、その新聞のフォーマットのために聞いているということですか?
新田:もちろん、選挙戦の中盤ぐらいの都内版の面数が多い日に特集ページで一覧表を掲載して、読者に見せるためでしょう。でも、特に朝日さんとか毎日さんの場合は、そこで候補者の品定めをしたいから、まったく都政とは関係ないものをいきなり投げてくるわけですよ。
原田:朝日や毎日の読者は、その話題を知りたいかもしれませんしね。一方で、例えば、東京都の青少年条例や保育所の整備の話など、東京ならではのミクロな問題もありますよね。そういう話題とのバランスはどうですか?
新田:それは、メディアによりますね。さすがに朝日さんや毎日さんもそこのバランスはちゃんとしていて基本は都政の質問です。ただ、「こいつは右のポジションだよ」という感じをあぶりだしたいという意図を持った質問なのかもしれません。
原田:最終的な紙面を見ると、○×△で表示されてたり、「無回答」みたいなケースもあったりするんですけど、無回答というのもありなんですか?
新田:逃げの戦術というのは全然ありですよ。今回舛添さんは選挙戦全般でアウトプットはすごく慎重にやってましたよね。
原田:僕が企画したTwitterで候補者に質問に答えてもらう「ASK TOKYO 2014」でも、舛添さんが答えてくれたのは、「好きなおにぎりの具」とか「座右の銘」「好きな歴史上の人物」とか。外国人参政権や少子化にも触れてましたけど、あんまり政策的なことについてはいわなかったですね。
新田:舛添さんの場合、支持層が自民、公明と幅広いですからね。さらに都知事選の場合無党派もとらないと勝てないから、 あんまりエッジを立たせない戦略だったんでしょう。
今回の都知事選に敗者はいない?
原田:舛添さんは自公の支援を受けてある程度の組織票が計算できる。この組織票に対抗するために、どういう取り組みをやるものなんですか?得票を増やすための具体的な戦略とか戦術ってどういうものなんでしょう?宇佐美:基本的に田母神陣営は無戦略だったと思いますよ。
新田:大丈夫?(笑)。怒られるよ?
宇佐美:これは事実で。いままで街頭で活動してきて、聴衆にうけるようになって、ネトウヨというか現在「新保守」といわれる人が増えてきて、「この勢いでいくんだ」ということで、ひたすら街宣という考えでしたね。
街宣での戦術レベルは日々改善して工夫していましたよ。保守のお祭りをやってると、みんながひいちゃうから女性を前面に出して柔らかいイメージを作ろうとか。「そうだそうだ」みたいな合いの手よりも拍手を増やそうとか。効果も徐々に出ていました。でも、それは戦術じゃないですか。
陣営の中で議論になったのは、「自民党票を割らないと勝てない」という話でだったんですが、そのためにはもっと「戦略」として、いろんな仕掛けをしていくべきだったんじゃないかという思いはあります。自民党から公式な支援を得られなかったとはいえ、安倍首相の周囲にいる人の中には、あまり舛添さんをよく思っていない人も多い。だからそういう人と田母神さんの対談を組んで取り込んでいって、舛添支持を公言しづらい環境をつくらなければいけない、といったような提案を僕自身としてはしたんですよ。結局追放されて実現しなかったんですけどね(笑)。イケイケドンドンで精緻な票積みの議論なんかはまったくなかったです。
原田:勝つための具体的な算段みたいなものはなかったんですか?
宇佐美:元々大部分の人が勝ちにいってないんですよね。田母神陣営には、チャンネル桜の関係者が多いのですが、そういう人たちの“お祭り”なんです。普段からの企業活動、デモ活動の延長でやっている。もしかしてもっと深い議論がなされていて、そもそも戦略目標が勝つことではなくお祭りをすること自体にあったのかもしれませんが、下っ端の僕が知る世界ではありませんでした。
原田:家入陣営は、どうだったんですか?
新田:これは信じられない話なんですが、選挙プランナーの松田さんがチームに入ってきたのは、告示日と同じぐらいのタイミングでした。ある方が「家入さんが始めて選挙にでるから逮捕されないようにしてやってくれ」とリーガルチェックをするため、要するに引率の先生を松田さんにお願いして引き受けていただきました。それで後は、高木新平君とかの若手が、思いきってネットを使って家入さんがやりたいようにやらせると。違反にならない限り、とことんふりきってやるという考え方でした。
通常、選挙プランナーというのは何ヶ月か前から陣営に入って、過去の選挙3回分ぐらい得票の動向を分析するんです。そして、「過去の傾向からするとあなたに近い候補者はこれぐらいとってる。だから、今のままだったらあなたの得票はこれぐらいです」というのをやる。なので、今回のように選挙プランナーさんが告示日と同時に入るというのは通常ありえない。
とはいえ選挙戦17日間は長いので、 序盤に松田さんたちと話し合って、「最低限の目標は決めよう」という話になりました。目標は建前上、当選と言わなければいけないのですが、一つベンチマークにしていたのは、三宅洋平さんの数字です。彼の場合は、全国区でしたが、ネット主体で票を動かして比例区で17万票集めた。この数字から、もし都内で20万票を超えたらネット中心の選挙戦で票を掘り起こしたことになるだろうと考えました。これは「当選」を目指して一生懸命、本気でやっていた家入ファンの若い子には申し訳ないですが、現実はそんなに甘くないですよ、やっぱり。
この20万票を取るために、有権者の価値観の分析をするんですね。「大きな政府と小さな政府」「リベラルと保守」といったカテゴライズで有権者の志向を分析していく。家入さんの場合、今回出た候補者の中では、唯一「小さな政府×リベラル」という立場だったと思うんです。同じリベラルというか左側でも宇都宮さんが目指すのは大きな政府。舛添さんは小さな政府志向だけれども公共事業好きの自民党支援なので、大きな政府と中間ぐらいかなと。
この価値観 に近い有権者はどこにいるんだろう、と考える。そして、これを去年の参院選の票にあてはめるんですね。自民党と公明党支持の有権者は入れるところが決まっている。その時点で舛添さんは最低でも170万票ぐらいとるだろうと。昨年、東京選挙区内で組織基盤なしに票を稼いだのは維新の会とみんなの党です。この2党の候補、小倉淳さんと桐島ローランドさんの計70万票。こうした人たちは、全部が一致するわけじゃないけれど、維新やみんなを支持したならば、社会観や家入さんのビジネス志向の部分と親和性が高いだろうと考えたわけです。これは、政策集めて分析するときに、一つの指標にはしましたね。
原田:田母神陣営よりは「どこをとりに行くか」という意味では、比較的戦略があったわけですね。
新田:うちの場合逆に戦略はあったんだけど戦術がしっかりしてなかった。
原田:確かに、今お話されたような家入さんの基本的な政治姿勢とか、小さな政府、リベラル志向みたいな話ってあんまり表に出てきませんでしたよね。
新田:戦略を考えられる人間はいたんですが、まずそもそもお金が全然なかった。供託金を堀江さんから借りているぐらいですから(苦笑)。選挙カーや選挙事務所もスタートした時はない。つまり、リアルの選挙が初日からできないわけですよ。
新聞で取り上げられましたけど、選挙事務所の地図一覧みたいのを出すときに“家入陣営事務所なし”なんて書かれて。これはギャグとしては面白いかもしれないけど、やっぱり選挙活動の拠点がないわけですから、それは痛いですよね。タラレバは禁物なんだけど、せめて、あと10日早く動けてればもっといろいろ準備できたんだろうなと。たとえば、選挙カーの発注とかそういう準備はできたはずですから。
原田:正直、一般的な知名度でいえば、舛添さんと細川さんが圧倒的ですよね。それに次いで前回出馬した宇都宮さん、その次に田母神さんといった感じでしょう。家入さんは一般的にはそれほど知られてないでしょうし。「主要候補」みたいな形で、マスコミが決めてしまうという部分もありますけど、そもそも知らないとパッとみたときに投票先の候補にならないっていう部分はありますよね。
宇佐美:やっぱり組織の支援がないと勝てないですね、都知事選は。田母神さんも組織票はなかったから。
新田:多少はあったでしょ?
宇佐美:石原さん系や経済界でどうしても原発を動かしたい人などが、資金面や票の面で手伝ってくれるというのはありました。でも、やっぱり東京だったら創価学会70万票は大きい。創価学会が応援して負けた事例というのはほとんどないんじゃないですかね。
原田:それを考えると、舛添さんが勝つというのはメディアでも報道されていましたし、なんとなく普通の有権者でも知ってたと思うんですよね。なのに、何故、一応反原発を主張する人たちが、何人も出ちゃったんでしょうね。そこには個人的にも違和感があるんですよ。
宇佐美:そういう意味では他の陣営も含めてみんな勝つ気はなくて、普段の活動の延長線上でやってる。共産党は共産党のお祭りの延長で、田母神さんはチャンネル桜のお祭りの延長だった。
新田:今回の都知事選について、鈴木寛さんが面白いことを言ってましたよ。「今回の都知事選に敗者はいなかった」と。どういうことかというと、「勝つべくして勝った人」「言いたいことを言った人」「やりたかったことをやった人」という風に、みんな目的を達成したわけです。
原田:そういう意味では敗者は有権者ですよ。有権者は完全に無視されてるわけじゃないですか。
候補者同士のガチンコの議論がもっと見たい
新田:原田くんは、この中では一番若いから、そういう意味では家入陣営と親和性が高いと思うんだけど、家入さんの選挙戦をどう見ていたんですか。終わったことなんで、率直に聞かせてください(笑)原田:僕が誰を支持したのかというのはさておき、家入さんの選挙戦は、本当に実験的でよかったと思います。「こういうネットの使い方があるんだ」とか、「このグレーゾーンがいけるんだ」というような発見がありましたね。クラウドファンディングとかもグレーじゃないですか。あれがOKなのであれば、今後も使えるので、すごくいいなと思いましたね。でも、有権者からすると、ちょっとなめられているというか、見てないんだなと思う部分もありましたね。
新田:たとえば、どういうところ?
原田:「ぼくらの政策」をやったじゃないですか。あれは、すごく面白いけれど、それに対して「決めてからでろよ!」という意見もあると思うんですよね。やっぱりほとんどの人は、自分で政策を提案するよりも、政策を見て決めることになると思うんで。それは選挙戦の前の段階でやっておくべきでしょう。当選しなければ、実際に声を届けてもアウトプットする先が用意されてないわ けですし。
新田:それは他の人も批判してたよね。クラウドファンディングにしろ、「ぼくらの政策」にしろ、初めてだったので、振り切ってやったんだけど、あれを選挙の直前にやりすぎると事前活動行為とみなされる恐れがあるんだよね。特にお金のほうは。
原田:あと今回、家入さんがツイキャスで細川さん、宇都宮さんと対談しましたよね。あれはすごく面白いと思うのですが、一方で物足りないのは、仲がいい感じで終わっちゃうこと。もっとガチンコでもいいと思うんですよ。
新田:選挙中に候補者同士がああいう形で対談するのはかなり異例ですよね。今回の我々の取り組みは、選挙中に他の政治家からも「面白い」と評価する声をかけてもらいました。
でも、最初に細川さんと対談決まったときは、他陣営の関係者からも「大丈夫?」と心配する声があったぐらいなんです。確かに、「なあなあ」に見えるし、細川さんに取り込まれているように見られてしまう恐れもある。おそらく細川さんは若者票を取り込むために擦り寄ってきたのでしょうから、リスクはあったわけです。でも、細川さんは選挙前に候補者討論会とかに全然出てきていないので、他候補と基本会ってない。そもそも今回の都知事選がおかしくなったのは、 脱原発という謎めいたアジェンダ設定が行われたからで、そのモヤモヤを細川さんの話を聞くことで何とかしたいと思ってたんですよね。あとは家入さん本人の力次第。取りこまれてしまうかどうかは賭けでしたね。
原田:アメリカの大統領選みたいにガチンコでいってほしいっていうのがあるんですよね。だから、家入さんと細川さんが「そうだよね。がんばろうね」みたいな感じになっているのに違和感があって。喧嘩ばっかりしててもしょうがないと思う人もいるだろうから、どっちがいいのかはわからないですけど。
宇佐美:そこは難しいところだよね。田母神陣営なんかはすべて敵だと思っているし、宇都宮陣営もちょっとそういうところがある。でも、そうなるとすごく偏狭になっちゃう。「俺たちが正しくて、他の人が間違ってる」という風に凝り固まるから、理屈も補強されて「尊皇攘夷」みたいになって柔軟な発想がなくなっちゃう。そうなると、支持の広げようがないよね。討論は強いかもしれないけど。
僕はそういう意味では家入さんは結構よかったと思ってるんですよ。僕が田母神陣営を追放された理由のひとつは、「家入さんと対談組みませんか」と提案して、家入陣営のスパイだと疑われたという部分が結構あるので(笑)。ガチンコで対立する問題はしたらいいと思いますけど、すべてにおいて対立する時代はもう終わったと思う。
原田:それは理解できるんですけど、だからこその違和感なんですよね。共感できる部分もあっていいけど、対立する部分も当然あるからそこはガチで議論してもいいだろうと。
新田:あの対談は、陣営同士でやっているから第三者的な進行がいない。基本候補者のフリートークで、流れを決める人がいない。家入さんも、ああいう人だから誰でも基本仲良くしちゃう。たぶん、田母神さんと話しても仲良くしちゃうんですよね。この手の対談スタイルには課題を残しました。
家入さんと田母神さんは似ている??
宇佐美:家入さんと田母神さんって言っていること似てるんですよ。田母神さんも「高齢者と若者がお互い協力し合うコミュ ニティをつくりたい」と、ずっと言っていたんですよね。これって家入さんに近いんですよ。だから会わせればいいんじゃないかと思ったんだけど、スパイ扱いされて(笑)。新田:田母神さんは「町内会」、家入さんは「居場所」と言い方が違うだけで、問題意識は一緒なんですよ。結局首都直下地震で救助が遅れます、となったときに、隣近所知らないよりは、日ごろから付き合い、コミュニティがあったほうが助け合うことができる。
宇佐美:田母神さんは、キャラクターとしても家入さんと本当に似てた。
新田、原田:本当??
宇佐美:本当、本当。こだわるところはこだわるけど、後は「専門家が議論して決めればいい」っていうスタンスなんですよね。任せるところは任せるんだと。「柔軟に その場で対応できる体制を作るのが大事なんだ」といって強く主張しないんですよ。キャラクターも似てるし、言っていることも似てる。ただ国家間だけ違う。だから、相性はいいと思ったし、会ってほしかったんですよね。
両方とも立場は違うけど、既存のカチカチの世界、価値観。大卒・正社員・長期雇用みたいなところから漏れた人たちが支持している二つの陣営だから。支持している人たちの背景も似ていて、その回答をどこに求めるかで変わると思うんですよね。自分たちで自由に国家という枠組みをこえようというのが家入さんで、国家というものの考えを直そうというのが田母神さん。
原田:でも、メディア的には「若者の右傾化」みたいな総括されちゃってますよね。あれぐらい若者層から票が取れるっていう読みはあったんですか?
宇佐美:田母神陣営に予想はなかったから。よその予想を借りてきて、当初30万といわれていたのが60万まで伸びたっていう感じですね。
新田:マスコミ的には、「ネトウヨ層が投票にいった」「若者がネトウヨ化している」的な方向にもっていこうとする部分も多いけど、普通に政策を比較検討して田母神さんに投票した人もいるわけだよね。原田くんの周囲の若い人というのはどうだった?
原田:僕の周りの人は田母神さんを知らないし、論文事件も知らない。「面白い名前の人だね」ぐらいの人もいるので、ニュートラルに政策比較した人もいるかもしれないですね。
宇佐美:結局、田母神さんをコアに支持している若者というのは、情報源がマスコミじゃない人だと思うんですよ。そういう人は、ニコニコとかヤフーニュースとか2chまとめとか、そういうところから情報取る。であれば、自然と田母神支持になりますよね。今の若者の半分ぐらいがマスコミからじゃなくてネットを中心に情報をとっている。そのさらに半分ぐらいが支持すればあれぐらいの票になる。右傾化じゃなくて、情報源の違いに過ぎないんですよ。
ただ、田母神さんの周りにいる人の多くが右っていうのは間違いない。しかも偏狭な右。ほかの価値観を受け入れない。「守るところは守って、意見の違いは認めようよ。調整すればいいよ、そのために議会があるわけだし」みたいな考え方はもってない。「国家とはこうあらなければいけない」みたいな土佐勤皇党みたいな ところなんですよ。
新田:まぁ石原さんの今までの得票と言動を考えれば急に右傾化ってわけでもないでしょうしね。
ネット選挙はコアな支持者を掘り起こすことができる
宇佐美:新田さんは、参院選、都知事選とネット選挙運動に関わってきて感じた手ごたえとかメリットとかはあります?新田:これは音喜多駿くん(みんなの党所属の都議会議員)がブログでかいてるんだけど、ネットでは票は取れないものの、運動員というかコアな支持者はネットで掘り起こすことができるんですよ。
音喜多くんは、ネット選挙解禁前の都議選が最初の選挙で初当選したんだけど、彼はもともとブロガーとして、そこそこ有名だったらしいんですよね。それで初めて選挙でたとき、普通“ジバン、カンバン、カバン”がない新人の候補者はボランティアとかの人を集めに苦労するのに、彼は登録ベースで400人ぐらい集めたんですよ。これが可能になったのはネットのおかげでしょうね。彼自身も「10年前、ネットのない世界だったら僕は絶対選挙に出てなかった」といってます。家入さんも今回、僕ら最初スタートしたときは3~4人だったのが、登録ベースで2500人ぐらいボランティアが facebookページできました。
一緒に動いてくれる人たちを募れる。家入さんも今回クラウドファンディングで740万ぐらいあつめたけど、新人候補でもカネと人を集めやすくなったという意味では間違いなく選挙の敷居を下げたと思います。ネットがなかったら新規参入、政党のない候補が選挙にチャレンジするというのはもっとやりづらいでしょうね。
あと、ポスターがはがれたり、間違った場所にはると、「そこのポスター貼りなおしてください」と、東京中の選管から連絡が来るんです。困ったことに今回、選挙戦終盤に小笠原諸島の父島で貼り間違いがあったんですよ。剥がれたら放置でいいんですけど、貼り間違いは放置すると、ほかの候補者の場所を占有しているので選挙妨害に問われかねない。貼りなおしに行かなきゃ行けないけど、貼った人間も島の人間じゃなかったので、「どうしましょう、困ったね」とボランティアのfacebookに投稿したところ、たちまち反応があって、あっという間に小笠原に住んでる友達を捕まえて貼りなおしてくれたんです。これはさすがにネットならではと思いましたね。
宇佐美:田母神陣営もボランティアとお金はすごかったです。個人献金はひっきりなしにきてました。あと、家入さんが政策をあれだけつくりあげたというのはすごいことだと思います。本当にネットの可能性を利用しているのは家入さんですよね。
原田:あれは官僚だった宇佐美さんの目から見てもいい政策ですか?
宇佐美:120あったら100ぐらいは「たいしたもんだなぁ」と思えるレベルですね。組織の支援を受けている人は、その組織の顔色を見ながらネットを使うことになるのでフラットに意見を取り入れられないんですよね。強力に支持してくれる人がいるから、そこの人たちの許可なしにものが言えなくなっちゃうんですよ。後援会とかがあったりすると、ネットをつかいこなすのは難しいから、ネットを利用した選挙って言うのはまったく新しい流れにおいて出てこなきゃいけないとは思う。
原田:だから、舛添さんは好きなおにぎりの具とかしか答えられない(笑)。
ネット選挙運動の浸透はメディアイノベーションにつながる
宇佐美:ネットツールで可能性を感じたのはボートマッチですかね。都知事選ぐらいだと候補者の顔を知ってるから、「この人に入れたい」という思いがあって、あまり機能しないですけど、そもそも顔知らない市議会議員レベルだと、ボートマッチみたいな仕組みってもっと機能しますよね。誰も知らない中で誰を選ぶか?となるとそういうツールが参考にしやすい。
原田:でも、市議選レベルでつくれますかね?
新田:作れるとは思うんですよ。僕はかつて記者をやっていたのでわかるのですが、津々浦々の村長選レベルでも全部候補者に調査票とプロフィール書かせるんですよ。だから、記者クラブメディアが協力して、全社共通の統一書式をつくって候補者に聞いて、それを各社で出資した企業が各選挙用のシステムに落とし込む。実際は、しがらみがあって実現は難しいだろうけど、オールドメディアが培ってきたリソースとコンテンツをネット時代にカスタマイズすることで全国津々浦々の選挙に対応したボートマッチサービスはできるんじゃないかなと思うんですよね。候補者の負担や効率考えると、統一書式は作ったほうがいいでしょうし。
宇佐美:新聞が嫌がりそうですけどね。ビジネスモデルも作りづらそうですし。
新田:取材対象である選挙や政治がネット化すれば、オールドメディアもネット化せざる得ない。初日にほかの候補者がマイクを持っている中、家入さんだけがスマホを持っている写真が話題になりましたけど、あれは結構象徴的なシーンだと思ってるんですよ。いままでの選挙というのは、ある種古典芸能化していて、取材している側もいつしか惰性的に古典芸能化していた。
それがネットの参入によって、新しい動きが出てきて地殻変動が起こりつつある。マスメディアもネットの時代に入って本当に対応しなきゃいけないし、長期的にはメディアイノベーションにつながっていくと思う。数日前に、朝日新聞で「データジャーナリズムハッカソン」というイベントがありましたけれども、そういう動きが起こってきたのは偶然じゃないと思うんですよ。
宇佐美:そうはいっても220万人はTwitterでほとんど何も答えない舛添さんに投票したので、有権者から見るとそこはやっぱりマスメディアの影響が大きい。だからこそ、マスメディアの影響力の外、区長選レベル、いままですべて組織票で決まっていたみたいなところではネット発の地殻変動が起こる可能性があるかもしれない。インターネッ党が23区にどういう形で挑むかわからないけど、一つでも独自候補出して勝ったら、それはすさまじいインパクトですよ。中央区なんて1987年から区長変わってないですから。
原田:ネットってやっぱり「ニッチな分野でバズる」みたいなところに強みがあるから、マスコミが取り上げない話題とかを、選挙のときに自分で争点つくって、それがほんの一部かもしれないけど関係ある人につながっていくというのが、首長選レベルだと面白いかもしれませんね。
宇佐美:本来の選挙の形に戻っていくと思うんですよ。マスコミが出てきてから、むしろ選挙って壊れたと思うんです。地方議会とかも、マスコミが取り上げないから興味ないみたいになってしまって。もともと選挙って、俺たちの友達がでるから、ボスがでるから応援しようみたいなノリだった。それがどんどん立候補のハードルがあがって出にくいものになっていった。それが地方レベルでは元の選挙に戻るんじゃないかと。昔からの友達がでるから、ネット使えば安いし、みんなで応援しようみたいな感じで地殻変動が起こるんじゃないかなと。
新田:やっぱり実戦経験しないと、選挙のいろんなものは発展しない。そういう意味では都知事選という大型選挙が行われたことで、これで日本のネット選挙の進化は数年早まった。これがなかったら来年の統一地方選までなかったわけですから。
僕は参院選と今回、両方かかわったけど、この半年で相当進化した。去年の夏はまだおっかなびっくりだったけど、今回それぞれの候補者がネットを通じて、お金を集めたり、人を集めたり、政策を集めたりした。これでかなり本当の意味での日本流のネット選挙の基盤ができたと思う。
原田:課題になった部分はありますか?デマへの対応とか。参院選のとき、鈴木さんと山本太郎議員がかなりやりあいましたよね
新田:確かに、ネット選挙の課題は、ディフェンス。これはまだ弱い。ネットのデマについては鉄壁のディフェンスはできないですよ。
参院選の時は、山本太郎の支持者の人たちが、勝手に鈴木さんのSPEEDIに関する誤った情報をものすごい勢いで流布した。こちらは動画で反論したり、専門家の声を紹介したけれども届かなかった。
同じような状況になった場合の対策を僕もずっと考えているけど、結論はでていない。ネット上のネガティブキャンペーンは無視することができるけど、山本太郎周辺の人がすごかったのは、そうした誤った情報をもとに、本人が「鈴木さんは子供を守らなかった」みたいなことをいって広めていくので、ネガティブキャンペーンのO2Oが完成したわけですよ。だから、これは無視できないと思って、われわれも反論した。そもそも反論できるようになっただけでも大きいんですよ。かつては中傷ビラまかれたら反論できる方法すらなかったわけですから。
原田:僕はそれだけネットで盛り上がるネガキャン、デマみたいなものを打ち消すことこそ、マスメディアがやるべきで、そこが役割だと思うんですよ。そこの信頼感ってまだまだあると思うんですよね。候補者同士やネットの中だけでそこを是正するのは無理なので。
新田:さっきいったように、マスメディア側が選挙期間中にやることは伝統芸能になっているので、そこからはずれるようなことはなかなかできないですよね。中傷合戦になろううがノータッチ。公示・告示後の“いざこざ”には関わりたくないというのが本音でしょうね。
原田:そこはかわってほしいですね。
-最後に皆さんの今後の活動について教えてください。
宇佐美:僕は田母神さんから追放されて、いろいろと放浪した末に、最終的にインターネッ党を手伝うことになりました。
原田:スパイ説を補強する結果になってるじゃないですか(笑)
宇佐美:やっぱり新保守は偏狭なんですよね。個人的には考えが一致する部分も多いんですけど、80%考えが同じ人を受け入れない世界なんですよ。95%超えてないと保守とは認められず、20%意見が違うと左翼という扱いされてしまいますから。一方で、インターネッ党は、「まぁそういう人もいるよね。大事なのは居場所だから。これだけ合致すればいいよ」みたいな感じなので、すごく居心地がいい。
原田:今回、「ASK TOKYO 2014」やってすごくよかったのは、「ああいうの、自分の町で選挙あったときに使いたいんだけど」みたいな問い合わせがあったことなんです。僕は ITのことはそれほど詳しくないので、スタッフにやってもらったんですけど、あれをどの選挙にも汎用できるような形にしたいんですよね。そんな風にITを使って、選挙を盛り上げるとか投票率をあげるとか、そういうプロダクトを作っていけたら面白いなと思ってます。また来年統一地方選もありますし、こんなツールが使えた!みたいのは作りたいですね。
新田:僕はせっかく最初の2回のネット選挙を「中の人」として経験したので、それを生かしていきたいです。でも、政治家向けのビジネスはあんまりもうからないので、基本的には、企業の広報を手伝いつつ、選挙の時期になったらそういう業務もやると。あと、僕も乗りかかった船ということで、今後もインターネッ党に何らかの形でかかわるとは思います。
―皆さん、それぞれの立場でのご活躍を期待しています。今日はありがとうございました。
プロフィール
原田謙介(はらだけんすけ)1986年岡山県出身。東京大学卒。NPO法人YouthCreate代表。2008年4月同世代の政治への関心の薄さ、未来をみない政治に問題意識をもち、20代の投票率向上を目指しivoteを結成。インターネット選挙運動解禁を目指す「One Voice Campaign」発起人。元内閣府子ども・若者育成支援推進点検・評価会議委員。
・NPO法人YouthCreate
・OneVoiceCampaign
・・Twitter:@haraken0814
宇佐美 典也(うさみのりや)
1981年、東京生まれ。東京大学法学部を経て経済産業省へ入省。企業立地促進政策、農商工連携政策、技術関連法制の見直しなどを担当。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)への出向を経て退官。
・本人のブログ:うさみのりやのブログ
・BLOGOS:うさみのりやの記事一覧
・Twitter:@zettonu
新田 哲史(にった てつじ)
広報コンサルタント/コラムニスト。新聞記者、マーケティング会社勤務を経て独立。
・本人のブログ:新田哲史のジャックナイフな雑記帳
・BLOGOS:新田哲史の記事一覧
・Twitter:@TetsuNitta