「泡沫候補だからこそ、ネットでゲリラ戦ができる」 家入一真氏が語る「選挙の戦い方」 - BLOGOS編集部
※この記事は2014年03月18日にBLOGOSで公開されたものです
猪瀬直樹前知事の辞職に伴って、2月上旬に実施された東京都知事選は、元厚労相の舛添要一氏が200万票以上を獲得して当選した。選挙戦は全般的に盛り上がりに欠け、投票率も過去3番目に低い46%にとどまったが、その中で、最年少候補としてインターネットを中心に注目を集めたのが、起業家の家入一真氏だった。獲得した票数は約9万票で、舛添氏の5%にも満たなかったが、ネットを駆使したユニークな選挙運動は、新世代のキャンペーンとして議論を巻き起こした。はたして、家入氏はどんな狙いで選挙にのぞみ、なにを有権者に伝えようとしたのか? また、新たに立ち上げた「インターネッ党」が目指すものとは? 2月下旬に開催されたシンポジウム「家入選挙を総括する」で、家入陣営のスタッフたちが語った言葉をまとめた。(取材・構成:亀松太郎)
「僕らはあえて、ネットに振り切った」
堀潤(司会):昨年の参院選でネット選挙運動が解禁されたが、大手メディアの世論調査によると、「ネット選挙運動は自分の有権者行動に影響を与えたか」という質問に対して、7割以上の人が「あまり関係がなかった」という回答だった。そういう結果をふまえたうえで、今回の都知事選で、家入さんはITの専門家として、どういう形で選挙にのぞもうとプランを描いていたのか。家入一真(都知事選候補者):彼ら(参院選の候補者)はまったくネットをわかっていなかった。特性がわかっていなかった。ネットの特性は「双方向性」。対話できるというのがすごく重要なのに、それをしていない。一方的に、従来のメディアのように配信するだけだった。それでネットは効果が出ないというのは、全然違う。たしかにネットだけだと厳しいのかもしれないが、今回の都知事選で、僕らはあえて、ネットに振り切った。
一方的に自分の声を発信して、ツイッターで演説などのスケジュールを流すだけというのは、間違っている。そもそも、選挙のときだけツイッターをするというのは論外。常日頃から自分の思いや考えを発信したり、フォローしている人たちとコミュニケーションをとって、少しずつフォロワーを増やしていくことが、すごく重要。選挙が終わったとたん、ツイッターを止めるなんて、意味がわからない。
堀:(選挙プランナーとしてのキャリアがある)松田さんは、既存の政党の戦い方を知っている。家入さんの戦い方を見て、どう思ったか。
松田馨(選挙プランナー):ネット選挙が解禁された昨年の参院選のとき、僕や候補者のところに、いろんな業者が売り込みにきたが、その内容は2種類あった。1つは、いろんな発信ができますという話。街頭演説をずっとUSTREAMで配信するとか。もう1つは、誹謗中傷やなりすましをディフェンスするというもの。発信するか、守るかの2つしかなかった。「受信」に力を入れた人はいなかった。
家入さんの選挙の大きなポイントは、日本で初めて本格的にインターネット、ソーシャルメディアを活用して有権者の声を聞き、「受信」の部分に力を入れて、選挙戦を展開したということ。これは、大きな転換点になるのではないか。
堀:アメリカでは、ホワイトハウスが設けている「We the People」という陳情サイトがある。このサイトに一般の市民が陳情するとスレッドがたつ。そのスレッドに「いいねボタン」のようなものがついていて、一定数以上あつまれば、政府が陳情について検討して、声明を発表しなければならない。陳情した市民は賛同数を増やさないといけないので、ツイッターなどを使って、みんなに同意を求めていく。そして、多数が集まったら、政府が動く。
こういう政治と市民がきちんと接続する装置は、これまでの日本にはなかった。だけど、今回の選挙戦では、ツイッターのハッシュタグを使って政策を募集するなど、「受信」が活用された。そのあたりは、どう考えていたのか。
家入選挙を支えた「ハックチーム」の役割は?
家入:今回は政策を作るときに、ツイッターでみんなの声を聞こうと決めていた。声を聞くことで、みんなとの距離を近づけていく。「どうせ、声をあげても聞いてもらえない」とみんなが思っているなかで、僕らは一つずつ聞いていって、政策に落とし込む。それを通じて、政治に興味をもってほしいし、政治を近くに感じてほしい。今回はツイッターを使ったが、ツイッターはみんなから上がってきた声を集計して、それを落とし込んで政策にすることまでしかできない。本当にやりたかったのは、それぞれの声をもとに、さらに議論を深めていくこと。今後はそういうのができないかなと、漠然と考えている。
堀:インターネットで出会ったことをきっかけに、実際の場で議論していくのか、それとも、ネット上になにかオープンなプラットフォームを作って、いろんな議論をしていくのか。
家入:リアルに会って対話するのも大事だろうけど、ネットのいいところは、時間や場所を飛び越えて議論できること。「東京はこうだったらいいのに」とか、「こうしたら、もっと満員電車が減るんじゃないか」とか、そういう細かい声をどんどんあげていって、そのためにどうしたらいいのか、そのために法律をどうすればいいのか、と議論していく。一つ一つの声に対して、オピニオンリーダーの人がコメントしたり、「いいね」「わるいね」みたいなもので評価したり。そういう、みんなが声があげて議論できるプラットフォームができると、政治に生かしやすい。
堀:オバマ大統領の選挙戦で有名になったのが、ITチーム。100人以上のSEやプランナーのチームが彼の選挙戦を支えていた。今回の家入陣営をみると、「ハックチーム」といわれるITチームが裏方としてシステムを支えていたようだ。どんな人たちがどんなふうに関わっていたのか。
松田:一つは、選挙ポスターをどこに貼るのかという地図を作った。もともと選挙ポスターの掲示版の情報は選管(選挙管理委員会)からもらうが、区によって表示が違っていて、住所や番号がわかりにくい。しかも紙媒体のために使いにくい。そこで、見開きでスキャンできるスキャナーで、地図をひたすらスキャンした。それをグーグルマップに落とし込んでいった。そうすることで、みんなで共有できるし、ポスターを貼ってもらう人に、いちいち紙の地図を渡す必要がない。
堀:選挙ポスターを貼る作業は通常、どれくらいの人的コストがかかるのか。
松田:東京都知事選や参院選・東京選挙区は、選挙ポスターを貼るのが日本で一番で難しい。ポスターの枚数が一番多く、1万4000枚とかとんでもない数。地方の人口10万人くらいの市長選挙であれば700~800枚で済むのに比べると、全然ちがう。大きな組織をもっている自民党や公明党は都内のすみずみまで支部があるからいい。また、お金がある候補は、ポスターを貼るサービスをやっている業者に1枚100円とかで頼んで貼ってもらう。
高木新平(選挙スピーチライター):僕らは出馬を決めたのが遅かったので、グーグルマップに落とし込むと同時に、どこにどれだけポスターを貼ったのかというのを、システムで管理していた。それで、最終的に1万弱の場所に貼ることができた。
事務所を24時間、オープンにした
松田:ハックチームのほかには、クリエイティブチームがあった。ホームページを作ったり、フェイスブックグループのいろんなアイデアを出したりとか。ハックチームがポスター貼りの仕組みを作り、クリエイティブチームがホームページをどんどん更新していくというように、連携しながらやっていた。堀:ホームページも、ただ単に選挙運動の日程を告知したり、自分の主張を訴えるYoutube動画をのせるだけでなく、「編集作業中」という見出しをつけて、絶えずなにか動いている様子を公開していた。あれは何をやっていたのか。
高木:あれは、政策について寄せられた声がノイズも含めてたくさんあるのを、まず一部の人でグーグルスプレッドシートにあげて、それを分野別にわけていった。分野別にわけないと、メディアの人がなかなか取り上げてくれない。そのうえで、政策を作れるような人たちを呼んで、政策に落とし込んでいく。その模様を全部、ウェブ上で見れるようにした。
堀:つまり、クラウド上で作業しているワークシートをそのままホームページで公開して、編集している様子をだれもが見られるようにしていた、と。
高木:そうですね。事務所自体も24時間、開けているかたちにした。事務所自体を自分たちの居場所にしようというのと、協力してくれる人が参加しやすい窓口にしようという意図があった。その様子も見せたほうがいいだろうということで、一時期は24時間、UST配信していた。どんどんオープンにしていって、政治に興味がない人が「こういうのなら楽しいかも」「こういうのなら参加できるかも」と思ってもらえるようにした。
堀:家入さんは当初、直接制の民主主義を目指したいとツイッターに書いていたが、選挙戦で多くの人に参加してもらうことが大事だと思った理由は、なんなのか。
家入:僕らが選挙を通じて伝えたかったメッセージは、政治をもっと身近に感じてほしいということ。だから、みんなにできるだけ参加してもらいたかった。あとで知った話だけど、ケネディの有名な言葉がある。
堀:(「あなたが国のために何ができるのかを問うてほしい」という)当事者性の話?
家入:そうそう。「#ぼくらの政策」というハッシュタグでみんなの声を集めた。「ぼくらって誰だ?」というツッコミが結構入ったが、「ぼくら」というのは、まさに「当事者」のこと。別の言葉でいえば、「主権者」「国民」。僕らが声をあげて、それで政治を動かしていくことをしないと、どんどん政治が遠いものになっていく。政治家は誰のために政治をやっているのか、となっていく。だから、僕らの手に一回、政治を取り戻そうということをメッセージとして言っていた。
「ネットはツール」というのは本当にそのとおり。ネットなんてツール。だけど、ツールを使うことで、できるようになったことがたくさんある。時間と場所を飛び越えて意見を集められるのも、その一つ。直接民主制をやりたいというよりも、直接民主的なものを、間接民主制の中で補完していく。そういうことが、ネットを使うことでできるのではないか。
ハックチームの話でいうと、プログラムを一から作ったものもあるが、グーグルのスプレッドシートを使ったり、ツイッターのタイムラインを貼り付けて、ブログパーツをホームページにのせたりとか、USTREAMで24時間放送したり、ツイキャスを使ったり。すでにある「ネットのツール」を組み合わせて使っていた。
行政でなくても実現できる「政策」は勝手にやっていく
堀:技術自前主義ではなく、いろいろな技術をもちよって一つのものを完成させていくというのは、インターネット的な思想だと思う。しかし、ネットの活用には、まだ世の中に懐疑的な人もいる。選挙に参画している層のなかでは、ネットに参画していない人たちが圧倒的なボリュームを占めている。いわゆる「デジタルデバイド」を今後どう打開していくのか。高木:都知事選で獲得した票は8万8000で、舛添さんの200万に比べるとまだまだ少ない。これはマスメディアとソーシャルメディアの違いみたいなもの。マスメディアは100万人とか200万人の露出ができるが、僕らはじわじわとやっていく。ツイッターのアカウントもいきなり100万とかはいかない。少しずつ増えていって、じわじわと効いてくる。イメージとしてはそういうものを目指している。
今後は「インターネッ党」として活動していくと表明した。その一つとして、都知事選でみんなの声として集めた120の政策のうち、行政でなくても実現できることは、勝手にやっていく。待機児童やシングルマザー、フリースクールの問題とかについて、政策というより自分たちの事業としてやっていきながら、そこで関わった人たちを少しずつ巻き込んでいく。僕らは実行者というか、形にしていくタイプの人間だと思うので、とりあえずやっていこうと。
今回の選挙ポスターを貼るシステムのようなものは、行政主導だとなかなかできない。僕らがこういうのがいいのではないかと行政にどんどん提案していけばいい。ポスターの仕組みとかも、オープンなシステムだからどんどん使ってくださいと提案していけたらいい。
堀:NHKの「ニッポンのジレンマ」という討論番組で「民主主義の限界」というテーマで議論したとき、結論が二つ出た。一つは、そもそも私たちが「政治に何をしてほしいのか」よくわからないのではないかということで、「欲求の可視化」が重要だと。二つ目は、選挙だけが民主主義と思ったら大間違いで、選挙は民主主義の仕組みの一つにすぎないのだ、ということ。
大事なのは、選挙にいくまでのあいだに民主主義をどう実行させるか。選挙までに具体的なシステムを作って、それを稼働させる人を最終的に選挙で選べばいい。だから、作れるものを先に作ろう――そういう議論があった。今回の家入さんの選挙戦をみていると、そういうものを作るきっかけになったという印象をもつ。
家入:今回の選挙戦では、みんなの声を聞くというかたちで、政策をつくった。政策を実行するところまではいっていないが、みんなの声を聞いて、民主制度のあり方を一から考え直した。新しくアップデートする形で、みんなの声を政策に落とし込むことをやった。新しい政治のかたちが、ここから始まっていたのではないか。
高木:一時期、橋下さんが「決定できる民主主義」と言って、そのフレーズが広がった。その次は「実行できる民主主義」ではないか。当選者ではなくて、「落選者」が政策をやっていったら面白いし、それも民主主義だと思う。
堀:選挙中は演説で声を張り上げて「やります」と言っていたのに、選挙が終わったら声が小さくなってしまう。そういうものとは違う方向性を見出している。
東京の区長選に「インターネッ党」の候補者を擁立していく
松田:落選した候補者がそのまま活動するケースもあるにはあるが、たいていは落選したら、いなくなってしまう。堀:選挙戦の直後、いろんな評論家や文化人から、家入さんが獲得した8万票をめぐって、厳しい意見がとんだ。
松田:実際、「大惨敗」という人もいたが、それは相当期待してくれていたということ。現実はどうだったかというと、最初の段階のマスコミの世論調査では、ドクター中松さんに負けていた。最後の1週間はずっとそうだったので、正直、胃が痛かった。それが、最後の1週間でドクター中松さんを超えて、結局、2万4000票上回った。少ないと言われるかもしれないが、マスコミの世論調査の結果を外すことができた。それは、関わってくれた2000人以上のボランティアの力もあるし、いろんな活動がネット経由で広がった結果だと思う。
堀:家入さんは?
家入:もっといきたかった。僕自身の力不足だと、本当に思う。いま振り返ると、もっとやることがあったのではないかと考えたりする。テレビや新聞からは泡沫として扱われていたけど、それに対して不満を言っても仕方ない。でも、だからこそ、ネットを使ってゲリラ戦みたいなことができる。注目されていないからこそ、僕らができる戦い方をするしかない。
そのなかで、今回はあの票数だったというのが現実。それでも、一つの戦い方を見せることはできたのではないか。小さい穴かもしれないが、その穴をどんどん広げていって、新しい空気を送り込んでいけたらいい。選挙が終わって、「どうせ、家入はこれで終わるんだろ?」と言われるが、そんなことはない。まだ始まったばかり。
堀:今後、「インターネッ党」をさらに発展させて、困っている人を救っていくために、どういう方法で広げていくのか。
高木:「ぼくらの政策」の120個のうち、できるものはいろいろやっていくつもりだが、それ以外で二つある。一つは、メディアを作っていこうと。今回は選挙期間中に、みんなの意見を聞いて、政策という形に落とし込んだが、その声を受け止めて、こちらからビジョンを提示することも必要。自分たちの考えを出していき、反応する人を増やしていくことで、広がっていくと思う。
もう一つは、新しい東京を作っていこうということ。2020年までに東京23区に、区長選の候補者を党として擁立していこうと。区長選は投票率が低く、住民がほとんど関心をもっていない。しかし地方では市長とかで面白い人が出てきていて、ネットを使ったり、いままでにない取り組みをやる人が出ている。都知事選よりも小さい単位で、小さくても変えていけるところを目指す。区長候補の擁立をやりながら、少しずつ運動体を広げていきたい。
これからやろうとしているのは「政治起業家」?
堀:松田さんは?松田:僕自身はいろんな選挙に関わるなかで、継続して活動していくことの難しさを痛感している。本人や応援していた人の情熱も落選した直後は熱いが、次の4年間ということになると、維持していくのが非常に難しい。一方で、党のようなものを作って、党勢を拡大していこうとすると、いろんな人を巻き込んでいって数をとらないといけないので、もともとの思想が薄れていく。そういう事例をたくさん見てきた。そうならないかたちで、どういうことができるのかを考えていきたい。
一つは、家入さんがすでに始めたことだが、政治家にならなくても、できることはやったらいい。僕には目からうろこだったが、良いことだと思う。政治家という形でなくてもできることがあるから、それを継続していこうと。たとえば、ネットワークやソーシャルメディアなどのテクノロジーは、年配の人のほうが恩恵を受ける部分が大きい。若い人と年配の人という世代の対立でなく、それをつなぐためにテクノロジーを使えるのではないか。
そのようなことを、政治ではなく事業のかたちで継続していってもいい。そこからいろんな意見を聞いて、政治にフィードバックしていくことができると思う。政党として党勢を拡大していくだけでなく、事業をやったりするなど、政治以外の社会へのコミットメントが活動継続のために重要になると思う。
堀:ソーシャルメディアグランプリという社会起業家を表彰するグランプリがあるが、そこで「政治起業家」という新しい概念が出ていた。家入さんが描いているのは、まさに政治起業家ではないかと思う。最後に、これからの取り組みについて、家入さんはどう考えているのか。
家入:新しいことをやろうとしたとき、みんな劇的な変化を求めるけど、実は劇的な変化というのはそんなにない。僕らはいま始まったばかりのものを、着実にやっていくだけ。「デジタルデバイドはどうするのか」と言われるが、教育と一緒で、一朝一夕におじいさんやおばあさんがインターネットをバリバリに使えるようになるなんてありえない。そんなのは地道にやっていくしかない。だから、それは活動を続けていくだけ。
選挙後のインタビューで、「日常に戻られましたか」とか聞かれるが、そんなことはない。ネットを使って、少しずつこの活動を広げていける。「政治起業家」という言葉を聞いて、面白いと思った。実は、120の政策のなかにビジネスアイデアがたくさんある。それをビジネスとしてやりながら、いいかたちで社会福祉にしていくというのもある。そこで得た利益を、次のことに投資していけるのはいいかたちだと思う。
堀:「政治起業家」はこれからの概念。オープンガバメントや参加型民主主義で一番大事なのは、社会問題を解決していこうとする過程でイノベーションが生まれること。新しい理念や新しいシステムといったイノベーションを生んでいくようなかたちで、政治と市民の関係が進んでいけばいいのではないかと思う。