※この記事は2014年03月14日にBLOGOSで公開されたものです

科学雑誌「Nature(ネイチャー)」に掲載された「STAP細胞」論文に疑問が出ている問題で、14日、理化学研究所が会見を行った。理研は11日に初めて記者会見し、加賀屋広報室長が陳謝、改めて調査結果の進捗を報告する、としていた。

4時間に及んだ会見では、研究者としての倫理・態度とその研究者を抱える組織として理研が研究結果や正しさに対して負う責任についての認識、また調査委員会のミッションについて、記者団との認識の違いが浮き彫りになった。

さらに、出席者に対し、立場上の見解だけでなく、科学者としての見解を問う質問が繰り返し問われるなど、アカデミズムにまつわる問題であることに由来する難しさも伺わせるものとなった。(最終更新:18:06)

会見を終えた出席者。(niconico) 写真一覧

出席者

・野依良治:理事長
・川合眞紀:理事(研究担当)
・米倉 実:理事(コンプライアンス担当)
・竹市雅俊:発生・再生科学総合研究センター センター長
・石井俊輔:「研究論文の疑義に関する調査委員会」委員長

野依理事長が陳謝

会見にはノーベル賞受賞者でもある野依良治理事長も出席。冒頭、野依理事長から説明が行なわれ、「疑義があったことについて世間の多くの方にご迷惑、ご心配をおかけした」「科学社会の信頼性を揺るがしかねないことを引き起こしたことをお詫びする」と、他の出席者とともに、深く頭を下げた。

野依理事長は「科学者は、論文記載の観察結果、結論について全面的に責任を負わなければならない。特に根拠となる実験結果について、客観的かつ慎重に取り扱う必要がある」「再現性と信頼性は、その厳密な検証をおこなっていくとともに第三者による追試によって証明されていくもの」との見解を述べ、外部機関の研究者による事件に協力し必要な情報を提供するように指示したと発表。

一方、「Nature掲載の共同研究論文の作成過程において重大な過誤があったことは甚だ遺憾」とし、論文の取り下げを進めることも視野に入れて検討していると説明。引き続き調査を行い、不正が認められた場合には、理研の規定にもとづき厳正に処分を行うと表明した。

「結論が得られた部分については、不正は認められず…残る箇所は検証中」

理研は、今回の問題を4つに整理した。

(1)研究不正の有無の確認
(2)STAP細胞の再現性
(3)Nature誌2編の論文の取扱い
(4)今後の対応

まず、(1)について、石井俊輔・「研究論文の疑義に関する調査委員会」委員長から発表が行われた。

石井氏によれば、ありえないデータなどを使うことを「捏造」、切り貼りのようなものを「改ざん」、画像や文章をコピーペーストすることを「盗用」とし、この3つについて悪意のない「間違い」は除外するという。

今回は、小保方晴子氏、笹井芳樹氏、若山照彦、丹羽仁史氏による2本のネイチャー掲載論文について検討がなされ、画像の一部(2点)については、当事者へのヒアリングや、理研のメンバーでもある中野明彦氏も交えた検証の結果、画像の歪みは解像度を下げた際のノイズと説明があり、不適切ではあるが、いずれも不正行為はなかった結論が得られたとした。

一方、残る画像については小保方氏から「どこから取ってきたのか覚えていない」「紛らわしく、画像に取り違えがあった」との申告があったという。また、早大の学位論文に酷似しているとの指摘。「我々が見た限り同じものである」「客観的に見てレア」と述べたが、いずれも引き続き調査を継続中とした。

さらに、論文内の実験手順を記述した箇所については、「前半部分は小保方氏が、後半部分はスタッフが書いたもの」とし、「全体を把握していなかった、小保方氏が思い込んで書いたのだろう」(若山氏の見解による)とした。

なぜこのような「不適切」なことが行なわれたのかも含め、「継続を調査し、事実関係をしっかりと把握した上で結論を導く必要があり、結論を得た時点で速やかに報告する」、現時点での検証結果は「あくまでも中間報告」とし、「現時点で著者に記者会見を開き弁明の機会は適切ではない」との考えを示した。

NHKが報じた、研究チームが写真の流用を把握していたにも関わらず、問題と説明しなかったことについて石井委員長は「故意であったかどうかは現在調査中」とした。

参照:
・調査委員会調査中間報告書(スライド資料) - PDF
・調査委員会調査中間報告書(全文)- PDF

STAP細胞の再現性・論文取り下げは

出席者から、(2)のSTAP細胞の再現性等については、あくまでも著者たちだけが主張できるものであり、検証もサイエンス・コミュニティで行なわれるべきものであるとして、理研として、信頼性について主張するものではないとの立場を強調した。

つぎに、今回調査の対象となっている(2)Nature誌2編の論文の取扱いに関しても、竹市センター長としては「本来は共著者が互いに確認しあうとはずが、どうしてこんなことがおこったか理解しかねている」「論文の体をなしていない」として撤回すべきとの認識を示したが、撤回はあくまでも共著者の意思にもとづき、最終的にはNatureが判断されるべきものとした。なお、現時点では著者間で取り下げの検討が検討されていることも明らかにされたが、バカンティ教授は撤回に同意していないという。

・著者コメント - PDF

理研としての対応は

川合眞紀理事(コンプライアンス担当)は、(4)について、誤っている点があまりにも多いとの見解を示し、「今後とも慎重に調査をし、結果をできるだけすみやかに公表、理研としての責任説明を果たしてまいります」と「研究機関として見逃すことはできない、倫理感を再確認せざるを得ない振る舞いがあったことは誠に残念」と述べ再発防止策を講じるとした。

記者から、現在神戸にいるという小保方氏が今日付けでウォール・ストリート・ジャーナル宛にメールを送ったことについて問われると、川合理事は「本人の発言を妨げることはできないが、今はまだ答えないでほしい」と述べた。小保方氏は現在神戸にいるものの、共著者の論文撤回方針に「心身ともに憔悴」(竹市氏)、「厳しい精神状態にある」(石井氏)といい、研究が継続できる状態ではないという。

出席者からは、小保方氏が研究者として「未熟だった」との認識も示された。その小保方氏がなぜユニットリーダーに就任したのか、選考過程に問題はなかったのかとの指摘に、竹市センター長は当然博士号が就任の条件ではある」「公募の過程でインパクトが重視された。反省すべき。私にも当然責任はある」と答えた。

「古い時代には起こらなかった。なぜ起こったかわからない」「研究者に対する今後の教育が重要」「ITの進歩に、高等教育が追いついていないと感じる。当惑している」とした野依理事長に対しては、「笹井氏のような立場のある方に対して今から教育をするのか」といった厳しい質問が飛んだ。

・「下書きで使った物が残っている」―小保方氏、博士論文巡る疑惑で - WSJ.com

関連情報

・「STAP細胞」問題の関連エントリ一覧
・研究論文(STAP細胞)の疑義に関する調査中間報告について - 理化学研究所
・研究者のみなさまへ~研究活動における不正行為の防止について~ - 科学技術振興機構
・STAP細胞 研究論文の疑義に関する調査中間報告 生中継 - ニコニコ生放送