※この記事は2014年01月18日にBLOGOSで公開されたものです

昨年、みずほだけでなく、メガバンク3行すべてで反社会的勢力との取引が明らかになり、みずほの誤った報告を見抜けなかった金融庁に対しても批判の声が上がりました。一方で、各行とも反社との取引を完全になくすことの困難さをアピールし、「一切の関係遮断」の難しさも感じさせました。

今回の問題の本質はどこにあるのでしょうか?

みずほ銀行、阪急阪神ホテルズと食材偽装、カネボウ化粧品……2013年に社会を揺るがした「巨大不祥事」の本質に迫った著書「企業はなぜ危機対応に失敗するのか―相次ぐ『巨大不祥事』の核心」を出版したばかりの、コンプライアンスの第一人者・弁護士の郷原信郎さんをゲストにお招きし、暴力団と金融にはとことん詳しい経済ジャーナリストの須田慎一郎さんと語り合いました。(12月17日収録)

番組アーカイブ

郷原信郎(弁護士)
須田慎一郎(ジャーナリスト)
大谷広太(BLOGOS編集長)


みずほ銀行の問題には“誤解”があった

大谷:今年は、企業のトップが謝罪をしてフラッシュを浴びているという光景が数多く焼き付いていると思うのですが、その中でもひと際、インパクトが大きかったみずほ銀行の問題について少し掘り下げていきたいと思います。

概略を説明させていただくと9月27日、金融庁がみずほ銀行に対し業務改善命令を出しました。みずほ銀行が系列の信販会社オリコを通じて暴力団に230件、合わせて2億円の融資をしており、それを知りながら2年以上放置していたという報道がありました。さらに金融庁への虚偽の報告をしていたということも報じられ、その後、メガバンクへの一斉検査もありまして系列信販会社、みずほ、オリコ。それから三井住友はセリナ。三菱東京UFJはジャックス、アコムなどからの融資が明らかになり、最終的には大手銀行六行のみずほ、三井住友、三菱東京UFJ、りそな、三井住友信託、それから新生銀行の銀行本体での貸し出しも判明した。ということが大まかなアウトラインなのですが、こうした報道の中から受けている印象と銀行、金融庁、メディアで行き違いもあったようです。それをまず、お2人にお伺いしたいんですが、郷原先生は著書の中で2つ大きな誤解があったとご指摘されていますね。

郷原:この問題の発端になった金融庁の業務改善命令は一体何を指摘したかというと、2つあるんです。1つは、みずほ銀行が反社会的勢力系への融資の問題を2年間放置していたこと。もう1つはその情報が担当役員止まりになっていたという点です。この2つがかなり誤解されたんじゃないか? というのが私の見方です。まず、反社会的勢力が暴力団に置き換えられて、そういったところに融資をしていたとなるとですね、世の中の多くの人は90年代にあったような暴力団関係者に対する巨額融資問題じゃないか? と思うんですけれどもそれと今回の件はかなり性格が違う問題だと思うんですね。

昔は反社会的勢力に対する対策は「被害者になるな」ということだったんです。そういうことだけが問題になっていた時代から、今はそうではなくて企業社会全体が反社会的勢力を社会から排除していく為に一切関係を遮断して、とにかく色々な関係を切っていくことが求められているんですね。今回の問題はそういう一切の関係の遮断が不十分だったという問題だったのに、何か昔のような暴力団向け融資の問題と誤解されてしまったところに大きな問題があると思います。

須田:今の郷原さんの説明にあったように9月27日に金融庁が出した業務改善命令。その中に暴力団に融資したことに対する指摘ですとかそういう文言は出てきていないんですよ。

つまり、企業あるいは銀行が暴力団と取引するということを100%排除することは相当難しい。これは行政・金融庁も分かっているはずですから、そのことに対して指摘しているのではなく、繰り返しになりますが2年間それが放置されてしまった、加えてそれが担当役員止まりであったことに対して業務改善命令が出ているんです。

それからこれまでの警察を中心とする暴力団排除の時系列的なことを言っていくとすると2000年代に暴力団対策法というものが施行されて暴力団に対しての利益共用あるいは暴力団を利用することは一切してはいけないことになった訳です。言ってみれば暴力団に対して糧道を絶つと言ったらいいんですかね、そういう狙いがあったみたいなんです。ただそれだけでは暴力団がなかなか壊滅しないものですから2011年10月に暴力団排除条例というのを全面施行しましたよね。これは暴力団そのものに対してのものではなく暴力団に利益共用をする一般者に対して締め付けを強めていこう、密接交際者と認定された者には様々な不利益が被りますよということで暴力団の壊滅を狙っていく。

その一連の中で2009年に銀行業界は全銀協通達、業界の申し合わせとして暴力団取引を断ち切り、銀行口座を閉鎖しろというような動きも起こり、2011年の暴力団排除条例の施行と共に暴力団と取引をした一般市民に対しても銀行取引を停止するというように、年々強化されていく流れにあった。その中で今回の一件が出てきた。つまり全銀協の通達にも違反しているじゃないか、そもそも銀行は密接交際者に対して厳しい対応をしなければいけないのに当の銀行側が暴力団と取引をしていたじゃないか、ということで今回は問題視されるようになったんです。

郷原:ただ、みずほ銀行が問題にされた反社会的勢力への融資っていうのはそれが分かったからといって簡単に解消できるというものではなかったんです。オリコという信販会社が審査をして貸し出しをしていた小口のローンですね。みずほ銀行はそれに対して言ってしまえば資金を供給していたという立場で、債務者とは直接的な接触はないんです。しかも、今、須田さんが言われた反社会的勢力に対するものの歴史の中で暴力団関係者の排除条項が入る前に融資しているものが大部分だったんですね。これは分かったとしても切れないんです。それを銀行としてどうするかを検討されていなかったということが問題なわけです。ところが、世の中の多くの人は暴力団と取引をしていて、それを知っていながら2年間もほったらかした。これはとんでもない銀行だ。という方向で考えてしまったんです。そこに大きな誤解があったと言えるんじゃないですかね。

みずほ銀行の危機対応はあまりにも“お粗末”

大谷:そのあたりの伝え方というのはもちろん銀行側に問題があったかもしれないですし、あるいは金融庁の説明にも問題があったかもしれないです。あとはマスコミの報じ方もあったと思うのですが。

須田:その前にもう1つ説明させてください。2つの項目で業務改善命令が一旦出たんだけれども暴力団との取引情報は役員止まりであったということが結局嘘だとバレてしまったんですよ。みずほ銀行の説明が事実と異なっていた。情報は役員止まりではなくて、少なくとも当時の頭取は知っていたし、現在の頭取もそのことを知るに値する資料を受け取っていましたということが後になって発覚してしまった。だから、さらにこの問題は大きく炎上してしまったんです。

で、銀行、金融庁、メディア3者の思惑がどこにあったのかというと業務改善命令をなぜこのタイミングで出したのか? ここから振り返る必要性があると思うんです。実はある特定のメディア、朝日新聞が、27日より前にみずほ銀行の問題をキャッチしたんです。水面下で取材をかけていく中で、金融庁が何も手を打たなかったとなると金融庁としても立場がなくなってしまうということで慌てて9月27日に業務改善命令を出しましたね。だから、ある意味みずほ銀行にとっては寝耳に水の状態で業務改善命令を出てきたという流れだったんじゃないかなと。

郷原:通常の金融検査を受けて業務改善命令とか行政処分という流れとは違って、最後のころになってバタバタと動いたところに混乱の原因があると思うんですよ。そこで先ほど須田さんが言われた、みずほの側が、担当役員止まりだと話していた事実と反していた部分が一体どんな事実だったのかというところが問題になるわけですよ。一般的には担当役員止まりだったと説明していたことが嘘だったということになると、それよりも上に密告していたことを隠そうとしていたということが疑われますよね。しかしこれは恐らくそうじゃないんです。最後にバタバタしたことで金融庁の方も十分にその点を確認出来なかった。そしてみずほ銀行の方も隠す気ではなく、一応、上の方にあげているという資料は金融庁の検査に提示しているんです。だから隠す気はなかったと思うんだけれども金融庁の検査で誤認してしまった点で、事実が分からなかったということだけなんです。ところが前段部分でとんでもない暴力団融資だという風に誤解されているということがあったもんですから、それをみずほ銀行は隠していたんじゃないかという誤解も生じてしまった。誤解に誤解が重なった不祥事だと見るべきだと思うんです。

須田:もう1点、みずほ銀行グループは世の中が敏感に反応する問題に対して非常に感性が鈍かった、なめてかかったという側面はあると見ているんです。つまり業務改善命令を出した後に担当副頭取が記者会見を開いた。しかし、なぜすぐさまトップが出てこなかったのか。しかもこの会見に選んだ場所が日銀記者クラブという非常にクローズな場所なんです。私はフリーランスなので取材申請をすると幹事社、このときは時事通信社だったんですがそこに許可を得てくださいとみずほ銀行は言うんです。つまりはマスコミ側に責任を投げつけるわけです。ところがスペース上、限界があるので1社1人ですよと、質問は日銀記者クラブの人間にしかさせませんよ。ということなので私は行っても質問が出来ないんです。実はみずほ銀行の本店には参加希望の記者を十分に収容することが出来る場所があるんです。そこでちゃんとトップがすべての質問に答えるというようなことやっていればここまで大きな問題にはならなかったと私は思います。

郷原:私もこの問題について、最初にブログでメガバンクとしてあまりにお粗末な危機対応ということで取り上げているんです。それはもう須田さんのおっしゃる通りだと思います。これだけ大きな問題になっている訳ですから、経営のトップがきちんと説明をすることは必要だったと思います。なぜそれをしなかったかというと、おそらくそれほど重大な問題だという認識がなかったんでしょう。それと朝日新聞からの取材でガンガン攻められていたこと、さらに半沢直樹現象が大きかったと思います。ちょうどドラマが高視聴率で終了した直後でしたから金融庁やメガバンクに社会の関心が集まっていたので予想以上の反応が生じてしまった。問題はそこからでそういう事態になった時に、どうすべきかを考えなければいけなかったんです。

おそらく須田さんもご存じだと思うんですが銀行の方々というのはエリートで、学校の勉強が出来る。だからひとつひとつこういう時はこれでという風に事前に用意していたもので対応は出来ても状況に応じた柔軟な対応は出来ないんだと思うんですよ。そこが今回のみずほ銀行の大失敗に繋がったと思います。

須田:現場レベルで考えると、個別融資に関しては相手が暴力団だからといって一方的に回収を図ることというのは、かなり難しいんですよ。それをやるためには取引約定書、契約約定書のなかに暴排条項を盛り込んでいかなくてはいけない。そうしないと自動的に回収は出来ないんです。そういった意味で言えば条項が盛り込まれる以前のものについては法的にも回収するのは難しいことなんです。ただ問題なのは条項が盛り込まれているにも関わらず一括返済を求めなかった。みずほ銀行側が暴力団に対し腰が引けていたんじゃないかという風に私は思います。

郷原:少なくとも暴排条項以前の融資については切る根拠がない。暴排条項以降の融資になったらどうなのか? 銀行の反社情報の数ってすごく広いんですよ。それにヒットしたからといって暴力団員だとかっていうわけではないんです。それを実際に警察情報でいうところの「暴力団関係者」かを確かめてみて、それを認定する根拠はほとんどないんですよ。今回の件でオリコが出して、公表された報告書があるんですが。それによると今回問題になった230件の融資のうち、切ろうと思えば切れた暴排条例以降のものが37件しかないんです。そのうち警察情報の暴力団関係者と推認できるものが数件だということ。そのうち弁護士に相談して一括請求出来たものはたったの1件なんですよ。ということは簡単にそれを切ることは出来ない。約定返済が所定の期日に行われているものについて反社会的勢力と分かったからといって直ちに利益を消費させて回収するのが良いのかどうかについても専門の弁護士の中でも色んな意見があるんです。むしろ払っているんであれば全額返済をさせて暴力団から資金を回収した方が良いんじゃないかという意見もある。利益を途中で消費させても返しはしないのでますます暴力団の資金を残すだけです。その点で難しい面がかなりあるんです。

暴力団との関係は、どうすれば断ち切れるのか?

大谷:現場の担当の方を含め、どうやって反社会的勢力とそれ以外の線引きをするのか、ということがコメントで来ていますが。

須田:線引きをするというのは銀行の現場はおろか、ハッキリ言って警察ですらきちんとした暴力団関係者の名簿があるわけではないんですよ。これは驚かれる方も多いんだろうと思うんですが、一昔前ですと暴力団事務所に入っていくと『札』という名札が下がっていたんですよ。

大谷:剣道場にあるようなやつですか?

須田:剣道場、柔道場にあるような名札が下がっていて、それが赤い札になっていると不在で、つまり刑務所に入っているというのが一目瞭然で分かった。警察はそれを見て名簿を作った。準構成員は見習いに名前を聞きだして名前の特定をしてきたんだけれども今の時代は暴力団側も警察と全面対決の様相になってきていて容易に組事務所には入れないし、警察と口聞いたらペナルティが課せられるような状況になっているんです。ですから警察ですら名簿を作れない。ましてや銀行や企業が正確に暴力団関係者と断定するのは100%出来ないと思います。

郷原:だからこの手の問題っていうのは微妙なんですよ。そんなに簡単な問題じゃないと考えなければならないと思います。

大谷:よく、こういった関係は断ち切るというような言われ方もすると思うんですが?

郷原:本の中にも書いてあるんですが暴力団関係の色々な案件を扱っている弁護士さんの話では、ある例えで説明しています。新幹線が東京駅を出発して、名古屋駅で暴力団関係者が乗ってくる。それが分かったら博多駅まで止まらずに走らせるのか? と。そんなことは出来ないんです。かえって事故が起きますからね。新幹線が出発する前なら良いんです。乗せないということが出来るので。ですが一旦走り出してしまうと対策は難しいというのは、私はその通りだと思います。

須田:今回みずほ銀行が起こしてしまったことはやはり相当なギャップがあって、郷原さんが書かれている通りで危機対応に失敗したんだと思います。ただ、その一方でビジネスの現場、実態を良く知らない警察が安易に暴力団関係者排除だ! と強引に進めてきたことにも相当な責任があると思いますね。

郷原:企業側の本音として反社会的勢力を完全に排除するというのは警察の仕事だと。その警察が暴力団関係者に免許を与えたのに、なんで企業が暴力団排除の為に色々とさせられなきゃならないんだという本音を明かす経営者の方はいますね。

大谷:ちょっと話を戻すとマスコミ報道があるというところで金融庁も慌てて動いたし、それを受けてみずほ銀行も慌てて動き出したという話だったんですけども、それまでもコンプライアンスやリスク管理などの対策はしていたのでしょうか。

須田:先ほど郷原さんの話にあった通りで、そのことに関して分かっていたけれど決め手がないんですよ。本来だったら回収を図るべきなんですが回収を図る為の法的根拠がないのが実態だったんです。ただ、今回なぜこの問題が出てきたかというと、みずほ銀行というのが3つの銀行の合併銀行なので、内部告発的情報が寄せられたんだろうと思います。現在のみずほ銀行の佐藤頭取は旧日本興業銀行の出身です。それ以外にいくつか銀行があるなかで興銀の出身の人間がトップを取っていることに関して不快感を抱いている勢力もある。そういった勢力から話が出てきたんじゃないかとも言われています。

郷原:そういう意味では内部で若干の対立みたいなものがあって、それを背景に出てきたんだとするとみずほ銀行の身から出た錆的なこともありますよね。それがおそらく良く事情が分かっていない、単に暴力団向けの融資が存在しているじゃないかとそのことを軽視的に捉えて朝日新聞に情報提供をしたのかもしれないですね。

大谷:やはりそういう部分はメディアは面白おかしく報じて、それこそ半沢直樹のような世界になってしまいますよね。

郷原:金融庁もこういう場合にどうすれば良いのかを用意して業務改善命令を出したとは思えないですね。非常に単純な話でみずほ銀行に債権が残っているんだからそれを解消しろという考え方だったという話を私は聞いたんですが、それじゃあ意味ないんですよね。例えば代弁済を求めてオリコから回収をしたとしてもオリコに債権が残るだけですよ。みずほが債権を持っているのか、オリコが債権を持っているのか。相手が反社会的勢力であれば同じことですよね? ですからやっぱり十分な検討が行われた上での業務改善命令だったとは思えないですね。

須田:ブラックジョーク的なんですが、オリコっていうのはみずほの連結決算対象ですから同じグループなんですよ。(笑)飛ばしたってなんの意味もないんですよ。ただ、違うケースもあって先ほど暴俳条例が施行されたっていうのがありましたよね。暴力団との密接交際者だと一般企業が認定された場合、銀行はその段階で融資を打ち切るんです。そして商業手形を発行している口座預金を即座に閉鎖するんです。そうなると普通の企業って倒産するんですよ。そういった意味で言うと根拠となるものが脆弱というか薄弱な中でそういう措置が行われているんです。現に和歌山県のある砂利業者は暴排条項に引っかかったんです。それで社員を路頭に迷わせたくないということで倒産寸前に会社売却に動いたなんていうケースもあるんです。

郷原:そこは本当に反社会的勢力への対策に関する重大な問題だと思うんですよ。銀行などが持っている反社情報は大体10何万とかいう凄い数なんです。そのうち本当の暴力団や準構成員だと考えられる人は1割ぐらいしかいないんですよ。それ以外のところは何か問題があるかもしれない、あれもこれもとどんどん情報の範囲が広がっているんですよ。しかもそういう情報で登録されているということを本人が知らない間にそういう措置が行われていることもあるし、そういう人権侵害的な側面も反社対策にはあるということもほとんどマスコミは報じませんよね。

須田:こんな新聞報道を見ませんでしたか? 「警察情報と全銀協のデータベースを共有するから完全に排除できる」っていう。そもそもデータが曖昧なものなのにそれを共有したからって問題解決にはならないんですよ。だから新聞報道なんていうのは実態をほとんど知らなくて流しているっていうことがあの記事だけでも分かりますよね。

大谷:マスコミ報道では、佐藤頭取のフラッシュの中での謝罪会見があって、その後については、あまり報道されなくなってきていますよね。具体的にどう対策していっているんでしょうか?

郷原:マスコミ側が最初にこの問題を報じた時はかなり誤解をしていたと思うんですよ。暴力団向け融資の問題を2年間放置していて、しかもそれについて十分な措置がなかったと考えたからもの凄く騒ぎましたよね?しかしオリコの経産省への報告書が表に出て分かったんだと思うんです。これは簡単な問題ではないと。そのあたりからマスコミのトーンはかなり変わってきた。第3者委員会の報告書が出たあたりから単純な問題ではないというのがマスコミの認識するところになっていたんです。

今度はどうなっていったかというと隠ぺいですよ。金融庁検査に対する隠ぺいの方を問題にし始めたんです。で今では両方とも取り上げていないんですよね。フェードアウトしたいと考えているんじゃないですかね? 騒ぎ過ぎたと。世の中に誤解を伝えてしまったということはマスコミの方も自分で認識しているんだと思いますね。

大谷:確かに最初の方は社説などでも「そういう付き合いは許されない」というような論調の記事も乗っていたりしましたよね。

須田:結果的に焼け太りしているのは誰かと言ったら警察ですよ。こういったトラブルを回避する為に企業がどういったことを考えるかというと天下りを受け入れましょう。警察との関係を強化しましょうというものなんですよ。ですから結果的には警察が1人喜んでいるんじゃないかなと思うんですよ。

食品偽装は、発表の仕方が誤解を広げた

大谷:では、別のテーマに行きたいと思うんですけれども冒頭で申し上げた通り、みずほ問題を中心にして色々な場面で謝罪の場を目にしたと思います。カネボウの問題や、最近ですと猪瀬知事の問題などもあります。食材偽装なども話題になっています。

郷原:この問題も阪神阪急ホテルズは大変な誤解をされましたね。最も大きな誤解はこの問題全体が高級ホテルの高級レストランで行われた食材偽装だと思われたことにあるでしょう。確かに超高級レストランであればメニュー表示もきちんとしなければいけない。そんな高いお金をだしているのに、ちょっとでも不正確なのはナシだよと思われるのも仕方がないのかもしれないですが、今回問題になった阪急阪神のメニューの誤表示はほとんどがホテル内の低価格レストランですね。それを一緒にしてあたかも高級レストランだと勘違いされたところにそもそも問題があったんですね。それと「偽装」と言われた中身も一つ、一つ見てみると本当に大したことではないんです。一番典型的なのがマグロの刺身が鮮魚の刺身盛りの中に入っていたという話ですよね。落ち着いて考えてみたらマグロって通常は冷凍じゃないですか?船上凍結ですよ。普通。それを生マグロを生だといって区別するんですよ。そういうものまで厳密に違うんだ、と話し始めれば問題になってしまうんですけれども、そういったことをすべてひっくるめて公表してしまった。これはやっぱり会社側の危機対応の誤りじゃないか思いますね。

大谷:つまり発表の仕方が逆に誤解を広げてしまったんですね。

郷原:しかも「偽装」という言葉が曖昧なんですよ。定義が曖昧で、マスコミは凄く広く捉えるんです。食材と表示が少し違っていて、それを認識して提供すりゃ全部偽装だろうという前提で考えているんですけども普通はそうじゃない。色々違いにもレベルがある。許されないレベルだと分かっていて不正の利益を得る為にあえて提供した。これが通常の偽装なんです。そういう認識で会社側は偽装ではないと説明した。そしたらマスコミ側は定義が違いますから、明らかな偽装を「偽装ではない」と言ったとしてめちゃくちゃに叩くんです。そういう意味では危機対応の中で絶対押さえておかないといけないことが押さえられていなかったと言えるんではないでしょうか。

大谷:ワイドショーなどでも実際に表示と違う食材で調理したものを食べ比べたりしてましたが、そういった偽装ネタみたいなものを受けるということはあるんですか?

須田:そうでもないんですけど、マスコミは当初は身近な問題として家庭の主婦なんかに興味を持たれるんじゃないかと思っていたんですが、どうもそうでもないということで数字が取れずに一気に終息に向かったんじゃないかと思いますね(笑)。ただ、確かに阪急阪神ホテルズの場合は郷原さんの言うような側面もあったかもしれませんが、どさくさ紛れに色んなところが色んな偽装をワッと発表しましたよね?その中には明らかな偽装というものもあって、そのあたりは区別しなくてはいけないんだけれどもあまりに一気にたくさん出てきたものですからメディア側もオーバーフローしちゃった部分が私はあるんじゃないかなと思いますね。

大谷:世の中的に問題となっていると、発見したらすぐ出さなくてはいけないという心理が働くと思うんですけれども。

郷原:出し遅れると数か月後に隠ぺいしていたと批判されることになりますから、先を争うように色々なホテルや百貨店が公表をしましたよね。それを受けて今後どういう対策を取るかが問題だと思うんです。表示と食材の中身が厳密に一致していないといけない。メニューは正確に書かなくてはいけない。という風になるとメニューの表示が凄く味気ないものになるわけです。

中には牛脂注入牛肉なんてものもありましたよね。あれはあまり美味しくないお肉でも美味しい和牛の牛脂を入れることで美味しくするという1つの加工の知恵なんですよね。ところが消費者庁がいうように『牛脂注中』とメニューに書いてあったら誰も食べませんよ。ですからそういうようなお肉が出せなくなるんですよ。本当の高級和牛ステーキはお金持ちだけが食べれて、それ以外の貧乏人は安いものをみじめに食べなさいという話になりかねない。なので、私はこの問題は単純ではないと思うんですよ。

須田:でも、少なくとも加工肉ぐらいはちゃんと表示して欲しいな。1000円のステーキを本当のステーキだと思って食べてましたからね。それで今回の件で食べるのをよそうかなんて思いますよ。

大谷:「自家製」が、どこからさかのぼって自家製なのかって言い出したらキリないですよね。

郷原:生姜焼きが吉野家では焼いてないから出せなくなったらしいですよ。そういう馬鹿な話になっていくんですよね。

大谷:猪瀬さんの問題については、危機管理の側面からどのようにご覧になりましたか。

郷原:あれは危機管理の問題ではないですよ(笑)。

須田:人間性の問題ですよね(笑)。

郷原:ブログでも言っているんですが、あれは本来どう考えてもアウトです。ただ、検察が公選法で取り上げることに関しては色んなハードルがあるんです。そのハードルを乗り越えていかなくてはいけない。でも、本来は公選法違反になろうが、犯罪になろうが、あれはどう考えてもアウトですよ。やはり都が認可している病院の医療法人から選挙の資金5000万円を借りているんであれば、それはちゃんと選挙民に公表し、開示した上で選挙をやって欲しいですよね。それが分かっていれば400万票は入らなかったと思うんですよね。なので、私は猪瀬さんの問題は到底、容認は出来ない問題だと思いますが結局、公選法に違反しないようであれば辞めないという構えですね。※編集部注:その後、猪瀬知事は辞職。

須田:最初に政治資金として貰ったものなのか、借りたものなのかっていうところで「借りたもの」と言った時から崩れてしまった。やっぱり原点の部分で大きな嘘があったと私は思います。加えて、副知事としての職務権限があって、そこに対して資金提供が行われたわけですから……

郷原:いや、それは無理でしょうね。あの話は元々、知事選挙に立候補しますという挨拶に行って、その後に貰っているわけですよね。ということは、副知事は辞めますという前提じゃないですか? ですから副知事の職務権限に関するお金というのは認定しにくいですよ。だから主旨としては逆に知事になってからの話なんですよ。当選は確実だったわけですから。しかし、知事になってからのことであれば事前収賄ですから請託がいります。具体的なことをお願いしてお金を渡していないと事前収賄にはならないんですよ。ですからあの5000万について、収賄を認定することはまず無理です。もし、犯罪として立件されるのであれば公選法違反、収支報告書の虚偽記入しかありえないと思います。それはハードルを乗り越えていけば立件は可能だと私は思います。

須田:当初の段階で今、言われた通り「政治資金として貰いましたが記載をするのを忘れていました」と猪瀬さんが言った場合は犯罪行為として問うことは出来ますか?

郷原:それは忘れていましたということにはならないでしょうね。収支報告書を出す時にどの範囲で書くのかということについては多分認識していますよ。

須田:そうすると本人としてあの時点で「借りた」という説明をしたということは認識の中でもしかすると手が後ろに回るぞという意識があったということですか?

郷原:意識はあったと思います。

企業の危機対応のまずさが問題の本質を見誤らせる

大谷:トータルで言うと郷原先生がおっしゃるように対マスコミであるとか、マスコミの先にいる消費者、視聴者ですとか、当局に対する説明や謝罪の方法が適切なものでなければ、いつまでもマスコミ報道は続くかもしれないし、逆に言うと報道が下火になると誰も語らなくなるというようことも出てくるのかなと思いますね。

郷原:やはり問題の本質や中身が正しく理解される必要があると思うんですよ。企業がマスコミの追及を逃れる為に誤魔化すことが良いこととは思いません。しかし、多くの案件が企業の対応が逆にまずい為に世の中に誤解をされてしまって、その誤解によって余計におかしなことになっていくんです。そういう面でもこの問題は一体どういう問題なのか? 自分たちがそれをどういうふうに受け止めなければいけないのか?ということをしっかり世の中に理解してもらうことが重要で、それが出来ていれば世の中から誤解をされたり不当な非難を浴びることはないんですよ。それが本当の危機対応だと思うんですけれども多くの案件でそれが出来ていないですよね。

須田:私はこの1年間を見ていて危機対応コンサルタントですとか記者会見コンサルタントとかは結構良いビジネスになるんじゃないかなと思ったんですが。

郷原:そういう商売の人たちは大体が形式面で指導をするんですよ。立ち振る舞いや服装、お辞儀の角度ですとかね。そんなことはどうでもいいんですよ。重要なことは、その中身をどういうふうに受け止めて、どういうふうに説明するかっていうことなんですけどもそれはその企業自身の問題だし、中身が分かっていなければ指導もアドバイスも出来ないですよね。そういう技巧に走ったらダメなんですよ。ちゃんと理解してもらえるような言葉を用意しなければいけないし、その為にそういった危機対応というものを根本的に見直さなければいけないですね。

須田:今回は例えば、みずほ銀行は9月27日に金融庁が業務改善命令をして、その数時間後には何らかの企業対応を考えなければならない。非常に短い間に物事の本質を見抜くというのは中々難しいことなのではないかなと思いますね。

郷原:本質というのは2つあるんですね。1つは反社勢力への対応というのは微妙な問題で理解されない恐れがある。それが昔ながらの暴力団関係への融資だと誤解される恐れがあるということをまず認識しなければいけなかったと思います。それともう1つは金融庁の業務改善命令というのは事実が少し違っているということを早く把握をして、それに対する対策を考えなければならなかったと思うんです。これは早い時期に分かったんじゃないかと思うんですけれどもみずほ側は間違っているということは言いにくい。その点で対応がかなり遅れることにもなったのかもしれないですね。

須田:それで元頭取だとか元役員だとかが勝手なことをどんどんと言い始めてしまって最悪のパターンに今回なってしまいましたよね。それから第三者委員会も酷かったですね。

郷原:そうなんですよ。あれは全然第三者委員会ではないですよ。“疑似”第三者委員会ですよ。

大谷:郷原先生は、九電のやらせメールの問題の際は第三者委員会として対応されてましたね。

郷原:企業からは独立して、中立的立場を維持することがその企業にもプラスになるんですよ。今回の場合だって独立して第三者委員会の判断はこうだ、ということを言ってもらっていたら誤解は早く解消出来たかもしれなかった。ほとんど銀行側の言い分を代弁しているような感じでしたよね。

須田:最近、企業不祥事が起こると第三者委員会を設立するっていうのがブームみたいになっているんですよね。自分たちでやりたくないから第三者委員会、第三者委員会と言ってそれでいて権限も与えない、調査にも応じないっていうのが今回のケースで「おかしいじゃないか」って私が言ったら「じゃあ、あんたが調査しろ」って言われたんですよ。向こうの弁護士に。酷いもんだなと思いましたね。これは“まともな委員会”と“そうじゃない委員会”の見極め方っていうのはあるんですか?

郷原:最終的に中身が独自の立場で客観的に調査して分析しているか? ということ。それと自信を持ってきちんとした第三者委員会と言えるのであれば最初の段階で委員長が記者会見をやらないとダメですよね。みずほの場合はそれをまったくやらずに最後の報告書を公表する時に日銀クラブの中の後ろで記者がバタバタしているところで会見をやりましたよね? あれじゃ銀行の人の会見と区別がつかないですよね。

須田:今日みずほについて話したことを考えると情状酌量の余地があるのかななんて思うんですが、あの第三者委員会に対する対応を見ていると真相究明の意欲がみずほ側にないんじゃないかと思いますね。

郷原:真相を明らかにしてちゃんとした説明をしようという気持ちがないですよね。

マスコミによる単純化がさらなる誤解を生む

大谷:時間も少なくなってきたのでまとめに入りたいんですが、私が須田さんにお聞きしたいのが謝罪の連鎖的なもので、今年は学生さんがアルバイト先などでいたずらなどをして所属の学校やアルバイト先が謝罪するということがありましたよね。

須田:バカッターですね。

大谷:もちろんそれは学生さんにも問題があると思うんですが、見る側がそこで徹底して責任者は誰だと探してお詫びさせるとこまで見ないと気が済まない部分もあったんではと思ったりするんですけど。

須田:問題はもちろんやってしまった人間にあるんですが、特に企業側の問題としては、2000年代に入って正規雇用と非正規雇用の話が出てきましたよね?非正規雇用の社員はある意味で機械の歯車みたいなもので取り換えが可能なんですよね。それでいとも簡単に取り換えをする、安い賃金で雇う、そのことで企業が高い利益を上げていくという構造が出来上がってきたはずなんです。そうすると企業に対するロイヤリティーであるとか、仕事への責任感であるとかは企業がきちんとした教育や研修へのコストをおざなりにしてきた結果で、この責任は企業側大きなものがあったと思いますよ。

郷原:それについては私も本の中で書いているんですが、企業を取り巻く環境の変化に適応できていないということなんですよね。1つは情報の環境が変わったということ。ネット空間が身近なものになって、ワンクリックで情報があらゆるところへ流出していく。そういう情報環境と同時に須田さんがおっしゃったようなパート、アルバイトのような短期の雇用で会社への帰属意識が希薄な人たちが企業の内部の表に出してはいけないようなところに入って行って、場合によっては不潔と思われるようなことをし、画像を投稿するっていうは大きな環境の変化が関係していると思うんです。それに対して企業がどう対応していくかが重要なのに、それが遅れてしまったと思うんです。やはりきちんと本質を見抜かなくてはダメで、何か問題が起こった時に自分たちにはそういう点が不足していたんだと認識して世の中にこういうことがないようにしますというのが危機対応というものなんです。頭を下げるだけで済まして、水に流してもらおうとばかりしているから問題が根本的に解決しないんだと思います。

須田:それでいとも簡単にお店を閉めてしまうところも出てきましたよね。これも経済の原理原則というか、そこで清潔な関係を作り直して0からやり直すよりも、1度閉めた方が損が少なく済むという企業側のもの凄く冷徹な判断が働いていると思います。こういった部分があるから、ああいった問題が発生するんではないでしょうか。

大谷:今日を振り返ってお2人はどういった感想をお持ちになられましたか?

郷原:不祥事を巡ってマスコミがどういう方向で報じようとしているかというのを改めて考えてみると、結局のところ単純な話にすることによって問題が大きくなるということなんじゃないかと思います。謝罪の光景をどうしてあれだけ扱うかというと経営のトップが頭を下げるということが悪いことだというのを端的に表せるからなんですよね。それで問題の中身も単純化してしまう。それによって世の中が本当に理解をしなくてはいけない不祥事の中身が理解されずに誤解されたまま済まされてしまう。私はそれは社会にとってもマイナスだと思うんですよね。世の中が正しく理解して、評価する環境を作らなければいけない。そういう面で今年の様々な不祥事には色々な教訓が含まれているように思います。

須田:不祥事を0にするというのは出来ないんだと私は思うんです。ただ、不祥事を企業として、組織としてどう決着をつけるか?これにはきちんとしたルールがあると私は持論として持っているんです。3つのステップを踏む必要性があるんです。全容を解明して明らかにするということ、責任の所在を明らかにして責任を負わせるということ、そしてその上に立って再発防止策を講じるということ。この3つのステップをきちんと踏む必要性があるんだけれども、再発防止策だけがどんどん出てきてしまって前段の部分をすべてないがしろにしてしまっているケースが相次いでいるんじゃないのかなと。それでは世間は納得しないと感じます。上手く誤魔化して最終的に再発防止策を講じて「もう2度とこういうことはしません」と言われてみたところで誰が信用できるのかという感じがしますよね。

今回のみずほ銀行の件に戻るんですが、みずほ側に配慮しなければならない部分があることは事実だけれども、そこで虚偽の説明をしてしまった。あるいは本来トップが気付くべきところを見落としてしまった。じゃあこの責任をどう負うのか? これに対しては給料を半分にしますとした。それでも5000万円貰えるということじゃ世の中は納得しないですよね。やっぱりどっちを向いて仕事をしているのかということがよく分からないなと思いますね。

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企業はなぜ危機対応に失敗するのか―相次ぐ「巨大不祥事」の核心
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郷原 信郎
毎日新聞社
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