※この記事は2013年12月30日にBLOGOSで公開されたものです

年の瀬を迎え、様々な特番や音楽ランキングとを通して、この1年の音楽を耳にする機会が増えている。一方で、ミリオンヒットは少なくなり、かつてのような、老若男女問わず口ずさめる音楽が減ってきていることも事実だ。

そこには、どのような背景があるのか。また、音楽との接し方も、年代によって大きく異なっている。音楽を取り巻くこの複雑な環境に対し、関係者はどのように立ち向かって行けば良いのか。

その一つの解決策として、「CDショップ大賞」や「ミュージックソムリエ」資格などを通じ、リスナーと音楽を結びつける役割を担う人材を育成することで、再び価値を創出しようとしている音楽業界関係者たちがいる。「NPO法人ミュージックソムリエ協会」だ。今回、代表の鈴木健士氏に、音楽業界の実態と、鈴木氏らが育成を目指す「ミュージックソムリエ」について話を聞いた。【編集部:田野幸伸、大谷広太】

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音楽業界の”政治”

-紅白歌合戦の放送がもうすぐですが、毎年、出演者や受賞者の顔ぶれに”政治色”を指摘する声もあります。

鈴木健士(以下、鈴木):NHKはディレクターがどんどん人事異動で替わるので、なるべく業界との癒着がおきないようになってるはずなんですけど、逆に経験がないディレクターが増えて業界政治が不慣れになって、全部上に任せているのかもしれません。

まだ紅白って地方営業に影響力がありますから、出られるか出られないかは大事なんでしょう。だけど、紅白はさすがにもうどうでも良くなってきましたね(笑)。

-昔の若手はレコード大賞を受賞すると泣いてしまって歌えない、という場面がよく見られたと思うのですが、最近ではほとんど見られません。アーティストから見ても、場としてのステータスが薄れたということはあるのでしょうか?

鈴木:レコード大賞こそ、どうでもいいと思ってるんじゃないですかね。誰それ?みたいな人が沢山出ますよね。それでも何となく、今年は去年よりは優秀作品が色々変わってきて、珍しいアーティストが出ているなと思ったりしましたけれども。ただ新人賞は毎度のことながら”持ち回り”ですね、完全に。

-ラジオの世界でも、例えば番組で放送する曲の枠が5曲分あるとしたら、3曲は”政治”で最初から決まっていたりします。聴取者に聞いて欲しい曲だけを放送することはできない。

鈴木:私どものやっている、「ミュージックソムリエ」資格(後述)の規約の中に、「レコード会社からの金銭的インセンティブをもらってレコメンドした際は資格を剥奪する」という項目があります。1度でもやったらダメですよと。

かつては一般のリスナーも、騙されることにある種の快感を覚えていたんです。パワープレイを何十回も聞いて「ああ、今コレが仕掛けられている曲なんだな。じゃあ聞かなきゃ」と動いた。雑誌でもテレビでもラジオでもそれが成立しました。しかし今は「ステマでしょ?」の一言で嫌われてしまう。

それを容認していたこと、そんなことやってるから音楽業界はダメになったんだという人たちもすごく増えてきています。

ただ、業界政治となると、いろいろな「言葉では言えない勢力」ってありますよね。そことの関わりは持ちたくない。事務所にケンカは売れないわけです。テレビ局にしろ広告代理店にしろ社員はエリートたちですよね。

僕なんて事務所のマネージャーから竹刀で叩かれるというような時代を通り越してきたので、脅しに対してはぜんぜん怖くないんです。だけど最近の人たちはそういうのを経験していないから、ちょっと怒鳴られるだけで萎縮してしまう。

結局、”飴と鞭”なんですよ。接待攻勢かけて、何かあった時は呼び出される。これを繰り返すと「もういいか」となる。

それが通じていた頃は良かったですけど、受け手側、視聴者側がそれをすべて見抜いて「こんなもんに何で興味を持てますか」と言い始めちゃった。だから一気に瓦解してきたんだなと思っています。

いまinterFMがやっている取り組み(ラジオに魔法をかけた100曲)なんかは、それに対するアンチテーゼですよね。自分の持っている番組で自分の作品はかけちゃいけないとか、そういう番組も出てきていると聞きますが。

-現場のディレクターも、レコード会社のプロモーターが事務所に怒られるのが可哀想だからオンエアしてしまう。「これはあの事務所の作品で、どうしても流さないといけない。頼む」と言われれば、「大物ゲストに出てもらうために貸しを作っておくか、そこそこ売れるだろうし、聴いている方もそこまで悪い気はしないだろう」ということになってしまうわけですね。

鈴木:それで売れて、商売が成立していた時代は良かったんです。だけど、もう”笛吹けど踊らず”。なかなか言いにくいことではありますが、日本の音楽出版社って本当に腐りきってるんです。

事務所が持っている音楽出版社は、自分のアーティストの作品を大事に二次使用して、いずれ他の人に歌わせてさらなるヒットを狙ったりします。そうじゃなくて、ただの利権でやりとりされている「出版権」というものがあるんですよ。ラジオでこれだけオンエアされたら、このうち何%はおたくの出版社に差し上げますよ、とかね。アーティスト達は何も知らされていない。どれだけ自分の貰えるべき権利を搾取されているのか。

テレビ局も同じですよね。どういうわけか大手広告代理店も音楽出版社を持って力を持つようになって、お金儲けの道具になっている。

だから昨日・今日で作詞作曲を始めたような連中にも曲を発注するんです。それで集まってきたカス曲の中から、売れそうなものを音楽も聞かないA&Rが決めているというのが実情なんです。そのため、しょっちゅう盗作騒ぎが起こるし、似たようなメロディばかりになってしまう。

-複雑ないわゆる”原盤権ビジネス”なんですが、そこが音楽業界の根っこというか、権利を持っているところが強いという構造がありますね。放送局が音楽出版社を持っていれば、自然と出演者のパワーバランスも変わってきますよね。

鈴木:番組に出るだけでCDの売り上げが変わるから、癒着が生まれてTVプロデューサーが億単位で着服するような事件が起きるんですよ。
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激減する音楽制作費

-最近の音楽制作の現場はどのような状況でしょうか?

鈴木:レコーディングもデジタルになりましたし、オーケストラを入れたりしない限り、大きなスタジオを借りる意味も無くなってきていますから、コストは少なくて済む傾向にはあります。ただ、それ以上に、音楽が商品として売れなくなってきたので、まず制作費が激減していますね。

今までは音楽がダウンロードであろうが現物の商品だろうが、人々が手元に置いておきたいものでした。ところが今はいつでもどこでも誰もが簡単に音楽を手に入れられるようになってきましたからね。それに加えてお金を投じる価値のある作品が激減しています。

それで次は「音楽の聞き方はサブスクリプション(定額配信)になるだろう」と。これも一応昨年から200%の増加を見せましたが、単純にMusic Unlimited一社しかなかったところにレコチョクですとかFaRao(ファラオ)ですとか、幾つかの音楽サービスが始まったからです。残念ながらどのサービスもまだうまくは行っていない。

-クラウド化による音楽定額聴き放題サービスは、ユーザーにはメリットが大きいですが、業界の皆さんはもうそこに突き進んでいくしかないという感じなのでしょうか。

鈴木:どうしていいか分かっている人はほぼいないでしょう。「いずれこうなるだろうな」とは思っているけど、音楽業界がどうなっていくかということは、多分もう考えないようにしているんじゃないかな。特にレコード会社のトップは、「音楽を文化として残していこう、自分たちはその役割を担っているんだ」ということについては全く忘れています。

とにかく金になればいい。良いものを残していくという考え方が、ほとんど害悪として捉えられているんです。「ウチの会社に音楽に詳しい人間なんて要らないんだ」と。それよりもマーケティングできる、「金になるものを見抜けるやつが欲しい」とハッキリ言うメーカーの社長さんも多い。

レコード業界では去年「違法ダウンロード撲滅」キャンペーンやってましたよね。違法にアップされたものであった場合は、ダウンロードした側も罪に問われますよ、と。1年経ってフタを開けてみたけど、音楽の売上は全く伸びていなかった。違法ダウンロードは減ったかもしれないけど、減ったぶんが有料ダウンロードに向かったわけではない。今は、違法ダウンロードをどうこう言っている人も少なくなくなりました。

レコードへの回帰が始まっている

-近頃はデータ配信がメインになり、「CDやジャケットは邪魔だ」という感覚の若者も増えているといいます。

鈴木:CDを開けてコンピュータに入れてリッピングして、翌日には中古で売ってしまう。これが紛れもない現実です。その反面、数少ない本当にそれでもモノを持っておきたいという人たちがいるわけですよね。実は、アナログ・レコードへの回帰が起きているんです。

アーティストとしては、もちろん無料でもいいから自分の曲を聴いて欲しい。だけど形のあるものを残したいという気持ちも強く持っているんですね。その中で捨てられない、邪魔者扱いされないためにはどうすればいいかという工夫の中で、アナログ盤が再注目され始めています。

アナログ盤を聞くにはレコードを取り出して、針を掛けないといけない。掛けた以上は、音楽が流れている間そのままでいなければならないし、片面終わったらひっくり返さなきゃいけない。こういう手間がいいと。

例えば必ずCDと一緒にアナログ盤を作っているクロマニヨンズは、アナログ盤をマスターにして、そこからCDを作るんです。針を落として最高になる音をまず目指して、そこからデジタルに落としていくやり方をしています。THE BAWDIESも毎回必ずアナログ盤を出していますね。

アメリカで2008年に始まった「レコード・ストアデイ」というのが全世界に広がっているんですが、これは「4月の第三週土曜日はレコード・ショップに出かけましょう」という運動です。最初は本当に小さなレコード店のおやじさんたちが集まって、何とかお祭を仕掛けようとしたところ、メタリカが「じゃあ俺達がライブやってやるよ」と出演を快諾しました。

これにすぐポール・マッカートニーが呼応して、世界各地に広まった。日本でも一昨年から我々が主催して始まりました。同じように日本のレコード会社を回って、レコード・ストアデイというのが「全世界でこうなっているんですよ。日本でもアナログ盤を作りたいアーティストがどんどん増えているんじゃないですか」という話をしたんですが、まったく興味を示してくれなかった。大手レコード会社も「だって売れないじゃない」の一言です。

英国、AmazonUKのデータでは、2008年以来アナログ盤の売上が745%アップしているそうです。
アメリカでも、アナログの売上が2010年が280万枚だったのが、2011年が380万枚になった。すごい勢いで伸びています。日本でも結構売れていて、前年度比315%アップ、洋・邦合わせて年間45万3000枚売れているんです。

今の海外の新人バンドの流れって、まずEP盤(シングルレコード)を出すんです。EP盤を2枚、3枚と出して、その次にそれをCD化する。レコードプレイヤーも売れてきています。安いやつだと7000円ぐらいから手に入りますし、イギリスだと親が持っていたプレイヤーを捨てずに持っているんですね。

だから、一方では無料で音楽を聞けるようにして、ほしいものはアナログ盤で買う。もしくはSACD(SUPER AUDIO CD)とか音質の良い、通常の配信より良い音質で聞けるということで、二極化していくのかなと。

「ミュージックソムリエ」が必要になる

-こだわりを持ってアナログ盤で聞く人たちの年齢層は比較的高めなのではないかと思います。年齢層別に戦略を変えていくということでしょうか。

鈴木:そこで私達が実施している「ミュージックソムリエ」があります。やっぱり、年を重ねるにつれ、どんどん音楽からは離れていくものじゃないですか。そういう人たちに生活に寄り添った音楽との出会いの場を作る、ということができる人たちを育成するのです。

音楽はどんどん生まれてくるし、過去のアーカイブは消えていくわけでもなく膨れ上がっていく。ネットが生まれる前と後で情報流入量だけでも1000倍近くなっているそうです。とすると、聞ける音楽がどんなに莫大にあっても、何を聞いていいかわからなくなっていくだろうと。

だから、きちんとレコメンドができる人がいないといけない。今目の前にいるこの人が求めている音楽はこれでしょ、これが好きなんでしたら恐らくこちらも好きになりますよ、という知識が求められます。

私達は彼らの育成のための音楽に関する知識・技能についての講座を開設し、レコード店で働く人など向けの活動を行っています。

-その資格を使って、実店舗ではなく、Webを使って収入を得ていくというモデルも考えられますか。

鈴木:Web用に資格のロゴを発行します。選ぶ側が「この人ソムリエなんだ、じゃあ聴いてみよう」というアクションにつながればいいなと。当然ながら、まずは無料でYouTubeやストリーミングで楽曲を紹介して、それを聞いてもらえるソムリエになれなくてはいけませんが。

メジャーレコード会社は、もう新曲を作るべきじゃない

鈴木:僕は今52歳なんですが、音楽制作者で言うと50代ぐらいまでがレコーディングというものをアナログからデジタルまで全部体験している世代です。音楽業界の良いところも悪いところも全部見て、恩恵も受け、裏金ももらい、やってきた人たちです。

これから出てくる10代・20代の連中のために、僕らがやらなきゃいけないのはまず破壊です。破壊して、更地にしてあげること。彼らが絵を描ける状況にしてあげること。そのためには、残しちゃいけない業界慣習は叩き潰さないといけないし、先ほど話した音楽出版社のやり口は徹底的に糾弾していこうと思います。

これからのアーティストに一番重要なのは、ライブなりパフォーマンスなりができないとダメだろうということですね。感動を与えてくれるモノを作るというのはすごく重要になっているし、そのためにコンサートにかけられる仕掛けやAR技術はますます発達していく。そこでアーティストがどういうパフォーマンスを見せられるか。

歌えないなら歌えないでいいけど、何らかのパフォーマンスを見せて生でそこにいる感動を出すべきだし、71歳のポール・マッカートニーが1回も水を飲まないで38曲を歌い切るというのは鉄人ですよね。そういうものに触れたり、これから出てくるアーティストはめちゃくちゃ練習しなきゃ駄目だし、人より秀でた何かを持たなきゃいけない。そこだけは絶対に諦めてはいけません。

レコード会社なんてどうでもいいんです。メジャーなレコード会社から声をかけられたなんて何の意味もないし、これからはますます意味が無くなってくると思います。

今のメジャーレコード会社は、もう新曲を作るべきじゃない。今あるアーカイブをいかに商品化していくかを考えるべきで、そうなるとバカな社員なんか何百人も要らないんですよ。そういうふうにすれば会社はやっていけるんだから、そういう組織になって、新人は全く違うデータベースをクラウドに用意して、いつでもどこでも誰でも聞けるようにする。

そうすればその中から1歩抜け出すのは厳しく磨かれてきた奴になる。そういうことになると思うんですよね。だから、とにかくケンカして壊すのは僕らに任せておけばいい。若い子たちはひたすら良い物を作れということです。

-ありがとうございました。

プロフィール

鈴木健士
1961年東京都出身。芸能マネージャーからスタート。西城秀樹やクールスを産み出した、スカウトマン上条英男氏にマネージメントの基礎を文字通り叩き込まれる。国内海外での音楽制作を経験。退職後、CM音楽制作会社へ。20代で社長になり社名をミュータントとして新規スタート。CM音楽制作のほかアーティストプロデュースやアーティストマネージメントも行う。扱った音楽制作は3000作品以上。任天堂ピクミン「愛のうた」エースコックスーパーカップのザ・タイマーズ「デイドリームビリーバー」など様々なCMタイアップなど手がける。林明日香プロデューサーとして、デビュー曲「ake-kaze」「凛の国」の作詞など多くの作詞作品も提供。2007年、NPO法人ミュージックソムリエ協会を設立。理事長に就任。「CDショップ大賞」の立ち上げから運営、「RECORD STORE DAY JAPAN」の事務局運営、Music Sommelier at CAY(ピーターバラカン氏を司会として様々な音楽イベントを開催)の運営、ミュージックソムリエの育成講座を実施している。

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