※この記事は2011年06月02日にBLOGOSで公開されたものです

　NHKの「教育テレビ」が、６月１日からチャンネル名を「Eテレ」に変更したという。

　この変更に対し、広報は「認知度を向上させ、もっと親しんでもらうため」と説明している。(*1)


　一般のサラリーマンと違い、昼間から家で仕事をしている私は、それこそ教育テレビをBGM替わりにつけていることが多い。朝から夕方にかけての乳幼児から中高生に向けた内容の番組は、民法のバラエティー番組のような過剰な演出がなく、その内容を耳にしていてもほとんど思考を邪魔しない。

　正確に計ったことはないけれども、多分私がテレビをつけている時間の６割程度は、チャンネルは教育テレビに合わせていると思う。

　そんな普段からお世話になっている教育テレビの名称が突然「Eテレ」に変わるというから驚きだ。しかもそんな大転換が発表されたのが、実施のわずか５日前だ。

　もともとEテレという名称は、放送開始50年の節目を終えた2010年に、教育（education）の「E」と、新たにエコ（Ecology）の「E」の意味も込めて作られた新愛称である。

　Eテレという言葉自体は、教育テレビを見ていれば一日に何度か耳にする事はあったが、大半の人は、よくある局のキャンペーンの一環ぐらいにしか思っていなかったはずだ。私もそうだったし。

　それがふと気がつけば地デジを見ているときに右上に映るマークがいつのまにかEテレになっており、そして今回ついに正式なチャンネル名になるそうだ。


　私はこのニュースに接して驚くというよりも、頭の上にハテナマークが浮かんでいる。ハッキリ言って改称の意味がさっぱり分からないし、憶測もできない。

　ネット上では同じ「E」ということで「E電」を思い出し「E電と同じ運命を辿るのか？」などと揶揄されているようだ。しかし、少なくともE電は、国鉄が民営化してJRとなったために、これまでの「国電」の名称が使えなくなったという経緯がある。結果としてE電の名称は普及しなかったが、名称変更の経緯自体は明白であり、スッキリしている。

　しかし、今回のEテレの場合は、その経緯自体がまったく不明だ。しかも６月からという、新年度から２ヶ月ずれた微妙な時期にそれをする意味が分からない。せめて４月に「今年度からEテレにします！」と宣言すれば、そのネーミングセンスはともかくとして、それなりに納得できただろう。

　もちろん、NHKにしてみれば理由はあるのだろうけれども、今のところそれは視聴者にまったく伝わっていない。その何とも言えないモヤモヤ感が残ったままの改変は、長い目で見たときに、Eテレというチャンネルにとってはマイナスになってしまうのではないか。


　かつて安倍内閣で農林水産大臣を勤めた赤城徳彦が、ガーゼや絆創膏を貼って顔で記者会見に望んだことがあった。

　正直、彼がどのような理由で絆創膏を貼っていたのかなど、多くの人にとってはどうでもいいことであっただろう。彼が適当に「転んで顔を怪我した」と言おうが「顔が腫れた」と言おうが、それで記者や視聴者が納得できれば、そんなことはすぐに忘れ去られていたはずだ。

　しかし、彼は絆創膏の理由を曖昧な態度でのらりくらりとかわし、記者たちを納得させられず、不信の種を残した。結果、彼は世間から強い批判を受けた。そのことが後の参院選に悪い結果を残したとも言われている。

　私は今回のEテレへの改称にも、まったく同じ「のらりくらり感」を感じる。そしてそれは視聴者にとって「とても気持ちの悪いこと」である。声高な批判は発生しないだろうが「なんかちょっと」と思う人は少なくないだろう。そういう人はなんとなくEテレを避けるようになってしまうかも知れない。また、下衆の勘ぐりがないとも限らない。

　そうした損失を防ぐためにも、ちょっと時間をとって、Eテレに変更した理由を説明するべきだ。コチラとしては納得さえできればいいので、でっち上げでもかまわないから、はっきりとした理由をつけてもらえないだろうか。

*1：ＮＨＫ：教育テレビをＥテレに、来月から名称変更（毎日新聞）http://mainichi.jp/select/wadai/news/20110528k0000m040108000c.html

■プロフィール：
赤木智弘（あかぎ・ともひろ）…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。