※この記事は2011年04月04日にBLOGOSで公開されたものです

都道府県知事は、自ら予算を組み、議会に提案し、執行まで手掛けることができる。そうしたことから総理大臣より権限を持っているともいわれる。また、アメリカの大統領が議会の招集・解散する権限がなく、都道府県知事は議会の招集・解散権を持っていることから、大統領の権限と比較してもかなり強大であるといえる。

東京都は神奈川県・埼玉県・千葉県・茨城県といった近隣県からの通勤・通学者も多く、東京に住所を持たずしても都知事によって生活を左右される。影響を受ける人の数は日本の総人口の大半を占める。さらに東京都の財政規模は約１３兆円で、小さな国の国家予算に匹敵する。となれば、都知事の及ぼす影響力は総理大臣とさして変わらない。世界の経済大国・日本の首都の顔を選ぶ都知事選は、もはや単なる一地方自治体のリーダーを決める選挙ではない。総理大臣と並び、日本の顔ともなるべき人物を選出する選挙なのである。

それゆえに、都知事選は全国的にも大きな注目を集めるのだが――

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新橋駅前のＳＬ広場では、都知事選挙を周知する垂れ幕がかかる

　選挙が告示されると、立候補者全員の政策や政見が記載されている選挙公報が配布される。近年、立候補者はマニフェストを配布しているが、選挙公報はいわば候補者全員のマニフェストを公費で発行していると形容できる。

しかし、選挙公報は各候補者の政策が網羅的に記載されているので、政策を比較してもみんな似たような政策を掲げているように見えてしまう。例えば、今回の都知事選において、どの候補者も公務員数や給与の削減、無駄の見直しを謳っている。これでは、有権者の判断材料にならない。しかし、同じ政策だとしても候補者がその政策をどのぐらい重要だと思っているのかでその政策への力の入れ方が変わる。では、候補者が実際に重点を置いている政策を知るにはどうしたらいいのだろう？　その答えは街頭演説を聞くことだ。

街頭演説はおおむね５分～１０分間程度でおこなわれている。時間制限が特にあるわけでもないのに候補者が５～１０分程度で話をまとめるのは、だらだら長く話をしても聴衆が聞くことに飽きてしまい、かえって逆効果になるからだ。通りすがりの人たちが足を止め、そしてちゃんと話を聞いてくれる適正時間が５～１０分なのである。５分～１０分で演説をまとめるには、おのずと候補者が取り組みたい政策に重点を置いて演説をしなければならない。

だから街頭演説を聞けば、候補者がどの政策に一番力を入れているのかがわかるのだ。もちろん、秋葉原では青少年健全育成条例、築地では移転問題、巣鴨では高齢者福祉といった具合に場所柄で話の内容が変わることはある。それでも、やはり候補者は自分が一番取り組みたい政策を話そうとする。

例えば、東国原英夫候補は石原知事の多選と高齢への言及が多く、

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これまで自粛していた選挙カーの上から新小岩駅前で街頭演説する東国原英夫候補

渡邉美樹候補は企業経営者の経験をもとにして都市経営に企業経営の概念を導入する趣旨の発言が目立つ。小池晃候補は医師という職業柄、医療・介護・福祉政策に力を入れていることが窺える。

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渡邉美樹候補は大手居酒屋チェーンを創業した実績をアピール

そうした候補者の色は街頭演説でこそはっきりと出る。ところが今回の都知事選は少し様相が異なる。それは３月１１日に発生した東日本大震災によって“防災”が社会的にも関心が高くなり、大きな争点になっているからだ。そこで、各候補者の防災対策について触れてみたい。小池晃候補は、震災によって問題になっている原発政策を見直し、クリーンエネルギーの推進を掲げている。クリ―エネルギー推進の例として、小池候補はドイツを引き合いに出す。ドイツでは電力の１６％がクリーンエネルギーで賄われており、福島原発の２５機分にあたるという。また、事故が起きれば東京にも被害が及ぶことを想定し静岡県の浜岡原発の停止も明言。原発廃止で都民の安全を守るとしている。

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大田区で開催された個人演説会で、防災と福祉を訴える小池晃候補

ドクター・中松候補は、今回の立候補者では唯一科学者で原子力のプロ・新エネルギーのプロを自認する。自身の発明品である対地震・津波建築を導入することで災害に強い都市の構築、太陽光発電を柱とした新エネルギー転換を目指すことを公約している。

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ドクター・中松候補は、発明品で災害に強い都市づくりを強調

谷山雄二朗候補は東京オリンピック開催のために積み立てた４１５３億円超の基金を含む、総計２兆５９６９億円の基金から１兆円を捻出して震災復興費にあてるとしている。その理由は福島原発の電力をはじめ食料品など、東京の生活は東北地方に依存している部分が多く、東北の復活なしでは東京の繁栄はないと説明。また、１兆円の財源は基金を取り崩して賄うので、都民の痛みを伴わない増税をしない点もポイントだ。

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「オリンピックを中止し、その財源で東北支援を」と声を挙げる谷山雄二朗候補

渡邉美樹候補は、震災後に救援物資を送り届ける活動をしていた経験を引き合いに出しながら、被災者の対応のみならず、震災後に訪れる経済の冷え込み対策に力を入れることを提案。

東国原英夫候補は、宮崎県知事時代に鳥インフルエンザが発生し、当時の災害対応を活かした防災体制づくりを強調している。

告示後、震災の救援・復興活動のために出身地の会津に行っていた古川圭吾候補、都知事選中盤に「都知事選よりも震災の方が気がかりだ」との理由で東北に向かった雄上統候補なども、自身の経験をもとに独自の防災政策を掲げる。

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古川圭吾候補は出身地・会津に災害の支援物資を届けたために出遅れたが、地道に選挙活動を展開中

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雄上統候補もまた都知事選と被災地支援活動を並行しておこなっている候補者のひとり

防災のみならず、こうした“争点”は、ほかにも新銀行東京、青少年健全育成条例、雇用、行政改革、オリンピック誘致、福祉、介護など多岐に渡る。各候補は各テーマについてそれぞれの主張をしている。

しかし、“争点”はあくまでメディアが対立の図式をわかりやすくするために設定したにすぎない。なかには、知見や経験をもとにオリジナリティある政策を主張する候補者がいる。そこで、次回は争点にはなりづらいものの、候補者が独自に提唱しているオリジナルな政策を見ていきたい。

（寄稿：小川裕夫）

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