ダブルスタンダードから抜け出せない象徴になっています(写真:Graphs/PIXTA)

今春、土曜21時台のニュース番組「サタデーウォッチ9」(NHK)がスタートしました。同番組は、2006年春から16年超に渡って放送され続けている平日の帯番組「ニュースウォッチ9」(NHK)の土曜版という位置づけ。

「『土曜の夜にも、くつろいでニュースが見たい』そんな声にお応えする65分。週替わりのゲスト・専門家とトークしながら、今週を振り返り、明日や来週へのヒントを探っていきます。平日には伝えきれなかった情報、ココロ動く話題もお伝えします!」というコンセプトで放送されています。

気になるのは「サタデーウォッチ9」と同じ21時台に「サタデーステーション」(テレビ朝日系)が放送されていること。その「サタデーステーション」は、2017年春から5年超に渡って放送されてきたうえに、平日の帯番組「報道ステーション」の土曜版という位置づけも同じ。つまり、「かなり似たコンセプトの番組が同じ時間帯に放送されている」ことになります。

ただ、これだけなら「『サタデーウォッチ9』と『サタデーステーション』のガチンコバトル」というトピックスのみで済むのですが、土曜夜のニュース番組はこれだけではありません。両番組が終わった直後の22時台に「情報7daysニュースキャスター」(TBS系)、両番組の直前に20時台の「池上彰のニュースそうだったのか!!」(テレビ朝日系)が放送されているのです。

ニュースのほうが数字を獲れる現実

さらに土曜夜だけでなく、日曜昼までの時間帯もニュースをフィーチャーした番組が目白押し。TBSが「サンデーモーニング」「サンデージャポン」「アッコにおまかせ!」、フジテレビが「日曜報道 THE PRIME」「ワイドナショー」、テレビ朝日が「サンデーLIVE!!」「ビートたけしのTVタックル」、日本テレビが「シューイチ」、NHKが「NHKニュース おはよう日本」「週間まるわかりニュース」「日曜討論」を放送しています。

なかには情報番組の要素を濃くしているものもありますが、コロナ禍、ウクライナ情勢、観光船事故、地震災害などのシリアスなニュースを扱っていることは同じ。「土曜夜から日曜昼」という休日のゆったりと過ごしたい時間帯に、なぜシリアスなニュースを扱う番組がこれほど放送されているのでしょうか。

私が各局の局員や制作会社のスタッフ、芸能事務所関係者、テレビ誌の記者らの誰に話を聞いても、その状況を良いこととは思っておらず、「ニュース番組が多すぎる」「このままでは視聴者が減る一方」などの厳しい言葉が返ってきます。

厳しい言葉の理由は、「ニュース番組が多すぎる」というだけでなく、「このままでは若者だけでなく30〜40代や高齢者まで、多くの人々がテレビから離れてしまう」という危機感によるものでした。「平日だけでなく土日までシリアスなニュースを見たくない」「休日くらいは笑ってのんびり過ごしたい」というニーズと、供給されている番組の内容や数が合っていないということでしょう。

では、なぜテレビ局はその状況をわかっていながら、土曜夜から日曜昼にかけて多くのニュース番組を放送し続けているのか。その理由は単に「視聴率を確保するため」でしかないようです。

Netflixなどの動画配信サービスやYouTubeをテレビ画面で見る人が増え、地上波の番組ですらTVerなどで配信視聴する人が増えました。もちろん録画しておいた番組を見る人もいる中、テレビ業界は「リアルタイムで放送を見る人は今なお減り続けている」という苦境の真っただ中にいるのです。

リアルタイムで見る確率が高く、視聴率につながる番組は、ここにきてさらに減り、「ニュース番組か、音楽やスポーツの大型イベントくらい」が大方の見解。ドラマは「すでに録画視聴と配信視聴のほうが多い」と言われ、バラエティも「人気番組でなければニュース番組を上回ることはできない」という目で見られているのです。

ニュース番組の競争激化は自業自得

ただ、「視聴率が獲れれば何でもいい」というわけではありません。2020年の視聴率調査リニューアル以降、民放各局は多少のバラつきこそあるものの、10〜40代をメインターゲットに定めた番組制作を進めるように変わりました。これは「スポンサーの望む視聴者層でなければ、これからはCM収入が得られない」ということであり、取引の現場でも「コア層」(各局によって呼び方が異なる)と言われる視聴者層の個人視聴率が使用されています。

ところがニュース番組の主要視聴者層は、誰がどう見ても50代以上。実際は「60〜80代がメインの視聴者層」とも言われていて、決して10〜40代の「コア層」ではありません。そのような高齢の視聴者層で獲得できるスポンサーは限られているだけに、ニュース番組を放送してもテレビ局が儲かるということは考えにくいのです。

話を整理すると、「本当は10〜40代の『コア層』を獲得できるバラエティーやドラマを放送したいが、休日の土日でもそれらをリアルタイムで見てもらえなくなった」「だから高齢層メインのニュース番組を放送しているが、一方でその数が増えた今の状況を危惧している」ということ。「ニュース番組で個人視聴率全体や世帯視聴率を得られたとしても、素直に喜べる状況ではない」というジレンマを抱えているのです。

また、今春にNHKの「ニュースウォッチ9」がスタートしたことで視聴動向が変わり、民放の「サタデーステーション」や「情報7daysニュースキャスター」に視聴率やCM収入などの面でネガティブな影響が出る可能性は十分ありえるでしょう。

とはいえ、NHKの新番組を「民業圧迫だ」とは言い切れません。前述したように民放側には、「世帯視聴率や個人視聴率全体を得るために、土日のニュース番組を放送してきた」という背景があり、そもそもニュース番組は公共放送であるNHKのベースとなるコンテンツ。逆にNHKが民放と同じようなコンセプトのドラマやバラエティーを放送したら、「民業圧迫」と言いたくなる気持ちは理解できるものの、ニュース番組については「自業自得」というニュアンスが大きいのです。

「不安」「ショック」を視聴率に直結

そしてもう1つ挙げておかなければいけないのは、このところ人々の不安をあおるようなニュースが増えていること。コロナ禍がはじまった2020年春から現在まで、国際情勢、事故、事件、災害、企業や自治体の不祥事など、「目を背けたいけど、気になって見てしまう」というタイプのニュースが続いています。

このような人々の「不安をあおる」「ショックを与える」などの刺激的なニュースは視聴率が伸びやすい傾向があり、制作サイドはそれを探し、長時間を割いて扱っていることも間違いのないところ。しかし、その不安やショックは一部の人々を引きつける以上に拒絶反応を示す人々も多く、「仕事や勉強を忘れてゆったりとした休日を過ごしたい」という人にとってはなおのことでしょう。

土日に放送されるニュース番組が多く、さらに不安やショックを感じるような内容が多ければ、その番組やテレビ局だけでなく、テレビ全体のイメージダウンにもつながりかねません。実際、「テレビはコロナばかり」「ニュース番組ばかりでつまらない」などの声は、本来ターゲットとして狙うべき10〜40代の「コア層」ほど多く、各局のテレビマンたちはそのことをわかっていても変えられないのです。

やはりすべての元凶となっているのは、視聴率をベースに放送収入を得ているという時代錯誤なビジネスモデルにあり、そこから抜け出せないこと。私が知る限りテレビ局員の中には今も0.1%の視聴率を上げる、いや0.1%を下げないために、小手先の対策を日々考え続けている人が多いのです。

録画機器が発達し、配信での視聴も幅広い世代に浸透。「見たいときに見たいものを見る」「リアルタイムで見なくてもTVerで見ればいい」という行動パターンが当然のようなった今、「リアルタイムで見てもらう」という不自由を強いる形のビジネスモデルはどう見ても無理があります。

ドラマには光明もバラエティ−はきつい

だからこそ民放各局にとって「放送による視聴率以外の収入をどのように得ていくか」は喫緊の課題なのですが、その点ですでに動きが見られるのはドラマ。放送による視聴率に加えて配信再生数も評価指標に入れ、さらに、その先の海外配信、映画、イベント、グッズ、企業コラボなどによる収入を含めたビジネスモデルに変わりはじめているのです。

ただ、そのドラマに続くはずのバラエティーは、配信再生数が伸び悩み、その先の収入も見込みづらいなど、視聴率の低下によるCM収入ダウンを補うものが見いだせていません。「制作費や手間がかかる割に、視聴率が獲れず、今後の見通しも立っていない」という苦しさがあるから、「それならニュース番組を放送して、個人視聴率の全体だけでも獲っておこう」という後ろ向きな発想になってしまうのです。

テレビマンの多くもサラリーマンだけに、降格や左遷があれば、給料ダウンもあります。「本当はこうしたほうがいいのはわかっているけど、目の前の数字をある程度作っておくことも重要」「自分の世代は何とか定年まで乗り切れるかもしれない」などと考えてしまうのは仕方のないところもあるでしょう。

しかし、テレビという媒体のブランディングで言えば、土日にこれほど多くのニュース番組が放送され続けていることのデメリットは計り知れません。業界内で紳士協定を結ぶくらいのことをしなければ、CM収入がさらに下がるなど、ビジネススケールは小さくなっていく一方ではないでしょうか。

例外は「笑いの土曜日」に挑むフジ

そんな危うさを感じてしまう土曜夜のテレビ番組表で唯一、攻めた番組編成をしているのがフジテレビ。

土曜夜は「芸能人が本気で考えた!ドッキリGP」「新しいカギ」「さんまのお笑い向上委員会」とお笑い純度の高いレギュラー番組をそろえ、さらに単発特番枠の「土曜プレミアム」でも「IPPONグランプリ」「ENGEIグランドスラム」「人志松本のすべらない話」「ただ今、コント中。」「ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ」「ドラフトコント」「まっちゃんねる」などのオリジナリティーあふれるバラエティーを放送しています。

これは昨秋から「笑いの土曜日!」というコンセプトで行われている編成で、「週末はテレビを見て笑ってもらいたい」という思いによるもの。バラエティーの中でも「笑い」を優先的に選んでいること、18時以降ニュース番組を一切放送していないことなど、フジテレビが他局とは一線を画す戦略を採用していることは明らかです。もちろんすべてのテレビ局が同じような戦略を採用する必要性はありませんが、ニュース番組を放送している他局より視聴者の支持を得ているのは間違いないでしょう。

そんなフジテレビの土曜バラエティーも、「リアルタイムで見てもらい、視聴率を獲らなければいけない」という難しさを抱えているのは他局と同様。今後はいかに「リアルタイムで見たい」と思わせるライブ感を与え、「SNSに書き込んで盛り上がりながら見る」などの視聴習慣をつけてもらえるかが問われていくでしょう。

目先の結果に左右されず、この戦略を続けられるのか。テレビ業界にとって土曜夜は重要な時間帯だけに、もしかしたら同局だけでなく、テレビ業界全体の未来をも占うチャレンジになっていくのかもしれません。

(木村 隆志 : コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)