「いつから子どもに勉強を始めさせたらいいのか」早期教育について隂山先生にうかがいました(写真:mits/PIXTA)

「いつから子どもに勉強を始めさせたらいいのか」「読み聞かせはしたほうがいいのか」「ゲームをやめさせたい」など子どもの教育にまつわる悩みを持つ親も多いはず。そんな疑問を、『小1の不安「これだけ!」やれば大丈夫です』の著者であり、「百ます計算」など子どもの基礎学力の向上に取り組む隂山英男さんにぶつけてみました。本稿は同書を一部を抜粋し、再編集しています。
(前回:『読み聞かせしてるから「国語は大丈夫」の大誤解』)

早期教育は百害あって一利なし!

――昨今、お受験の低年齢化が進んでいるようですが、やはり3歳くらいから早期教育をしたほうがよいのでしょうか?

隂山英男先生(以下、隂山):勉強の話になると、決まって早期教育の話題が出ます。「できるだけ早く勉強をはじめたほうがいいのではないか」「英語、音楽、プログラミング、どんどんいろいろなものをやらせたほうがいいのではないか」などです。

結論から言うと、僕は早期教育には反対です。百害あって一利なし。勉強は、出前や徒競走とは違いますから。

僕は各地で「陰山式スコーラ」という学習塾をやっていて、京都の教室には年長さんも通っていますが、それだって小学校入学の半年前くらいからで十分です。授業は1コマ50分ですから、50分座っていられるくらい成長していて、ある程度理解力も必要。そうなってくると、やっぱり幼稚園・保育園の年長さんの後半くらいが現実的ですよね。

それに、親が子どもに「いろいろやらせる」と「やらせないと何もできない人間になる」可能性もあります。子どもは面倒を見れば見るほど、自立が遠のいてしまいます。心配症のお母さんほど手をかけてしまうのですが、面倒を見ないと生きていけない人間に育てている自覚があまりないんですね。

しかもそういうお母さんって、子どもが失敗しないように先回りするんです。「勉強がわからなくならないように早期教育する」「ほかの子より先に行くためにピアノの英才教育をする」……だけどそれって、「失敗が怖い子ども」を育てちゃうことでもあります。

子どもが勉強でつまずいた。音楽の授業で1人だけピアニカが弾けない。いいんです。そういうことがあってもいいんですよ。 それで「よし、じゃあ音楽教室に通おう」と子どもが思ったら、通わせてあげればいい。「僕は音楽はできなくていいや。体育ができるし」と思う子なら、それでもいいんです。

親がすることは先回りして準備することではなく、子どもの興味関心に沿って「がんばれ」と応援することです。東大に行きたい、オリンピックに出たいと言ったら、「がんばれ」と塾や教室を探しましょう。そこでの学び、プロセスも経験になります。

小2くらいまでは「読み聞かせ」で十分

――なるほど、子どもの興味関心に沿って応援することが大切なんですね。興味の幅を拡げるなら、本を読むのもよいと思うのですが、どうすれば、本を手にとるようになりますか?

隂山:子どもが本に触れる最初の機会は、やはりというか当然というか、「読み聞かせ」です。

生まれてから、2、3歳ごろまでは「読み聞かせ」を一生懸命していたけれど、だんだん子どもが自分の好きな動画を見るようになってしまった。子どもが「読み聞かせ」を喜ばなくなった。などの理由で頻度が減っているご家庭も多いかもしれません。しかし、本を読む習慣を身につけさせたいなら、小2ごろまで親が読んで聞かせることが大切です。

よくある間違いが、親が独断で本を選んでしまうこと。もちろん、教育にいい本を選ぶのは大切ですが、子どもが興味を示さなければ意味がありません。ですから、本を選ぶ基準は子どもの「食いつき」にしましょう。子どもが興味を持って食いつく本がベストです。

子どもに任せると、人体とか内臓とか「え、ちょっと気持ち悪い」というような本、「うんち」などちょっと下品というような本を選んでしまうかもしれませんが、子ども向けの本であればただ単に下品な内容の本はないので大丈夫。

大人が眉をひそめるようなテーマでも、なんらかの学びはあります。万が一、大人からすると学びがまったく感じられない本でも、語彙の獲得に役立ちますし、知識も増えます。

小2まで子どもの好奇心を満たす本で読み聞かせをしておくと、小3にもなれば、自然と自分で本を読むようになります。1人で本を読むようになり、図書室で選んで本を借りてくるようになったとき、子どもの中に「楽しい本、興味を持てる本を選ぶ」「楽しく読む」という、親が読み聞かせてくれたときの体験が残っていることが大事です。

ですから、子どもを観察しないで、「Amazonのレビューがいいからコレ!」なんて理由で本を選ぶのはやめましょう。あくまで、子どもの好奇心を満たす手助けをする、と心得てください。

ゲーム、動画の視聴は最大2時間まで!

――子どもの興味を尊重するとなると、ゲームばかりになってしまう子もいそうですが、やめさせるべきですか?

隂山:「うちの子、ゲームばかりしています。やめさせたほうがいいですよね?」って、そりゃあ、やめさせたほうがいいですよ。誰に聞いたってそうでしょう。

でも、楽しくはまっているものをやめさせられますか? 叱り飛ばして力で押さえつけて、ゲームを取り上げますか? そんなことをしたら親子の信頼関係も損なわれますし、楽しいことを無理に取り上げられた子が勉強を一生懸命やるとは思えませんよね。だから、「やめさせる」なんて、実際には不可能です。

だったらどうするか。親がすることは、「1日○時間まで」と、時間を決めること。ゲームをやらせることが問題なのではなく、時間管理の問題だということを、まず親が理解するべきです。

ゲームや動画の1日の許容時間、これは決まっています。基本的には1時間。最大で2時間です。少ないと思いますか? でも考えてみてください。小学1年生なら、1日のうち、起きている時間は長くても15〜16時間程度です。

その起きている時間のうち、8時間前後は通学と学校に使っています。3時間くらいは朝ごはんや夕ごはん、お風呂などの身支度に使うでしょう。習いごとをしていたら、さらに1〜2時間は使います。

そうすると、1日のうち、残っている時間は、1、2時間程度です。宿題に15分、予習に15分必要だとしたら、ゲームや動画の視聴時間はどうしたって最大で2時間程度しか捻出できないのです。視聴時間が2時間を超えてくると、睡眠時間や学習時間のほうに影響が出てきます。

親御さんはまず、ゲームや動画を見る時間は1日1〜2時間だと知ってください。これは子どもにとっては十分な時間で、少なすぎることはありません。

私の経験でも、1日1時間程度、自由に動画やゲームで遊べる時間をつくれば子どもは満足します。それに、勉強ができる子も結構ゲームをやっています。僕が出会った限りでは、やらない子はいないくらい。だから、ゲームをやることが問題じゃなくて、時間管理をしてあげないことが問題なんです。

子どもの才能は見抜けない

――子どもがやりたいことは積極的に応援したいと思っていますが、何も取り柄がないので将来が心配です……。

隂山:僕の教え子に1人だけプロ野球選手になった子がいます。小学生のときは普通の子でした。もちろん野球はうまいのですが、これといって目立つほどでもない。

スポーツは身体的な能力に大きく影響されます。身長、体重、筋肉の量など、どうしても生まれ持ったものがものを言う。だから、小学生の時点で目立った身体能力がないとプロは無理だと思い込んでいました。いま思えば、この考え方は間違っていましたね。


そう思わされた出来事があります。以前、京都駅でタクシーに乗ったら、運転手さんがラジオでプロ野球中継を聞いていました。6月の交流戦で西武ライオンズ対広島カープ。僕も何気なく聞いていたら、「ピッチャー、藤原」というアナウンス。びっくり仰天です。自分の教え子がプロ野球の1軍の試合に出ていたんです。

急いで帰って、BS放送にかじりつきました。家でビールを飲みながら、教え子のピッチングを応援する。最高の時間ですね。そしたらなんと勝利投手になってしまった! そのとき心の中で思いました。「ごめん、藤原君。まさか君がそんなになると思っていなかった」と。

普通の小学生がプロ野球選手に憧れ続けていたら本当に夢が叶った。結局、好きなことをやり続けることが大切だとわかりました。「憧れ」が大事なんですね。いやあ、子どもの才能なんて見抜けない。

このことからの学びは、親は子どもが将来どうなるか、小1くらいであれこれ考えてもしょうがないということです。あれこれ考えて想像して悩むより、子どもの好きなことを思いっきりやらせておく。結局、それが一番だと思います。

子どもは急に成長します。だから、いま何かできなくても焦らないで、子どもを信じて見守りましょう。

(隂山 英男 : 教育クリエイター、隂山ラボ代表)