未だ収束が見通せないコロナ禍、ロシアによるウクライナ侵攻、そして数十年ぶりの円安水準。これらの複合的な要因で建設資材や住宅機器が高騰しています。今後の住宅価格への影響はあるのでしょうか。

2021年に起こった「ウッドショック」によって木材価格は世界的に高止まりしている状況です。さらに建設資材全体を見渡しても価格は上昇傾向にあります。個人向け不動産コンサルティング会社、さくら事務所の長嶋修会長はこう説明します。

「アベノミクス以降、建設資材についてはじわじわと上昇トレンドにずっとありました。それがコロナ禍になって2020年の後半ぐらいから、如実にぐっと上がり始めました」

住宅設備はすでに5~10%上昇

昨年末、水まわりの設備と建材を製造する大手のメーカーは2022年に価格を改定して値上げすることを発表しました。

例えば、LIXILの改定日は4月1日で、値上げ率は主要商品では住宅用サッシが6~10%程度、エクステリア関連が10%程度、トイレが2~33%程度、ユニットバスルーム4~39%程度、キッチン2~11%程度となっています。リンナイの改定日も同じく4月1日で、給湯機器や食器洗い乾燥機など5~10%の値上げです。値上げの理由として、各社とも銅やアルミニウムなど原材料費の高騰を挙げています。

「キッチン、ユニットバス、サッシなど住宅設備に関連したものは、5~10%ほど現在ではすでに上がっています。ただ、この値上がりは今後の資材高騰や原材料の高騰は折り込んでいません。これからもう一段階、値が上がるかもしれません」(長嶋さん)

価格改定で値上げしたメーカーのものを採用していた場合、さくら事務所の試算によれば、新築一戸建てで30万円程度、水回りのリフォームであれば15万円程度の工事費のアップになりそうとのこと。この値上げは新築一戸建てでは建物本体工事費の約1~2%であり、過去の消費増税と比べると影響は少ないように思えますが、今後、建設・工事業界の動向を注視していく必要があります。

将来的に住宅価格は上がる

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建設資材には生コンや鉄筋、鋼材など膨大な種類があり、その原材料となる鉄鉱石やアルミニウムの価格も上昇しています。

例えば、建設物価調査会によると、鉄骨構造建築物では梁(はり)によく使われるH形鋼(Hの字に似た断面の鋼材)は、20年下期に比べると、22年2月には47%高くなっています。また、建物の構造用材料の1つ、異形棒鋼は鉄筋コンクリート建築物の鉄筋として使われていますが、20年8月から22年2月にかけて50%値上がりしたそうです。

みずほ信託銀行が2月に発表した不動産マーケットレポートでも、2021年は建設資材価格の高騰を受けて建築費が上昇し、特に普通鋼の鋼材価格上昇が著しいとしています。普通鋼は建築だけでなく、各産業でさまざまな用途で使われている鋼材です。

値上げの要因は共通しており、経済の回復が先行しているアメリカや中国で建設向けを中心に需要が急拡大し、原材料価格や輸送に必要なコンテナを確保するための費用が高騰しているからです。

これらの影響によって日本でもマイホームの価格は上がるのでしょうか。

「ある程度大きな住宅メーカーや建設会社などは、先物買いみたいな取り引きをしています。つまり、年間で建てる棟数や建築計画によって、あらかじめ契約しているので、だいたい1年分くらいの資材は確保しています。一括購入で安く買ったりもしています。消費者への価格に転嫁されていくのはこれからでしょう。ただ、中小の工務店などは、値上げをお願いするしかないと昨年後半から話をされていて、すでに影響が出ています」(長嶋さん)

円安とウクライナ危機の影響で住宅設備の部品に影響も

原材料高騰のトレンドにあって、住宅価格上昇に拍車をかけそうなのが、数十年ぶりの円安水準です。

「原材料の絶対価格が変わらなかったとしても、円安になれば、それだけ輸入価格は高くなります。岸田首相と日銀の黒田総裁がちょっと話し合ったという報道があっただけで、思いきり円高に振れました。日銀と現政権が動かなければ、トレンドとしては円安基調ですし、住宅価格ももちろん影響を受けます」(長嶋さん)

ウクライナ危機についてはどうでしょうか。

「例えば、半導体の材料となるパラジウムのシェアはロシアがとても高くて、そこが滞ると住宅関連でいえば空調設備や給湯器、電気制御機器などは価格上昇等で大きな影響を受けます。半導体は住宅だけではなく、車もそうですし、消費者の生活全般に影響が出る可能性があります」(長嶋さん)

消費者が支払う住宅価格には建設資材のコストだけでなく、労務費(人件費)も含まれています。住宅建設の現場では、若年労働者の人手不足を、技能実習生などの外国人労働者で補ってきました。鉄筋工事業では5人に1人が外国人だといいます。

入国管理はコロナ禍前には戻っていない状況で、このまま外国人材の不足が続くようだと、これもまた住宅価格上昇の要因になりかねません。

<取材協力>
さくら事務所