高橋さん監修ABEMAオリジナルドラマ『30までにとうるさくて』から。「産む・産まない」の選択に悩む29歳の女性たちの様子が描かれています(写真:ABEMA提供)

産みたいと思ったときに産めるよう準備をしてほしい――。

「性教育産婦人科医」として、全国の小学校・中学校・高校で若い世代に向けて講演を行っている高橋幸子先生(埼玉医科大学産婦人科)は、早いうちから「そのとき」のために備えることの重要性を、繰り返し訴えている。

4日連続特集「不妊治療は“ひとごと”ですか?」4日目第3回は、若い女性がどんなことに気をつけるべきなのか、具体的な対策を高橋先生に聞いた。

【4日目のそのほかの記事】(1〜3日目の記事はこちらからご覧ください)
第1回:イモトのWiFi運営企業が「不妊治療」参入の大波紋
第2回:「不妊に悩む人多い」日本社会が見過ごす根本原因

生理のサインは見逃さない!

産みたいときに産める体のために何が大事か。私は、自分の生理(月経)についてもっと関心を持ってほしいと思っています。

生理の異常は婦人科系の病気のサインになります。

例えば、3分の1の女性が持っているといわれる病気、「子宮筋腫」は経血が増える過多月経や、強い生理(月経)痛(月経困難症)などの症状を引き起こします。筋腫があるとそれがジャマになって不妊につながることもあるため、手術で切除することもあります。


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生理痛が年々重くなっていたら、「子宮内膜症」を疑ったほうがいいかもしれません。

子宮内膜症は、本来なら子宮内にある内膜が子宮の筋層内や、卵巣、腹膜などで増えていく病気です。内膜が子宮の筋層で増殖するものを「腺筋症」、卵巣で増えたものを「チョコレートのう腫」といいます。内膜が卵管を包む腹膜で増殖すると、卵管が周りの組織とくっついてしまいます(癒着といいます)。いずれにしても、不妊の大きな原因となります。

生理痛が重い人は、そうでない人より1.3倍、将来子宮内膜症を発症するリスクがあります。根治はできませんが、ピルなどで対応が可能なので、早めに病院で調べてもらって、必要であれば治療を受けましょう。

意外と知られていないのが、性感染症も不妊のリスクを高める1つであるということ。

不妊の原因はさまざまですが、その1つに卵管の癒着が挙げられます。卵管が周りの組織とくっついたり卵管自体が詰まったりして動きが悪くなると、精子や卵子がスムーズに通れなくなります。卵管が癒着する原因には開腹手術や前述した子宮内膜症などがありますが、最も多いのが性感染症(主にクラミジアによる感染)です。

性感染症は予防ができる病気です。そのためには、性交渉の際にはパートナーに必ずコンドームを付けてもらう必要があります。なかなかそれを言い出せない女性も少なくありません。しかし将来のことを考えたら、勇気を持って「付けてほしい!」「私が使いたい!」と言ってほしいです。

生理の異常」の見極めポイント4つ

今挙げたような子宮の病気は、生理の異常で気付くことが少なくありません。自分の生理を他人と比較するのはむずかしいでしょう。ですから、私はみなさんに「“おかしいかな”と思ったら、『3』というキーワードを思い出してほしい」と伝えています。

生理が3カ月ない
・1カ月に3回以上生理(不正出血)がある
・1回の生理で3回を超えて痛み止めを飲む(3回まではセーフ)
生理初日〜2日目に夜用ナプキンでも3時間もたない

こうした症状がある場合は何らかの病気が隠れている可能性がありますので、まずは婦人科の受診をおすすめします。


姉の育児を見て、子どもについて考える。『30までにとうるさくて』から(写真:ABEMA提供)

生理痛の治療法としては痛み止めのほかにピル(経口避妊薬)があります。健康保険が適用されていて、月経周期や量をコントロールできます。生理痛はもちろん、生理前のホルモンの影響によって起こる心身の不調であるPMS(月経前症候群)の改善も期待できます。

PMSによって精神的な浮き沈みがあることで、パートナーとの関係性が悪化してしまうこともあります。妊娠出産を考える際、パートナーシップは重要なキーワードです。たかがPMSと放置しておかず、しっかり対策をとることが大切です。

ピルに関しては、「飲むと妊娠しにくくなる」「太る」といったウワサがありますが、正しくありません。現在、ピルの副作用として指摘されているのは、血栓症のリスクが少し上がるということです。そのため血圧が高めな人や喫煙している人は注意が必要ですが、それ以外の人は医師の指導のもとであれば、安心して服用ができると思ってください。

続いては、がんについてです。

「定期的に婦人科検診(がん検診)を受けているから安心」と考えている人もいるでしょう。ですが、先に紹介したように不妊の原因となる病気はがんだけではありません。がん検診に加えて生理に問題や気になることがあったら、「これくらいのことで……」とか考えず、産婦人科を受診してください。


子どもを産む、産まないの話で盛り上がる。『30までにとうるさくて』から(写真:ABEMA提供)

もちろんがん予防も必要。実はがんの中には予防ができるものもあり、それが「子宮頸がん」です。がん検診は「早期発見のためのもの」ですが、ワクチンは「がんそのものを防ぐもの」ですから、とても大事です。

HPVワクチン接種は大人でもメリット

子宮頸がんは、主にヒトパピローマウイルス(HPV)の感染で起こります。この感染を予防するのが、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)です。ワクチンには2種類のHPVを予防する「2価ワクチン」と4種類のHPVを防ぐ「4価ワクチン」が現在、公費補助の対象となっています。このほか自費になりますが、9種類のHPVを予防する「9価ワクチン」も出ています(2023年には9価も定期接種の対象になりそうです)。


現在、日本では小学校6年生から高校1年生の女性に対して公費での接種が認められています。性交渉未経験のうちがもっとも有効とされていますが、26歳まではウイルスに対する抗体ができやすく、費用対効果を考えても45歳まではメリットがありますので、接種を検討されてみてはどうでしょうか。

最近、世界各国でも「産みたいときに産める体をつくるために、健康に気をつける」ことを表す「プレコンセプションケア(Preconception care)」の重要性がいわれています。

プレコンセプションケアとは、将来のために女性やカップルが健やかに過ごすこと、それが次の世代の子どもの健康にもつながっていくという考え方です。アメリカで2012年に提唱され、日本では2018年に国立成育医療センターから発信されました。

国立成育医療センターからプレコンセプションケアのチェックリストが示されています。


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不妊の原因は女性と男性の要因が50%ずつですので、男性のチェックリストも提示されており、カップルで確認することも重要でしょう。

不妊のもっとも大きな原因は年齢です。年齢とともに卵子の質が変わっていくことを30代、40代になってから知るのではなく、もっと若いときから知っていれば準備できることもあるはず。産みたいときに産める選択肢を残しておいてほしい。これが私の願いです。

(取材・構成:佐藤智)

プレコン・ チェックシート
【女性用】
☐ 適正体重をキープしよう。
☐ 禁煙する。受動喫煙を避ける。
☐ アルコールを控える。
☐ バランスの良い食事をこころがける。
☐ 食事とサプリメントから葉酸を積極的に摂取しよう。
☐ 150分/週運動しよう。こころもからだも活発に。
☐ ストレスをためこまない。
☐ 感染症から自分を守る(風疹・B型/C型肝炎・性感染症など)。
☐ ワクチン接種をしよう(風疹・インフルエンザなど)。
☐ パートナーも一緒に健康管理をしよう。
☐ 危険ドラッグを使用しない。
☐ 有害な薬品を避ける。
☐ 生活習慣病をチェックしよう(血圧・糖尿病・検尿など)。
☐ がんのチェックをしよう(乳がん・子宮頸がんなど)。
☐ 子宮頸がんワクチンを若いうちに打とう。
☐ かかりつけの婦人科医をつくろう。
☐ 持病と妊娠について知ろう(薬の内服についてなど)。
☐ 家族の病気を知っておこう。
☐ 歯のケアをしよう。
□ 計画:将来の妊娠・出産をライフプランとして考えてみよう。

【男性用】
☐ バランスの良い食事をこころがけ、適正体重をキープしよう。
☐ たばこや危険ドラッグ、過度の飲酒はやめよう。
☐ ストレスをためこまない。
☐ 生活習慣病やがんのチェックをしよう。
☐ パートナーも一緒に健康管理をしよう。
☐ 感染症から自分とパートナーを守る(風疹・B型/C型肝炎・性感染症など)。
☐ ワクチン接種をしよう(風疹・おたふくかぜ・インフルエンザなど)。
☐ 自分と家族の病気を知っておこう。
□ 計画:将来の妊娠・出産やライフプランについてパートナーと一緒に考えてみよう。

出典:国立成育医療センター

(高橋 幸子 : 産婦人科医)