第11節のセラン・ユナイテッド戦では後半からの出場でハットトリックを達成。2点ビハインドから逆転勝利に導く立役者となり、ベルギー国内に衝撃を与えた三笘 photo/Getty Images

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 ブンデスリーガ、セリエA、エールディヴィジなどが日本人選手のプレイ先として注目されていた2000年、遠藤雅大がKVメヘレンに移籍し、ベルギーのプロリーグでプレイするはじめての日本人となった。2002年には日韓W杯で活躍した鈴木隆行がKRCヘンクに移籍し、2003年にはローン先のヒューステン・ゾルダーで日本人初得点を記録している。

 その後も川島永嗣、永井謙佑など多くの日本人選手がプレイしてきた。遠藤航(シュツットガルト)、冨安健洋(アーセナル)、鎌田大地(フランクフルト)といった選手たちは、ベルギーを足掛かりに羽ばたいていった。遠藤雅大の挑戦から20数年を経て、いまでは多くの日本人選手がプレイし、4大リーグへステップアップするために力をつける“欧州の登竜門”となっている。

個の力でベルギーを席巻 各地で活躍する日本人

 ベルギーでは明日のスターを夢見る選手たち、あるいはすでに5大リーグで経験を積んだ選手たちが混在してプレイしている。ここで結果を残すことがステップアップにつながり、次なるステージに進むケースが多い。いきなり5大リーグというのもいいが、前段階として欧州の雰囲気、自分の力を知るのにちょうどいい。

 鎌田のようにフランクフルトからローンでシント・トロイデンに加わって活躍したケースもあり、“金の卵”がどこに隠れているかわからない。上位クラブであれば、CL、ELも経験できる。若い日本人選手の欧州挑戦のスタートの場として、オススメのリーグだといえる。

 ベルギー歴が長く、成績を残し続けてきたのが森岡亮太だ。神戸からシロンスク・ヴロツワフ(ポーランド)を経て、2017-18にワースラント・ベフェレンへ加入。確かなテクニックと正確なパスで攻撃をリードする司令塔として高い評価を得て、アンデルレヒトでは背番号10も背負っていた。30歳を超えた現在もシャルルロワで主力を務め、現時点で27試合4得点となっている。経験を積み重ねる森岡の輝きは、渋く増している。

 いまや日本代表の攻撃に欠かせない伊東純也は、2019-20の途中からKRCヘンクでプレイを続けている。加入したシーズン、ヘンクはリーグ優勝しており、伊東は冬の加入ながら「個」の力を発揮し、攻撃を活性化。2020-21には買い取りとなり、完全移籍で23年までの3年契約を勝ち取ってみせた。現在、その契約はさらに延長されて24年までとなっている。

 彼らに続けとばかり、近年ではベルギーへの移籍が加速し、実に14名もの選手がジュピラー・プロ・リーグでプレイするようになった。ディビジョンA昇格1年目で首位をキープするユニオン・サン・ジロワーズでは、プレミアリーグのブライトンからローン中の三笘薫がすでに強烈な印象を残している。トップスピードに到達するのが恐ろしく早い緩急をつけたキレのあるドリブルは、ベルギーでも猛威を振るっている。足首のケガはあったが、シーズン終盤戦に向けて復帰しており、優勝を争うプレイオフではプレイできそうだ。

 伊東と同じく、三笘も「個」の力で状況を打開する力がある。イングランドでの労働許可証が発給されなければ、来シーズンもユニオン・サン・ジロワーズでプレイするだろう。もしくは、次なるクラブへとローンで修行に出されることになる。いずれにせよ、CL、ELのどちらかのピッチに立つことが予想される。三笘もまた、ベルギーから羽ばたくことになるか。

 左利きの長身CBである町田浩樹も今冬からユニオン・サン・ジロワーズでプレイしている。任されているのは3バックの左CBで、いまのところ2試合にフル出場、1試合に途中出場している。初出場した第27節シント・トロイデン戦はチームメイトがPKを与えて0-1で敗れたが、続く第28節シャルルロワ戦は退場者を出す展開のなか3-0のクリン
シートに貢献している。

 ユニオン・サン・ジロワーズは攻守の切り替えが早く、インテンシティの高いサッカーをスタイルにしている。第15節オーステンデ戦(7-1)のようにたたみかけて相手を蹂躙する試合があれば、2点をリードされても諦めずにアグレッシブに攻撃を仕掛け、逆転した試合もあった(第20戦セルクル・ブルージュ戦)。勢いがあり、来シーズンは欧州の舞台を席巻するかもしれない。このクラブで出場機会を増やすことが、いまの町田にとっては間違いなく成長につながる。

“ジャパニーズ・バブル”の火付け役となった経営権取得

 日本人選手、というか日本サッカーともっとも関係が深いのが、シント・トロイデンだ。2017年にECサイトを運営するDMMグループが経営権を取得し、以降、積極的に若い日本人選手を補強してきた。2018-19は遠藤、冨安、鎌田を擁し、ここ数年で最高となる7位になっている。将来有望な日本人選手が経験を積むことで成長し、チームに好成績をもたらす。どちらにとってもメリットがあるwin-winの関係で、個人的な印象として、シント・トロイデンは日本サッカーの“欧州出張所”のようになっている。

 第30節を終えて10位につける今シーズンは、橋岡大樹が右サイドでレギュラーポジションをつかみ、公式戦27試合出場で1アシストとなっている。シント・トロイデンの最終ラインは3バックで、中盤のカタチはアンカーを置くダイヤモンドやダブルボランチなど試合によって変化する。橋岡は中盤右サイドのワイドなポジションを任されており、最終ラインまで下がったときは5バックとなる。攻撃では長い距離を走ることになるが、これに関しては橋岡にとってストロングポイントであり、豊富な運動量で攻守両面にからむことでしっかりとベルント・ホラーバッハ監督の期待に応えている。

 林大地、原大智も柔軟に変化するシステムに対応し、プレイの幅を広げている。第29節オーステンデ戦は林&原の2トップだったが、第30節メヘレン戦はクラウスの1トップで、中盤(ダイヤモンド)の左に原、右に林という布陣だった。ともにドリブルでボールを運べるタイプなので、前線はもちろん、こうしたポジションでも特長が生かされる。

 ドリブルで運べると言っても、原は長身でリーチが長く、懐が深い。林は緩急をつけるのがうまく、強引でキレがある。異なるタイプの両者であり、だからこそ揃ってピッチに立つことが実現している。チームはシーズン終盤を迎えて上り調子で、プレイオフ2への出場となる8位以内に手が届くところまできている。原、林、そして橋岡の力で2018-19の7位を上回ったなら、数年後、この3選手も大きく羽ばたいているだろう。

 今冬にセレッソ大阪からローンでオーステンデに加入した坂元達裕も、相手を翻ろうするタッチ数の多いキレあるドリブルを武器に出場を重ねている。大きかったのはデビュー戦でのアシストで、アントワープを相手に後半立ち上がりにあったショートコーナーから左サイドをひとりで突破し、正確なクロスを折り返して先制点につなげている。その後に逆転されて1-2で敗れたが、自身のアピールに成功している。ローン期間は6月30日までだが、これまでのパフォーマンスを考えれば、来シーズンもベルギーでプレイすることになるのではないだろうか。

 復調が期待されるのが、最下位に沈むベールスホットでプレイする鈴木武蔵だ。今シーズン公式戦23試合に出場して1アシストと、いまだ得点がない。「個」の力で打開することもできるが、どちらかと言うとまわりを生かし、まわりに生かされるタイプだ。裏へ抜けるスルーパス、ゴール前で合わせるボールがもっと入ってくれば、得点につながりそうだが……。日本代表のことを考えても、鈴木には復調してほしいところだ。

 ふと気づけば、多くのクラブで日本人選手がプレイしている。日本企業が経営に乗り出しているクラブもある。ジュピラー・プロ・リーグは、実際に日本サッカーの発展、強化につながっている。冨安や遠藤のように成功をつかむ選手の出現を期待するとともに、この関係が続くことを願うばかりである。

文/飯塚 健司

※電子マガジンtheWORLD267号、3月15日配信の記事より転載