照明計画を事例をもとに解説。正しい灯り選びは、暮らしの質を上げる
「おうち時間を充実させたい」「くつろげる家にしたい」…。それなら、家づくりでは照明の計画をしっかりと行いましょう。「照明計画は家づくりの最終仕上げ。ここで満足度が大きく変わってきます」と語るのは、一級建築士の守谷昌紀さん。自身が設計した事例をもとに、LDK、寝室、玄関、水回り、そして外部の照明計画を解説してもらいました。新築やリノベーションで参考になるポイントは、要チェックです。
CASE1.通常の一室空間のLDKは、ダウンライトをベースに
日の光を浴びると、人は活動的になるものです。家の中でも、日中は照明をつけずに快適に過ごせる空間がやはり理想です。
夜になると、脳は睡眠モードへと近づいていくので、暗すぎず、明るすぎない照明計画がとても大切になってくるのです。
同じ照度でも、壁が明るければ、人はより明るく感じるといわれます。上の写真は、ダウンライトで壁面を照らす照明プランの事例です。
キッチンやスタディコーナーなど、もう少し明るさがほしい場所は、スポットライトで明るさを加えました。
ダウンライトの長所は、小さな照明器具を分散してつけるので、まぶしくないことです。LDKなどの大きな空間は、ダウンライトを適切に配置し、さらに明るさが必要な場所には照明を加えるという計画がおすすめです。
こちらの事例では、ダイニングテーブルやカフェテーブルの上に、ペンダントライトをつり下げました。
とくに、ダイニングテーブルとペンダントライトは、とても相性がよいのです。
デンマークの建築家、ポール・ヘニングセンがデザインした照明「PH5」は、光源が直接目に入らないように、シェードがデザインされています。
そのシェードの内側は赤や青で塗装されています。下向きの光には赤みが加えられ、食事がよりおいしそうに見えるように。上向きの光には青みが加えられ、さわやかな光が天井を照らすよう工夫されているのです。
ペンダントライトが、高い位置にあるケースをよく見ますが、たき火を囲むようなイメージで、低めの位置まで下げるのもポイントです。
つけ替えできるのも、ペンダントライトの特徴です。自分らしい空間を演出してみましょう。
全体照明に、ダウンライトと光源が見えない間接照明を組み合わせると、より上品な印象になります。とくに折り上げ天井(中央部分を周囲より一段高くとった天井)との相性は抜群です。
間接照明は光がやわらかいのが特徴ですが、直線的に配置することで、ドラマチックな空間を演出することもできるのです。
CASE2.天井の高いLDKは、スポットライトで天井面を照らす手法が有効
こちらは、2階建ての木造住宅をリノベーションした事例です。
元の部屋は天井があり、一般的なシーリングライトがついていました。
リノベーションにおいて屋根裏は宝の山です。天井をすべて撤去し、20畳あるゆったりしたLDKとしました。
天井が高い部屋にはダウンライトはあまり向いていません。天井面がどうしても暗くなってしまうからです。そのようなケースでは、スポットライトなどで天井面を照らす手法が有効です。
ダイニングテーブル横にプランしたパウダーコーナーは、鏡とモザイクタイルでかわいらしくデザインしました。
その横に、ブラケットライトを取りつけています。目線に近い位置にあるブラケットライトは、空間にアクセントを加えてくれる照明なのです。
こちらは、雪国に建つセカンドハウス。このような天井が高い吹き抜けには、光源が大きな照明器具で明るさをフォローしましょう。
ダイニングは温かみを感じるオレンジ系の(色温度の低い)照明を、キッチンは野菜の色などがわかりやすいよう白系の(色温度の高い)照明を配置するのが基本です。
最近は、色温度を調整できる照器具も発売されています。いろいろな用途が集まるLDKには、採用を検討する価値があるでしょう。
CASE3.寝室の照明には、明るさを調整できる「調光機能」つきがおすすめ
寝室の照明は睡眠直前まで使うので、とても重要になってきます。間接照明のみで明るさを確保できれば、くつろぎの空間となります。できれば明るさを無段階で調整できる「調光機能」を取り入れたいところです。
「暗いよりは明るい方が…」としてしまいがちですが、用途にあった照明計画がとても重要です。
ホテルを思い浮かべるとわかりやすいかもしれません。ベッドサイドにスタンドがあれば、読書なども問題ありません。「くつろぎ」と「明るすぎない」は親密な関係なのです。
CASE4.玄関は外部の灯りや間接照明で、印象的な演出を
玄関も、それほど明るさを必要としない空間です。目線の先にある中庭に、庭木を照らす照明を配置しました。外部とのつながり感を強調してくれます。
飾り棚の足下に間接照明を配置しました。石張りの壁を上部から照らす照明を配置することで、より印象的な空間にすることができます。一歩進んだ、演出としての照明計画です。
CASE5.洗面、トイレはホテルライクな照明を取り入れると楽しい
洗面、トイレなども照明計画で、まったく違った印象になります。鏡の後ろから、間接照明の光が漏れるようデザインしました。壁面の白いタイルが光を反射し、壁面自体が照明器具になっているともいえます。
浴室、洗面、トイレとつながることで、ゆったりとした空間になりました。普段の暮らしと、ホテルに宿泊する場合をまったく同じにはできませんが、照明計画において取り入れることができる部分もいろいろあります。
こちらの洗面は、間接照明でアールになった壁面を照らし、ホテルライクな空間を演出しました。
洗面の壁に青系のモザイクタイルを貼っているので、白系の(色温度の高い)照明を採用しました。オレンジ系の(色温度の低い)照明を使うと、青系の色はくすんでしまいます。
アクセントクロスを使う場合なども、もともとの色をきれいに見せたいのなら、照明器具の色温度には十分注意しましょう。
トイレは小さな空間ですが、ペンダントライトをプランしてみました。遊び心をもって計画すると、ひと味違った雰囲気になる例です。
CASE6.外部はアッパーライトが効果的!アウトドアリビングの照明も忘れずに
最後は外部の照明計画についても解説してみます。植込みの中に、アッパーライトと呼ばれる上向きの照明器具を計画しました。
日の光は上から下を照らすので、まったく違った印象になるのです。
庭木を照らすとその影が、幻想的な景色を演出してくれます。庭木は生き物なので、変化していくことも楽しみとなります。
アウトドアリビングにも照明があると、さらに価値が高まります。外部の照明は環境に左右されますが、光源が小さいほうが優しい空間になるのは室内の照明計画と同じです。
照明計画は、家づくりの最終仕上げ。昼も夜も楽しい家づくりを!
実例をあげて、LDK、寝室、玄関、水回り、そして外部と、照明計画のポイントを解説しました。照明がおうち時間に与える影響が、わかっていただけたと思います。家づくりの最終仕上げともいえる照明計画は、やはり経験がものをいいます。専門家に相談して進める方がよいでしょう。
夜景が美しいのは、その明かりのひとつひとつに、人のぬくもりや暮らしを感じるからだと思います。照明の種類、色温度にも注意して、昼も夜も楽しい家づくりに生かしてください。