サラリーマンは、出世だけが、ぬくぬくと心穏やかに生き抜く方法じゃない――そう話すのは、登録者数65万人超えのサラリーマンYouTuberのサラタメさん。現在「サラリーマンのタメに」というコンセプトでビジネス本の情報を発信して、活躍しています。

昨年、サラリーマンのために書き上げた人生100年時代の攻略本『真の「安定」を手に入れるシン・サラリーマン――名著300冊から導き出した人生100年時代の攻略法』(ダイヤモンド社)を出版。

ブラック企業を経験し、転職を経て副業を定着させ、大企業の役員並みに収入を手に入れたというサラタメさんに、今の成功にたどり着いた決断や考え方について伺いました。

サラリーマン人生は山あり谷あり


○会社にしがみつかず、環境を変える勇気が必要

――本書のタイトルにもなっている「シン・サラリーマン」とは、どういった特徴があるのでしょうか。

サラタメさん: これまでの「人生80年」から、今の20〜30代サラリーマンは「人生100年時代」を生きていかなければなりません。しかも、ビジネスの世界は加速度的な変化を続けており、会社の平均寿命は23.3年(※)まで縮まっています、

※参照:「2020年『業歴30年以上の老舗企業倒産』調査」(東京商工リサーチ)

サラリーマン人生は50年近く続くのに、会社の寿命はたったの24年程。このように会社が従業員の長い人生を面倒見切れなくなってきた環境の中、大事なのは「3つの武器」を身に付けて時代を生きること。それを体現できるのが『シン・サラリーマン』と定義しています。

「3つの武器」とは、本書でも解説している「リーマン力」「副業力」「マネー力」です。簡単に説明すると、次のようになります。

○(1)リーマン力

どこの会社でも活躍できる組織人としてのビジネススキル

年収800万円あたりを目指すには、この能力を鍛えることが急務となる

(1)-1 取引先を含め周囲の人から「デキる」と言われる仕事術

(1)-2 会社を戦略的に選べる転職術

○(2)副業力

個人の力で本業以上に稼ぐスモールビジネスの起業術

○(3)マネー力

お金の致命的なミスを防ぐマネー・リテラシー

――1つの会社で定年まで生きていく、これまでの働き方では「安定」した人生が過ごせなさそうですね。その危機感は昔からあったのでしょうか?

サラタメさん: 入社して3〜4年目までは、1社で人生を捧げて、「将来は役員になりたいな」なんて夢を抱いていたので、全く危機感はなかったですね。むしろ、転職なんてアウトローな生き方だなと思っていたくらいです。

その意識が180度変わったのは、書籍『LIFE SHIFT』(東洋経済新報社)との出会いです。この書籍を読んで、人生100年時代においては、「転職は一種合理的な判断なんだ」と思えるようになりました。だから、パワハラ上司がいた1社目のブラック企業からも抜け出すことができたと思います。

入社3〜4年目までは「会社の役員」が夢だったと言うサラタメさん


――サラタメさんにとっては、「転職」がブレイクスルーのきっかけだったわけですね?

サラタメさん: そうですね。営業として入社した最初の会社では、3年目に念願だったマーケティング部に異動。これで自分のやりたいことが叶えられると思っていたのですが、ここでの仕事がめちゃくちゃきつかったんです。

営業時代はノリと勢いだけで乗り切ってきたので、基本的なビジネススキルが備わっておらず、今までないくらい上司に怒られ続けました。

そこから猛勉強して、ビジネススキルやマーケティングノウハウを磨いていったのですが、パワハラ環境は変わらず、多忙さと相まって、終電で帰るような日々が続きました。必死に頑張っても、楽しいと思えるような状況になれなかったので、思い切って「環境を変えよう」と転職を決断したわけです。

――サラタメさんのように1社目でつまずいてしまう人も多いかもしれませんね。

サラタメさん: そうですね。1社目でいい会社に巡り合える人ばかりでないですから。というか、巡り会えない人が大多数では。いくら頑張っても、自分の力だけでは、よい方向へ変えられない時には、思い切って環境を変えてみるのがいいと思います。

環境の変え方には、転職だけでなく、「異動」というやり方もあります。私の場合は、社内に行きたい部署がなかったので、転職を決める後押しになりました。

ただ、読者の方の中には1社目から自分に合った企業に就職しているラッキーな人もいるでしょう。そういう人まで、無理して転職する必要はありません。

転職は、ベストな環境にたどり着くための、あくまで手段。自分の強みを発揮できる環境にいるのであれば、目の前の仕事に専念して、最優先で「リーマン力」(仕事術)を鍛えるべきです。「リーマン力」はすべての土台。鍛えておけば、後々転職するにせよ、副業するにせよ、必ず役に立つと思います。

○定年までに月20万円稼げる副業を目指す

――この本は、どんな人にお勧めですか?

サラタメさん: サラリーマンには2つのタイプがあります。エリート街道まっしぐらの出世タイプと、そうでないタイプ。どちらかといえば、本書をオススメするのは、後者です。

本業では思うような収入が得られない分、副業で少しずつ稼いでいく。転職先を考える場合も、「年収」よりも「ワークライフバランス」に重きを置いて企業を選ぶと、副業にチャレンジする時間を確保できます。転職によって収入が減少しても、副業を軌道にのせれば、生涯年収を上げることも可能です。

私自身、2社目に転職した際には年収が減りましたが、副業のYouTubeが登録者65万人超えとなり、トータルとしては以前の年収を大きく超えることができました。

――しかし副業を始めても、最初から成功するとは限らないと思います。サラタメさんも最初ブログを 2つ立ち上げたがうまくいかなかったようですが、諦めずに続けられた要因はどこにありますか?

サラタメさん: それでいうと「私自身の目標が非常に低かった」ことです。企業を定年退職する60歳までに月20〜30万円稼げればいい。そんな低い目標だったので、1つや2つ副業を失敗したとしても、「60歳になるまでは、あと30年近くもあるんだから間に合うでしょ」と、思ってやっていました。残業がほとんどない企業だったので、空いた時間に何かしらの副業を続けていれば、いずれは花ひらくだろうと。

今でこそ、ビジネス書を紹介するYouTubeチャンネルがうまくいっていますが、もしこれが成功してなくても、違う形でなんらかのビジネスを続けていたと思います。

○シン・サラリーマンになるには順番がある

――「先の見えない」時代で、若い人たちも、今何に注力すればいいか分からなくなっていると思います。そんな人たちに、最後にサラタメさんからアドバイスを頂けますか?

サラタメさん: そうですね。今は先の見えない時代に加えて、選択肢が多く自由すぎる環境なので、若い人ほど取捨選択が難しいと思います。やろうと思えば、副業や起業もできますし、昔はハードルが高かった投資もすぐに情報収集でき、始めることも容易です。

このように、若いうちから様々な分野にチャレンジできるのはいいことですが、一方で何から手をつければいいか分からない状況に陥る人も増えていくと思います。

膨大な情報と選択肢にさらされて、「このままサラリーマンをやっていていいのか」という迷いが常につきまとうでしょう。

サラリーマンは収入が跳ね上がったりしないですし、非効率で不合理な局面もあったりします。でも、そこで培った知識やスキルが、間違いなく、後々活きてくる。私は、実体験からそう思っています。

サラリーマンか、副業(スモールビジネス)か、投資家か……どれもできるし、どれを選んでも間違いではないと思うんですが、やる順番は明確にあると思います。

若いうちは、まず目の前の仕事に集中すること。そこで、例えば、本書でも紹介した「STAR <Situation(状況) Task(課題) Action(行動)、Result(結果)>」を自分で回せるようになれば、上司からの課題もすぐに処理ができるようになってきます。

そうなれば、自分で仕事を創り出せるようになるので、社内での評価も高まっていくでしょう。そこをクリアしてから、副業や資産運用にチャレンジすることが、遠回りなようで近道。シン・サラリーマンへ通じる確実性の高い道筋だと考えています。

人生100年時代、多くの人にとって現実味のない話かもしれませんが、手遅れになるまえに、サラタメさんのように若いうちから備えるべきことなのだろう。そのためには、早くにビジネススキルを身に付けると共に、人生80年時代の従来の固定観念に縛られずに、意識を変革することも大事になってくるだろう。

○取材協力:サラタメ

登録者65万人超えのサラリーマンYouTuber。「サラリーマンのタメ」というコンセプトで情報発信をしており、名前の由来でもある。2012年に東証一部上場企業に入社し、おもにマーケティングを担当。2度の転職を経て、2021年5月からWebメディア「新R25」を運営する株式会社Cyber Nowに業務委託社員として勤務。『書籍解説YouTubeチャンネル』『転職ブログ』

西谷忠和 ライター兼キャリアコンサルタント。奈良県橿原市出身、東京都在住。リクルートメディアコミュニケーションズにて制作ディレクターを経験後、2006年にフリーとして活動。おもに人材採用・育成、キャリア教育などのHR領域の記事を得意としている。書籍の編集協力も手がけている。 この著者の記事一覧はこちら