2007年の日本ダービーを制したウオッカ(撮影:下野雄規)

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 先日、仕事場に近いクリニックで花粉症の飲み薬と目薬を処方してもらった。これから皐月賞くらいまでは、杉花粉のきつい時期がつづく。鼻腔にワセリンを塗る前はもっとひどく、安田記念くらいまで苦しめられた。

 馬も花粉症になると聞いたことがあるのだが、本当だろうか。馬房の埃などによってアレルギー性の気管支炎になりやすいことは確からしいので、その症状を指しているのかもしれない。

 さて、先週の東京新聞杯で、イルーシヴパンサーが強い勝ち方をした。

 私にとっては、贔屓にしていたスマイルジャックが東京新聞杯と安田記念に出走した2009年から2013年までの5年間は、スマイルの年明け初戦の東京新聞杯とともに花粉症が始まり、安田記念で症状が落ちつく、という期間だったわけだ。

 今、北京オリンピックでアイスホッケー女子日本代表の「スマイルジャパン」という愛称をメディアで見たり聞いたりするたびに、「スマイルジャ」まで同じスマイルジャックの記憶が蘇り、元気にしているかな、と思ってしまう。

 スマイルジャパンがチェコを下し、1次リーグB組首位を決めた前日、ノルディックスキー・ジャンプの混合団体で高梨沙羅選手がスーツの既定違反で失格となった。高梨選手は「私の失格のせいで皆んなの人生を変えてしまったことは変わりようのない事実です(原文ママ)」とインスタグラムに記しているが、もう謝らないでほしい。高梨選手は悪くない。

 今回、世界トップクラスの5人もの選手がまとめて失格になった。その検査方法の詳細と背景を検証し、今後は公平かつ公正な裁定が下されるよう、日本チームや全日本スキー連盟は、同様の失格選手を出したドイツやノルウェー、オーストリアにも働きかけ、アクションを起こすべきだ。

 日本の競馬においても、比較的近い過去に、順位決定に大きく影響するルール変更が行われた。2013年になされた、降着ルールの変更である。馬の発揮したパフォーマンスがより尊重される方向へと変更された。当初は、慣れない新ルールに対する批判もあったが、今振り返ると、間違いなく「改善」だった。

 ルールは変えられる。高梨選手には、少し時間がかかっても気持ちを立て直し、また私たちを驚かせる大ジャンプを見せてほしい。

 私はジャンプをしたことはないが、高校時代、サッカー部の練習として、何度も宮の森ジャンプ競技場までタイムトライアルのランニングをした。そして、度胸をつけるため、ちょっと高いところに上って、観光客の前で「青年の主張」よろしく、大声でスピーチをした。あれがメンタルトレーニングになったかどうかはわからないが、ジャンプ台を見上げるたびに、あそこから飛び下りることを想像しては、ブルッと震えたものだ。

 あの小さな体で100m以上も宙を舞い、私たちの目を釘付けにする高梨選手は、稀有なスーパースターである。

 今は苦しいだろうが、負けないでほしい。

 ジャンプの混合団体が行われたのと同じ2月7日、牝馬のダービー馬ウオッカの6番仔セブンポケッツ(牡5歳、父フランケル)が、イギリスのウォルヴァーハンプトン競馬場で、ウオッカの仔としてヨーロッパにおける初勝利を挙げた。私はそれを、角居勝彦元調教師のフェイスブックで知った。角居氏は、かつて管理した名牝の仔の動向を、今もずっと気にかけているようだ。

 ウオッカや、その父タニノギムレットなどを所有した谷水雄三オーナーは、自身の勝負服を背に、ヨーロッパのクラシックで走るウオッカの仔を見るのが夢だと話していた。

 3年前の2019年、ウオッカは7番仔の牝馬を産んだのち、世を去った。現時点でその7番仔の動向が伝えられていないということは、クラシック出走は厳しいと見るべきか。

 セブンポケッツも、当初は谷水オーナーの勝負服で走っていたが、今は違う。

 競馬を見てつくづく思うのは、夢の形は変わる、ということだ。

 それでも、ウオッカの仔がヨーロッパで走りつづけているのだから、谷水オーナーの夢が消えたわけではない。角居氏も一緒に夢を見ている。

 ウオッカの2番仔ケースバイケース(父シーザスターズ)、3番仔タニノアーバンシー(父シーザスターズ)、5番仔タニノミッション(父インヴィンシブルスピリット)は繁殖牝馬として、4番仔タニノフランケル(父フランケル)は種牡馬として、血をつないでいる。

 夢はつづいている。

 高梨沙羅選手の夢も、彼女自身が諦めない限り、今回の混合団体でのメダル獲得とは形を変えるだけで、これからもつづく。彼女の夢は、私たちの夢でもある。

 頑張れ、沙羅ちゃん。

(文=島田明宏)