Scanpix Denmark / Reuters
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先日、Spotifyが新型コロナウィルスに関する誤情報を拡散するジョー・ローガンのポッドキャストをそのまま放置していることに腹を立て、自身の全音楽カタログの引き揚げを敢行したニール・ヤングですが、この”怒れるロック親父”の不満はそれだけではありませんでした。

楽曲をすべてSpotifyから引き揚げたあと、ヤングはその音楽ストリーミングサービスの「クソ劣化した、去勢されたような音質」から離れられて「清々(せいせい)した」と述べています。

ヤングは自身のウェブサイトで、抗議の重要なポイントとして、有害情報をたれ流すポッドキャストを検閲することを望んでいるのではないとしています。「言論の自由を支持する者として検閲に賛成したことは一度もない。私企業には何を収益源とするかを選ぶ権利はある」と述べ、「それは私が、有害な誤情報を拡散するプラットフォームを私の楽曲でサポートしないことを選ぶのと同じことだ」と述べました。そして彼は「日々、最前線で命をかけてパンデミックと戦っている医療従事者とともに」立つことを選び、その結果として「予想外のボーナスなのは、(Spotify以外のサービスなら)私の音楽が、どこでも良い音で聴くことができる」ようになったことだとしています。

さらに「Amazon Music、Apple Music、Tidal、Deezer、Qobozなどはいまや音楽のクオリティを100%(つまりCDロスレスやハイレゾ)で配信しており、Spotifyのクソ劣化した、去勢された音よりもはるかに良い音質だ」「Spotifyをサポートすれば、芸術をブチ壊していることになる」 と述べ「音楽の品質を本当に大切にしているプラットフォーム」に乗り換えるべきだとしました。

1990年代にMP3が脚光を浴びはじめてから長年、ニール・ヤングは音楽ストリーミングサービス、さらに不可逆圧縮された音楽データ全般に対して不満を述べてきました。それはいつしか憎悪と呼べるほどパンパンに膨れ上がり、2015年には音楽ストリーミングサービスから楽曲を引き揚げ、自らハイレゾ音源のダウンロードサービス開始を宣言。ポータブルハイレゾ音楽プレーヤーの「Pono」や独自のハイレゾ音源販売サイトを製作してロスレスフォーマットの啓蒙を行うほどでした(ただ、それはビジネス的には成功せず、諸事情によりいずれも2017年に終了)。

Spotifyもまた、2021年に一部市場を手始めにCDロスレス音質でのストリーミングを開始する予定だと述べていました。ところが年を越して1か月が過ぎようとしているいま時期においてもそれは実現せず、今月には「将来的にSpotify HiFiの体験をPremiumユーザーに提供できることを喜ばしく思う」と、具体的な時期は示さず、やる気があるのかないのか図りかねるコメントだけをSpotifyは残しています。

ちなみに、ニール・ヤングSpotifyを批判して楽曲を引き揚げたことをきっかけに、SNSでは #DeleteSpotify、 #CancelSpotify といったハッシュタグとともにSpitifyからの退会手順を記したウェブページへのリンクが拡散し、ヤングを支持する人たちの一部はSpotifyから他の音楽ストリーミングサービスへ実際に移動しているようです。Spotifyの株価は1月28日金曜日の終値で前週より約12%下落しました。

またニール・ヤングは自伝のなかで5歳のときに、ワクチンがまだ普及していなかったポリオと診断され、長期の入院生活を強いられたうえ、その後遺症が足に残っていることや、そのせいでステージ上では背中にバックブレイス(医療用コルセット)が必要になったこと、さらにI型糖尿病やてんかんも患っている(てんかんは娘も発症)ことなども明かしています。2006年には脳動脈瘤を患い緊急手術も受けました。

人生を通じて健康面での苦難と闘い、乗り越えてきたからこそ、命を落としかねない病気に関する有害な誤情報をまき散らすコンテンツを放置するようなプラットフォームに、自分の生み出した楽曲を並べておくのは我慢ならなかったところもあるのかもしれません。

ヤングはSpotifyからの楽曲引き揚げのあと、Sanfrancisco Chronicleに対し「私がやっていることを止めることはできない」と述べています。なお、カナダのベテランシンガー、ジョニ・ミッチェルは28日、ヤングの行動に賛同し、自身もSpotifyから楽曲を引き揚げることを表明しました。

Source:Neil Young Archives

coverage:San Francisco Chronicle