立ちはだかる困難を絶妙なタッチで描く『バック・トゥ・ライフ』

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エミー賞を席巻した英国ドラマ『Fleabag フリーバッグ』の製作陣が顔を揃えた、社会派ブラック・コメディドラマ『バック・トゥ・ライフ』がこの秋、動画配信サービスWATCHAで視聴可能になった。『Fleabag』の印象からして、決して一筋縄ではいかない作品であるということは予想していたのだが、その世界観やあまりにも個性的なストーリーに大変衝撃を受けたのは言うまでもない。

本作は、前髪に特徴のある女性が鏡の前に立ち、ブツブツと独り言を言っている場面から幕を開ける。実はこの女性、ある壮絶な過去を抱えており、その過去が原因で18年間もの期間を刑務所で過ごしてきたのだ。刑期を終え出所した彼女は故郷の街へと舞い戻り、両親の元で暮らしながら「人生の再出発」を迎えようとする。

希望溢れるテーマを扱った作品のようだが、前述のように本作は決して"一筋縄ではいかない"のだ。ここでは、そんな『バック・トゥ・ライフ』の魅力を紹介。

18年間の刑期を終え出所!新たな人生のスタート


舞台は、イギリスの小さな街。この街を故郷とする主人公のミリ・マテソン(デイジー・ハガード)は過去を払拭し、新たな人生のスタートを切ろうとしていた。

遡ること18年前に大きな"事件"を起こしてしまった彼女は長きにわたる刑務所生活を終え、希望を胸に両親が暮らす故郷へと舞い戻ってきたのだが、なにぶん、これは小さな街での出来事だ。ミリが出所してきたという噂はすぐに広まった。そして、自宅には大量の動物の糞が送られてきたり、すでに決まっていた面接までも暴言を吐かれて断られてしまう。挙句の果てには玄関に"サイコ女"と赤いペンキで落書きまでされてしまう始末...。

それだけではなく、さらに追い打ちをかけるように、かつてミリが長年再会を夢見てきた元カレのドムは結婚し、いつの間にか子を育てる父親になっていた。いきなり出鼻を挫かれ困惑するミリであったが、それでもめげずに人生を楽しもうと、できたばかりのフィッシュ&チップス専門店での職を手にし、ここから彼女の人生は軌道に乗り始めると思われたが...。


シリアスになり過ぎず、決してコミカルにもなり過ぎない。良い塩梅のドラマ作品

出所してきた人間を主人公にした作品と聞くと、どうしても暗くてシリアスな作品を想像しがちだろう。当然、筆者も視聴前はそのような第一印象を抱いていた。しかしながら、驚くことなかれ! 本作は、全く持って暗い作品というわけではなく、むしろ程よい笑いまでもが組み込まれているではないか。10代の頃に"事件"を起こし、刑務所の中で大人へと成長した女性の人生を皮肉たっぷりに描写している。

18年間もの年月を刑務所で過ごせば、それはそれは塀の外の世界は大きく変わり果てている。かつての親友は校長先生になり、元カレも父親に、そして両親もまた見た目、性格共に変貌を遂げているのだ。そんな環境下に半ば放り込まれたような形になったミリは動揺しながらも、周囲に合わせようと躍起になる。

そこまでシリアスになり過ぎない要因として、主人公のミリが前向きな性格の持ち主であるというのもあるだろう。職場にレンガを投げ込まれてケガをしようと、隣人から罵声を浴びせられようと、自分は善人だという絶対的な考えを曲げようとしないミリの姿が非常に小気味よく映るのだ。

また、彼女を取り巻く周囲のキャラクターたちも個性派揃いであるところも面白い。一見ごくごく普通の老夫婦に見えるミリの両親が、他のドラマでは考えられないような独特の存在感を纏っており、シニカルな笑いを提供してくれる。

特に上品且つ洗練されたオーラを放つ母親のキャロラインがこれまた曲者で、実は彼女、ミリの元カレと浮気をしているのだ。海外ドラマ史を振り返っても例を見ないほどの年の差カップルの誕生であるが、人目を気にしながらも大胆な言動を繰り返す彼女には大変驚かされた次第である。

その他にも、「あんたがそれをやっちゃおしまいよ」と思わず声を大にして言いたくなるフィッシュ&チップス店の店主や思わせぶりな態度も大概にしてほしい隣家のヘルパーなど、主人公の我の強さを打ち消さんとばかり。

それでも、エピソードの最後にはシリアスな展開も待ち構えており、一体ミリは過去にどんな事件を起こしたのか?その一部始終が毎話ラストで断片的に明らかになっていく。その描き方は、英国犯罪ドラマの王道的な描写で綴られており、シリアスとコメディがバランスよく組み込まれた作品と言えるだろう。


主演・製作総指揮・脚本の一人三役をこなすデイジー・ハガード

本作で主人公ミリ役に扮するのは、映画『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』(2007)、『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』(2010)で魔法省のエレベーターの声を務める他、『ブラックミラー』などへの出演で知られるデイジー・ハガード。主演のほか、製作総指揮と脚本にも名を連ねる彼女が、等身大の女性像を体現しており、大きな感情移入を引き起こす。どんなに虐げられても前を向き続ける彼女から、きっと勇気や希望をもらえることだろう。

未だ日本ではデイジー・ハガードという名前に馴染みがないかもしれないが、Disney+(ディズニープラス)で配信されている『ブリーダーズ 最愛で憎い宝物』では、マーティン・フリーマンと共に主演に抜擢されるなど、今後大注目の英国女優である。

12月28日(火)にはシーズン2の上陸も控えている、いま大注目の英国ドラマ『バック・トゥ・ライフ』。全6話と短い構成ながら、色濃いドラマが展開される秀作であった。物語が進むにつれて、ある衝撃的な"真実"へと近づいていくミリから目が離せないこと請け合いである。

(文/zash)

Photo:

『バック・トゥ・ライフ』(c)Two Brothers Pictures for BBC Three, UK in association with Showtime and All3Media International.