社会人10年目くらいの中堅社員には、経験を積んできたからこそぶつかる新しい壁が……(写真:mits/PIXTA)

「10年働いたのに、誇れる仕事が何もない」「今の会社に留まるべきか、転職するか迷う」「マネジメントをしようにも、価値観の違うメンバーに困惑する」など、社会人10年目くらいの中堅社員には、経験を積んできたからこそぶつかる、新しい壁があります。

社会人10年目の壁を乗り越える仕事のコツ』では、大企業やスタートアップ、日系企業や外資系企業など、様々な環境に身を置いた人材育成の専門家が、よりよいキャリアを築くために大切にしたい「考え方」と「行動」のヒントを紹介しています。

本稿では同書より一部を抜粋しお届けします。

悩み1:10年働いたのに、誇れることが何もない

「成し遂げたこと」なんて、キャリアに一度あればいい。

とあるドラマを見ていたときのことです。

主人公が若かりし頃、妻になる人にこう話しかけるシーンがありました。

「私はまだ何者でもない。何も成し遂げてはいない」

後年、吉田茂を補佐し戦後の混乱期を復興に向けて導いた、白洲次郎のセリフでした。

人々の記憶に残る大事を成し遂げた人物であっても、駆け出しの頃はまだ、自らを「何者でもない」と評したのです。

このシーンを印象深く見ながら、少しだけホッとしたのを思い出します。あの白洲次郎ですら、こんな焦りを感じていたのか、と。

当時、私は35歳。自分のキャリアについて、悩みを抱えていました。

「自己紹介のときにアピールできることは、会社の肩書き以外には何もない」

「自分の売りになる仕事の成果って何だろう?」

「もう10年以上仕事をしてきたのに、まだ何も成し遂げてはいない」

日々焦ったり、絶望しかけたりしたものでした。

それから歳を重ね、接点を持った何千もの人の様子や、自分自身の四半世紀以上のキャリアを振り返ってみると、気づくことがあります。

たった10年で人に誇れるような仕事をできる人は、ほんの一握り。20年にひとつですら立派なものだ。なんなら、一生にひとつだって十分人に誇れるものなのだ、ということです。

日本のコンサルティング業界を作り上げた人。老舗大企業のトップに上り詰めた人。出版業界に風穴を開けた人。政治家や起業家。オリンピックのメダリスト。プロのアスリート。

そんな人々とお話しする機会があるたびにこれまでのキャリアについて伺いますが、10年で何かを成し遂げた人は稀です。それどころか最初の10年など、鳴かず飛ばずならまだよいもので、笑い者になっていた人だっているのです。

そしてその人たちに、成功の秘訣を問うと、一様にこう答えます。

「目の前の仕事を、着実にやり遂げること」

もちろん、「仕事」が「トレーニング」だったり「辻立ち」だったりと領域によって置き換わります。

「自分がまだ、何も成し遂げていない」と嘆く人が陥りがちな落とし穴は、やるべきことが今目の前にあるのに、別の「それっぽいこと」に気をとられることです。

「それっぽいこと」とは、たとえば今注目の会社に安易に転職したり、正論だけを掲げたり、うまくいかないことを他責にして仕事を放り投げたりすることです。

その誘惑に流されなかった人が、大を成しています。

そういえば、成功者たちはこうも付け加えて言いました。

何かを成し遂げるために、目の前の仕事を着実にやり遂げる。もちろん「理想は高く掲げつつ、ね」。

悩み2:夢中になれることがない

夢中になれることがなくても、探し続けることに価値がある。

仮に、大きな仕事はキャリアに一度あればいいとしても、それ以前に今、夢中になれる仕事に出会えていない、今の仕事に没頭できない。だからまだスタートラインにすら立てていないんだ、なんて自分を卑下したりしていませんか?

もし、あなたが今、目の前の仕事に夢中になれているのであれば、すでに大きな仕事を行うための道を進んでいる状態です。そうであれば大変幸せなことだと思います。

できればそうありたい。

ただ、たとえ今夢中になれるものがないとしても、それだけで自分を卑下する必要は一切ありません。夢中になれるものを探し続けることだって、十分に大きな仕事につながる必要条件なのです。

ここで一番しちゃいけないのは、「どうせ自分には大きな仕事はできない」とか「やりたい気持ちはあるんだけど、どうしても踏み出せない」と、ファイティングポーズを下ろしてしまうことです。

かく言う私も、30歳を過ぎる頃まで、自分が没頭できたのはスポーツ(競泳)だけでした。あえていえば17歳から18歳の一時期、受験勉強には自分の意思で没頭しました。

つまり、「その程度」です。

社会人になって仕事を始めても、どうしてものめりこめず、常に違和感がある状態が続きました。ため息をつきながら「つまんねぇ」が口癖。

「没頭すること」の重要性

堀江貴文さんは著書の中で「没頭すること」は仕事をする上で重要なこと、と言っています。私も大賛成です。ただ、頭ではわかっていても、仕事の中ではどうしても「あの頃」のような没入感が味わえない。

人生30年の中でたった2回しか没頭体験がないのです。たった15年に1回平均ですよ……。

没入どころか、短時間の集中すらできない状態。「もう自分は社会人に向いていないのではないか」と思ったこともありました。

このような悩みを抱えている人、多いのではないでしょうか。

でも心配しないでください。何かのきっかけで没入経験は始まります。

私の経験を例に出しますと、32歳を過ぎた頃から少しずつ、そして最終的には毎年のように没入経験がやってくるようになりました。きっかけは長女の誕生です。この子が大きくなっても「つまんねぇ」と言い続ける姿を見せたいか……自問自答するなか、ある日突然、自分の仕事が「今の社会」「将来の社会」とつながり、自分の中で意義を持ち始めたのです。

没入経験が常態化すると、仕事が面白くなり、次々とチャンスが訪れるようになります。この頃から正の連鎖が始まりました。

気がつくと、かつて真剣に悩んでいた理由がわからなくなるような状態。没入できなさそうな仕事を見極め、それを回避することもできるようにまでなります。

すなわち、「大きな仕事」への道を進み始めた、ということなのです。

自身のライフステージの変化や人との出会いなど、一見仕事のキャリアとは無関係とも思えることが機会になります。この「機会」を確実に捉える方法は、地味ですが「探し続ける」ことだと思うのです。

没入経験を探し続けること、それは未来の大きな仕事への必要条件です。

悩み3:漠然とした不安がある

モヤモヤ期こそ、活動量を増やす。

キャリアの過程では、「漠然とした不安」に苛まれることがあります。

「自分なんて……」「将来はどうなるのだろう」「なんだか、充実感がない」という類の感覚です。あまりに漠然としているため、誰かに相談しようにもできません。

私は「キャリア思春期」と呼んでいますが、文字通り思春期の悩みに近いです。おそらく、どなたも思春期にはモヤモヤした感覚を持った経験はあって、それぞれの方法で解決してこられたのではないでしょうか。もしくは、今振り返って「こうすればよかった」という思いを持っているのかもしれません。そのときの経験は「キャリア思春期」にも役に立ちます。

みなさんは、思春期の悩みはどのように解決しましたか?

その解決方法は、今から振り返ってどうでしたか?

そして、今のみなさんであれば、思春期だった頃の自分にどんな言葉でアドバイスしますか?

私自身の思春期を振り返ってみると、最低限課されたこと、たとえば学校の宿題とか部活などは基本的にはこなしました。ですが、それ以上に自分からは何もやりませんでした。そして時が過ぎ、いつの間にかモヤモヤをやり過ごした、というところです。

当時を振り返って、何かに向かってもっと踏み込めばよかった、と感じています。何かに打ち込む、読書や対話を通じて先人の知恵に頼ってみる、見聞を広める何かを体験する、という類のものです。

次に訪れた「キャリア思春期」においては、その反省を活かしました。ただ最低限のことをこなして時期をやり過ごすのではなく、行動し続けました。書籍を読む。人に会って話す。イベントや映像資料などに当たって見聞を広げる。スキルや知識を蓄える投資もしました。時には思い切った異動や転職にも踏み切りました。とにかく前に進んでみたのです。

もちろん中には失敗もしましたし、一時的に無駄な投資に終わったと感じた時間やお金もたくさんありました。しかし、今ではすべての経験が現在のキャリアに集約されて、毎日毎時間、役に立っていることに気づきます。


計画的・戦略的に色々トライしなくても、感覚に従って、思い立ったら動く、くらいで大丈夫です。

自分は迷走しているのではないか、という心配が常につきまとっていたのも事実です。ですが、振り返ると不思議なことにパズルのピースが埋まっているのです。アップルの創始者のスティーブ・ジョブズは、これを「Connecting the Dots」と表現しています。無作為の点のように見えるものが結果的につながり、線や絵になっていくことを指しています。

今であれば、ビジネスマッチングのツールを使ったり、オンラインセミナーに参加したり、世界中のメディアやアカデミアの動画コンテンツに触れることも容易です。選択肢はこれからもどんどん増えることでしょう。不安を不安のまま過ごさないこと。何も動かず悶々と考えることは、不安を増大させます。

まずは一歩踏みだし、活動量を増やしてみましょう。