【▲「Inmarsat-6 F1」のイメージ(Credit: inmarsat)】


11月4日、H-IIAロケットの打ち上げ業務を担う三菱重工業は、H-IIAロケット45号機の打ち上げを12月21日23時33分52秒〜翌日01時33分26秒に行うと発表しました。


英国インマルサット社の通信衛星「Inmarsat-6 F1」を高度約36000kmの静止軌道に投入する予定です。同様の発表はJAXAからもなされ、また既に報道各社によっても報じられています。


関連
MHIプレスリリース
・JAXAプレスリリース
・三菱重工業、H-IIAロケット45号機を12月21日深夜に打ち上げ予定 インマルサット社の通信衛星搭載


打ち上げ予定の詳細についてはそれら既報のものを参照していただくとして、本稿においては今回の打ち上げのペイロードとなる英国インマルサット社の通信衛星「Inmarsat-6 F1」について、また日本製のロケットが競争の激しい世界の商業衛星の打ち上げ市場で活路を見出す方策などについて、海外における報道なども踏まえたうえで、筆者なりの論点も交えて考察してみたいと思います。


先ず、今回H-IIAロケットによって打ち上げられる「Inmarsat-6 F1」ですが、これは英国ロンドンに本社を置くインマルサット社が運用する通信衛星としては第6世代目となる「I-6シリーズ」の、その初号機となります。これまで同社の通信衛星は米国のデルタロケットやアトラスロケット、欧州のアリアンロケット、ロシアのプロトンロケットなどによっていずれも打ち上げられており、日本のH-IIAロケットが選ばれたのは今回が初めての事となります。また、H-IIAロケットにとっても過去2015年11月にカナダの通信衛星「Telstar 12 VANTAGE」を打ち上げた29号機以来、民間の商業衛星の打ち上げの受注は6年ぶり、2回目の事となります。


競争の激しい同クラスの打ち上げロケット市場において今回H-IIAロケットが選ばれた明確な理由は定かではありませんが、海外における報道などを見るにつけ、高い打ち上げの成功確率や、軌道投入精度が評価され今回の受注に至ったものと推察されます。H-IIAロケットはこれまで47回連続で打ち上げに成功しており、その成功確率は98.1%に上ります。


英国の航空機産業メディア「エアクラフト・インテリアズ・インターナショナル」は、インマルサット社CEOのラジーヴ・スリ(Rajeev Suri)氏のコメントとして次のように報じています。


「第6世代インマルサットの最初の衛星である I-6 は、これまでに打ち上げられた商業通信衛星の中でも最大でかつ最先端の技術を駆使したものになります。信頼できるパートナーである三菱重工とともに日本での打ち上げを楽しみにしています。I-6 はインマルサットとしては初めてLバンドとKaバンドの両方の通信帯域に対応したハイブリッド衛星であるとともに、ELERA(注1)の変革的なLバンドサービスのための容量を増加させるための最新の技術を取り入れています。さらには Global Xpress(注2)高速ブロードバンド通信の容量も増量されています。」


元記事
・First satellite launch announced for Inmarsat-6 fleet


では、この「Inmarsat-6 F1」が実際に私たちの生活の中でどのように活用される人工衛星なのか、インマルサット社の公式サイトにある情報などを元にもう少し具体的に紹介したいと思います。主な利用用途としては、航空業界、各種産業、さらには政府機関における利用が想定されています。航空機のトラフィックコントロールに優れた情報を提供するとともに、一般の旅客にとってもこれまで以上に利便性の高い機内WiFiサービスが提供されるなどの利点があります。また鉄道の分野においても車両の現在位置を正確に把握し、乗務員との円滑なコミュニケーションを実現させる事ができるとしています。これはおそらくは日本のように地上の通信網が整備されていない国における利用を想定しているものと思われます。他にも農業、エネルギー産業、ジャーナリズムの現場においても利用が想定されていると言います。


これら多くの新しいサービスを実現させるうえで、人工衛星を搭載したロケットの打ち上げが成功しなくてはならないことは言うまでもないことであり、その輸送ロケットとして日本製のH-IIAロケットが選定されたと言う事は、今後の日本の宇宙産業にとっても意義深い事なのではないかと思います。


是非今回の打ち上げを成功させて、次世代 H-IIIロケットでは更なる民間商業衛星の打ち上げの受注を目指してもらいたいと思うところです。


参考

・注1)ELERA
・注2)Global Xpress
・「Inmarsat-6 F1」打ち上げページ


文/豊原行宏
編集/sorae編集部