サッカー日本代表は変われるのか。一本調子でチームが育っている感じがしない理由
カタールW杯アジア最終予選特集
今回はヤバいぞ、日本代表〜杉山茂樹×浅田真樹(前編)
カタールW杯アジア最終予選の日本代表は、ここまで2勝2敗の4位。予選敗退やプレーオフ行きがここまで現実味を帯びてきたのはいつ以来だろうか。正念場となるベトナム戦、オマーン戦を前に、サッカーライターの杉山茂樹氏と浅田真樹氏が、日本代表の現状と今後について語った。
――ベトナム戦、オマーン戦のメンバーが発表されました。顔ぶれはいかがでしょう。
杉山 谷口彰悟、山根視来が復帰し、旗手怜央、三笘薫が初招集された。川崎フロンターレ色が強まった印象です。彼らを最大限活用し、日本に欠けている滑らかなパス回しが蘇ることに期待したいです。選出したフィールドプレーヤー25人のうち、ベトナム戦、オマーン戦で実際に、何人の選手をピッチに立たせることができるか。可能な限り多くの選手を使い、連勝することを、クルマの両輪のように追求することが、森保一監督に課せられた使命だと思います。
浅田 今までに比べて、柔軟な対応をした印象を受けます。五輪世代の選手が何人か新たに加わりましたし。最近のプレーを見れば妥当な招集だったと思いますが、その変化に正直、「おやっ?」という印象を持ちました。森保監督はずっと「1チーム2カテゴリー」という表現で、東京五輪代表も大枠ではA代表と同じチームだと言ってきましたから、その成果を見せる時がきた感じです。旗手や三笘は初招集ですが、すでに一緒にプレーしている選手がたくさんいますから。
それに今回は2試合の開催地の時差も考慮したのか、国内組を多く招集しましたよね。今までの招集選手とは少し異なる傾向が見えるのは、それだけ危機感があるからなのかもしれません。
旗手怜央とともに、W杯予選を戦う日本代表に初招集された三笘薫
――ここまでの日本代表の選考についてはどう思いますか。
杉山 本来であれば予選からW杯本大会まで、通常だったらあと1年はかかる戦いです。その長さを考慮しながら、本大会へ向けてのメンバーの話をする必要があるのに、こんなに予選で苦戦しちゃったものだから、焦点がズレてしまったというのがあります。
2次予選でミャンマーやモンゴルに大勝していたじゃないですか。あの時とノリが今も変わらないというところに問題がある。1年後に向けて順調なステップが踏まれているというよりも、一本調子で、チームが育っているという感じを全く受けません。そこに勢いがつかない理由があるんじゃないかと思います。
浅田 よくも悪くも、あまりメンバーに森保監督の色が出ておらず、現時点で活躍している、誰もが「はい、そうですよね」と言うようなメンバーが選ばれる傾向があると思っていて、そういうことも含めて一本調子と言えるのかなと思います。逆に言うと、森保カラーが出てこないから、どうしても選手頼みになる。よく森保さんが「原理原則」みたいなことを言うのですが、そこの枠組みというのは基礎の基礎みたいな部分の話で、あとは結局、選手がピッチ上でうまくやれるかどうかで試合が決まっている。そこに「チームとして成長している感じがない」という印象があるのかな、と。
その一方で、いわゆる「原理原則」というところはそれなりに積み上がっている印象も持っているのですが、それが通用しない時にどうするのかということに手をつけられないでいるのが現状なのかなと思います。
杉山 選手たちの能力に関して言うと、過去に比べれば右肩上がりなのですが、問題は世界の伸び率との比較じゃないですか。これが難しくて、よく海外組の人数が多くなったので手放しで喜ぶ人がいますが、実態をよく見ると、時代的に日本人が欧州に行きやすくなっているという面のほうが上かなという気はします。
森保ジャパンが始まった瞬間、久保建英、南野拓実、中島翔哉らが出てきて、一瞬パッとフレッシュになった印象がありましたが、今その感激があるかといったら、そんなにない。「強くなってるか。弱くなってるか」論でいったら、強くはなってるんだろうけど、世界と比較したら必ずしも太鼓判は押せないし、むしろ最初の期待からはちょっとずつ下がってきている。ここで盛り返すためには、当然価値観の変化やこれまでと違った発想が必要になってくるので、何かを変える起爆剤がそろそろ必要かなと。新たな「これだ」という選手が現れてないところに問題を感じます。
浅田 ただ、アジアにおける他の国との比較で言うと、逆に、前回の予選の時よりは今回の予選のほうが、他の国がたいしたことないな、というのが正直な印象です。サウジアラビアにしてもオーストラリアにしてもそう。正直、サウジアラビアなんかは、アジアカップ(2019年)で日本がやっとこさ1−0で勝った試合のほうが「ああ、サウジ強いな」と思いました。今回のチームはむしろ粗さというか、ある意味で昔の中東らしさのほうが目立っていました。
オーストラリアもしかりで。やはりティム・ケーヒルとかがいた時代に比べると、手ごわいライバルという印象はあまり受けません。アジアにおける位置づけみたいなことで言えば、4年前より悪くない。結果と矛盾しているので言い方は難しいのですが。ポテンシャルというか、実力的に言えば、むしろ「安心して見ていられる力関係のはずなのに......」という印象です。
――初戦のオマーン戦から振り返っていただけますか。
杉山 結局、初戦に負けたことが今も尾を引いているわけですが、前回もUAEに負けていて、1敗ぐらいするのはいいのですが、試合内容がしょぼくて、潜在能力があるにもかかわらず、それが表現できてないところにもどかしさを感じます。最終予選が始まるという期待感がなかったのは、選手選考がマンネリ化しているからモチベーションのアップにつながらなかったのではないかと。オマーン戦で先発の選手たちが出ていった時に、何となく溌剌としてないというか、「さあ、行くぞ」的なムードが演出できなかったと思いました。
もうひとつは、自国開催の東京オリンピックがあって、ずっとそっちに力が入っていて、そのすぐあとに最終予選が始まっても、入り方が難しかったのではないかと思います。僕は兼任監督自体に反対だったのですが、監督自身がオマーン戦に向けて「さあ、行くぞ」的なムードを出せてなかったような気がします。
浅田 森保ジャパンはいわゆる強度の高いプレーでガンガン行くというのを軸にチームを作ってきました。ただオリンピックでもそうだったのですが、強度を求めるわりにコンディションに対する準備がつたない部分を感じます。オリンピックでは、メンバーを固定して疲弊していって、やっぱり強度を保てなくなって打つ手がなくなって最後は尻すぼみになった。オマーン戦でも、みんな動きが重いし走れない。そういう流れがあるから、最終予選の印象がより悪く見えちゃうんですよね。
オマーンに負けたことが今の状況を作っちゃっているということを考えると、「勝てないな、これは」となった時に、引き分けようということができない。「俺たちはアジアでは強いんだ」というプライドみたいなものが働いているのかどうかわからないけれど、無理に前へ行ってスコンと抜かれて点をとられることが続いている。「2着に入ればいいんだから、そんながむしゃらに勝ちにいかなくても......」という、いい意味での余裕がないというのは、オマーン戦に限らず感じるところです。
逆にサウジアラビア戦などは、もっと前に行くなら行って、相手をちょっとビビらせるみたいなところがあってもよかった。そういういわゆる緩急の使い分けがあまりうまくいってないですよね。
杉山 緩急ということで言えば、たとえば試合の後半でスピード系のウイングを出すとか、技巧派のウイングを出すとか、一番違いを出せる選手交代というのがあります。トップをどういう人でいくのか、そこで色を出すこともできるし、守備的ミッドフィルダーやサイドバックでも出せます。まずそのメンバー交代がちゃんとできてない、枠を使いきれてないというのは監督采配で言うなら最大の問題です。
5人交代制でやっているんだったら、代表監督は勝った試合でも5人を替えないといけない。次の試合というのがあって、1年後の試合もあるわけですから。それができてないことが、緩急がないという問題にも通底している。もっとパスをつなげるとか、もっとスピードを上げるとか、いろいろな選手がいるのだから、使い分けられるはずです。
要は監督のやり方が一本調子なんじゃないのか、ということです。試合のなかで流れを変えられるだけの力量がないのではないかという気がします。オリンピックでは4着になったけど、4着に沈んだと言ってもいいぐらいだと思っています。その責任は、コンディションの悪い選手を連戦連投で使ったことを含めて監督采配にある。その流れがこの予選にもそのまま出ちゃっている。
(つづく)